試写会備忘録
バスキア主演の幻のフィルムが発見されて初上映。中身はいかにもアートシーン・インサイダーが仲間を集めて作った素人っぽい、半ばドキュメンタリーのおとぎ話なんだけれど、これ最高。私がティーン・エイジャーの時に憧れたニューヨークの全てがここに!って感じ。 タキシード・ムーンの演奏シーンがあるだけで、涙で曇って画面が見えません!!中学時代のお小遣いを搾り取られたバンドをこんな形で見れるとは! プラスチックスの面々はまだフレッシュ!D.O.Aのアート・リンゼイ若い! キッド・クレオール&ココナッツのライブさいこう!ジェームス・ホワイトかっこいいいい!というだけで、終わってしまうあまりに幸せな一時間二十分。 バスキアはチャーミングで、ジェフリー・ライトというよりはウィル・スミスによく似ていました。彼はストリート出身ではあるけれども、実は上流階級のボンなのでそれも納得ですか。選ばれた人の持つキラキラキラキラした輝きもまぶしい。街の詩人、と呼んでみても照れずにすむ存在。 しかしバスキアのこの映画の出演の条件が「ウォーホールに紹介してもらう」ことだっとか、ここから『ワイルド・スタイル』への流れとか、いちいち重要だよな、と思いました。ある意味エポック。全ての八十年代育ち、そしてただかっこいいものが好きな街の子供たちに是非とも観ることをお勧めします。 パンフレット→80年代ニューヨーク・アートシーン人脈図 スーベニール→スプレー缶 リファランス→『ワイルド・スタイル』
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『不思議の国のアリス』等でお馴染み、緒川たまき先生も大好きなチェコのアート系アニメ大家。日本未公開の短編を集めたもので、私が観たのはBプログラムの方でした。 →ハムスター(本物。つぶらな瞳)をめぐって殺し合うパンチとジュディのほのぼの殺戮マペット →風刺アニメ →骸骨アートクラフト。案内人のおばちゃんのゲキが恐い社会科見学 →泥とか土塊が主役のゴシック悲劇 →運動とルネッサンス →操りオペラ 駆け足で各短編の感想をいうとこんな感じ。すごく面白かったけれど、カット割りが暴力的に細かいのでかなり目に負担が来ます。こわかわいいでは片づけられない世界を体験するために、是非観ることをお勧めします。 パンフレット→チェコのアート・アニメ事情 スーベニール→パペット リファランス→『ペンヤメンタ学院』 |
ボルチモアに舞台挨拶に来たハリウッド女優を誘拐したセシル・B達が率いる映画製作集団が、自分たちの映画『狂える美女』の撮影のために、メジャー・スタジオやシネコンを襲って大騒ぎをする「映画制作という名の悲喜劇」。 ああー、この映画ちょっと残念なんですよ。観た直後は評価が高かったのに、時間がたてばたつほどアラが目立ってくる。だってプロット的にはパトリシア・ハースト・ミーツ・チャールズ・マンソン!って感じで私が嫌いなはずがない。スティーブ・ドーフとかアリシア・ウィットといった他の映画では不発弾になりがちな若手俳優もはまっていたしね。 しかし「スター俳優を本人の意思とは無関係に自分たちの映画に主演させてゲリラ的に撮影強行」って話としては、はっきりいって『ビッグ・ムーヴィー』の方が上です。セシル・Bの集団は結果として映画が残らないで、ゲリラ活動のみで終わってしまうんだもの。まあ、そこのところの不燃焼気味な浅はかさがマンソンっぽくていいといえばそれまでですが。 でもきっと「日本で売れている三大映画雑誌」の中では一番『映画秘宝』が好き、って人たちは燃えるよー。セシル・B達の集団がシネコン襲った後、文部省推薦映画が好きなおばさま達の攻撃に遭うと、カンフー映画特集やっている二番館に逃げ込んで、「アクション映画ファン、助けてくれ!」ってボンクラ達と闘うんだもの!襲う撮影現場は『フォレスト・ガンプ2』だしな!でも、『フリント・ストーン2』襲うのは納得いかない。あれのラスト十分って素晴らしいMGMミュージカルへのオマージュで、本当ならジョン・ウォーターズ好きなはずだもの! ハーモニー・コリン誉めたりして最近彼、嗅覚が鈍ってるんじゃないかと不満。