見果てぬ夢

鈴置洋孝プロデュース 第4回公演

(鈴置洋孝プロデュース '00.6.16〜22  シアターサンモール)

西岡健:鈴置洋孝
西岡京子:鶴ひろみ
郷田忠士:内海賢二
郷田啓一郎:矢尾一樹
飯尾浩:中野順一朗
羽生田美貴:本丸仁美
杉洋平:和田太美夫
進藤正孝:田中完
武 登志子:福麻むつ美
江尻千夏:保坂エマ
宗政りつ:麻生美代子

あらすじ:
ある病院の裏庭で、さまざまな年代の人たちがそれぞれの時間を過ごしている。
気弱な医師・進藤正孝は患者へのガン告知のリハーサルを勝ち気な婦長・武登志子に付き添われて行っている。
舞台の直前に腹膜炎で入院するはめになった若い役者・飯尾浩は同じ劇団員の恋人・羽生田美貴にはげまされ、今度の公演の稽古に余念がない。
糖尿病が進行し、足が不自由になってきている会社社長・郷田忠士。
看護婦たちから「セクハラ大魔王」と呼ばれている彼は、入院中でも仕事のことで息子・啓一郎と衝突して怒鳴りあいのけんかばかり。
同じ糖尿病でも、もう症状は軽くなったのにいつまでも退院せず、看護婦をモデルに絵を描く男・杉洋平。
モデルになっているのはクセのある看護婦・江尻千夏。
自称妊娠9ヶ月だという72歳の老女・宗政りつ。毎日水をやっている花壇にマーガレットが咲くことを楽しみにしている。
そして食道ガンで余命いくばくもないと診断された西岡健。
彼の妻・京子は現在妊娠3ヶ月。
西岡は事実が妻の体に与えるショックを心配し、自分がガンだということがどうしても妻に告げられない。

そんな西岡夫婦を中心に、患者とそのまわりの人々におこる出来事が語られていく。

感想:
ガン患者の夫と妊娠中の妻。それでタイトルが「見果てぬ夢」。
というのは事前にわかってしまっていたので、『見果てぬ夢』=『ラマンチャの男』
ガンというかなわぬ敵に立ち向かっていくドン・キホーテってことかな?と予測してありがちな話かも、と思っていました。
それが西岡夫婦の深い愛情が伝わってくる鈴置さんと鶴さんの演技で、良い意味で裏切られました。

SPCのパンフレットには各役の年齢が必ず書いてあるのですが、今回は夫が46歳、妻が36歳という設定。
結婚が遅かったのか、長年待ち望んでようやくできた子供なのかは劇中では語られませんでしたが。
画家の杉に「自分の顔と妻の顔写真を交互に見ながら、自分たちの子供の顔を想像して描いてみてください」と頼むシーンでの、涙がこらえられずに顔が歪む西岡。
そんな彼に「あんたが泣くとこの子、どんどん不細工な顔になっちゃうよ」とやさしく声をかける杉。
このくだりでの鈴置さんの表情は、子供の顔を見ることなく妻を残して逝くことになるかもしれない切なさ、くやしさがよく伝わってきました。
そして和田さんの声にこめられた、西岡の事情を察した上での優しさ。
このお芝居の中でとくに好きなシーンです。

今回矢尾さんと内海さんが親子役だったのですが、期待どおり見事なハデハデ&やかましい親子バトルを繰り広げてくださいました^_^;
なんだかんだ大喧嘩しながらも病身の父親を気遣う息子と、世間的にやや後ろめたい家業(ラブホテルチェーンの経営)を継いでくれた息子への父親の想いが伝わってきて、お二方とも親子がはまってました。
今回初参加の妻役の鶴ひろみさんは、以前見たお芝居での「ものすごく勝ち気な、夫を尻にしく妻」の印象が強かったんですが、今回夫をそっと見守るけなげさをうまく表現されてました。
同じく、婦長役の福麻むつ美さん。ハイテンションで婦長役を熱演されてました。
(この方に関しては強烈な思い出が^^;
とあるミュージカルに出演されていたときのこと。最前列で見ていたもので、彼女のストッキングの穴に気がついてしまって。
それから気になって気になって、ずっと彼女の足を目で追ってた^^;だって出てくるたびに穴が広がっていっている気がして…。
衣装さん替えストッキングくらい用意してあげれば良かったのに。あれはかなり気の毒だった…ので良く覚えてました。 
*すみません関係ない話で)

よくわからなかったのがラストでの宗政さんが「産まれる…」とつぶやいた後、舞台一面に突然咲き誇ったマーガレット。
宗政さんの「奇跡を信じ続ける力」が起こした奇跡を象徴しているのか、それともあれは宗政さんが亡くなったってことだったのでしょうか。
???(たんなる自分の理解力不足なんだろうか…)

この「見果てぬ夢」という物語が、自分の中のある記憶とシンクロしてしまってなかなか冷静に感想が書けなかったのですが、
西岡の「人生に代役はいない」
進藤医師の「自分たちは、死という負けるとわかっている戦いに挑んでいるようなもの/問題は結果ではなく、どう戦ったか、どう生きたかが大切」
このふたつのセリフが特に印象に残っています。
いつか死が訪れたときに「よく戦った、よく生きた」と思えるように生きたいものです。

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