Jazz/Lounge part1/part2















THE SWEETEST PUNCHthe new songs of ELVIS COSTELLO and BURT BACARACH/Bill Frisell(EMI)

アンビエント・ジャズのミュージシャンによる「Painted from Memory』のストイックなカバー集。ビル・フリーゼルはジャズ・ギタリストなのだが、デヴィッド・バーンやアート・リンゼイといった現代音楽&ルーツミュージック指向のニューウェイブ出身ミュージシャンと組んだりする不思議なスタンスの人。ブルース色の希薄なカントリーテイストというスキマなプレイをすることで有名。

 そんな訳で内容は、「緊張感溢れる端正ななごみジャズ」(笑)。でも驚くほど楽しめるのよこれが。フリーゼルとしては非常に「軽い」ことをやっているので、いつもとは違った充実感がいい意味でくだけた雰囲気を作り出したんだろう。それがようするに、「バカラックをプレイする」ということ。

 トラックは、管類が主旋律を取るジャズらしいフル編成とフリーゼル自身のギターが中心となったものの2パターン。前者は驚くほどメロディを崩さないが、CTI的なイージーリスニング・ジャズとは一線を画すきちんと構築された端正さが光る。ベストは「Such unlikely lovers」か。しかしプッシュしたいのは、後者のフォーキー路線。テンション効きつつも爽やかで聞き易い。叙情に流れず美しいので、いくらでもおかわり可能。

 カサンドラ・ウィルソンのゲスト参加は、この間ブルーノートで彼女のコンサートを聴いたばかりの私には驚くべきことではなかった。彼女が率いているバンドの白人ギタリストがフリーゼル・フォロワーで、ジャズというより黒人フォークのライブだったので、世界観はぴったり。コステロとの相性は今イチだったが。

 ちょっとびっくりしたのは、コステロとバカラックが曲を書き終えた段階で、フリーゼルがスコアを入手してこのアルバムを準備していたという事実。『Painted from memory』とこのアルバムはほぼ同時進行で作られていたらしい。





WHAT THE WORLD NEEDS NOW IS LOVE/STAN GETZ(VERVE)

 ゲッツとバカラックには、「ブラジル音楽であるところのボサノヴァを歪んだ形でアメリカに伝えた」という重要な共通項があります。二人とも中村とうよう先生の敵ですね。(もちろん私は記号化されたボサノヴァを愛しています)ゆえに相性は抜群です。

 チック・コリアやハービー・ハンコックといった豪華なバックに、リチャード・エバンスとクラウス・オーガマンがアレンジしたストリングスという、かなりソフトロック色が強い内容。

 ゲッツのサックスがまたよく歌います。かなり自由にメロディをフェイクして気持ちよくブロウしている感じなのですが、時々ハル・デヴィッドの歌詞が聞こえてくるような錯覚さえ起こします。パーティにはぴったりの華やかさ。





CAL TJADER SOUNDS OUT BURT BACHARACH(SKYE)

 ナンパジャズの総本山CTIの対抗馬的存在、ゲイリー・マクファーランドのSKYEレーベルの有名なヴァイヴ・バカラック集。

 弾くのはラテン・ラウンジな演奏でお馴染みのカル・ジェイダーですが、レーベルの意向を反影して、あくまでも軽い!まるで空気のよう。一歩間違えるとイージー・リスニングになりかねないささやかさ。『遠い天国』はベースパターンがフレンズ&ラヴァーズの『暗闇から手をのばせ』と一緒、といっても今どきそんなDJをやる輩はいないでしょうが、91年の渋谷だったら大受けパターンだったんでしょー。

 しかし、この軽さがバカラックには似合いです。時々、オルガンに主役を譲るひかえめな感覚も上品で、まさしくホテルのラウンジやエアポートで聞きたい音楽。




REFLECT / ANITA KERR SINGERS

 清潔感溢れるアニタ・カー・シンガーズのバカラックアルバム。

 アニタ本人のピアノと少人数編成のストリングスをバックにして4人の男女が歌うバカラックは、ムーディというより品の良さが勝っている。極めてドラマティックな展開を避けたアレンジで、小さな音で聴きたい音楽。

 お金持ちのおばさま達が集まるサロンでのお茶会向き。



PERCY FAITH PLAYS BURT BACHARACH

 ついこの前までポール・モーリアと一緒に捨てられていったはずなのに、いつの間にそんなに評価が上がったんだのパーシー・フェイス。

 ヒット曲のオーケストレーション、特に主旋律の扱いの巧さには、いつも感動します。泣きのストリングスとホーンが交互にメロディを奏でる「素晴らしき恋人たち」のゴージャスなことったら! ボリュームのあるアレンジがいい。

 会社がホテルで主催するパーティーのオープニング向き。







WHAT THE WORLD NEEDS NOW IS LOVE/McCOY TYNER TRIO(IMPULS!)

