「風」が吹き抜けて、9年  


蘇える優作 「探偵物語」 特別篇


彼は今も生きている・・・・・

      

大きい人だ。
手足が長く、しなやかで、それでいて強靱で、
ライフルやマグナムが彼のためだけに造られた凶器に見える。
いや、それ以上に彼の肉体そのものが、
鋭利なナイフのようにスクリーンに突き刺さり、切り裂く。

      

もちろん映画館の席に座っている我々にも、
その刃の切っ先が向けられるから安心はしていられない。
最も危険な男、「松田優作」
「最も危険な遊戯」は低予算の撮影現場だった。
ロケ撮影の時、街中で新聞一枚広げれば、
そこが優作のドレッシングルームになった。
街全体がスタジオだった。
映画のためには何でもした・・・・・

      

ある時、俳優仲間と酒を飲んでいた優作は言った。
”おまえ達は絶対俺に勝てない。
何故なら俺は24時間映画のことを考えているから。”
激しいアクションは、
優作が天から与えられた才能である肉体と運動神経を最大限引き出して見せた。
しかし彼はそれに満足しなかった。

      

その証拠に「野獣死すべし」では、
役作りのために下の奥歯を4本抜いてきた。
遊戯シリーズのようなアクションを期待していたスタッフの前に現れた主人公、
「伊達邦彦」は全く体温を感じさせない人間だった。
スタッフが挨拶を交わせない程の迫力だった。
当然、役の解釈で周囲ともめた。
しかし優作が絶対やろうとしなかったのは前と同じパターンの演技。
そして絶対やりたかったのは、
自分の意志で肉体を完全にコントロールすることだった・・・・・

      

研ぎ澄まされた感性・・・・・
それだけではなかった。
”やさしい言葉なんかかけてくれたことなかったよ。
けれど、撮影現場にいる全ての人を厳しく見ていた。
それが彼のやさしさなんだ。”
ベテランスタッフは言う。
ユーモアのセンスはやさしさからくるのだろうか。
勿論演技には緻密な計算が付け加えられる。
日常生活の微妙な彩りを表現できる、
柔軟な演技者であることを優作は「家族ゲーム」で証明してみせた。

      

「嵐が丘」では鎌倉、室町時代の空気を感じようとして、
優作は能の所作を学んだ。
優作がその場にいるだけで、狂気のオーラが天空を漂い、
彼はよどむ空気の中から異邦人のように立ち上がった。
狂気の似合う人だった。
またこの時、能という日本的な芸術に触れた経験が、
のちの「ブラックレイン」で見せたやくざの身振りに大きな影響を与えたのだ。

      

松田優作は紛れもない天才だった。
そして本人はそれを越えようとした。
アクションスターとして人気を得ても、
物を創る人間として何が本当に大切なのかを掴もうと思っていた。
強い意志を持って・・・・・

      

映画「ブラックレイン」の最終オーディション。
演技テストが全て終わり、
監督リドリー・スコットは優作と握手した。
優作がハリウッド映画に出演することが決定した瞬間だった。
監督は付け加えるようにたずねた。
”ミスター・マツダ、ところで貴方はアクションはできるのか?”
彼は答えた。
”オフコース”

      

サンフランシスコで5年間刑事だったという過去を持ち、
銃の腕前、手錠はずしはアメリカ仕込みの探偵、「工藤俊作」
ライターの炎全開、
コーヒーのブレンドにはきわめてうるさい。
ハードボイルドを気取って、古いビルに事務所を構え、
ソフト帽にスーツ、そしてサングラス。
愛用のベスパに乗り込み、颯爽とお客の無理難題に応えようというものの、
格好悪さが逆にきまっている。

      

探偵ドラマといえば、くわえ煙草にバーボン、
ニヒルな台詞といったハードボイルドなイメージが先行しがちだ。
ましてや日本人離れしたハードなアクションがこなせる優作のこと、
誰もがそれを期待していた。
しかし「探偵物語」の「工藤俊作」はコミカルで、
時に格好悪さを隠さず、口数も多く、
これまでの探偵像に全くあてはまらなかった。
それこそが優作のねらいだった。
テレビドラマが陥りがちなパターンを破壊することに最大限力を注いだのだ。

      

撮影現場で村川透監督をはじめとするスタッフと共演者を巻き込み、
自由な発想から魅力的な「探偵物語」の世界を生み出した。
それが視聴者に受け入れられ、高視聴率を叩き出したのだった。
特に予告編の制作は、
新人シナリオライターと助監督にとってそのセンスが試される場になった。
優作はマンネリを嫌い、徹底して遊ぶことを要求した。

      

松田優作はかつてこう語った。
”僕らの映画は役者が役者だけやるのではない時代だと思う。
全部に感性を開いていないと、新しい映画はできていかない。
ありとあらゆるものに敏感でないと、人間にも敏感になれない。
映画は色々な角度で細かい部分まで見つめ、それで新しい・・・・・
たとえば風が吹くようなニュアンスを、僕らは考えていかないといけない。”


     「魂をカメラで撮れないか!」
                         松田優作


Ending song・・・・・灰色の街   松田優作


雨ふる街を かさもささずに
酔いにまかせて ひとりたたずむ
ふりむけば 紅いルージュの
お前が泣いている
明日が見えない 灰色の街なんだよ

酒場でブルース 聞いてみたけど
何かが足りない さめて酔えない
色あせた 古い写真も
ときめきが続かない
明日が見えない 灰色の街なんだよ

いつもの店で いつものように
壁にもたれて ジンをあおれば
なつかしい 顔がうかんで
涙がとまらない
明日が見えない 灰色の街なんだよ

      


探偵物語
聖女が街にやって来た
夜汽車で来たあいつ

探偵物語予告編
裏街の女
犯罪大通り
影を捨てた男
逃亡者
ブルー殺人事件
ダウンタウン・ブルース

映画出典
ア・ホーマンス
最も危険な遊戯
野獣死すべし
嵐が丘
ヨコハマBJブルース

映画スチール出典
家族ゲーム


ナレーション・・・・・竹中直人

Special thanks・・・・・松田美由紀


      
提供        配給        制作
東映        東映        セントラル・アーツ
日本テレビ                     (1998年)



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