二度のアカデミー賞に輝くバカラックの映画音楽。 手がけたサントラはみんな傑作のお墨付き。

 だけど、サントラだけ聞いて映画見ないのは言語両断。

 だって、バカラックがサントラなくらいだもの、おバカでキュートでハッピーでヒップな傑作揃いに決まってるじゃないですか!

 てなわけで、これは映評つきサントラレビュー。未だ見ぬ作品は妄想にて書かせてもらってます。

 今回はバカラック&デヴィッドリユニオン記念ということで、パート1。

 Isn't she great?(2000) 














バカラック&デヴィッド・イズ・バック!ということでまずはめでたいこの映画は、『哀愁の花びら』の作家・ジャクリーン・スーザンの生涯をコメディタッチに描いたもの。

 監督は『ハネムーン・イン・ベガス』で百人近いエルビスのそっくりさんをパラシュートで降らしたアンドリュー・バーグマンってことで期待したんだけど、あえなくボックス・オフィスベスト10からはこぼれました。仕方ないよ、ジャクリーン・スーザンって細身の美人だったのに、ベット・ミドラーが主演なんだもの‥。

 でもこの作家とバカラック&デヴィッドは縁があるというか、彼女原作の『ラブ・マシーン』(モーニング娘。じゃないよ)のサントラでも、この二人のプロデュースでディオンヌが主題歌歌っています。

 バカラック&デヴィッドとしては73年の『ロスト・ホライゾン』から27年ぶり、バカラックがまるまるスコアを手がけたサントラとしても79年の『Together?』以来21年ぶり。内容の方はまあ、全盛期の輝きは望むべくもないけど(私はそこのところ厳しいファンなのよ)、「Look of love」「promises,promises」の変奏曲があったりして、ファンをにやにやはさせます。60年代のショウビズが舞台ですから、やはりバカラックの華やかさは正解。

 そして主題歌はもちろん、ディオンヌ・ワーウィック。彼女のマイルドでコントロールされた歌唱に似つかわしいメロディをきかせたかと思うと、サビで唐突にコンサバなブラコン・バラードに変化してバカラック本人の作風の変遷をしのばせます。

 それでも「I don't know where I 'm going but on my way I go through life」というフレーズにつけられた「バカラック&デヴィッド節」なメロディに、翁二人がピアノから一瞬顔を上げて目だけで微笑み合う、そんな息が合った様子が浮かんでホロリとなったりしてね。


  007/Casino Royale(1968)









 悪名高き007の番外編、というか反則編(笑)。ウディ・アレンを含め監督が五人もいるせいか、各人がやりっぱなしにしたギャグを編集することなく映画にした素晴らしいスパイ・ムーヴィー。『オースティン・パワーズ』なんてこれに比べると断然ゆるいです。

 カジノ・ロワイヤルのボスを倒すために、引退したジェームス・ボンド(デヴィッド・ニーヴン)をもう一度引っぱり出したばかりか、ただポーカーの名手だという理由だけでピーター・セラーズにまでボンドを襲名させてしまう狂ったストーリー。もはやパロディの域を超えて、バカしかいいようがない展開が次から次へと60s美女の津波と共に押し寄せてきます。

 そして、007ものに限らず、当時のスパイものが決してその影響から逃れられなかったジョン・バリー調をまったく外して、全編アメリアッチと偽ラテンで勝負したバカラックのサントラも充分に狂ってます。

 本来ならいかがわしいタイプの音楽をここまで洗練させた手腕は見事ですが、収拾がつかないラストにブラス群が軽快に飛ばすテーマ曲が流れると、「万事快調」ってな風になるのが笑います。全ての後味が悪い映画のラストには「カジノ・ロワイヤルのテーマ」を流すべき。

 名曲「恋の面影」がどんな使われ方をしているかチェックするためだけにでも、かならず映画の方を見て下さいね。


 What's new pussy cat?(1965)







 そして、「60s美女が津波のように押し寄せてくる」コメディの傑作版といったらこれ。モテモテのピーター・オトゥールがピーター・セラーズ扮する精神分析医に嫉妬のあまり無茶苦茶な治療を受けるハメに。これが映画脚本家デビューのウディ・アレンも、オトゥールの婚約者ロミー・シュナイダー(かわいい!)に横恋慕する「ストリップ小屋の衣装係」として出演。

 ブンチャリズムにトム・ジョーンズの迫力ボーカルの主題歌はあまりに有名。『ピンク・パンサー』シリーズでお馴染みリチャード・ウィリアムズのタイトル・アニメ(あ、言い忘れてたけど『カジノ・ロワイヤル』のタイトルも彼ね)にこの曲が被さる冒頭から心が躍る。

