WILLIAM H MACY

小心者が荒野を行く

・最新ニュース

・『ミステリーマン』(1999)では、スーパー・ヒーローのワナビーたちの中で唯一家族持ち。スコップを手に戦うが勝ったことはない。夜中に台所で「あなた、お願いだからもうやめて」と妻に叱られるところがこの人らしい

・『ジュラシック・パーク。』(2001)では、ティア・レオーニという美しい妻がいる上流階級の男を演じているが、サム・ニールらと共に「あの」島にヘリコプターが墜落したんじゃ‥彼は生きて帰れないんだろうなあ(泣)

・『Focus 』(2001)では第二次大戦間近の田舎町で、隣人にユダヤ人と間違えられたところから迫害を受ける夫婦の片割れを演じている。やっぱりかわいそう

・ジョージ・クルーニ主演の『Welcome to Collinwood 』(2002)に出演


 少し頬がたるんだ悲しげな犬のような顔をしている。それ故か、今や「負け犬」の中年男といえば、彼のタイプキャストである。コーエン兄弟の『ファーゴ』(1996)で、自分の妻の狂言誘拐を企み、それが失敗して泥沼にはまる車のセールスマンを演じて一躍有名になった俳優だが、キャリアは長い。

 劇作家兼映画監督のデヴィッド・マメットの門下生だと知った時は納得した。どうしようもない状態に追いつめられて奇妙な行動を起こす男の悲劇といったら、マメットの十八番である。舞台ではほぼレギュラーのようにマメット作品に出演している。現在も『アメリカン・バッファロー』の巡業でロンドンにいるはずだ。

 マメット演劇の最高峰と名高い『オレアナ』も初演は彼の主演。ふとしたことがきっかけで、大人しかった女子大生からセクハラの疑惑を受けて追いつめられる大学教授の役で、結局は自分の中の男性原理主義を引きずり出されて最後に暴力で対抗してしまうという衝撃的なストーリーだった。彼の主演で映画化もされているようなので、是非観てみたい。

 映画デビューは『ある日どこかで』(1980)だが、本格的な進出は恐らくマメット作品の『殺人課』(1991)だろう。ベテラン刑事の役で、堂々の準主役だ。『ファーゴ』でアカデミー賞の助演男優症にノミネートされて脚光を浴びる前は人気テレビシリーズ『ER』の医師の一人として有名だった。

 『ファーゴ』の前に映画では『陽のあたる教室』(1995)がある。ここでは珍しく体制派の教頭として権威を振るっているが、よく考えれば嫌われ者の役なので、ウィリアム・H・メイシーらしいといえなくもない。

 『ウワサの真相/ワグ・ザ・ドッグ』(1997)は未見だが、以下はみんな『ファーゴ』の役のパターンを踏まえているといっていい。『エアフォース・ワン』(1997)では、テロリストに大統領専用機を占拠されながらも、ハリソン・フォード演じるアメリカ大統領の右腕として乗客脱出に尽力する空軍少佐。専用機は墜落直前、あと一人しか救出できないということが分かると、「大統領、あなたが助かって下さい」。いさぎよく花道を飾ると思いきや‥どうもこの人、かっこよく死ねない運命にあるみたいである。

 P.T.アンダーソン監督作品には『ブギーナイツ』(1997)で初登場。七十年代のポルノ映画業界を描くこの映画では、バート・レイノルズ扮するポルノ監督のカメラ・クルー。ポルノ女優の妻がいるが、彼女がひどいニンフォマニアで、彼が見かけるたびに違う男と寝ている。公衆の面前でもかまわずにセックスに励む。彼はそんな妻を見て、怒るでもなく悲しむでもなく、ただ静かに絶望している。しかし、彼の絶望がコップから溢れるようにいっぱいになった瞬間、悲劇が起こる。それが映画では、家族的なポルノ映画製作者たちの転落の始まりになっていた。

 自分を絶望へと追い込んでいく状況から脱することが出来ないのは、『カラー・オブ・ハート』(1998)でも同じ。白黒シットコム『プリーザントヴィル』で一家の父親役として平穏な人生を生きていたのが、現実世界からトビー・アクガイアーとリーズ・ウィザースプーンがやってきたことによって、彼の生活はめちゃくちゃにされてしまう。家に帰っても夕飯は出来ていない、一度も降ったことがない雨が町に降り始める、モノクロだった人々はどんどん色づいて、あろうことか彼の妻は別の男と恋に落ちる‥。メイシーは保守派だが、積極的に変化を叩きつぶそうとは思っていない。ただ変化に戸惑い、立ちつくすばかりである。

 アンダーソン作品は続いて『マグノリア』(2000)にも出演した。元・天才クイズ少年今・冴えない中年男という、本人が最も得意とするパターンの役で、失業して追いつめられて犯罪を計画するあたりも相変わらずだ。もっとも、アンダーソンはこの瀬戸際男をコーエン兄弟のようには残酷に追いつめない。状況が変わらなくても、本人に変化があれば人生はどうにか転がっていく、というところまでは引き上げてある。

 自らが脚本をつとめたテレビ・ムーヴィーの『コン・ラヴァー』(1997)では主演で、ギャングへの借金返済に困った悪女のレヴェッカ・デモーネイがカモとして狙う冴えない中年男を演じた。自分のことをよく分かっている。もっとも、あまりの情けなさにほだされたレヴェッカ・デモーネイが彼に惚れてハッピー・エンドという都合のいいオチはつけているけれど。

 ガス・ヴァン・サントによる『サイコ』(1998)のリメイクでは刑事、トラボルタ主演の『シビル・アクション』(1999)にも出演している。公開が待たれる出演作は『Mystery Men』(1999)。ベン・スティラーやジャニーヌ・ギャロファロと共に、スーパー・ヒーローのワナビーを演じているはずである。

 最新作の『Panic』(2000)では、(この年で!)父親の保護下から抜け出せないダメ中年の役。よせばいいのに、20歳以上年が離れているネーヴ・キャンベルに恋をする。その後は師匠であるデヴィッド・マメットの『State and Main』(2000)が控えている。泥沼から這い上がろうともがく悲惨な中年の奮闘劇にしばし注目したい。

Back to byplayers intro.