マイク・オールドフィールド関連本レビュー

マイク・オールドフィールドについて、何らかの形で関係のある書籍についてご紹介します。雑誌等で掲載された記事については紹介の対象外とします。


   Changeling (The Autobiography of Mike Oldfield) : Mike Oldfield (2007)  

驚いたことにMike Oldfield 自身による自叙伝が発売された。266ページ、ハードカバーという豪華版で、ファンにとっては愛蔵版として保存するにたる品質となっている。
"Changeling"というタイトルも衝撃的で、辞書によれば「取り替え子;(おとぎ話で妖精たちがかわいい子と取り替えていった)醜い[低能の]子」、あるいは「移り気の人、阿呆」という意味になる。さらっとタイトルを見ると「Changing」と勘違いしそうなところ。おそらくネイティブでも"Changeling"という単語には引っ掛けられるのではないかと思う。これも意図的なのかもしれない。
自分の自叙伝のタイトルにするには、実にふさわしくない単語あえて使用していることになるが、Mike Oldfieldにとって、自分の人生を振り返るに当たり、最もふさわしい単語であったのだろう。内容も、プロローグが1978年の精神医療セミナーの受講シーンから始まるのも衝撃的であり、幼少期から家庭のこと、Tubular Bellsで成功する以前の部分に多くのページが割かれている。特にOldfield兄弟には4人目の男の子Davidが生まれ、ダウン症ですぐに死んだこと、それがきっかけで母親がメンタル面での問題に陥っていったこと、Mikeがそれを回避するためにギターにはまっていったことのくだりはすごい。
Mike Oldfieldが自分自身の精神的な旅をふっきれて、自己を客観的に振り返る余裕が出来たからこそリリースされた自叙伝ではなかろうかと思う。
翻訳版を期待したいところだが、日本でのセールスを考えると実現は難しいか。


A Man and His Music : Sean Moraghan (1993)  

Mike Oldfieldの幼少期からTubular Bell Uまでを時系列に追って書かれている他叙伝。幼少期の部分は短めで、音楽界にデビューしてからの流れに重点を置いており、最後はTubular BellUがセールスヒットをし、再び成功したという形で締めくくっている。すべて英文のみで写真がひとつもないことは寂しいが、レコードあるいはCDのライナノーツを集大成し、充実させたものとして読めば、Mike Oldfieldのファンならば、その英文も楽しめながら読める内容になっていると思う。 全184ページで、最後に詳細なディスコグラフィーと人間関係一覧がのっている。


 The Making Mike Oldfield's Tubular Bells : Richard Newman (1993)

文字通りチューブラーベルズの製作について、当時の背景、マナーハウスの建設から始まり、レコーディングの逸話を、サイモン・ヘイワース、トム・ニューマンのインタビューを中心に語られている。マイク自身のインタビューもあり、チューブラーベルズファンにとってはたまらない本。写真も若かりしころのマイクはもちろん、関係者が登場してきて写真だけ見ていてもおもしろい。またマナースタジオのパンフレットまで折り込まれている。翻訳版は出ていないから英文で読まないといけないが、ファンであればいたるところに出てくる逸話がとっても感動的であることは保証する。またこの本の表紙も本当に素敵で味わいがある。みんなで作った手作りの音楽というイメージがぴったり。日本ではリットーミュージックいう会社が発売している。


Art In Heaven The Millennium Event The World's Greatest Lightshow (2001)

西暦2000年を迎える大晦日に行われたマイクのミレニアム・ベルのプレミアライブは、アートインヘブンという会社の大規模なライトショーとのタイアップとしてドイツで開催された。ビデオの欄で紹介しているので詳細は触れないが、その規模は画面越しでも圧倒的なスケールであり、見るものを感動させる。おそらく現場ではすごい照明だったに違いない。そのアートインヘブンが出版した写真集。準備段階からリハーサル、ライブ、パーティの様子などいろいろな視点から写真を楽しめる。マイクの写真は全体の中では少ないほうだが、映像では見れない背景など十分楽しめる内容になっている。


新ブランソン物語 Richard Branson;The Inside Story : Mick Brown (1994)

