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ロジェ・ヴァディムに捧ぐ〜ジャズおすまし盤

 何となくクリスチャンヌ・ルグランのスキャットものが中心になってしまったけど、彼女がヴァディムの映画のサントラで歌ったという事実は、多分ない。彼女が主題曲を歌うブリジット・バルドーの『殿方ご免遊ばせ』はミッシェル・ボワロン監督作品だし、カトリーヌ・ドヌーヴの吹き替えを務めたのは、ジャック・ドゥミの『シェルブールの雨傘』だ。

 だけど、スウィングル・シンガーズのユニフォーム的な袖と襟のない黒いタイトワンピースを思い浮かべるとき、そして彼女の歌声を聴くとき、ポップにアレンジされたバロック音楽を聴くとき。ロジェ・ヴァディムの作品に代表されるような「すかした気安いゴージャスさ」というものを私は感じずにはいられない。なーんてね。

 Afternoon in Paris/JOHN LEWIS & SACHA DISTEL (Atlantic)


 MJQのリーダーであるジャズ・ピアニストが、洒落者で遊び人でパリジャンのギタリストと現地で吹き込んだ盤。この時サシャ・ディステルは『死刑台のエレベーター』をマイルスと共演する前だった。それから歌手をやったり俳優になったりと気ままにショウビズ世界を渡り歩いている。

 ジョン・ルイスらしい端正なピアノプレイから漂う優雅さと、カフェでくつろいでいるような気安いくだけた感じが共存するアルバム。

 絶え間なくブラシがドラムをこする音が街角のざわめきのように印象的な表題曲は、ジャケットのように曇り空が厚くたれ込める寒い日に聴きたい。

 Place Vendome/SWINGLE SINGERS AND MODERN JAZZ QUARTET (Philips)


 スウィングル・シンガーズとMJQという、「ジャジーなバロック音楽」を追求する二大グループがパリをテーマに共演!これ以上に気取ったおすましなレコードが他にあるだろうか。

『恋するガリア』でお馴染み「G線上のアリア」もミルト・ジャクソンのヴァイブでステンドグラス指数二割増。

 これとグールドが弾くゴールドベルグがフェイバリットのバッハっていうのが、つんとすました高嶺の花になりたい女の子の必須条件なのでは。京都喫茶の「ソワレ」で流れているべき音楽のベストワン。

 QUIRE (RCA)


 クリスチャンヌ・ルグランがスウィングル・シンガーズを脱退して結成したのがこのクワイアー。恐らくは本来やりたいことであるジャズ・クラシクスのヴォーカリズに戻っている。

 ブルーベックの変拍子のピアノをスキャットで再現した「ブルー・ロンド・ア・ラ・ターク」が素晴らしい。ブルースターズ時代にフランス語で吹き込んだ「バードランドの子守歌」の再演もあり。そしてリリカルでありながら張りつめた「ワルツ・フォー・デビー」。

 ほの暗い清らかさが漂う、気品ある一枚。

 Jazz et Jazz/ANDRE HODEIR + JAZZ GROUPE DE PARIS (Fontana)


 こちらはマリー・ラフォレ主演の「踊るジャズ映画」の傑作、『赤と青のブルース』を手がけたフレンチ・ジャズ・ミュージシャンの盤。

 これもクリスチャンヌ・ルグランが参加していて、「ジャズ・カンタータ」(!)で、超ソプラノの爆音とでもいうべき技巧的かつエモーショナルなスキャットを披露している。

 『赤と青のブルース』のテーマ曲も嬉しいけど、多重録音による表題曲が圧巻。おしゃれなピアノのバックにピンポン玉が落ちる音だのホウキの音だのを重ねたミュージック・コンクレートばりのヒップな作品。

 Communications'72/STAN GETZ (Verve)


 ゲッツ・プレイズ・ルグランジャズ!もちろんミッシェル・ルグラン本人がアレンジとオーケストレーション、全曲の作曲を手がけており、リードが誰かを無視したオーヴァープロデュースぶりが冴えわたるバロッキンな盤。

 その上スウィングル・シンガーズがスキャットで参加、ジャケットのイラストからくる期待を裏切らないゴージャスな熱気が全編に溢れている。

 大勢の人の囁き声がスキャットになだれ込む「ラウド・マイノリティー」ネタの表題作や「Nursery Rhythmes for All God's Children」で分厚いストリングスが入る瞬間は、いつ聴いてもくらくらと目眩を誘う。


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