SOFT JAZZ or JAZZY POPS?

 クリード・テイラー、マキシマム・リスペクト。トミー・リピューマ、最重要人物。「Our day will come」と「Going out of my head」、そしてバカラックと映画音楽をやっていたら買い。まともなジャズファンが捨てていくものを私が拾っていく、それがナンパジャズ道。




『feelin' good』(MONDO)/THE FRANK CUNIMMONDO TRIO introducing LYNN MARINO

 19才のいたいけ歌唱(ややおてんば気味)の女性歌手に、後のホレス・シルヴァー・クインテットの名ドラマーを含む実力派トリオのバックによるこの盤は、ソフトロック・ファンにはちょっと知られた人気レコード。

 何といってもロジャー・ニコルズの「Love so fine」をカバーするセンスに脱帽。聞き物はこれと同じくニコルズ/ウィリアムズによる「愛のプレリュード」の快活バージョン。

 バラードになるとヴォーカルが一本気になってムード不足ですが、アップの曲はお手モノといった感じで、おじ様達の強力サポートを得てリン・マリノが生き生きと歌う様は、少女小説を彷彿とさせます。乙女のジャズ・ヴォーカル・デビュー盤は間違いなくこれ、かな。





『back to earth』(VERVE)/LISA EKDUL

 で、リン・マリノを好きな人には、こちらのリサ・エクダールの方を大プッシュしておきます。

 スウェーデンのシンガー・ソング・ライターですが、時々企画モノでジャズヴォーカル盤を出しています。写真は去年の暮れに出たジャズ盤セカンド。バックがトリオ編成というのも奇しくも同じ。

 舌足らずな歌声は、クロディーヌ・ロンジェからブロッサム・ディアリーまで、ウィスパー・マニアは必聴。本気で拙くいたいけなリサの歌唱には計算すら感じません。倍テンポのウォーキング・ベースがリードする曲ではところどころリズムについていけなくて声がかすれます。胸キュンもの。

 「night and day」のパースの愛らしさは何度聴いてもやられます。






『invitation』(MPS)/SINGERS UNLIMITED

 シンガーズ・アンリミテッドとアコーディオンのアート・ヴァン・ダムが組んだ、ジャケットからの予想を裏切らないおしゃれ盤。 

 ジョビンの「Wave」もいいけれどハイライトは「We could be flying」。タイトルからして「We can fly」に似ているけど、まさしくその曲のファンが驚喜しそうな、サビ前にドラムがフィル・インして伸びやかなコーラスが被さる「We can fly」タイプ決定版みたいな曲。「飛べるはず」ではなく、「飛べるかもしれない」というタイトルのつつましさが象徴するように、本家より大分アダルトなのは、リードを取る女性ヴォーカリストのボニー・ハーマンの清楚なフォーク声のせいかも。

 この素晴らしい曲の作者は『アンナ』の「太陽の真下で」他で有名なミッシェル・コロンビエ。彼のA&M移籍第一弾のアルバムのクライマックスで、オリジナルはラニ・ホールがヴォーカル。彼女自身のソロ・アルバムでも歌って います。ジャッキー&ロイのCTI盤のカバーも素晴らしい出来。要チェック曲です。







『changes』(VERVE)/JACKIE&ROY

息の合った掛け合いや、デュエットでお馴染みの夫婦デュオ。

 同じヴァーヴ盤なら、ロイ本人の洒落たピアノをバックに、ボサノヴァ・ナンバーなんかやっている『Lovesick』の方がいいのだが、ソフト・ロックっぽいといえばこっちの方。

 オリヴァー・ネルソンやクラウス・オーガマンといったソフトロック系のアレンジャーを迎えて、ポピュラー曲をメインにしたいかにもな企画盤。ラヴィン・スプーンフルの『Didn't have to do it』の解釈なんか、ロータリー・コネクションのものに近い。

 それにしても、ビートルズを4曲も取り上げるのはやり過ぎである。二人が老骨にムチ打って8ビートで歌う「Can't buy me love」なんて悲惨な出来栄え。でも、流麗なストリングスをバックに、二人がスキャットでメロディ を歌う「ノルウェイの森」はアルバムのベスト・トラック。E