私はみんながいうほどには『I love ペッカー』がいいと思えなくて、この監督はゆるやかに疲弊していってるんじゃないかと思ったけれど、この映画においてもスケールのサイズダウンには歯止めがかからなかったように思います。主演女優のメラニー・グリフィスに、『シリアル・ママ』のキャサリン・ターナーのような狂気がなかったのは残念。 それでも暴力シーンと音楽にカタルシスはあるし、「ウォーターズ、スパイク・リー嫌いじゃないんだー」というちょっと意外な発見もあったし、セシル・Bに洗脳された息子を取り戻そうと「ママのところに戻ってらっしゃーい!」とアナウンスで呼びかけるのはパトリシア・ハーストというおいしいシーンもあるのでよしとするか。そんな訳で秘宝な皆様、是非観ることをお勧めします。 パンフレット→セシル・Bたちが襲撃した先を×印で示したボルチモア地図。 スーベニール→「ファズビンダー」「アルモドバル」「スパイク・リー」「ペキンパー」「オットー・プレミンジャー」等、各種入れ墨シール リファランス→『ビッグ・ムーヴィー』
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夢破れた人々が集うロスの「ミリオン・ダラー・ホテル」。ホテルで急死を遂げた住人の一人が大富豪の息子だったため、FBIの手が内部にのびる。そんな中、無垢な精神障害者(またかよ!)のトムトムは、文学好きな裸足の娼婦(うわわわ)エロイーズと急激に惹かれ合っていくが、住人の死に絡む謎が二人の愛に悲しい結末を用意していた‥。原案はU2のボノ。 私、この映画については何も語る資格がありません。多分二十分くらい、きっちり気絶しました。だからきっと、その二十分間の間に素晴らしいシークエンスだとか、この映画の要になるような何かがあったのだと推測するばかりです。だって、ヴェンダーズが「今まで撮った中で一番好きな映画だ」って言ってるくらいだからねええええ、アルツって四十代から始まるって本当かしら。 前回が私にブタ泣きさせた『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』で今回がこれ。「ジャーマン・ニュー・シネマ三羽烏」(他二名はヘルツオークとファズビンダー)で最も才能がある男といわれた人の末路がこれ。ハーモニー・コリンごときに騙されているヘルツオークを情けないといえば情けないが、ボノに騙されたヴェンダーズには言葉もない。 つか、何なんですかこの地に足がついてない感じは!急死した住人(やたらと謎めいて描かれているけれど、何のことはないティム・ロスね。あ、言っちゃった)の絵でぼろ儲けしようとする住人たちを演じる俳優には芸達者がラインナップされているのに、揃いも揃ってひどい演技を披露。ようするに、俳優の力というのは演出に負うところが大きいのだな。あの『アルマゲドン』でさえも好演したピーター・ストーメアや、私のアイドル、『ハロルドとモード』のバット・コートまでも‥。バット・コートは『ファントム・オブ・パラダイス』のポール・ウィリアムズそっくりになっていて、驚いた。 メル・ギブソン演じるFBIの捜査官が、かつて背中から足が一本生えていた奇形児だったってのは、何かのメタファーなのかねえ。いや、違うな。ボノが適当に思いついただけだな。 ハル・ウィルナーがプロデュースした「ミリオンダラー・ホテル・バンド」(イエン・タウン・バンドと同じ発想だというところが、もう、ね)名義の音楽も、ブライアン・イーノやビル・フリゼールがバックを務めていようと、ボーカルがボノでボノの曲歌っているんじゃどうしようもない。 でもね、きっといい映画なんですよ、試写室で隣の女の子泣いていたもの。私も泣いたけれど、あくびのついでだった。寝てしまっては何も言えない。そんな訳で、私が観損ねた「空白の二十分間」を観るために、観ることをお勧めします。 パンフレット→「ミリオンダラー・ホテル」宿泊案内 スーベニール→白いハイヒール リファランス→『スワロウテイル』
