90s

















Painted from Memories/Elvis Costello with Burt Bacharach(BMG VICTOR)

 正直言って、私はこの組み合わせには期待してはいなかった。

 世界で一番好きな作曲家とひいきの歌手ではあるが、『Grace of my heart 』収録の「God give me strength」を聞いたとき、どうも食い合わせが悪いような気がしたのだ。鰻(バカラック)と梅干し(コステロ)。くるみと牛乳。他にぴったりの食い合わせの例えがないのがシャクだが。

 しかし、忘れていましたよ、両者の共通項を。それは「R&B的隠し味を好む白人」であること。あくまでも、ソウルじゃなくてR&B。ただ、コステロは例の情緒たっぷりの泣き節で黒さににじりよろうとするので、そこのところが好き嫌いが分かれるところだった。しかし、バカラックは例のやるせない転調でひょいひょいとコステロをかわしていく。泣きたいコステロと泣かせないバカラック。この拮抗が今までコステロのボーカルに聞かれなかった軽みを引き出した。

 かくして、「黒人なのに限りなく白かった」ディオンヌに勝るとも劣らない、絶妙の「バカラック歌い」の誕生。ディオンヌというよりは、好きな人にはたまらないバカラック本人のボーカルに似ているかも。あろうことか、同じようにハスキーだったジャッキー・デシャノンさえ思わせる!ま、バラードでは例の泣き節になりますが。

 バカラックの方も絶好調である。ホーンの入り、チェンバロの使い方、独特な木管フレーズ、本人による例のエスプリたっぷりのピアノ。スティーブ・ナイーヴのキーボードもバカラックへのリスペクトを示すかのように、彼のアレンジにぴったりと寄り添っている。60年代、ハル・デビットと組んでいた全盛期なみの冴え。

 特に6曲目と8曲目は要注目。キャロル・ベイヤー・セイガーと組んでいた時に本人が完成させたかったであろう、「カーステに似合うバカラック」、極上AORである。あの頃はアレンジ能力がちょい衰えていて、とうていデビット・フォスターに勝てなかったのだが。難を言えば、つやっぽさのないコーラスか。と、思ったら、例の来日公演の時のボーカル・メンバーでした。

 67年の恋人たちが、部屋の明かりを落として「Look of love」を聞いたように、98年の今、最も恋人たちによって聞かれるべき音楽がここにある。






EUREKA/Jim O'rouke (Drag city)

 イーノとウィルソンという二大ブライアンからの影響大という、暗いジム・オルークの初の歌モノアルバム。本人が一番リスペクトしているのはヴァン・ダイク・パークスだという話ですが。

 「バカラックはそれほど好きなわけじゃなく、ただ美しいメロディだからカバーした」という割に、選んだ曲がディーン・マーティン主演映画の主題歌、「Something big」というのは渋すぎませんか。

 じゃー、バーバンク風味なのかと思ったら、さすがの音響派の雄・オルークもバカラックを演る時はショウビズ魂を振り絞らざるをえなかったらしく、女子のユニゾン・コーラスは入れるわ、タンバリンは鳴らすわで、結果としてはここ数年のバカラックもので最もA&Mテイスト漂うカバーに。耽美的な曲が続く中で、ここだけ唐突にラブリー。






AMAR LOVE/AMAR(BMG VICTOR)

このインド美少女(当時15才!)が歌う『涙でさようなら』は、バングラ・ビートがちょい流行った94年頃に、イギリスでヒットしました。

 全編にシタールがフューチャーされていて、ワン・フレーズ弾くごとに、「びよ〜ん」と返しの音が入るのが、何とも偽インド音楽気分。弾いているNawazish Alikhanという人は、エイジアン・ミュージック界で知らぬ人はいないという、有名なミュージシャンらしいですが。80年代育ちには、「モンスーンがバカラックをカバーした感じ」というと、ドンピシャで分かりやすい。

 アマーは現在も、UKバングラ人脈(コーナーショップが出てきたりして侮れない)で、歌姫として活躍中。





WINTER LIGHT/LINDA RONSTADT(WEA MUSIC)

 ロンシュタットの何と93年盤。『ドント・トーク』をやっていたりして侮れない。バカラックも2曲カバーしています。

 彼女らしくエモーショナルな熱いボーカルですが、『恋するハート』のデヴィッド・キャンベルのストリング・アレンジがいい。ダスティがオリジナルの『恋のとまどい』では、この曲にひそむカントリーフィーリングを、昔とった杵柄で見事に表現。

 確か日本版のバカラック・コンピュレーションにも収められていました。




I SAY A LITTLE PLAYER/Workshy

ALWAYS SOMETHING THERE TO REMIND ME/Espiritu

 なぜこの二つのシングルを並べるかというと、両方ともトシ矢嶋仕事だから。当たり前だけど、日本人のツボをつく洋楽を作らせたら天下一品です。ワークシャイはミック・タルボットが参加している例のフリー・ソウル・アルバムからのシングル・カット。

 しかし、原曲が持つR&B的要素を消そうとするが如く、リズム隊の音をなるべく小さくしてFM的心地よさを追求したこちらよりも、私はエスピリトゥに軍配を上げます。ため息まじりにスローに歌い、サビの一部をスペイン語にするというこてっこての(本来の意味での)クラブ歌手歌唱が圧倒的に正しい。フェイドアウト前に歌詞をスペイン語にして朗読というサービス精神には負けましたよ。



ALFIE/Vanessa Williams (mercury)

 日本におけるバカラックの再評価のきっかけはピチカートファイヴ、とこじゃれな人は言いたがるだろうけど、やっぱり直接の引き金はドラマ『協奏曲』の主題歌になった、この「イタクナッタラスグセデス」歌手のコンサバ・カバーなんでしょう。

 バカラックといえばカーペンターズの「遙かなる影」だというのが定着している日本らしい選択。ヒップなイメージはなく、あくまで記号化された有名曲。

 これをきっかけに、レアな音源満載のオムニバスCDが各レコード会社から沢山出て、素晴らしい曲が一般の人に浸透したという意味では、功罪両方あり、という感じではあるけど。


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