 ゲッツと同タイトルのこちらは、2年ほど前に出た比較的新譜。

 ポイントはプロデュースがトミー・リピューマだということです。インナー・スリーブにはタイナーとB.Bとリピューマのスリーショット写真が!リピューマ仕事のお約束の華麗なストリングが全編に加えられ、「マッコイ・タイナー・トリオWITHストリングス」というより、バックのオケが主役で「フューチャリング・マッコイ・タイナー」。ジャズというより、AORファンのためのインストと思った方が正しい。

 おまけにリピューマ、心の師と仰ぐクリード・テイラーの教えをきちんと守って、タイナーにワン・コーラスまるまるそのままの主旋律を弾かせるんだからすごいです。 おかげで『世界は愛を求めている』と『遥かなる影』が同じ音で始まることが判明。

 タイナー、崩す段になると今までのストレスが爆発するのか、弾きながらキース・ジャレットのごとくムームーと歌いまくります。






RIGHT NOW!/MEL TORME(COLUMBIA)

 『Comin'home baby』が収録されていることで有名なこの盤で、メル・トーメは『マイ・リトル・レッド・ブック』と『ウォーク・オン・バイ』をカバーしてます。

 前者はイントロにホーンのソロ・フレーズが入るところが何ともメル・トーメらしく、後者もほとんどの歌手がせつなげに強調するところをあえて流して歌って、彼の持ち味である「軽さ」を最大限に生かした出来になっています。ま、この人は何を歌ってもそうなんですけどね。

 他にも、『シークレット・エージェント』『レッド・ラバー・ボールズ』『プリティ・フラミンゴ』等、カバー曲のセンスが光ります。




RAINDROPS/PEGGY LEE(CAPITOL)

 60年代末のインペリアルの「ジャズの人にポップスを歌わせる」企画には目のない私ですが、同時期のキャピトルもメル・トーメにこのペギー・リーと負けてはいません。

 バカラック・カバーは『雨に濡れても』『恋のウェイトリフティング』の2曲。他のアルバムでは、『マイ・ロック・アンド・ファウンデーション』なんかも取り上げています。『恋のウェイトリフティング』、有名なサンディ・ショウのバージョンは、やや詰まり気味に歌っているのですが、ペギーはリズムの取り方に工夫があって、割と余裕で歌っています。

 バックのドラムの、シャッフル・ビートを叩き慣れた人の8ビートに違和感を覚える人もいるでしょうが、味があって私は結構好きだったりします。へなちょこながらも一応ドライブしようとするオルガンと、ブレイクが入る『スピニング・ホイール』なんかもなかなかの出来。



SOMETHING COOL/Voice in Latin (Morgan)

 サバービア等で有名な「温室の真ん中に美女が立って涼しげに微笑んでいる」ジャケと違う! と思っているマニアの皆様。これはジャケ違いの再発盤です。このアステカとかサイマンデみたいなジャケだったら小西康陽も今と同じような評価を下したかどうか(泣)。

 で、内容ですが一言で言うと「セルメン・フォロワー」。リーダーのバーバラ・ムーアがピアノジャズ経由ラテン行きの人だという要素が大きいんでしょう。サンバを基調としたリズムにコンガとユニゾンコーラス、という曲が続きます。オリジナル曲も及第点。芸風は狭いけれどかなり練れている感じがします。「恋の面影」もかなりセルメン・バージョンに忠実でなかなかにいいんじゃないでしょうか。セクシーというよりは端正な感じが勝りますが。





THE IN SOUND/Gary Mcfarland (Verve)

 後にSKYEレーベルを立ち上げて、カル・ジェイダーによるヴァイブラフォンのバカラック集を出すことになるマクファーランドの、軟派ヴァイブ道の金字塔的アルバム65年産。バックにナベサダが参加していることでも有名ですが、ロックのフィーリングをばかすか取り入れてボッサをポピュラーにしたセルメンへのジャズからの回答的アルバムだけあって軽い! ヴァイブラフォンの音がコロコロと転がって映画音楽や「サティスファクション」を奏でる感じがチャーミング。ギャル必携。

 バカラックカバーは「何かいいことないか仔猫チャン」サントラからの「Here I am」。もはやスキャットとは言えない、ゲイリー・マクファーランドの鼻歌(誉めている)とユニゾンでメロディを奏でるヴァイブが反響して空気に溶けるように消えていく様は、夕闇迫るビーチにほんのわずかに残った太陽が海に沈む瞬間を思い起こさせます。至福。



GOOD VIBRATION /Hugo Montenegro (RCA)

 A面一曲目の「Good Vibration」に針を落とした時、あたしときたら回転数を間違えたかしらと思いました。 そのくらいテンポと音圧が高くてびっくり。

 男性コーラスによるハーモニーも素晴らしく、間違いなくこの曲で最もヒップなカバー。唯一パーソネルとしてジャケットに表示されている口笛吹きのホイッスルが、テルミンのフレーズを再現するところも聞きどころ。イージー・リスニングもピンキリですが、この大御所のレコードは間違いなくピンの方。

 他の曲もBPMが高めでクラブプレイ可ですが、B面収録のバカラック「Knowing when to leave」は極上ソフトロック・カバー。後半の盛り上がりでストリングが入るところのゴージャスさ加減は、パーシー・スレッジのバカラック集と双璧をなします。







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