試写会備忘録

キング・イズ・アライヴ

 アフリカの某所。エメラルド・シティに向かうべくバスに同乗していた11人の男女は狂ったコンパスで道に迷い、砂漠のゴーストタウンに逗留するはめに。助けを待つ間、彼らはシェークスピアの「リア王」を練習するが、その台詞が各人の隠された本性を暴いていく‥。という、「ドグマ95」作品の一つ。

 内容はさておき、この題材が「ドグマ」の手法に似合ったものであったのかどうかははなはだ疑問。というか、「迷って極限状態に陥れられる男女→手持ちカメラ」という手法は既に『ブレアウィッチ・プロジェクト』でやっているので、「ねえ、カメラ持っている人もいるんだよね?」っていうつっこみをかわせられないとしんどい。「よりリアルな感情と映像」を求めた結果、ようするに映画って嘘っぱちなんだよね(←だからそれを前提として面白いもんを撮って欲しいんですよー)ということを思い知らされる結果に。

 というのか、生きるか死ぬかって時に『リア王』演じるってのが、もうリアルじゃないだろ!(「虚無感」がテーマだからということなら、露骨過ぎるって)もっと現実に起こる出来事と戯曲の内容をシンクロさせてスリリングに盛り上げるべき! 一番生命力が強そうなメンバーから先に死んでいくっていう皮肉は効いてて、娯楽映画向けの展開なんだからさ。シェイクスピアを題材とした映画としては『恋のから騒ぎ』の方が上です。

 出演陣の中では、女優的な華やかさを唯一持っているロマーヌ・ボーランジェが何だか浮いてます。そこが彼女のいいところなんだけれどもね。燃えて「ザ・サバイバル」を読んだ人に是非観ることをお勧めします。

パンフレット→砂漠で道に迷った時のサバイバル術

スーベニール→サバイバル・セット(タイヤ、雨水をためる装置、人参のカンヅメ)

リファランス→『そして誰もいなくなった』『電波少年』


ハイ・フィデリティ

 ニック・ホ−ンスビィの人気小説がロンドンからシカゴに舞台を移して映画化。女の子にふられどうしの人生を送る美大中退中古レコード屋店長(←痛い。様々な意味で)が、「大人げない大人」のまま、去っていたエリート弁護士の彼女をいかにゲットバックするのか?という内容を考えると、ラブコメといえなくもないです。

 一昨年のこの小説ブームの時は身の回りにいたたまれない男子続出、だったのですが、どうやら主演兼プロデューサーのジョン・キューザックとその友達もいたたまれなかったらしく、「これって俺たちの話じゃん!」状態で、自分たちの生まれ故郷に舞台を移しちゃったらしい。

 そんな訳で、古いマニアックなソウルが中心だった作中BGMは、本人達の趣味でかなりロッキンなものに変えられています。ブルース・スプリングスティーン(本人)が夢の中に出てきて、「ボビー・ジーン」の歌詞で主人公をなぐさめたり。クラブDJ時代に知り合った彼女との思い出の曲も、よりメジャーなマーヴィン・ゲイの「レッツ・ゲット・イット・オン」に変更。

 それでも充分にやにやさせられる、っていうかやっぱりいたたまれないんだってばさ。段ボールでジャンルがしきってあるレコード棚にスペースの大半を取られている男子の部屋なんて、もう何人も思いつくんだもの。主人公の中古レコ屋は路面店で佇まいとしては吉祥寺の「ジョージ」か三鷹の「パレード」を思い起こさせます。あ、ワールド・ミュージックのコーナーに「トロピカリア」みっけ。

 ジョン・キューザックは大人になり切れてない童顔と、それでもよる年波が顎の線と脇腹当たりにという全体像、若く見せたいんじゃないけれど金もないし結果としてこういう服装という中途半端なファッションで主人公像をきちんと再現。

 というのか、キャメロン・クロウの『セイ・エニシング』の主人公の将来像って、『マルコヴィッチの穴』じゃなくってこっちだと思います。大量のモノローグはカメラに向かってのナレーションでさばき、上手いところを見せますが、雨に濡れては泣いてしまう情けなさはこの年になるとさすがに可愛くない。でも「この年になるとさすがにかわいくない」行動をする男子の話だからね。

 ジョン・キューザックに納得がいかない原作ファンがいたとしても、彼が雇っている二人のバイトを演じる俳優には膝を打つでしょう。私はキャスティング見た時点で、「原作のイメージにぴったりじゃん!」と興奮しました。大人しいディックが、キャメロン・クロウの『ザ・エーエント』でベビー・シッターをやっていたトッド・ルイーゾ、テンションが高いバリーには『ラストサマー2』でヤクの売人をやっていたジャック・ブラック。

 朝、ディックがベル&セバスチャンをかけていると、「何だこりゃあ!クソだぜ!!」と言ってバリーが切ってしまうシーンには、ギタポ・ファンはご容赦を。バリーはその後、エコー&ザ・バニーメンのレア盤を買いに来た客にジザメリの『ハード・キャンディ』押しつけたりしてるんで。

 一方、ディックはグリーン・デイのファンの女の子に、「グリーン・デイはクラッシュと共にこのバンドに影響を受けている」といって、スティッフ・リトル・バンドをかける。するとお客の一人が「ねえ、これグリーン・デイ?」、原作を読んだ人はどのシーンにディテールを書き入れたものか分かるでしょ。

 売りたいレコードをかけて、客が「これ何ですかー」と聞きに来るのを待ったり、可愛い女の子が来るとステレオ・ラブかけちゃったり。レコ屋勤め経験者の皆様、やっぱりいたたまれないと思いません?

