NAZZの海賊盤 "RETROSPECTIVE FORESIGHT"の謎を解明する!


この海賊盤を初めて見たのは、確か1982、3年西新宿のレコード屋さんでした。当時NAZZは日本ではまったくといっていいほど知られておらず、私はトッドのグループとは知らずにジャケットを見て購入しました。(いわゆるジャケ買い) 音は悪いところもありましたが、内容がとても気に入ったので、他のNAZZのレコードの存在を調べ、探し求めました。
イギリスやアメリカのRARE RECORD LISTなどを見て、ようやく3枚のレコードが出ていること、日本盤も出ていたことなどを突き止めました。しかし日本盤は激レアで入手不可能、輸入盤も当時は再発はされておらずオリジナル盤を中古で探すのみでしたが、東京中心部の中古レコード屋にはありませんでした。
数年して、再び新宿の海賊盤専門レコード屋にNAZZ IIIのコピー盤が出回り、喜んで買いました。しかし曲の半分はこの海賊盤とだぶりガッカリ。さらにその後、中古レコード屋のセールで知り合った人に東京郊外の家まで押し掛けて、アメリカ盤3枚すべて一括で売ってもらうことになるのですが、ライノから再発されるたいぶ前のことなので、大枚を払った記憶があります。

それほど思い出深いこのLPなのですが、最近になって細かいことがわかったので書いておきます。


SIDE 1

He Was----正式には"Bean"というらしいです。"Sick Man of Europe"*1( NAZZが解散して、残ったStewkeyとThom Moonyが現Cheap TrickのRick Nielsen、Tom Petersonと作ったバンド)がデモとして残したもの。1998年にアメリカで出版されたCheap Trickの伝記本"Reputation Is a Fragile Thing"(ISBN: 0966208102)に書いてあります。 Rick NeilsenがフィラデルフィアのSigma Sound Studioでレコード契約を取るためにつくったものらしいです。(TODDは1971年ここでラジオ用のライブをしており、その一部はSomewhere/Anywhere?に収録されています) 演奏は当時のメンバーではなく、主にスタジオミュージシャンを起用したと回想しています。<---(あとで述べるBun E.Carlosさんのメールによると地元バンドを何人か連れて行ったそう。) 97年頃直接会ったStewkeyに聞いてみましたが、この音源を持っていないそうです。曲はNAZZとCheap Trickをかけあわせたようなハイテンポなナンバー。ギターとヴォーカルがからみあうようなスリリングな感じは個人的には大のお気に入りです。これで音が良ければいいんですが…。(比較的音の良いものをPCでじゃっかん聞きやすくしたところ、ヴォーカルはStewkeyのようです。"Bean"の歌詞が出てきます。)

Some People --- オリジナル米盤LP NAZZ IIIに入っているものと同じです。この海賊盤が出た当時は本国アメリカでも正規盤3枚のうちNAZZ IIIが一番手に入りにくかったらしく、この中から数曲入れられたと思われます。米Rhinoが初CD化したときにこの曲はトッドのヴォーカルのヴァージョンに差し替えられていました。紙ジャケで日本でCD化された時にこのテイクも初CD化されました。

Ready I am ---- Sick Man of Europeのデモから。しばらくあとになって"So good to see you"として Cheap Trickの二枚目のアルバム"In Color"に収録されました。この当時の題名は"I'm a Suprise"。Rick NeilsenがCheap Trick結成前から持っていた曲ということですね。

Kicks --- これも米オリジナルSGC LP NAZZ IIIから。ポール・リビア&レイダースのカバー曲です。
But I Ain't Got You --- Sick Man of Europeのデモから。正式タイトルは"Ain't Got You"。初期のCheap Trickのライブ(1975年頃まで)で演奏されているのが確認されています。これらの3曲はすべてリックのペンによるもの。Rickは60年代後半からBritish Rockが大好きだったので、トッドのJeff Beck、Cream好きと同様に曲に大きな影響が出ています。

Take the Hand --- NAZZ III LPから。CD化されたのライノ盤はトッドのヴォーカルのテイク(これがオリジナルらしい)に差し替えられています。これはStewkeyのヴォーカル。(追記)日本では紙ジャケが発売された2006年に、このオリジナルヴァージョンがめでたくCD化、トッドヴァージョンもボーナストラックとして収録されました。

SIDE 2

Lemming Song -- もとは一枚目のアルバムに収録されている曲ですが、質の悪いモノラル音声でデモテープっぽい雰囲気です。しかし、ギターソロなど、正規盤のテイクと大きく違うところがなく、判定できません。海賊盤CD "RARETIES"にこの曲のデモが収録されていて、このテイクかもしれません。

