新着古本レビュー

 あるいは「書棚から一つかみ」。基本的に古本屋で手に入れたものをアトランダムにご紹介。

・ナタリーの朝/A・M・ツウェイバック 平井イサク訳 1969 角川文庫

 映画原作本といえば、今や本屋に当たり前のように華々しく平積みされているものですが、角川文庫が60年代後半に新機軸としてこのラインを打ち出した時は、とんでもない軽薄な企画でした。角川春樹らしい英断です。(私はそれをハルキズムと呼んでいます)表紙と見返しに映画スチールをあしらった装丁は、その後他の文庫も継承していきます。

  私はこの頃の角川の映画原作文庫には目がありません。古本屋で高い文庫といえば、ご存じサンリオSF文庫ですが(安価で『どこまで行けばお茶の時間』を売っているのを見た人は教えて!)、あちらがどんなに小さな町の古本屋でも抜け目なく高い値がつくのに対し、角川はレアなものでもうっかり安く売られている確率が高いのも好きな理由の一つです。

 そんな訳でこれも100円で購入。映画の方は、『私撰まぶしい青春映画ベスト5』(あとの4本は『グリニッジ・ビレッジの青春』『さよならコロンバス』『いちご白書』『卒業』)に入る素敵なものでしたが、私はその前に原作本の方を読んで「まぶしい」と感じました。

 自分の容姿に劣等感を抱く女の子が主人公ですが、いじけているというより、世の中を見きっているビターな性格で、分析的な一人称が小気味いいです。

 初恋の男の子はアメフト部でチアガールの彼女付き、プロムパーティは誘ってくれる人がいなくて独りぼっち(でも両親には嘘をついてドレスを着て一人で出かける←涙)。大学では友愛会に誘われるが、実は彼女が薬剤師の娘と知ってのピル目当ての勧誘だと知ってざけんな!とブチ切れ(後でリベンジ)、学生運動を張り切りすぎてリタイア。

と、アメリカ学園天国的な要素がてんこ盛りでそれだけで嬉しくなってしまいますが、一番いいのは彼女が家を出てブルックリンブリッジを渡って、マンハッタンで生活を始めてから。初めて自分の居場所を見つけた高揚感と、60年代のビレッジ当たりのフリーな雰囲気が伝わってきてワクワクします。そして初めての恋の決着の付け方が潔かったこと!

 「誰かに認めてもらって自分の位置を確かめるのではなくて、自分の足場は自分で固める」まっすぐな女の子の実にいい青春小説。そういえば映画では主人公のナタリーはいつもバイクに乗っているのですが、その疾走感は確かに原作の方にもあるのでした。


・グループ/M・マッカーシイ 小笠原豊樹訳 早川書房

 数年前に文庫で復刻された記憶があるので、もしかしたらまだ手に入るかもしれない小説。1930年代にバッサー女子大学を卒業した8人の女の子たちの約10年間を描いた物語で、人生の一時期を同性しかいない学校で過ごした人なら「1ページに1回激しくうなずく」。

 お互いの本質を見抜いていて、割と辛辣に批判するわりにどこかで自分にない特質に羨望を感じていたり、いらぬおせっかいを焼いて自分の方が傷ついたり、見栄を張ったり、秘密ごとを打ち明けたり。もちろん秘密は筒抜けで8人全員に行き渡るシステムになってはいるのですが。それでも最後の最後には団結してけなげに友達を守る心意気。(そういう関係性がイヤだという人もいるが)

 この「けなげさ」は、優秀な大学に入って独立心を学んだのにまだ社会の方が追いついていなくて自分を活かせない、この時代女性全体の憔悴感とも密接に関係しているんでしょう。フェミニズム以前の時代をそれ以降の女性が語った雰囲気。

 バッサー女子大は、歴代アメリカ大統領のファーストレディが出ているので有名なお嬢さん大学ではありますが、(日本でいうと聖心?)『足ながおじさん』でジュディが通うのがここの大学でした。

 つまりこれは、正しく「少女小説その後」なんですね。『若草物語』のジョーや『赤毛のアン』といった、独創的で自立精神に溢れていてロマンティストな女の子たちが、「社会」という海に船を漕ぎだしていった時、どうなったのか。少女小説の限界は、続編でだいたいにおいて主人公の女の子が結婚して、話のテーマが子育てになっちゃうところでした。そうそう、男との関係も「社会」に含む、なのでした。

 グループの女王様でフランスに留学してレズビアンになって帰ってくるレイキー。

 一番つっぱってて仕事でも出世するのに、プライドのために結婚した芸術家気取りのつまらない男に傷つけられるケイ。

 純情で奥手のお嬢様なのにのぼせて画家と初体験して、一夜で捨てられてしまうドティ(処女を捨てた途端、誇らしげに産婦人科に行ってペッサリーもらってくるあたりはおみかん姫ライク。彼女のさばけたお母様はベストキャラ)。