 映画のオリジナル・エピソードもなかなか気が利いています。坂本龍一とジグジク・スパトニックとセルジュ・ゲンズブール、そして「宅録ジャーナル」(泣)を万引きしようとして「趣味が悪い」と罵られたスケボー二人組が、ビースティー・ボーイズ並みのテープを作ってきて主人公たちをうならせるところなんか、面白い。

 彼女役のジョリー・カーターがちょっと冷たい感じで、「別れていることに疲れたわ」といって戻ってきてくれる女の子に見えないところが難だけれど、特別出演のジョーン・キューザック(仲がいい姉弟だよねそれにしても)やリリ・テイラー、場違いながら何だか許せてしまうティム・ロビンスがいいので許しましょう。

 ラストにかかるのはラブのバージョンの『マイ・リトル・レッド・ブック』(バカラック!)。歌詞の内容がいかにもこの物語にふさわしい。

 あなたがレコ助ならば、そうでなくても「男の子」だっていうのならば、そしてそういう「男の子」と付き合っている女子だというならば、やっぱり是非とも観ることをお勧めします。

パンフレット→ロンドン&シカゴのレコード・マップ、東京の有名レコ屋店員の失恋アンケートと「失恋した時に聴きたいレコード・ベスト5」(店内価格付き)

スーベニール→編集テープ

リファランス→『中古レコード紳士録』


探偵事務所23/くたばれ悪党ども

 鈴木清順、「Style to Kill」でニュープリント公開される作品の一つ。本郷の日活試写室で観ましたよ!

 暴力団同士の受け渡し現場に現れては上前をはねていくギャング団の潜入調査に、宍戸錠演じる探偵が派遣させられるというストーリーはいつものごとく日活風ですが、身分を偽ってギャング団としてクラブに行くと、彼が借金している踊り子がいてあら大変、しょうがないからごまかすために一緒に歌って踊っちゃいました、というミュージカル・シーンが楽しい。サントラないのかしら。

 宍戸錠はそれにしても華があるのね。火の手が上がる地下室から、マシンガンで道路をぶち抜くなんて荒唐無稽なシーンもいかしてるう。初井言栄の意外なコメディエンヌぶりにも驚かされました。スタイリッシュではあっても中平康とか市川昆とはちょっと文脈が違うような気がするけれども、この際いいか。娯楽映画黄金期の日本映画再発見ブームに乗りたい!と思わなくても、『殺しの烙印』と共に是非観ることをお勧めします。

パンフレット→日活黄金期スタッフ・キャスト案内と相関図

スーベニール→頬にふくませれば錠になれる綿

リファランス→『紅の流れ星』『君も出世ができる』

あの頃ペニー・レインと

 自らも十代の時、「ローリング・ストーン」誌の花形記者だったキャメロン・クロウの半自伝的映画。地元の新聞に掲載された記事がきっかけで、憧れのバンド「スティルウォーター」のツアーに同行取材!という夢なんだけれど実話なんだよ!というお話を、バンドのグルーピーとの初恋を通して描いて大成功。

 ロックは禁制の厳格な家庭(フランシス・マクドーマンドがインテリで肝っ玉母というキャラを好演)から出ていく姉が弟のために残してくレコード、そのコレクションだけでぐっとくるのですが、あれ?68年という設定なのに何故71年発売のジョニ・ミッチェルの『ブルー』が?と思ったら、IMDBのあら探し元ネタ探しは大変なことになっているのね。近過去って時代考証が逆に難しい。みんな思い入れがあるだけに。

 しかしもうね、映画の空気が「少年の憧れ」というフィルターを通してキラキラキラキラしてるんですよ!目映くて目がくらむかというくらい。男の子っていうのは、こんな風に息をつめて世界を見つめているのか!てのかそうじゃなきゃダメだよ!って言いたいね。「君が好きなロック・ミュージックは瀕死の危機に面している。いずれ商業主義にとりこまれて息絶える運命だ」って言われて、「見届ける!」って宣言する意気込み。そういうボーイズライクな心は大事だよね。「こいつ運いいよな」ってやっかむ前に。

