試写会備忘録

ミート・ザ・ペアレンツ

 この映画についてはプレミア五月号でレビューを書いているので、それの繰り返し&補足になるけれど、やっぱりきちんと書いときます。

 恋人と共に彼女の両親のもとに訪れて、娘をいつまでも自分のものだと思っている強面の父親にどうにか気に入ってもらおうと孤軍奮闘・最終的には本当の自分をさらけ出して真心でプロポーズ許可をもぎ取るっていうプロットは、いわゆる心温まる「パラマウント調」で着地点はハッピーエンドと決まっています。だからこそ逆に、今やるならばその着地点を観客に忘れさせるような冒険をしないといけない。

 監督のジェイ・ローチは『オースティン・パワーズ』シリーズでお馴染みですが、あのシリーズの面白さはあくまで元ネタが分かる「パロディ」のものでした。同じ手を今回使うのは簡単ですが、あえて別の道を選んで、作品的にも興行的にも大成功を収めたところが本作の重要なところです。

 主人公の男を迎え撃つ父親がロバート・デ・ニーロで、盗聴・盗撮・自白強要のプロフェッショナルの元CIA要員という設定は、一見「冒険」に当たるように見せかけて、デ・ニーロが既に『アナライズ・ミー』でセルフ・パロディ的なコメディをものにしているところから考えると実は安全ネットです。じゃ、本作の「冒険」とは一体何だったのか。

 一つは、主役にベン・スティラーを起用したことではないかと。

 本人のトレード・マークである「不器用そうな佇まい」一発で、ベン・スティラーは実にさりげなくシュールなシチュエーションをこなして、親近感という意味で驚くような効果を発揮しました。下ネタに動物虐待(あ、ファレリー兄弟と一緒だ)、果ては火事にいたるまで失敗が発展していって、ウェルメイド・コメディとしてはメータが振り切れてしまっても、観客は決して取り残されることがないどころか、足場を外されたことにも気がつかないし、膨れ上がった事態を収拾するオチが「看護士をしている冴えない男に見えて、実は医師試験にも合格しているインテリ」、という割と都合のいい話であっても許せてしまうのです。

 あらかじめ提示されている「ルール」を忘れさせて、その「ルール」でしめるまでの過不足のなさとイヤミのなさ、ウェルメイドコメディ特有のゆるい空気のなさ、そういったものは特筆に値すると思います。でも、ただ見る分にはそんなことは考えないで、ただ笑えばいい。『ミート・ザ・ペアレンツ』がいいのは、「新しさ」をそうと意識させないところにあるのです。

 ベン・スティラーが引っ張ってきたと思われるオーウェン・ウィルソンや、『アウトサイド・プロヴィデンス』『最終絶叫計画』の役を踏まえて登場するジョン・アブラハムといったキャストが、この映画の「ナウ」なものにしているのはいうまでもありません。

 そんな訳で、是非観ることをお勧めします。

パンフレット→ベン・スティラー周辺のスタッフ&キャスト相関図

スーベニール→嘘発見器

リファランス→『花嫁の父』

隣のヒットマン

 悪妻とその母に人生を乗っ取られて「もうイヤこんな生活!」とくさっていた歯科医の隣家に、「じゃ、どんな生活がいいのー?」とばかりに伝説の殺し屋がお引っ越し。それなりに仲良くなるものの、妻にそそのかされて歯科医はマフィアに彼の居所を密告しにいくはめに。ところが、そこで出会った殺し屋の女房に一目惚れして‥というコメディ。

 伏線はきちんと収拾されていくし、テンポはそれなりに快調だし、悪くないですよコレ。「『フレンズ』のチャンドラーが出ている映画」としては充分に及第点の出来。マシュー・ペリーは映画スターの輝きこそないものの、テレビコメディアンの才覚で一時間半きっちり引っ張ります。ブルース・ウィルスの「伝説の暗殺者」ぶりもこのランクの映画なら別に文句をつける必要がないし。

 ウィルスのクール・ビューティー妻を演じるナターシャ・ヘストリッジも、歯科医助手で殺し屋志願のぶっとび娘のアマンダ・ピートも、安くはあるけれど映画のサイズに合わせてきちんと機能しています。アマンダ・ピートはジェイソン・ビッグスをたぶらかして結婚する役を演じる次作の『Saving silverman』に期待。

 驚いたのは汚れの役をやるロザンナ・アークウェット。マシュー・ペリーを苛めるわ、彼を殺して保険金を奪うために殺し屋の上にまたがるわで、あんた、『ベイビー・イッツ・ユー』のカワイコちゃんぶりはどこに行ってしまったんですか!相変わらずナイスバディでルックスもそう衰えていないというのに、これに『バッファロー66』じゃ悲しすぎますよ。お父さんも草葉の陰で泣いているはず。弟妹は健闘しているんだから、どこかで持ち直して欲しいですね。

 でもきっとこの映画、水島裕の吹き替えで観た方が更に楽しいんだろうなー。ハッピーエンドにジャズのスタンダード、そんな風に手堅く週末の夜を決めたいあなたに是非とも観ることをお勧めします。

