試写会備忘録
架空の国の架空都市が舞台・新人監督でヴェンダーズが好き・うらさびれたプールに集まる愛すべき社会的落伍者たちがメインキャスト・モノクロで画面毎にセピア・グリーン・グレイと色調が変わる・夢のシーンだけカラー・明らかにジャン・ヴィゴの「アトラント号」のオマージュがあり・登場人物たちは基本的にサイレント演技で架空言語を時々話す・ドニ・ラヴァンが(また)イノセントな白痴・チュルパンちゃんが(また)無垢な少女・ラストは船で夢の島「ツバル」を目指して出発進行!の二人。 これだけで見に行きたくなる人はいっぱいいるだろうなあ。でも私にとっては悪い予感が全部当たった映画としかいいようがない。70年生まれのポール・トーマス・アンダーソンがあんな骨太なことをやっているのに、どうして68年生まれのこの監督がこんなに地に足のついていない映画を撮るよ! でもチュルパンちゃんがかわいいので許す、といいたいところだけれども、今回は頭も悪けりゃ性格も悪い役で正直イライラさせられました。金魚と共にプールで泳ぐシーンではヌードも披露。肉感的というよりはっきりとおでぶちゃんで驚きました。それでもこんなにチャーミングなんだから、若い婦女子はそうダイエットダイエットとさえずらなくてもよいのでは?それにしてもお団子ヘアにセーラー服とカリーナ・ライクな格好ばかりさせられている。 カラックスの『ポンヌフの恋人』とかが大好き!というあなたには観ることをお勧めしておきます。 パンフレット→プールの施設紹介。叩くとお湯が出てくるシャワーとか、サンルーフ代わりの屋根の割れ目とか。 スーベニール→コートから取ったボタン・「ツバル」の地図 リファランス→『バンカー・パレス・ホテル』
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ていうか、こんなに面白いのにビデオスルーでいいんですか!フランク・オズの監督作品としても上位に挙げられる出来ですよ。やっぱりスティーブ・マーチン才人。スタッフほぼ全員と寝てのし上がっていく、頭がパーなりに生命力が図太い娘をヘザー・グラハムが大好演、『スクリーム』のジェイミー・ケネディがカメラマン役で出演とキャスティングもすごくいいです。明らかにサイエントロジーを模した宗教団体の主催者がテレンス・スタンプ、エディ・マーフィーのマネジャー役が『バニシングポイント』(大好き!)のバリー・ニューマンで『イギリスから来た男』プチリユニオンだし、エディ・マーフィーもいつもの鼻につく「俺が俺が」感がなくて好感が持てました。 衣装が派手で割に鋭いな、と思っていたら『チャーリーズ・エンジェル』の人でした。しかもこの人、オリジナルの『シャフト』の衣装をやっている。要チェック人材かも。 みんなで香港に渡ってカンフー映画を撮るオチには不覚にも涙が‥。エド・ウッドの『怪物の花嫁』でベラ・ルゴシがタコと格闘するシーンにぐっとくる、そんな人には観ることをお勧めしておきます。 パンフレット→「映画が制作されるまでの道のり」を分かりやすく解説。企画→脚本→監督探し→キャスティング→スポンサー探し等の悲喜こもごも話を。 スーベニール→「ちっとも酔わない赤ワイン」 リファランス→『エド・ウッド』(ティム・バートン)『マチネー〜土曜の午後はキッスではじまる』(ジョー・ダンテ)
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南北戦争を背景としたアン・リーの青春ドラマは、テレンス・マリックの『シン・レッド・ライン』への返答のよう。緑したたるといった風情の森のシーンが美しいこと。親友の両親が北軍の焼き討ちにあったことがきっかけで、南部ゲリラ入りした少年の物語で、ディカプリオが希望した主役の座をゲットしたのはトビー・マクガイア。静かな大物感あり。 でもこれ、戦争映画と見せかけて実は美男スター勢揃いのコスプレ映画だったりします。北軍の軍服とコントラストをつけるために、南軍ゲリラの少年たちが着ているのは、フリンジ付きの赤いスウェード・ポンチョに花柄のベスト、水色の繻子のリボンタイなんだもの。汚れているし、ひげ面だけれど。ヒロインのジュエルはどちらかというと肝っ玉おっかあ(童貞のマクガイアを脱がして押し倒すシーンは笑った)なので、美少年好きは大喜びでは。 『バスキア』の時には感心しなかったジェフリー・ライトが今回は事実上準主役で健闘しています。「ご主人様のために南軍で闘う黒人奴隷」というスパイク・リーが切れてしまいそうな役ではありますが。もっと活躍すると思っていたスキート・ウールリッチは序盤であっさり死亡。でもあんまり太っているので、足が腐敗して切り落とさなければならない、というシーンで「糖尿病?」とつっこみを入れたのは私だけではないはず。 でも結果として一番おいしかったのは、ジョナサン・リース・マイヤーズかも。「敵味方なくただ人を殺すのが楽しみな冷酷な美男子」という、木原敏江か名香とも子が描きそうな少女マンガキャラで、一人だけ明らかにシャンプーして髭剃っているし、意味のないアップ抜かれまくり。腰を振って歩くのは『ベルベット・ゴールド・マイン』の役作りではなく、単なるクセであることも判明。鬨をあげるシーンもグラムロック・コンサートで「フーッ!」っていってるようにしか聞こえません。 美男俳優先物買いが命!という人には観ることをお勧めしておきます。 パンフレット→川本三郎が大泣きレビューを載せそうだよね、と思っていたら案の定。 スーベニール→メインキャストたちのやおいマンガ リファランス→『アウトロー』(クリント・イーストウッド)
