現代芸術でアスレチック!?
養老天命反転地(岐阜県)
養老天命反転地

 現代芸術の荒川修作氏による1万8000平方mの巨大“作品”『養老天命反転地』。“作品”といっても美術館ではない。行政上は「公園施設」ということになっているが、かといって公園と呼べるほど“安心”して散策できる場所でもない。強いていえば、アスレチック広場といった感じか。
 すり鉢状にくり抜かれた窪地は、小山と窪みで複雑な起伏を帯び、平坦なところが一カ所もないように造られているというアンチ・バリアフリー。窪地のまわりや内側には日本列島のモチーフや奇怪なオブジェが点在し、見物人はそこをさまよい歩くという趣向。

日本地図

 材質が滑りやすく、また場所によっては傾斜がかなり急なので、足元に気をつけながらまわることになる。
 九州を頭にして、斜面にへばり付いている日本地図は、とりわけ滑りやすいので子どもに大人気。まるで滑り台のように、つーっと滑り降りて楽しめる。が、気をつけないと三陸海岸のあたりから脇の草むらに転がり落ちていってしまう。よそ見をしていたら、九州から四国への上陸に失敗。豊後水道に落ちる。

家らしきオブジェ  家らしきオブジェがあるが、壁も家具も天地構わず、突っ起っている。壁を突き抜けているベッドがあるかと思えば、天井にキッチンがはりつき、トイレは斜めに。壁によって迷路状になっており、通路も細かったり広かったりで、通ろうと思ってたどっていくと、どんどん細くなってきて、はさまってしまう。別の広い道をたどると、こっちは突然行き止まりに。
 この先は真っ暗になっていそうだなと思って進んでいくと、ほんとに真っ暗で、足元に小さい子どもがいて踏みそうになる。そして踏む。おーよしよし、泣くんじゃない。そんな所で転がっているお前が悪い。

養老天命反転地

 別の原っぱでは、なんとなく道になっていそうなコンクリ製のラインに沿って歩いていくと、突然、ストンと斜度45度ぐらいの急斜面に遭遇する。コンクリ製のラインは何事もないように下へと続いているのだが、このラインにつられて来た人はすごすごとUターンして他の道を探すことになる。
養老天命反転地  つまりここには、決まった見学コースというものがない。こっちからあっちへ抜けようとすると、そのコースは自分で見つけなければならないわけで、常日頃、いかに自分が、決められたコースがあるということに安心しているかがわかろうというもの。
 さらには、最初、アスレチック広場と言ったが、このアスレチックにはクリアーするということがない。次々と、芸術とおぼしきオブジェにとっかかるものの、それを征服し得ず「あーっ」といって滑り落ちていったり、「ぎゅーっ」とはさまってしまうだけなのである。
 『養老天命反転地』は1995年の登場以来、今なお養老町の集客の要になっている。クリアーし、通り抜けられることを前提に造られた多くの「テーマパーク」ではあり得ない“ハプニング”がここの最大の魅力なのだろう。
地平線にたたずむ

 なお、観光写真では一見それとわからないが、じつはこの天命反転地は住宅地に近接して建っている。そのため、園内でオブジェを撮そうと思っても、塀の向こうから電柱や瓦屋根が顔を出していたりするのだ。
 「せっかくだから、住宅が写りこまないように…」と腹這いになってカメラを構えていると、“地平線”の向こうから、ずん、ずん、ずんと中年の団体が横いっぱいに広がって現れてきた。それはあたかも、ドラマか映画のオープニングを思わせるシーンであった。彼らはしばし空をバックにして“地平線”にたたずんだあと、三々五々散っていった。
 ドラマにはシナリオがあるが、彼らにはおそらく「転ぶ!滑る!迷う!」といった予期せぬ“ハプニング”が待ち受けているのである。

  ■住所 岐阜県養老郡養老町養老公園
  ■TEL0584-32-4592
  ■開園 9:00〜17:00/月曜日(祝日の場合は翌日休)、年末年始、悪天候の日は休園
  ■入園料 大人710円
  ■交通 近鉄養老線養老駅より徒歩10分
  ■その他 スニーカー、ヘルメットの無料貸出あり。


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