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『Novi in wonderland 』(MPS)/NOVI SINGERS

 何とポーランドのジャズ・コーラス・グループがドイツのレーベルに一枚だけ残した68年作品。去年、一昨年くらいはジャズ系DJが血眼になって探していたという話です。

 社会主義国のアカデミックな音楽教育を受けてきたメンバーと、最高のスタジオミュージシャンによる手堅いバックで中身は最高です。スイングル・シンガーズをファンキーにした感じ、といえば分かるでしょうか。

 有名なのはアルバムの最後を飾る超音速スキャットの「Secret life」ですが、ソフトロックファンにお勧めしたいのは、浮遊感漂うゆるいジャズワルツナンバーの「Alice in wonderland」。

 しかし、映画監督のスコモリフスキーの存在といい、ポーランドはキューバと同じく、芸術分野において侮れない国なのではないかと思いました。







『Conversations 』(SEGUE)/SILHOUTTES

 謎のジャズ・グループ。

 ヴァイブとフルートをフューチャーしたクールジャズ的なバックに女性コーラスという、ありそでなかった、あーそこそこ、そこがツボね、という音楽性。

 ボッサ調の「Time to fall in love」なんか、ソフトロック好きにはキラーチューンと言えるかも。マンシーニの「Sally's tomato」もサヴァービア(一冊目)ファン必聴。フルートと女性コーラスがユニゾンでメロディを奏でる「ノルウェイの森」はかなりストレンジで、スリリング。

 コンガが入ったファンキーなインスト・ナンバーやフュージョン的なソロは、何というか沖野修也好みの世界ではありますが。

 詳細がよく分からないグループですが、カバー曲等から推察するに、68〜72年頃のグループではと思われます。私が手に入れたのは再発盤でしたが、この間オリジナル盤を9800円で見つけて驚いたのなんの。










Raindrops keep fallin'on my head』(Capitol)/MEL TORME

 ピチカート・ファイヴの『NO.5』の元ネタとしてお馴染みの「Comin'home baby」等で、ロックのセンス的なものは評価されているメル・トーメ。六十年代の終わりにはスピナーズの「Games People play」、80年代にはドナルド・フェイゲンの曲を取り上げるなど、DJ的な感覚がある人です。

 このアルバムでは、ジミー・ウェブがフィフス・ディメンジョンの『マジック・ガーデン』のために書いたゴスペル調の曲や、クラシックス・フォーの「TRACES」、ドノヴァンの「サンシャイン・スーパーマン」をカバーして、テディ・ランダッツォに新曲を書き下ろさせるという、ポップス・ファンの胸をかきむしるようなことをやっています。

 ソウルの曲を歌う時も、例のノンシャランとした力の抜けた絶妙な歌唱法はそのままです。普通、こうしたポップス畑のものを歌わされると自分のものにしようと力む人が多いのに、リラックスして余裕しゃくしゃくで歌う感じがかっこいい! バカラックの『雨に濡れても』にいたっては、彼がメル・トーメを想定してこの曲を書いたのだとしか思えないようなはまりぶり。

 ソフト・ロックDJには、メル自身のオリジナル曲「INTO SOMETHING」というロック調のナンバーを推薦しておきます。

 こんないいレコードが600円で手に入るんですから、三鷹の『パレード』はいいレコ屋ですね。











『Norma Deloris Egstrom from Jamestown North Dakoda』(CAPITOL)/PEGGY LEE

「ブラック・コーヒー」「ジョニー・ギター」のヒットで知られる、ベテラン歌手のペギー・リーのポピュラーアルバム。

 プロデューサーはニール・ダイアモンドで、アレンジャーがスペクター組のアーティー・バトラー。同じアレンジャーで仕上げられたエリー・グリニウィッチのソロ二作目をぐっとアダルトにした感じだといえば、このレコードの魅力が分かってもらえるでしょうか。

