COOLEST10 1999

ファッションの鏡 セシル・ビートン著/田村隆一訳(文化出版局)
99年のベスト古本。ファッションを文化史的に論じた本とそっけなくいうには、本人によるイラストも含めてあまりにもエレガント。実はデザイナーの話なんてほんのちょっとしかなくて、その時代時代のファッション・リーダー達だった歴史的には無名の貴婦人や女優や娼婦、バレエ興行師や室内装飾家や雑誌編集者たちが主人公。モードという「はかなきもの」に関わった人々の生き方のスタイルというか、世界に対するアチチュードについての研究書といった方が正しい。お手本。

クリード・テイラー
 99年に買った中古レコードと再発新譜(主に紙ジャケ)の裏ジャケの七割に彼の書き文字サインがあったような。
  VERVE時代にはブラジルからジョアン・ジルベルトやアストラッド、デオダードを呼び寄せ、自身のレーベルであるCTIではポップスを卒業した若者向けに、イージ・リスニング・ジャズやバロック風味フュージョン等のスキマでナンパな音楽をピート・ターナーのパッケージで売って成功した、御大プロデューサー。ある種の音楽文化を「搾取」することの才にたけていたともいえる。
 まだ悠々自適のおじいちゃんとして生きているはずだと思うけど、まともなインタビューとかバイオがないのはなにごと!

NPG映画
 アメリカの、主にテレビドラマ出身のヤング・アイドル達→ニュー・パワー・ジェネレーション。皆さん、この広告代理店が考えました的な頭が悪い総称・ロゴはGAPのパクリ、使ってます?
 名称はさておいて、その提唱者(日本側)であるソニー・グループによる低予算学園ムーヴィーが元気だった1年。
 特にクリス・コロンバス映画の脚本でデビューしたジョン・ヒューズ直系の監督二人組による『待ちきれなくて‥』は、学園映画史上ベスト3には入るプロム映画。この映画の良さが分からない人とは、多分本当の意味での友達にはなれないと思う。

西武グループの文化方面からの総撤退
 映画館、美術館、収支的には黒字だった劇場から、もちろん六本木WAVEまで。
 バブル時代に各企業がやっていたメセナなんて絵に描いた餅だったんですね、マジで。しかし、自分の十代の文化生活はその恩恵にあずかって豊かだったとも思う。
 ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの来日公演やピーター・ブルックの『テンペスト』を、学生チケットで見ていたセゾン劇場の閉鎖が一番悲しかったかも。

世田谷美術館
 実は付属の図書館がかなりの穴場であることが判明。美しく貴重な建築書や画集や写真集や研究書。ここに午前中自転車飛ばしてやってきて、美術・演劇関係のビデオをブースで一本見た後砧公園内のフレンチでランチ、帰りに世田谷区民プールに寄って泳いで帰るっていうのが仕事がない平日の理想コース、と思いながらまだ実行していない。

スローターハウス5 1972年 ジョージ・ロイ・ヒル監督
 カート・ヴォネカット・ジュニア原作のSF映画。話の順序がシャッフルしてあって観客の混乱を誘う映画だけど、原作に忠実なせいかものすごく手法が洗練されている。
 地球から二百億光年かなたのトルファマドア星に飛ばされたビリー・ピルグリムは、どういう訳か時間軸がずれて、過去や未来に勝手に「飛んで」しまう。トラウマのドイツ軍捕虜時代に戻っていってしまう悲しみ。これと『小さな兵隊』『最前線物語』が私が考える戦争映画ベスト3。(あ、あと『MASH』があった)
 『明日に向かって撃て!』で、バカラックの「雨に濡れても」を最高にロマンティックに使っていたロイ・ヒル、この映画ではグールドが弾くバッハを美しい雪景色に重ねて、憎いことこの上ない。

Absolute celebrities
 今の私は歩く『CM NOW/米国版』と呼んでもらっても差し支えないほど、ハリウッドのヤング・アイドル(主に女子)にくわしい。自分のサイトのトップページに週変わりでライジング・スター女子を起用していたからだけど、ここのサイトには何かとお世話になりました。(あと『ロードショー』のヤングスター特集)
 眩しい笑顔を振りまいている彼女たちのグラビア、20年後、30年後には今のパメラ・ティフィンやカトリーヌ・スパーク、エバ・オーリンなみに貴重なショットになること間違いなしっすよ、ってお宝系かい。

