実は意外に子沢山!
伊勢・夫婦岩(三重県)
夫婦岩

 伊勢といえば夫婦岩。これを拝まなきゃ始まらない。岩の名前をいわれてピンとこなくても、誰でも一度くらいは伊勢の旅行パンフなどで、ぽっかり浮かぶ大小ふたつの岩に注連縄が張られている写真を見たことがあるだろう。で、大きい岩のほうには鳥居がちょこんと立っていたりする、あれである。

 夫婦岩に最も近いJR二見浦駅に着いたらどしゃぶり。「二見シーパラダイス」という水族館を先に見物しているうちに雨もあがる。地図でみると夫婦岩までは歩いてものの数分で行けそうである。海岸べりの遊歩道を歩くことにした。歩道はやがて海岸にせりだした岬の部分にかかる。

 あそこを越えれば、沖合に夫婦岩が浮かんでいるのだろう……そう思って岬をまわると、目の前、本当に目の前に、岩がふたつ、ある。そのふたつの岩に注連縄が張られている。石を投げれば届きそうな、岸からほんの数mのところだ。大きさは、夫が9m、妻のほうは4mというが、何かちんまりしてみえる。ガイドブックの写真から察して、威風堂々と登場してくると思ったらいきなり出し抜けにこじんまりとでてきたのであった。

夫婦岩

 正規の順路、つまり手前の二見興玉神社から歩いていくコースをとれば、まず最初に大きな奉納の鳥居をくぐり、だんだんと夫婦岩に近づき徐々にその全貌が明らかになる、という段取りなのである。それを逆コースから行ってしまったものだから、なんか楽屋裏から入ってきてしまったような、訪ねるお宅を探しているうちにその人の裏庭に入り込んでしまったようなバツの悪さを覚えたのだった。

 そもそも夫婦岩というからには、他の岩と私たちは違うんだ、みたいな自己主張をしているハズである。そのためにはこれが相当デカくて、しかも沖合ぽっかりでないと様にはならない。しかし今、目の前にあるのはどう見てもただの「中くらいの」と「小さいの」である。しかも水深が浅くて、周り中、ほうぼうに孫だの子だのと思えそうな岩が波間に見え隠れしている。けっこう子沢山なのだ。

 しかも大きさからいえば、さすがに夫をぬくような奴はいないにしろ、妻に迫るサイズの岩が、すぐそばにごろごろしている。となるとこれはお妾さんかしら、10mも離れてれるので別宅だな、とか余計な邪念がわきおこる。

夫婦岩  結局、夫婦岩は、富士山のように誰が見てもコイツは違うよとわかるような、そうゆうモノには見えなかった。
 これを夫婦とみたててしまう古人の想像力はたいしたものだ。我々は、ガイドブックも説明板も、もちろん注連縄もなしで、いくつもある岩を前に、この二つだけを見抜き、夫婦と見立てられるだろうか。小学生のとき、初めて星に線を結んで星座を創った奴はスゴイなぁ、などと思ったものだが、今また同じことを実感させられた。
 そして、今でも星座をみようと思ったら『星座ガイド』片手でなければ見られないように、『観光ガイド』片手に古人の見立てを鑑賞するのだった。
  ■住所 三重県二見町
  ■TEL05964-3-2020(二見興玉神社)
  ■交通 JR参宮線二見浦駅より徒歩10分


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