メトロに乗って

浅田次郎原作「地下鉄に乗って」をミュージカル化

(音楽座ミュージカル 東京公演:'00.10.1〜11.14 ル テアトル銀座、阪神公演:11.16〜18 宝塚バウホール)

みち子: 毬谷友子
小沼真次: 石川禅
お時: 福麻むつ美
アムール: 沢木順

野平先生: すまけい
貞子: 今津朋子
岡村: 三谷六九
村松千年: 佐藤伸行
トラ・他: 宮内理恵
おケイ: 渋谷玲子
小沼圭三・他: 西原純
ハチ公・他: 田澤啓明
小沼節子: 浜崎真美
小沼昭一・他: 照井悠也
老人・他: 五十嵐進
アールヌーボーの女・他: 江部珠代
おヨウ・他: 小野佳寿子
巡査・他: 小笠原家光
少女・他: 近藤佑子
バーテンダー・他: 小原和彦
亀吉・他: 川島豊
肉鍋屋の女・他: 清水梨央
アールヌーボーの女・他: 隅田亜矢
パンパン・他: 坪井美奈子
アールヌーボーの女・他: 中村陽子
真次少年・他: 俵和也
闇市の女・他: 橋本久美
予科練・他: 丹宗立峰
社員・他: 萩原弘雄
アールヌーボーの女・他: 森藤規子
社員・他: 安田栄徳
佐吉少年: 白澤文晴/千代将太

あらすじ:
小沼真次は小さな衣料品会社に勤める44歳のサラリーマン。
いつも商品のつまったトランクを下げ、地下鉄で得意先を回る毎日。
長兄・昭一を17歳で自殺に追い込んだ横暴な父に反発して、高校卒業と同時に家を飛び出したという過去を持つ。
真次の父は、戦後の闇市から裸一貫で世界に冠たる企業を興した小沼佐吉。
本来ならば小沼グループの後継者となるはずの真次だが、いまだ父を許せない思いを持ち続け、父が倒れたと末弟から連絡をもらっても頑なに見舞いには行こうとしない。
そんなある日、同窓会の帰り道。
地下道を歩いていたはずの真次の目に飛び込んできたのは30年前、兄の死んだ日の風景だった。
真次はなんとか兄の自殺を阻止しようとするが、「その時間」になる前に再び現代へと戻ってしまう。
翌日、昨夜自分が見てきたことが事実だったのかどうか、半信半疑の真次。
不倫関係にある同僚のみち子と共に過去について調べるうちに、今度は二人とも昭和21年の闇市に迷い込んでしまう。
みち子とはぐれてしまった真次は、アムールと名乗るブローカーと出会い、なりゆきで彼の仕事を手伝うことに…

感想:
個々の役者さんであるとか、シーンでいうとけっこう好きなところは多かったんです、が。
人物関係・情況を説明する曲の歌詞が聞き取れないので、なかなか話が見えてこなくって、第一幕は見ているのがけっこうつらかったです。
特に一曲目、歌詞カードを見ながらじゃないとまるっきりわからないのはちょっと…
(シーンとしては緊迫感があって、舞台化する際に挿入したエピソードとして良かったとは思うんですけど)
状況を説明しようとして、歌詞に情報を多く入れ過ぎたためにかえってわからない状態。

みち子役の毬矢友子さん、お時役の福麻むつ美さんの歌が良かったです。
みち子の儚げな雰囲気と、お時のどんな状況でも生き抜こうとするたくましさとがそれぞれぴったりの役どころで。
このお二方目当てだったのでその部分は大満足でした。
真次役の石川禅さんは「44歳のくたびれたサラリーマン」にしてはちょっと若いかな?という感じでしたけど、歌はさすがさすが。
アムール(こと、小沼佐吉)役の沢木順さん。
登場のたびに年齢が違う役だったせいか、役作りで闇市時代は声をやや低めに、出征前は高めにしていたようですね。
そのせいで前半(闇市時代)ちょっと声が通りにくかったのが残念。
逆に出征シーンは「少年」という感じが出てました。
貞子役の今津朋子さん。若い方が老け役やってるっていうのがばればれなのが残念でした。
でも「耐えるけなげな女」という貞子の役にはあの声の感じはぴったりでした。


ここからは舞台版ラストシーンの気になったところなのですが。
ふたりが異母兄妹という事実を知らない真次がみち子にプロポーズしてしまったことで、なんとしてもこの関係を終わらせなければ…と追いつめられたみち子は、過去へさかのぼって妊娠中の母を階段から突き落とし「自分という人間は生まれなかった」ことにしてしまう。
現代にひとり戻り、地下鉄のホームでみち子の残したルビーの指輪をぼんやり眺める真次。
野平はそんな真次に「つらいことは忘れろ、そうすれば希望が残る」と諭す。

ここなんですが、真次はなにも覚えていない、ということなんでしょうか?
真次は父・佐吉の生きてきた道のりを見て、ただ憎み続けてきた父を受け入れる余地ができた。
でも、そのことも、本当に愛した人の幸せのために自分の存在さえも捧げたみち子の愛も覚えていない…
というラストなのだとしたら、この話ってまるっきり「ふりだしにもどる」ですよね。
真次とみち子がもう離れられないほど愛し合ってしまい、だけど何としても彼の前から消えなければいけない。
そうみち子が追いつめられたということなのでしょうが、舞台を見ていた限りでは二人の愛はそこまでつっこんで描かれていないというか読み取れない。
真次とみち子の愛の背後にある真次の家庭についても、ほとんど語られないままであのラストでは…

でも、真次に唯一残された、佐吉がお時に贈り"二人の娘"に伝えられたルビーの指輪。
それはこれから「父の子」として生きていく真次に託された、ということなのでしょうか。
天涯孤独な女性だったみち子は、もし自分がいなくなったら誰からも「自分がいたこと」は忘れられてしまう…という不安を抱えていましたが、ラストの真次の指輪を見るしぐさ等々からは何かを感じ取っているような感じもうけました。
彼女が存在していたということを、真次は覚えていなくてもどこかで感じている、ということなのかな…と。
そういう形でみち子の愛に応えて生きていくという解釈なのかなと思いました。

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