 「グルーピーのお姉ちゃんたちに集団で童貞食われてしまう」というエピソードも、よく考えると相当えぐい初体験ではあるのだけれど、もう夢みたいに描いてますからね。「サファイア」という源氏名(でいいのよね?)のフェイルーザ・バルクは彼女のフィルモグラフィーで一番美しく撮られているし、アンナ・パキンが白いベビー・ドールでくるくると光の中で踊るようにロッカーたちから逃げる様は妖精か天使みたいだし。とどめがツアー・バスでみんなで「タイニー・ダンサー」大合唱。もう泣く。

 ケイト・ハドソンは伝説のグルーピーにしてはクリーン過ぎ。きれいで、甘くて、柔らかくて、いい匂いがしそうで。もう、少年の夢。輝いてます。世慣れた女性ではなくて、小さな男の子の初恋の対象になる年上の従姉妹みたいなちょっと年長の少女。自分がビールのケースと引き替えに別のバンドに「売られた」ことを知って、「どの銘柄?」と答えるシーンや、捨てられているのを知ってもニューヨークまでついてきてしまう時の泣き笑いの顔は、ワイルダー映画のシャーリー・マックレーンを思い起こさせます、てのか狙っているんだけれど。

 当初、サラ・ポリーがキャスティングされていたということだけれど、彼女のクールビューティーぶりじゃあこの良さは出なかったでしょう。

 同じく当初ブラッド・ピットの予定だった少年の憧れのギタリスト役はビリー・クラダップ。ケイト・ハドソンと彼が恋に落ちるのを少年が見つめるシーンが素晴らしくいいです。ちなみに彼のガール・フレンドのイヤな女を演じるのは『鬼教師ミセス・ティングル』でケイティ・ホームズをネチネチ苛めていた優等生のリズ・スターバーで、笑えます。あと、ケヴィン・スミス組のジェイソン・リー、ちゃんと七十年代ロッカーに見えるところがえらい。

 そして、少年のアドバイサー的な役で出てくるフィリップ・シーモア・ホフマン相変わらずうまい!デブというレンジの中で様々な役を使い分ける彼にリスペクト。「憧れと罪悪感が人を偉大な芸術家にするんだ」という言葉には泣けました。いいですか。「憧れと罪悪感」ですよ。「コンプレックス」じゃなくて

 でもこれは、「ロックも、そしてロック・ジャーナリズムも若かった頃」だったからこそ実現したファンタジー。そのムーヴメントに自分を託して一緒に育っていこうとした十五歳の気持ちは、私も似たような経験の持ち主なんでちょこっと分かります。

 だから「きれいごと」だなんて、とてもじゃないけれど言えない。ロックはもっと汚いものだ? セックスとドラッグとエゴでどんづまりの世界だったはずだ? 自慢話をしやがって? 確かに「憧れの大人の世界を垣間見て、その汚さに失望して成長する少年の話」を描いた方が、逆の意味で手堅くはあります。でも、あえてそうしないところに、この映画の新しさがある。どんどん世界がひろがっていく高揚感、幸福感。それに比べれば「苦い現実」なんてものは大した意味を持たない。ということが分かっているキャメロン・クロウは大人なんだな、と思いました。

 そんなわけで、やさぐれているあなたにこそ是非観ることをお勧めいたします。

パンフレット→試写で一緒になったピーター・バラカンの大泣きレビューと、モデルになったアーティスト一覧

スーベニール→「スティル・ウォーター」が表紙のローリング・ストーン誌。

リファランス→というか、私も観たいです『Ladies and Gentlemen, the Fabulous Stains』ルー・アドラーが監督で15歳のダイアン・レインがバンドのおっかけ!

偶然の恋人

 たまたま飛行機チケットを譲った相手がそのまま事故死、罪の意識に苛まれてその未亡人に会いに行くも、恋に落ちてしまったところから何も言えなくなって‥というメロドラマを、別れたのか元サヤなのか分からなくてイライラさせられるグウィネス・パルトロワ&ベン・アフレックで、という企画。

 監督のドン・ルースは、日本ではビデオスルーだったクリスティーナ・リッチ主演作『熟れた果実』を撮った人ですが、もし私が「90年代映画ベスト10」を選出しろといわれたら間違いなく挙げるであろう傑作なので、是非観て欲しいですね。リッチは『バッファロー66』より断然こっちですよ。

 この映画については『プレミア日本版』の四月号でレビューを書いていて、わりと言いたいことはそこで言ってしまった感じなのでよかったらそちらを読んで下さい。

 付け加えることがあるとしたら、『ラスト・サマー』ではジョグの主人公たちに犯人と疑われたあげく何の罪もないのに真犯人に殺され、『熟れた果実』ではリッチの使いっぱしりでマーチン・ドノヴァンに乳首ピアスねじりあげられるオカマだったジョニー・ガレッキが、相変わらずイヤーなパーソナリティのゲイの秘書の役で登場、場をさらいます。貫禄が出てきたね。

 主演二人の衣装がアルマーニなんで、スタイルブック代わりに映画を観たいという人にお勧めします。

パンフレット→主演二人の衣装のアイテム価格表

スーベニール→飛行機事故キャンペーンCMビデオ

リファランス→『予期せぬ出来事』

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