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古き良き時代のフランスのとある小さな村。北風が強いある日、娘を連れて一人の不思議な女性が現れる。彼女が作り出すチョコレートの魅力に村人たちは夢中になるが、敬虔なカソリック教徒で禁欲を唱える伯爵は彼女を危険人物として追放しようと策を練っていた。 図式的には、「ある能力を分配するのではなく一方的に他者に供給する余所者スペシャリティ=ヒーラーVS.コミュニティ」という今日的な興味深いテーマではありますが、ハレストレム、今回はかなり他人事です。この人は「自分の運命を受け入れるべく苦難に耐え忍ぶ少年」を描かせれば天下一品ですが、話の主軸が女性に変わるとダメみたい。みんながなかったことにしているジュリア・ロバーツ主演『愛と呼ばれるもの』という駄作もあるしね。 マジョリティからはじかれてしまうマイノリティはコミュニティを作ると、ある種の人々を差別することで足場を固めようとする→その結果、マイノリティにも帰属出来ないスペシャルな人々がはじかれてしまう→最も蔑まれる者とは最も聖なる者である、というお話をかなり真面目に作って今ひとつ不発だったのが『もののけ姫』だったんだと思うけれど、恐らくは原作のファンタジーの意図もそういうところにあったんだと思います。 この問題については『マレーナ』のレビューでもう少しくわしく書くつもりだけれども、テーマがテーマなだけに観客を告発することになりかねないせいか、スペシャリティを排斥しようとするコミュニティの描き方が甘いこと著しいのね。排斥の中心人物である伯爵をコメディ・リリーフにして、放火等の事実犯をアル中暴力夫のピーター・ストーメアに押しつけて追放してしまうところなんか、納得いかない。 扱われている問題が「官能」であるが故に、この問題はもう少し根深いはずなのに。「官能」に関しては、「寛容」で受け入れる、ということでみんな本当に納得するのか。本当は「官能」ってもっと恐れられているんじゃないか。「官能」を守るためには、もっと熾烈な闘争を必要とするんじゃないか。でも、それをまともに描いたら「ファンタジー」という枠に収まらないことは目に見えている。でも、尚かつそれを「ファンタジー」として成功させないと意味がないんじゃないかと思いました。多くの民話が見事な着地点を見つけるように。 しかし、一番の失敗は主演がジュリエット・ビノシェってことです。メキシコのヒーラーの血を受け継ぐ官能の使者に見えないんだもの。ビノシェって「隠微」ではあるかもしれないけれど、「官能的」ではないでしょう。他の女性よりも自由な女であることの象徴として、真っ赤なハイヒールをいつも履いているのだけれども、ずっしりとしたお尻とパンパンに張ったふくらはぎが映る後ろ姿のショットなんか、靴の気持ちになって「助けテー!」と心で叫びました。 腕を振り上げて怒るゼスチャーなんて、完璧にラテン女のものなんだから、この役はペネロペ・クルスにやらせるべきでした。ペネロペなら六歳くらいの女の子がいる未婚の母でも不自然じゃないし、かなり若い時期に子供を一人で産んだということで、村の人々の衝撃も容易に納得できる。ビノシェじゃただの未亡人ですよ。 脇役では神父を演じたヒュー・オコナーが気になりました。『マイ・レフト・フット』のダニエル・デイ・ルイスの子役時代、『グレアム・ヤング毒殺日記』から連なる腺病質で湿った感じは、映画全体のトーンを暗く引っ張るほど。ジュディ・デンチの孫を演じる男の子も似たようなゴス好き英国少年で、フランスが舞台なのにイギリスの話のようでした。『ポネット』の女の子はすくすくと美少女に成長していました。危うげない。 そうはいっても美しい風景とおいしそうなお菓子を目で堪能できる愛らしい童話には違いないので、観ることをお勧めします。 パンフレット→チョコレートの歴史と種類解説 スーベニール→ボン・ボン・オー・ショコラ、チリパウダー入りのホットショコラ リファランス→『赤い薔薇ソースの伝説』
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