HEATHER MATARAZZO

お姫様じゃなくても


 ヘザー・マタラッツオは13歳の時、トッド・ソロンズの痛い青春映画の傑作『ウェルカム・ドール・ハウス』(95)の主演で衝撃的なデビューを果たした。メガネに歯の矯正機器に奇怪なファッション・センスと、どこかおどおどとした表情。閉塞的なサバービアの学校に通い、ロッカーには「学校一のブス」と落書きされ、チアリーダーの女の子たちには「レズビアン」と罵られ、男の子たちからは暴力を受ける。ランチを食べる場所さえない。イジメられているグループからも、最下層と見られて軽蔑されている。家に帰れば、オタクの兄からはバカにされるし、両親は愛らしい妹に夢中で自分なんかかまってもらえない。映画史で最も悲惨なイジメられっこである。

 トッド・ソロンズはとことんヘザーが演じるドーンという少女を追いつめる。友情とも恋ともいえない連帯が生まれかけたブレンダン・セクストン・サードはドラッグの疑いをかけられて家出して遠くへ去っていってしまう。いくつか事件は起こるが、ラストも今までと何も変わらない、苛められる日常が待っているだけだ。

 でも、いじけているくせにどこかこの人は毒々しくたくましいところがあった。映画の物語は終わるが、彼女の女優人生はこれで終わりではなかった。メガネを外し、矯正器を外し、子供というよりはティーンと呼ぶ方がふさわしい年令になった彼女は‥やっぱりしっかりブスだった。

 でも女優としてはしっかりとステップアップしていく。次の大役は『ディアボロス』(97)。キアヌ・リーブスが弁護する教師に性的ないやがらせを受けた生徒の役で、出だしの場面から現れる重要なパートだった。

 アメリカの法廷ではレイプを受けた場合、未成年にも、陪審員の前で何があったかくわしく状況説明させる。ヘザーは涙ながらに背筋が凍るような告白をしていく。彼女が美少女ではないだけに、その証言の内容は吐き気さえもよおすほど生々しく、痛い。しかし、自分の弁護人の有罪を確信しながら、キアヌは彼女の必死の証言を汚いやり方で覆してしまう。そして悪魔に魅入られていくことから、この映画がスタートする。彼女が悪の引き金を引いたとも言えるオープニングだった。

 映画のラストにヘザー・マタラッツォはもう一度登場する。美しい妻のシャーリーズ・セロンと共に、キアヌが決して失ってはならないものの象徴として。(映画自体はそんな深刻なものじゃなくて、馬鹿映画だけど)

 60年代の女子校寄宿舎が舞台の『All I wanna do』(98)では、キルスティン・ダンスト、ギャビー・ホフマン、モニカ・キーナ、レイチェル・リー・クックといった美少女に並んでメインキャスト入り。

 キルスティンが率いる秘密ソサエティーの構成員で、心理学者になることが夢のトゥイニー。実は摂食障害気味で、食べ過ぎて太るのを気にしてクスリを飲んでは吐いている。自分たちの学校が男子校と合併して共学校になってしまうのを阻止しようとキルスティンは戦うが、トゥイニーは男の子たちが来るのが嬉しく仕方がない。合併の下準備の合同パーティで、まんまと男の子たちにハメられてブラを外した姿を写真に撮られるハメに。やっぱりイジメられっこ体質。でも大丈夫、今回の彼女には心強い仲間がちゃんといたから!他の女の子仲間がきっちりリベンジしてくれる。

 ミラマックスの子買いなのか『54』(98)にも出演。80年代初めの同名ディスコを舞台とした群像劇で、ディスコのボーイになるライアン・フィリップの妹の役。自分がきれいじゃないので、美少年の兄を誇りにしている。ニューヨークで派手な生活を送るライアンに冷ややかな家族の中で、彼女だけがライアンの味方だ。ヘザー・マタラッツォ、この映画では実生活では外した歯の矯正器を兄のためにもう一度つけてみせた。「あんたのお金で買ったのよ」と誇らしそうに。

 ブレンダン・セクストン・サード主演の『ハリケン・ストリート』(98)では、デビュー作で共演したブレンダンのために特別出演。この後、二人は『Getting to Know You』(99)というインディ映画で再共演して、サンダンス・フィルム・フェスティバルで「ウェルカム・バック」の歓迎を受けた。

 『スクリーム3』(2000)では、死んでしまったジェイミー・ケネディの妹として特別出演。シガニー・ウィバー主演の冷戦コメディ『Conpany men』(99)。ウディ・アレン、アラン・カミングという錚々たる面子に混じってメインキャスト。

 今年の夏はディズニー制作・ゲイリー・マーシャル監督の『The Princess Diaries』(2001)に出演。アニー・ハザウェイ演じるさえない女子高生が、実は小国のプリンセスだということが判明して始まるマイ・フェア・レディ物語だが、彼女はもちろん主人公がイケていない時代の親友を演じている。プリンセスだと分かって人気者になり、自分から離れていく友達を悲しくも苦々しく見つめる役ははまり役だろう。

 そして『Storytelling 』(2001)で、再び過酷なトッド・ソロンズ映画のヒロインを受けて立つ。大学で自分を人気者の地位に持ち上げる術を知り抜いているジェームス・ヴァン・ダー・ビークに対して、やっぱり高校イチのいじめられっこを演じるヘザー(泣)。

 楽しみな待機作は女優のイレーナ・ダグラスが監督を務める『Sorority Rule 』(2001)。大学のソロリティーに属するか、自分らしく生きるかの選択を迫られる女子学生の映画で、『ロード・トリップ』のエイミー・スマート、『アメリカン・パイ』のナターシャ・リーオン、『パラサイト』のクレア・デュバル、『Sugar and Spice』のマーラ・ソクロフ、『あの頃ペニー・レインと』のゾーイ・デシュチャネル等、当代きっての若手女優たちと共演する。その後は、またしても大学のはぐれっこ役で『Dog Catcher』(2002)が控えている。

 1982年生まれ。まだ19才。『54』のプレミア上映で、ドレスアップして堂々と会場に入っていく彼女のスナップをみて、大人になったなあと思った。人生の初期において身近な人(両親)から愛されなくても、金髪のチアリーダーじゃなくても、ちゃんと自分を把握して愛してさえいれば生きることは美しい。それを自身の成長とキャリアで示してくれる女優になれば、と思っている。


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