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第一次世界大戦で傷ついて、行方をくらましていた名ゴルファーに復帰の機会が与えられた。躊躇する彼のもとにある日、どこからともなく黒人のキャディーが現れて、彼にかつての栄光を取り戻させる‥。 というストーリーは当初、ブラッド・ピットとモーガン・フリーマンのために用意されたもの。それをマット・デイモンとウィル・スミスで。うまく行くわきゃないのでした。「神秘的な神からの使い」であるキャディーは、「腰は低いが裏じゃ何を考えているか分からないうすら笑い」を始終浮かべている油断が出来ない人にしか見えないし、マット・デイモンは十年も雲隠れした荒れた男に見えません。彼が去ってからスター・プレイヤーになった対戦相手たちの方がはるかに年上にみえるというのはどういうこと? しかも、十年のブランクをたった二日のトーナメントで埋めて、カンを取り戻して引き分けで優勝しちゃうんだからお手軽です。最後は芝に光でコースが描かれて、ああもう! マット・デイモンにあわせたヒロインのシャーリース・セロンも、勝ち気な南部娘が似合うとはいえ、「十年も私を待たして!」って台詞は、あんた十年前は中学生だろ!とつっこみの嵐。 しかし、普通退屈な映画というものは長く感じるものなのだけれども、この作品のすごいことは二時間強が右から左へ抜けるがごとくあっという間に過ぎていくことだ。露骨に「マジック・アワー」で撮りました」というマイルドな光に、ノスタルジックな南部風俗とゴルフファッション。もう心地いいイージー・リスニングのようなものです。 感動したり、何か考えさせられたり、大笑いしたり、揺さぶられたりすることなく、疲れているんだけど何となく「映画を観る」という行為をしてみたい人にお勧めします。 パンフレット→サンダンス映画祭においてレッドフォードが輩出した才能一覧。トレイ&マットによる『バガー・ヴァンス四コママンガ』 スーベニール→ゴルフボール・チョコ リファランス→『ナチュラル』『ティン・カップ』
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六十年代の香港。同じアパートに二組の夫婦が引っ越してくる。双方の夫と妻が浮気をしていることを知ったトニー・レオンとマギー・チャンは急速に惹かれあっていく‥二人が会うホテルのルーム・ナンバーは「2046」ということで分かるように、キムタク主演の映画でストレスがたまった(推測)ウォン・カーウァイが、同時期逃避のために撮った映画。そしたらびっくりこれがよかった。 ベルトリッチは『恋する惑星』とハーモニー・コリンの『ガンモ』(何か間違っている)を観て、大作ばかり撮っていてはいかん!と思って『シャンドライの恋』を撮ったそうですが、これはウォン・カーウァイからベルトリッチへの回答のような映画です。 許されない恋に落ちる二人の息づかいまでが聞こえるような、濃密な空気感が素晴らしい。カーウァイのような人は「センスのいい頭でっかち」になりがちなので、逆にクラシカルなくらいのプロットで撮った方が映えると思いました。 お馴染みのクリストファー・ドイルは忙しくて今回は半分しかカメラを回していないということだけれど、得意の映像美はバーストしてます。空気に溶ける煙草の煙、緑のライトに紫の壁、とどめは逢い引きの部屋へと続く深紅のカーテンがかかったホテルの廊下を歩いていく赤いトレンチコートのマギー・チャン。 そのマギー・チャンの美しさが今回の目玉といってもいいでしょう。結い上げた髪と折れるような細い肢体、ほとんどチャイニーズ・バービー人形状態であまりに美しいチャイナ服二十着お召し替え(←数えた)。特に白地に紺の薔薇を散らしたものが素晴らしいです。60年代には首を被うほど高かった襟がラスト、小さめのものに変化してファッションの移り変わりで時間の経過が分かるところなんか、ぐっときます。 そして相変わらず音楽の使い方がうまい! ナット・キング・コールが歌う「キサス・キサス・キサス」。思わず中古レコード屋で探しました。 本当に一部の隙もないほど美的で匂い立つような映画なんだけれど、惜しいむらくは、その官能が目で止まること。魂までは届かない。まあ、ウォン・カーウァイは若いのだから、そこのところは今後の課題ということで!(何様)それでも、しとやかな美しい映画を観たい全ての女性にお勧めします。 パンフレット→六十代年当時の香港風俗事情 スーベニール→赤いトレンチコート リファランス→『シャンドライの恋』
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