集英社文庫 片岡みい子訳

タイトルどおりリチャードブランソンの物語。次に紹介するVirginよりも先に出版されており、内容もかなりだぶっている。当然ブラソンの成功のきっかけとなったチューブラーベルズについてわずかではありながらも触れられており、トム・ニューマンがマイクの第一印象をクレージーと薄汚いちびとして表現している。その後チューブラーベルズが完成した際には「曲自体が生命体で魔法のように自分で育っていった」と表現している。本の最後のくだりで、ブランソンは「チューブラーベルズ」で会社を設立し、「チューブラーベルズ2」でヴァージンを売却することになったと書いてあるのが印象的。


ヴァージン Virgin ; Richard Branson the autobiography (1998)

TBSブリタニカ 植山周一郎訳

1998年に出版されたブランソンの自叙伝。発売当初宣伝もされたから、結構売れたのではないだろうか。この本を購入したほとんどの読者は、ヴァージン総裁としてのブランソンに関心を持ち、経済本として購入したのではないだろうか?しかし、われわれマイクファンにとっては600ページを超える厚い本の中の、ほんの一部分に大いに関心が集中しており、そのためだけにこの本を手に取るようなものだ。それは7章の「「チューブラーベルズ」大ヒットの顛末」という部分だ。作品のすばらしさは誰もが理解していたが、これをどのようにして人々に聞かせるかが問題で、ジョン・ピールというDJがチューブラーベルズを全曲放送することにし、これが放送されているときのブランソンの心理状態、マイクが黙って座って聞いているくだり、そして翌日電話が鳴りっぱなしになったこと、そしてクイーンエリザベスホールでのコンサートにマイクが出演を嫌がったことなど、マイクファンにはたまらないエピソードが書かれている。ただ、マイクに触れているページは全体のごくわずかであるのが寂しい。いずれにしても誰もが知っているヴァージンが成功するきっかけとなったのが、まぎれもなくチューブラーベルズであることを再認識できる本。マイクのことを知らない、ブランソンファンも、この本をきっかけにチューブラーベルズを聞いてみようと思ってくれただろうか。


遙かなる地球の歌 The Songs Of Distant Earth: Arthur C.Clarke (1986)

マイク・オールドフィールドがこの作品をテーマにするまでは、この大変高名なSF作家の作品は2001年宇宙の旅シリーズしか読んだことはなかった。この「遙かなる地球の歌」には、ごく短い短編と映画化用のスクリプト、そして長編と3種類あり、短編と長編は今でも日本語訳を簡単に手に入れることができる。滅亡しかかった地球を後に、次々と人類は宇宙へ移民を送り込んでいったが、ずっと先に移住に成功し、海に囲まれた美しい星サラッサで暮らしている人類に、もっと後の世代に地球を旅たった移民船マゼラン号が事故で立ち寄ったことから、物語が始まる。全編にわたり、叙情的な文章がやさしく流れ、サラッサ人の女性とマゼラン号の男性の切ない恋愛も心に染みる。マゼラン号がまた旅たつときに、お別れのコンサートが開かれ、「アトランティスへの哀歌」という曲が演奏される。マイクはまさにこの曲を実演したかったのだろう。マイクがこの小説をテーマにしたということは関係なく、とてもすばらしい作品だと思う。長編はとっても読み応えはあるが、短編もこの作品の叙情的な部分が凝縮されており、感動できる。短編ものの方のラストの、「そして、どちらが幸せだと、誰に言えよう」というセンテンスが心に響く。


キッチン 吉本ばなな

吉本ばななのベストセラー キッチンには「ムーンライト・シャドウ」という短編が収録されている。言うまでもなくマイクの曲に触発されたもの。ストーリーも死んだ恋人の幻影が川向こうに現れる展開がまさに歌詞どおり。短いストーリーだが、マイクのファンとしてはうれしい限り。ただし、自分としてもっている「ムーンライトシャドウ」のストーリーと、このストーリーとの違和感は感じざるを得ないが、それは聞くものそれぞれが感じ方が違うのだからしかたないのだろう。キッチンを買った人はたくさんいて、この短編を読んだ人もたくさんいるはず。でも、この小説の元になったすばらしい名曲の存在を知っている人は、このうちいったい何人いるのだろう。ちなみに、吉本ばななの「N.P.」もマイクのノース・ポイントのことだと知っているのは、マイクファン以外は皆無だろう。


   

写真はいずれも楽譜集。マイクの楽譜はこれ以外にも発売されているようだが、日本ではほとんど入手困難だし、ヨーロッパでもそう多く流通しているとは思えな。演奏するのが難しいからなのだろうか?自分はもう楽器を弾けなくなったが、楽譜を見つめるだけでも、ファンにとってはとっても楽しいもの。