 かわいこちゃんに囲まれながら、無敵のパーティ・モッド・ナンバーの「マイ・リトル・レッド・ブック」でテーブルの上で踊るオトゥールは最高。ディオンヌ・ワーウィックによる波一つない水面をわたっていくような美しいメロディの「Here I am」が「オチ」として使用されているシーンも必見です。

 しかし、このサントラの隠れテーマは、ゲンズブールによる「ミスター・フリーダム」と同じく「マーチ」だと思うんですけどね。


 after the fox(1966)






 リチャード・ウィリアムズ-ピーター・セラーズ-バカラックの組み合わせって、マンシーニ-ブレイク・エドワーズ-ピーター・セラーズと同じくらいの黄金律だよね、ってことでこれはその三者がイタリアの巨匠ビットリオ・デ・シーカと組んだ泥棒コメディ。

 舞台がイタリアのため、全編「イタリアなまりの英語」で現地人として演技するセラーズに注目(笑)。エジプトから盗んだ金塊を無事に国内に運び込むために、映画クルーと偽って漁村に入る泥棒三人組。盛りを過ぎたスターのビクター・マチュアや女優志願のバカ娘ブリット・エクランドを巻き込んで、何だかシュールな展開に。オチも思いっきり不条理で侮れません。

 バカラックのサントラも、マンドリンや地中海風メロディが飛び出したり、ミュートが効いたペットにカンツォーネを奏でさせたりと、いつに増してもカラフル。哀愁調のメロディを基調としつつもモリコーネにならないのは、隠し味に使われたモッドなオルガンのせいかも。

 オープニングにかかるテーマ曲は何とホリーズとピーター・セラーズの掛け合い!このナンバーのインストがクールなジャズになっていて、またかっこいいんですよ。


 Promises,promises(1965)





 ビリー・ワイルダーの『アパートの鍵貸します』を、ニール・サイモンの脚本とバカラック&デヴィッドの音楽でミュージカルに!「さあ泣け」といわんばかりのユダヤ人脈スタッフ陣で、いつかクリスマス・シーズンにブロードウェイで観てみたいと思います。赤い緞帳とオーケストラ・ブースがある劇場にて。

 小市民的ラブストーリィを彩る絶妙で華やかな音楽には、後にバカラック・クラシクスする名曲もいっぱい。「プロミセス・プロミセス」「恋よ、さようなら」「Are you there」の三曲の存在を考えても、バカラックサントラ一番のヒット率では。

 ただ、オリジナル・キャストによるミュージカルのサウンド・トラックというのは基本的に劇場の追体験用に作成されているので、朗々たる劇場型歌唱とホールの空気感も採録してあるオケに違和感がある人もいるかも。でもそれが、ブロードウェイサントラならでは味だし、最高にハッピーなクリスマス・ソングの「Turky lucky time」の胸を叩くような迫力も一発録り的オケならではのもの。


 on the flip side(1966)









 ABCのスペシャル・ドラマ・プログラムのためにバカラックが曲を書いた幻のサントラ。主演はリック・ネルソンとジョニー・サマーズ。サークルで有名な「It doesn't matter anymore」はここに収められているバージョンがオリジナル。

 落ち目になった男性アイドル歌手・リックのためにジョニー・ソマーズ率いる天使トリオが親衛隊として降臨・彼をもう一度スターダムに押し上げて帰っていく、というプロットだけでご飯三杯食べられます私、というかフィルム残ってないんですか!と机をばんばん叩きたくなりますね。

 この盤のポイントはアレンジがバカラックではなく、ピーター・マッツだということ。もともとマレーネ・ディードリッヒのコンサート・マスターにバカラックを推薦したのはマッツだというから親しい間柄なんでしょう。

 そんな訳でオケは洗練されたバカラック本人のものと比べて、超ショウビズで下品なくらい華やか。「Juanita's place montage」なんてハッピー・チャーム・フール・ほにゃららも裸足で逃げ出すはしたなくも楽しいアイデアてんこもりの展開。「Fender Mender」はカラータイツでタンバリン片手に踊っている娘っ子たちが目に浮かぶ、イエイエとかドリー・ミクスチャーとかバッド・ドリーム・ファンシー・ドレスとかオーロラ三人娘が好きな人ならもう死ぬ!ていうバカバカバカなチューン。

 テレビショウ音楽の底力を見せつけられるような素晴らしいプロダクションには、ただ大笑いして踊るしかないでしょう。


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