 獣医の勉強をしている途中で詩の先生と結婚する、おおらかであんまり精神性に深みがないポーキー。

 イケイケのミーハーでマスコミ入りして、文学者が出入りするサロンの主催者になるもののおっちょこちょいで処女のままのリビー。

 熱心な左翼で、三度の流産の末やっとママになったのに子供っぽいところが抜けないために夫に支配されてしまうプリス。

 精神病の父親と不倫の恋に悩まされる、引っ込み思案で穏やかでだけど芯は強いポリー。

 卒業生総代を務めたほど優秀だったのに、家があまりに財産家なためお嬢さんとして生きざるを得なかった理知的なヘレナ。

 どっかで会ったような女の子たちばかりが登場する小説ではありますが、「ところで誰に感情移入した?」と女友達とおしゃべりしたくなるのは何故でしょう。そういや、金井美恵子もこの小説はフェイバリットだそうで。 


 

・映画宝庫 1976〜80 筈見有弘・増淵建・その他編集 芳賀書店

 エロ本とシネアルバムで有名な出版社が70年代の後半に出していた映画ムック。実は資料満載の大変なネタ本で、ここから仕入れた情報で現在映画関係の雑文を書いて身を立てている人を、私は5人くらい挙げることが出来ます。当時の映画マニアの少年少女はみんな読んでいたのでしょう。読者からのお便りコーナーで、スペルの間違いを指摘する投書をしている女の子が佐藤友紀だったりして、三つ子の魂百までも。

 写真は「ハリウッドを舞台にしたハリウッド映画」を扱った3号ですが、とにかく情報量が半端じゃありません。サイレント時代のハリウッド黎明期を描いたものからスタントマンを主人公にしたものまで、206本の映画紹介文がありの、伝記映画でスターを演じた俳優と本人を写真比較したコーナーがありの、ハリウッドアクター&アクトレスが歌うレコード紹介がありの、早川雪洲のインタビューから小森和子のハリウッド探訪までの「日本人とハリウッド」のコンテンツがありの、300枚に及ぶタイトルバックの写真がありの。和田誠によるソウル・バスやモーリス・ビンダー評なんて何回も読みましたよ。

 このぶ厚さで3ヶ月にいっぺん出していたのだから、当時のスタッフの労力は大変なものだったと思われます。スチール写真も各号満載だし。ゆるいおしゃれ映画ムックを作っている人たちは見習って欲しいわ、なんて言う前に皆さん影響受けてますけどね。

 一旦休刊してから80年に再出発した際は、「ミーハー路線だ!」とうるさ方のマニアから罵られたそうですが、「ギャル特集号」なんて、A to Zで子役〜青春スターの少女たち90人のプロフィールを収録していてまだまだ使えます。

 いわゆるサブカル系の古本屋では2000〜3000円の高値が付けられてビニールがかけられていたりしますが、あくまでもムックなのですから町の古本屋で700〜800円で仕入れることをお勧めします。私自身もそうやってどうにか集めているし。この間4号のB級映画特集と8号のアメリカ映画・旅の絵本を入手しましたが、それを読んで新しい情報が搭載されれば、映画コンテンツの書き方もまた変わってくるかも。これで、5号のサントラ特集が手に入ったら、もう言うことなし!

・別冊スクリーン 1969〜?近代映画社

 今でも「外人版明星」として『ロードショウ』とともに君臨している『スクリーン』の、Hな臨時増刊号。ビニ本もAVもなかった時代、少年たちが大変お世話になったと伝え聞いています。

 とにかくアクションから文芸まで、映画に出てきたヌードシーンなら何でも!という玉石混合のスチールがすごいです、飢えを感じます! ラクウェル・ウェルチやウルスラ・アンドレスは分かりますよ、だけど『ウッドストック』の汚いヒッピーヌードや、アニー・ジラルドだの『真夜中のカウボーイ』のシンシア・マイルズだのにまでお世話になるっていうのは「どうでしょう」。48才のソープ嬢に当たってしまった男の気持ちを、こんな形で追体験させてくれなくても別にいいんですけど。

 とはいえ、今の気分で見ると使える(男子とは別の意味で)おいしいショットも満載です。皮のコートの下は裸でガードルに銃だけ!の女スパイとか、ヘルメットとミニスカートだけ身につけてヒッチハイクするギャルとか、ちょっと抜いておきたい(男子とは別の意味で)アイテムではあります。

 ラス・マイヤー特集も当たり前のようにあります。(そうかー、『Finders Keepers Lovers Weepers』は『真夜中の野獣』ってタイトルで公開されたのか)その他にも、マストロヤンニとカトリーヌ・スパークの共演でアントニオーニの『欲望』のばったもんの『ブレイク・アウト』とか、パメラ・ティフィン主演の『女と男と金』とか、コッポラの『グラマー西部を荒らす』とか、是非観てみたい!と思うようなB級映画情報も嬉しい。

 巻末ページのアメリカ・セックス・レポートなんて嘘八百!って感じで今読むと笑えます。(かわいいもんだし)『悪女のたわむれ』という映画のヒロインが、エリザベス・テイラーからリー・テイラー・ヤングになったことを受けて書かれた、「リーはテイラーよりヤング」という親父ギャグには涙。

Back to book index