20世紀を歩く

☆1951年・日本、ユネスコに加盟☆

 埼玉県の所沢にはユネスコ村なる西武系の遊園地がある。唯一といっていいアトラクションは「大恐竜探検館」。ライドで恐竜の世界へと乗り込めば、そこには原寸大の恐竜たちによる4億年の時空を超えたアドベンチャーが!…というのが、よくある解説。
 「どこが“20世紀を歩く”なんだ」って?
それはこの遊園地のネーミングにある。

 1951(昭和26)年、当時占領下にあった日本は、この年9月のサンフランシスコ講話条約で独立するわけだが、その三か月前にやっとユネスコへの加盟が認められた。
 それを記念して狭山湖畔に造られた施設が、このユネスコ村だ。森の中に41棟の世界の民家を点在させ、国際社会への復帰を祝うとともに、海外旅行も自由にできなかった日本人に世界の暮らしを伝えた、という。
 当時、経済的に海外旅行ができなかったのはもちろん、1964年に至るまで、日本人が自由に海外に出ることはできなかった。そのような時代に、ユネスコ村は人々に海外への夢を与え続けてきた。
 

 その後、海外旅行が当たり前になるとともに、ユネスコ村は忘れ去られたような存在になる。西武球場の目の前という好立地ながら、客足は遠のく一方で、1990年代初頭、施設の老朽化のために全面改修。リニューアルの目玉として「大恐竜探検館」が登場する。
 そして、ユネスコ村のユネスコ村たる由縁を知る41棟の民家たちの行方はようとして知れず、現在、敷地内には往時を彷彿とさせるようなものはほとんどない。リニューアル工事中に、ブルドーザーが入ったという証言もあり、きっと民家は根こそぎ撤去されたのだろう。園内には大恐竜探検館のほかは、UFOと称する回転式展望塔と、しょぼいメリーゴーランドに、ゲーセンがあるぐらい。これでは、首都圏の並みいる遊園地群に勝てるわけもなく、閑散とした面もちである。
 敷地のすみには、「ティラくん」と称する恐竜の空気人形(↑)があり、たまに通りすがる子どもに、殴る蹴るの暴行を加えられていた(悲)。
 

 一応、ユネスコ村の名誉のためにつけ加えれば、大恐竜探検館の2階には「ユネスコ学習室」が設けられ、スフィンクスの何十分の一かの模型やユネスコの活動のパネル、恐竜の足跡の化石などが展示されている。が、ほとんどの子どもは恐竜に気もそぞろで、2階に目をくれる客は少なそうだ。しかも、このこじんまりとした「部屋」は入場料300円だかを徴収するのだ。しかし、今は亡き41棟の民家への供養と思って支払うことにする。
 

 帰り際、閉園間近の夕刻、係員が入り口のわきにある10数本のポールに掲げられた各国の国旗を1本1本ていねいに降ろしていた。この万国旗もユネスコ村がかつて日本人に夢を与えていたころの名残なのだろうか。


◆ユネスコ村◆
埼玉県所沢市上山口2227
TEL0429-22-1370
西武狭山線西武球場前駅から徒歩3分
入園無料・園内は各アトラクション毎の
料金になる(大恐竜探検館1250円etc.)

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