 白眉はA面1曲目のレスリー・ダンカンの「LOVE SONG」。サヴァービアファンにはラニ・ホールのバージョン、もっと一般的にはエルトン・ジョンのヒット曲として知られていますが、ペギーのヴァージョンは中間部にダイナミックな盛り上がりがあって、ドラム(ハル・ブレイン?)が効いています。

 カーペンターズで知られるレオン・ラッセルの曲なんかもやっていますが、「危なっかしいようで絶妙のリズム感とバランス感覚」の持ち主なので、どの曲も彼女のスタンスでこなしています。この少し突き放した感じのボーカルにバカラックが似合わないわけがなく、後にキャピトルのアルバムで「ロック・アンド・ファウンデーション」をやっていますが、その出来の素晴らしいことといったら!

 こんなアルバムが700円で手に入るんですから、吉祥寺の「ジョージ」はいいレコ屋ですね。








『Different Strokes』(Liberty)/FOUR FRESH MEN

 どう考えても年寄りの冷水的な悪ノリサイケジャケット。この頃のフォー・フレッシュ・メンは一体何を考えていたんでしょうか。

 原曲のアンニュイなイメージを軽快なホーンで吹き飛ばす、カリフォルニアの青いバカ的な「男と女」が最高。ソフト・ロックDJの皆さん、狙いはこれとラストのスライ・ストーンの「EVERYDAY PEOPLE」ですよ! 親父が楽しそうに歌っているとこがいいです。

 他にも、ボックス・トップス、ロジャ・ニコ、ルグランとギャル泣かせな選曲です。リバリティー時代のフォー・フレッシュ・メンは徹底して軽く、バカラックの「WALKON BY」(素晴らしい!)、ドノヴァンの「ハーディ・ガーディ・マン」(大笑い)などをカバーしているので、要チェック! しかし、ビートルズを4曲も取り上げるんだったら、彼らの血筋にあたるところのブライアン・ウィルソンの曲を一曲でいいから取り上げて欲しかったというのも本音です。

 こんなレコードが1000円で買えるんですから、やっぱり「ハンター」は素晴らしいレコ屋ですね。





『With a little help from my friend』(Imperial)/SUE RANEY

 スー・レイニーのインペリアルでの(おそらく)ラスト・アルバム。このレーベルで出した1枚目がかなりホピュラーよりだったのに対し、「ジャズ歌手がヒット曲を歌う」企画ものの感がかなり強いのが特徴です。ジャズ・ボーカリストとしてのスー・レイニーの魅力をあますことなく伝えています。

 「OUR DAY WILL COME」「LIVE FOR LIFE」は、スローボッサにして、かなりねばっこく歌っています。そのため、ハスキーだけどロリータっぽい彼女のため息まじりの声がひどく効果的にいきてます。スパンキー・アンド・アワ・ギャングスより、作曲者であるマーゴ・ガーヤンのバージョンを思わせる「SUNDAY MORNING」、セルメンの解釈を更にラウンジ寄りにした表題作のビートルズもしかり。 正直言って、全曲素晴らしい!

 こんなレコードが1400円で買えるんだから、「バナナレコード」も侮れない、と思ったら、お茶の水ユニオンのジャズコーナーで1200円で売っているのを発見! おそるべしユニオン。






『For onece in my life』(Atrantic)/CARMEN McRAE

「駄目な僕」「ドント・トーク」という、『ペット・サウンズ』の中でも二大ストレンジな困ったちゃん的な曲を、なぜかカーメン・マクレェがカバー。どういうことでしょうか、おそらくはプロデューサーの趣味だったんでしょう。

 ただ、ブライアンが歌うとギリギリの精神状態を感じさせる、こんな変なコード進行の曲も度量で歌いこなすカーメンにとっては、ものの数ではないんでしょう。「ものの数ではないわ」という歌いっぷりです、実際。

 しかし、まったく危うさを感じさせない歌唱と、スタンダード・ジャス的なアレンジによって、さらに曲そのもののストレンジさは際立った感じがして興味深いです。

 だめ押しで「LOOK OF LOVE」もやっていますが、これはダスティのオリジナルにかなり近い出来ばえです。

これはレコファンなのに2400円。くやしいわったら、くやしいわ。


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