You Are My Window --- NAZZ III から

Open My Eyes(Live) --- かなり音悪いです。判別がつきにくいのですが、どうやら"THE MOVE"がプレイしたもののようです。6分以上あるオリジナルよりもずっと長いライブ・テイク。MOVEの方は時代がNAZZとあまり変わらないにもかかわらず、Open My Eyesのライブはいくつも残っていて、LP時代では海賊盤LP"OMUNIBUS"(Melvin 007)、CDになってからは"When the 60s....."などBBCのラジオライブなどにもう少し録音状態の良いものを聞くことができます。近年ではMOVEのブートCD-Rが出回っていて、OPEN MY EYESのライブが何テイクか入っていました。いづれのテイクもかなり熱のこもったプレイで、特にRoy Woodのギターソロがカッコイイです。
ちなみにアナザーライブのアルバムライナーにトッドのコメントが出ていて、「(ELOの)DO YAをカバーしたのは、MOVEがOpen My Eyesをやったからだ」とあります。2008年後半にThe Move Anthology 1966-1972という4枚組CDが発売され、この中に同じテイクの"Open My Eyes"が収められています。1969年12月にサンフランシスコのFillmore Westで録音されたものだそうです。

Christopher Columbus ---- NAZZ III SGCオリジナルLPレコードから。

Train Kept A Rollin' --- 曲の途中からのフェード・イン。デビューの頃につくられたアセテート盤からのコピー。RHINOが出したベスト盤LP(未CD化) "Best of the nazz"にもっときれいな音ものが収録されています。YardbirdsのAerosmithもやってるスタンダードナンバーです。ここでのギターソロはJeff Beckの影響大です。

このスリック(ジャケットを印刷する代わりにシュリンクの中に封入された薄い紙)は青と黄色、ピンクなどいろいろな色が確認できています。レーベルは初版と思われるDragonflyレーベル。その後のプレスと比べると音が少し良いようです。その後は黒のSlipped Disc、これも初期のようです。その後犬のマークのRuthless Ehymes(色は黄色と白)や無地などとなっています。


ちなみにジャケットデザインは1968年のアイドル雑誌"16 magazine"に載った写真を流用したものです。(右写真参照)
SGCプロダクションはモンキーズを売り出した会社が新たに興した会社で、第2のモンキーズを作り出すために人材を探していました。そこで音楽性とルックスを武器に戦える4人を見つけ積極的に売り出します。
まず手始めに会社上層部の知り合いがいる"16マガジン"に白羽の矢を立て、デビュー前から大プロモーションをかけようとします。アルバムが出る前に既にメディアにルックスを売りに出していました。特にトム・ムーニーはそのルックスから注目を浴びています。この雑誌はデビューまで毎月ナッズをプッシュし続けます。
さてこの写真は68年秋の特集号16 magazine SPEC fallの記事の写真です。
トッドはその当時の愛犬"Max"といっしょに写っています。("I saw the light"の海外のシングルに、Maxをコートの中に抱いている写真が使われています)この頃一番ルックスから言うと弱いですけど。
ステューキーもかなりイケてる感じで若いコに人気が出そう。Carsonの少しおどけて、おサイケなペイズリー柄のジャケットもCOOL。トムは完ぺきに可愛く売ろうとしている写真になってます。



(*1) Sick Man of Europeは1972年頃、リック・ニールセンがFUSEを作ったあとに、NAZZの2人のメンバーと作ったバンドです。(それ以前--1971年ごろ---この4人は、それぞれNAZZ,FUSE解散後、"FUSE/NAZZ"、"Refuse"とか"NAZZ are blues band","Honey Boy Antoni and the Manchurian Blues Band","Rick Nielsen's 20/20 Rock Band"とかいろいろな名前で活動していました) このバンドは結局レコード契約ができず、Thom Moonyが脱退、その後Stewkeyが抜けてバンドが消滅、RickはCheap Trickを結成しています。

*NAZZ関係のページをやっているためか、2009年8月に前触れもなくBun E.Carlos本人からメールがきました。
I replaced Thom Mooney in Fuse when him and Stewkey were in the band. I drummed in Sick Man of Europe too! Rick and Stewkey did three demo tunes in Philly in August of 1972 with Cotton Kent and Hank and John Ransome from Philly band Good God, otherwise, myself and Tom Petersson did all the Sick Man of Europe stuff. Setting the record straight! Thanks, Bun E Carlos. August 2009

Sent from my iPhone


Bun E.さんはFUSEの時にトム・ムーニーさんと直接入れ替わったそうです。デモの3曲は1972年8月に録られたもので、Rick主導となってレコード契約を取るために行われたもの。Stewkeyにフィラデルフィアのバンド"Good God"からCotton Kent,Hant and John Ransome 3人がメンバーだそうです。さすが、Cheap Trickの生き字引Bun Eさん記憶力いいです。トッドさんも見習って欲しいです。


参考文献:Reputation Is a Fragile Thing: The Story of Cheap Trick by Mike Hayes and Ken Sharp 1998(残念ながら廃版です。2009年現在)アマゾン中古またはマーケットプレイスでの購入は右へ。US Amazonはこちらへ。

modified in Jan 19,2009
modified in Oct.3&11,2009