Romance on the rise/Genevieve Waite(Paramour Record)
 『ジョアンナ』の主演で有名な女優のレコード。プロデュースは後に結婚することになるジョン・フィリップス。この二人の間の娘がビジュー・フィリップスなんだけど、彼女が驚くほどミッシェル・フィリップスに似ている。ということで、ジュヌヴィエーヌとミッシェルのルックスも実はワン・ステップ・ビヨンド。ジョンは吉田拓郎かジョニー・デップ並に女の趣味が統一されている。
 内容? ベティ・ブーフ南部に行くってな感じのお下品オールド・タイミィで最高! もっと最高なのはリチャード・アヴェドンによるお尻つきだしポーズのジャケット写真だけどね。

母校の小学校校舎取り壊し
 私の小学校は各学年二クラスしかなかった。各教室は全て独立した一軒のテラスハウスで、それぞれに小さな庭と水飲み場がついており、コンドミニアムのように敷地にジグザクに建てられていた。そのハウスを全部取り壊して、普通の鉄筋箱ものの校舎が跡に建つことになった。夏に解体して、秋からは校庭の隅に建てられたバラックで私の後輩達は授業を受けることになるという。
 取り壊し寸前には、去年に引き続き小学校のクラスメイト達が集まった。大きく斜めに天井がはしる教室の真ん中で記念写真を撮った時、誰もがこの学園の一番いい時代の最後の卒業生だった幸運を痛感したと思う。

トレンチ・コート・マフィア事件
http://www.matthewlillard.com/
 今年いちばん興奮した事件。だって『ヘザーズ』リアル・バージョンだよ! ハイスクール・ヒエラルキーと学歴という市場主義社会に二重に敗北した子供達の復讐劇。マシュー・リラード主演で映画化希望。「僕も高校時代は体育会系じゃなくてイケてなかった」なんて感情移入するのは大間違い。のし上がれない構造のきつさが並じゃないんだと思う、アメリカは。
 でも同情しない。馬鹿な連中が底が浅い妄想を現実に引っぱり出して生んだ惨劇ということで、わりとまっとうな怒りを持って胸に刻みつけておきたい。

90年代ベスト

音楽
『Working wounded』Everything but the girl

 90年代を通して最も聞き込んだ新譜といえば、実はギャビン・ブライヤーズの『Jusas blood never failed me yet』なのだけど、これはアーゴ→クレプスキュール→ECMみたいな80年代文脈で語られるべき作品なので、二番目に聞き込んだ作品を。
 20年後にきっとなつかしくなるのは、クラブ対応のトランスを誘うほんまものより、記号的でナンパで線が細いこういう音楽なのでは。ベン・ワットはドラムン・ベースを「21世紀のボサ・ノヴァ」と呼んだけど、もちろんこの盤は本脈からは外れた「ゲッツ=ジルベルト」的名盤。VERVE派の私はもちろん大好きです。

映画
アンジップド(1994)

 20年後にきっとなつかしくなるはずの「90年代映画」の要素は、クリストファー・ドイルのカメラとか無駄話・脱構築的ダイアローグとか、監督の趣味が反映されたオムニバス盤的サウンドトラックとか、『パルプ・フィクション』のパロディとか。
 で、私はその中の重要項目の一つとして、「スーパーモデルの特別出演」をここでピックアップしたい訳です。ナオミ・キャンベルが出ている映画は幾多もあるし、豪華版の『プレタポルテ』っていうのもあるけど、ここはあえてアイザック・ミズラヒの93年秋冬コレクション・ドキュメントを。ファッションという「はかなきものの勝利」を謳った映画で、もちろん大好きです。

甘い生活
suburbia suite

 今はみんな死んでも口にしない、20年後にきっとなつかしくなる有料フリーペーパー。everything coolの読者は有識者だから誰もあげないでしょうが。レコードを、そして音楽を「こじゃれ」というよくいえば退廃的で優雅な、悪くいえば卑小な価値観に落とし込んだその功罪は計り知れない。「あの頃は中古レコードを買うのおしゃれだったんだよ」「ええー、うそぉ!」「そういう時代を、俺達は生きたんだ」。もちろん大好き、って言うと思いますいつの日か。(遠い目)

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