パンフレット→「フレンズ」メンバーの感想座談会

スーベニール→チューリップの花束、牡蠣料理

リファランス→『アナライズ・ミー』

ハロー、ヘミングウェイ

 革命前夜のキューバ、貧しい環境に育ち、母と共に叔父さん家族の家に間借りする十七歳のラリータは、隣の豪邸に住むヘミングウェイを密かに尊敬していた。夢はアメリカに留学することだが、きちんとした身元証明人がいないとヴィザが発行してもらえない。学校では恵まれた階級のボーイフレンドが学生運動を始め、ラリータに参加を呼びかける。学生運動に参加すると留学が取り消しになる彼女は悩むが‥。

 キューバにも「ハウスお子さま劇場」のような良質少女小説文化があるのだなーと、前半は割と面白く見られました。つぎが当たったブラウスの襟を立ててこっそり隠すところや、向学心に燃えるところなんて好感が持てるじゃないですか。しかし、「少女とヘミングウェイ」って何か食い合わせが悪いんですよ。「少年とヘミングウェイ」ならいざ知らず。ラリータが感情移入するのが「老人と海」って何かおかしくないか?

 しかも、このタイトルから当然身元引受人を頼みに行ったヘミングウェイと邂逅するのだろうと思っていたら、ヘミングウェイは肝心な時にアフリカ旅行行ってて、最後までヒロインと絡まないじゃないですか!夢やぶれたヒロインを唐突に突き放して映画終わるし! 私が九歳だったら、「おばあちゃんが形見のイヤリングまで売って、留学資金を援助したのに!」って泣くよ。

 私ならアメリカ行きが潰えても、ヘミングウェイに名台詞の一つでも言わせて、ラリータを別の希望に導くのに。そう、やはり最後はゲリラの女兵士だろう、この場合!「アメリカナイズされていた頃のキューバ風俗」の貴重な歴史を知りたい人に、是非観ることをお勧めします。

パンフレット→キューバとヘミングウェイの文学史

スーベニール→スペイン語版「老人と海」

リファランス→『足ながおじさん』

チキン・ラン

 「毎日、毎日、私達は養鶏場で卵を生まされていやになっちゃうよ。ある朝、養鶏場のおばさんがチキンパイ製造器を仕入れて命からがら空に逃げ出したのさ」‥といきたいところだけれど、空を飛べないメンドリたちの脱走活劇。サーカスから「空飛ぶオンドリ」がやってきて、飛び方を教えてくれることになったけれど、様子がヘンよ。てのか、これって恋かしら。という、ニック・パークのハリウッド進出作。

 うわー!取りあえずキャラが史上最高にかっわいくなーい!!グッズが売れないことは火を見るよりも明らかです。しかし、よく考えれば「ウォレスとグルミット」のウォレスだってかわいくないわけで、この好感の持てなさは何も造作だけに由来するものでもないのでしょう。

 今回の敗因は、吹き替えの俳優達に喋らせ過ぎたことにあるのではないかと。以前の魅力であった動きのニュアンスは影をひそめ、台詞でのやりとりに重きを置いたところから、ただ「イギリスのおばはん達が総勢で出てきてぺちゃくちゃぺちゃくちゃやる映画」を見せられているような気分に。雌鳥ってばばくさいしね。

 「空飛ぶオンドリ」メル・ギブソンと主人公雌鳥の恋も、何だかブスとブ男で昼メロやっているみたいでかったるくって。脇役のネズミも魅力がないし、ヒールの養鶏場女主人もキャラが今ひとつたってないし。

 何だか悪いところばかりをあげつらったけれど、そうはいってもクレイでこれだけの活劇をやり通した能力は素晴らしいと思うし、『大脱走』のパロディを織り込むエスプリにはにやにやさせられます。充分大人の目に耐えうる春休みファミリー映画ではあるでしょう。お子さんと一緒に是非観ることをお勧めいたします。

パンフレット→養鶏場のいちにち〜たまごが私たちのてもとにとどくまで

スーベニール→芽キャベツ

リファランス→『大脱走』

ベーゼ・モア

 この映画についてはプレミアの六月号にレビューを載せているので、くわしいことはそちら参照なのですが、「アタシたち二人なら無敵イクとこまでいくわ」というアオリや、「その過激な内容ゆえ、わずか一週間でフランス本国では上映禁止! ゴダールらが抗議運動!」というニュース、殺戮と行きずりのセックスを繰り返す少女二人の逃避行!原作日本タイトルは「バカな奴らは皆殺し」と来れば、エロとバイオレンスに満ちた無軌道痛快アクション!ファッキンでストリートでドライな映画を思うかべるじゃないですか、普通。

 何だか『大人は分かってくれない』みたいな話なんで拍子抜けしましたよ。海見て泣くし(←お約束)。衝動的に殺してしまった兄貴の死体にそっと口づけるシーンなんか叙情的でティーンの時に見たらうっかり感動してしまいそうでした。

 『バルスース』がオッケーで、この映画に大騒ぎするフランスという国のガイドラインは今ひとつはっきりしないと思いました。日本では本物の母乳がしゅーしゅー吹き出る映画が普通に公開されるっていうのにねえ。というわけで、寂しい不良少女の気分に浸りたい人に是非とも見ることをお勧めします。

パンフレット→上映禁止顛末記

スーベニール→ウォッカの小瓶

リファランス→『テルマ&ルイーズ』『憎しみ』

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