music dailry

アダルト・オリエンッテッドなジャズ盤

 多くの男子の「AOR指南本」として有名な『僕の東京ドライヴ』を始めとする田中康夫の本を読んでいると、まず心配になるのは糖尿。移動は全て車で、イタリアンのランチとフレンチとどっしりしたワインの合間に和菓子食べてたりするんだもの。カロリー消費はセックスとボランティアのみ。肝臓かなりフォアグラ状態になっていると思います。選挙活動で痩せるといいですね、他人事だけど。

 足首が細くて、オーセンティックだけど確実に似合うタイプのお化粧とスーツ、高価な下着でシェイプされたスタイル、肩に触れれば指が吸い付いて無理なく滑っていくよく手入れされた肌、ああだからその肩からシルクのスリップの肩紐落として、体の曲線をなぞって下着が床まで滑っていく様子を見たいんだってば、っていう助手席の彼女はルース・レンデルのミステリーの読者で、シャーデーのベスト盤を持っている、多分。

 「今夜は帰らなくていいの」と言わせるにはどうすればいいのか。J-WAVEの「ミッドナイト・フェイセズ」の時間短縮はこんな時、きつい。やはり勝負編集テープはダッシュボードに滑り込ませておかなくては!そんな君に彼女はそっとつぶやいた。「知ってるわ、これエイドリアン・ガービッツでしょ? ヘビメタバンドの人なのにソロになった途端ウェスト・コーストなプロダクションなのよね。でも、日本盤のライナーは伊藤政則なのが出自を物語っていて笑えるわー」そんな女は即刻高速に叩き出せ。

 そんな訳で秋の夜長ドライヴ、お持ち帰り用にも対応可のナンパジャズ集。

 Fresh!/FOUR FRESHMEN (RANWOOD)


 オリジナル・メンバーはまだ残っています? 胸にきらめくお揃いのFFネックレスがとっても侘びしさを感じさせる86年盤。しかしリバティ/インペリアル時代のナンパ路線はここでも健在。ドナルド・フェイゲンのカバーというと前に取り上げたメル・トーメのバージョンがあるけれど、ここでも「I.G.Y」と「Maxine」の二曲カバーされています。

 前者に関しては勇気があるーって以上の感想しかないけれど、後者はしっとりとしたハーモニーも素晴らしく、オリジナルよりもセンスがよいのでは? この曲はマーク・マーフィも取り上げているそうなので、そちらも是非とも手に入れたいですね。

 しかし白眉は「セイリング」。クリストファー・クロスのオリジナルは鼻で笑えても、ここではまともにせつなくなっちゃうんで驚きます。


 The Lady Want To Know/LAURA FYGI (Mercury)


 年増の色気炸裂のブックレットからの期待を裏切らない六本木の夜なボッサ・カバーの数々。でもなかなか侮れないのよ。「テレフォン」のトゥーツ・シールマンの客演も嬉しい。表題曲を含めて二曲マイケル・フランクスのカバーがありますが、フランクス本人もゲストで一曲デュエットしています。

 すごいのはEBTGの「each and everyone」の気だるいカバーがあること。「もう一度あたしを口説こうっていうのはお門違いじゃない?」「あなたの愛なんてしょせんはすぐに消え去る類のものなのよ」なんて強気な歌詞も水商売で海千山千の姐さんの台詞みたいで貫禄と哀愁が漂う。

 この人はバングルズの「Eternal Flame」もボッサでカバーしていて、それもいい出来なんで中古の適正価格で掘り出したいですね。


 Dee Dee Bridgewater (Atlantic)


 この人も別のアルバムでマイケル・フランクスをカバーしていますね。七十年代中期にはブラコン寄りの活動をしていたジャズ〜ポピュラー歌手の、たった一枚だけのアトランティック盤。相性がいいところを見せているジーン・ペイジの仕事としても評価できるよいアルバムです。

 このアルバムのお勧めは何といっても、ホール&オーツの「She's gone」のかばーであるところの「He's gone」。ソウルフル。間奏のストリングス・アレンジがせつなくて素晴らしい。「He's gone」は他にD.C.リーもアルバムで取り上げていてそちらもお勧め。シンセの音がいかにも80年代U.Kな感じ。

 アトランティックのデジパックシリーズからよい音でCDが出ていますけれど、アナログでもでもお安く買えますよ。


 Baltimore/NINA SIMONE (CTI)


 引き続きホール&オーツのカバーものを。黒人ジャズ〜ブルース界の至宝ニーナ・シモンのCTI盤。「Music for lovers」はゴスペル調に歌い上げ、「Rich girl」はリズムに乗って軽やかに。

 しかし、この盤の魅力は何といっても三曲あるレゲエ・リズムのナンバー。オープニングのランディ・ニューマンのカバー、「ボルチモア」の格好良さにノックダウン。偽物としてはクオリティが高いのはリズムがとにかくずっしり重いせい。レーベル全体で考えると最もベースの音がでっかいレコードなのではないでしょうか。

 バックを務めるのが今や「名曲物語」でお馴染みのデヴィッド・マシューズののも意外。もちろん、全てはニーナの圧倒的な声の魅力があってのプロダクションです。


 Free in Africa/BEN SIDRAN (ALISTA)


 もう一つホール&オーツ・カバー。ブルーサム盤ばかりが話題になるベン・シドランではありますが、このアリスタ盤も決して悪くないです。実験色を残したインストが入っていない分、逆に聞き易いくらいかも。ジャケットからも開放感が伝わってきます。トミー・リピューマもブルーサムに引き続きアドヴァイサーとして参加。

 「You talk too much」はアフロ・キューバン・リズムでカバー。あとよいのがビリー・ジョエルの「我が心のニューヨーク」のジャジィなバージョン。モース・アリソン風のアクセントをつけて歌うところなんか格好いい。

 


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