水族館部分はワンフロアーだけなので館内はこじんまりしている。長辺15メートルの“大水槽”といっても今では「中」くらいにしか感じないし、せっかちな人だと10分ぐらいで見るものがなくなってしまうだろう。というわけで展示もずばぬけてスゴイというものはいない。「おなじみ」とか「ご存じ」という魚がわらわらと泳いでいるかんじだ。
特徴的なものを幾つかあげると、まず「矢作川の魚」コーナー。碧南市は矢作川の下流にあたるために、上流中流下流に分けて当地の魚を紹介している。「干潟の水槽」ではチゴガニやコメツキガニといったダンスをする習性を持つカニを展示。これらのカニは非常に臆病なので、いままで展示しても砂穴に潜ったきり出てこなかったが、ここではハーフミラー(マジックミラー)を使って水槽の外の人間をみえないようする展示方法を思いついた。というわけでしばらく待っていると体長1cmほどの小さなカニが巣穴から出てきてウェービングと呼ばれるダンスを踊ってくれる。
あっという間に見るものがなくなったので、もう1周。
さきほどの大水槽では「水槽の主」と呼ばれてい座布団の大きさほどのマダラエイ(↑)が退屈なのか体をぐるぐると回転させている。出口の脇では、サメのなかでもおとなしいトラザメの稚魚(↓)が売るほどいて、おしあいへしあいしている。サメの目というのは結構無表情で、なかなか感情移入しにくいものだが、こうして稚魚がひしめいていると、やはり愛らしくみえる。
外はまだ雨が降っているので、もう1周する。
ゲートの脇に『日本産希少淡水魚』のパネルが貼られている。日本で絶滅の恐れがある動物は天然記念物ばかりではない。このパネルは、91年に環境庁が作成した報告書をもとに、絶滅に瀕している日本の淡水魚について説明している。周りを海で囲まれているため、回遊して分布を拡大できない淡水魚にとって、ここ半世紀ほどの河川の開発は相当深刻であることがわかる。すでに2種が絶滅し、16種が絶滅危惧種となっている。さらに23種が危ないとされている。同館では他の水族館と分担して濃尾平野特産の絶滅危惧種ウシモツゴなどの繁殖を担当している……といったような説明がパネルとリーフレットの両方にわたって書かれている。
館内の隅には、年3回発行されるパンフレット『マリンドリーム』が、閲覧できるようになっている。これには、単なる展示物の紹介の繰り返しに終わらず、まず漁師から連絡を受けるところから始まり、「展示物」として収まるまでが描かれている。もちろんいくつかの「物」は数日間で「標本」になってしまうこともあるのだが、いい「物」を手にいれた喜びが行間から伝わってくるように、飼育(や時として解剖)の様相などが喜々として書かれていて、読みごたえがある。
逆説的だが、この小規模さも、かえって、個々の魚を専念して見るには好都合で、館内を2〜3周していると月並な魚たちのなかにもそれなりのキャラクターが見えてくるし、さっきとは違った発見にぶつかる。前に斜め読みしたパネルもじっくり読む気にもなってくる。
ここでは、順路に従って端から一通り見て「はい、終わり」ではなく、数周ぐるぐるまわって、くりかえし見てみるのがおすすめだ。なーに、時間はたっぷりあるんだから。