試写会備忘録
昨年サンダンスでグランプリを獲得した日系女性監督の作品。トラッシュ家庭の女子高生がボクシングに魅せられて、選手になるまでを描く‥はずなのだけれども、主人公が「ボクシングに魅せられる」シーンなしで唐突にやりたがる、というところに代表されるような、「確かに新鮮ではあるのだろうけれど、お話作りからしてプロのレベルに達していないのでは?」といった疑問が残る作品。 下層に位置する人の生活感とストリート感覚、ちょっと目先が変わった題材。そんなものにばかりに目をとられて賞を上げるのはどうかと思いますが。 学校での疎外感とか、「団地の階段でレイプされる心配がない階級に上がりたい」という思いとか、父親の暴力が原因で自殺してしまった母親のこととか、「自分の世界」を築こうとすると離れていく友達とか、彼女が「精神的にも肉体的にも強くなりたい」と思う核心をかすめては通り過ぎてしまうため、映画そのものに芯が通っていない印象を受けます。 スパニッシュ・ギターをサントラとして使用するという新しさを見せながら、ファイティング・シーンの撮り方がもたもたしていて、躍動感がないのも残念。ボクシングって普通に撮ればそれだけで絵になりそうなスポーツなのに。『レイジング・ブル』とかは本当に偉大だったということか。でも絵に関する感性や技術って、新人監督から年々抜け落ちていってる気がして、危機感おぼえます。 恋人と試合をするはめになるラストも納得がいかなーい。(またこの男が全然ボクサーにみえないし)やっぱりここはめちゃめちゃハード・ボイルドに、かつて愛した男をマットに埋めて孤独にネクスト・ステージに旅立つべきでしょう。何で最後に監督の「お姫様願望」が吹き出すよ。「そうまでして自分の世界なんか持ちたくない」ってことか。 それでも主演のミシェル・ロドリゲスの不敵な面構えと三白眼、存在感はさすがにフレッシュで観る価値があります。いそうでいなかったタイプである彼女にちょっとおんぶし過ぎたかも。ライジング・スターが登場する時の、ばちっと閃光を放つ瞬間が見たい!と思う人には、是非観ることをお勧めします。 パンフレット→女性ボクサー列伝 スーベニール→映画のロゴが入ったボクシング・パンツ、アディダス提供 リファランス→『ロッキー』 |
ジュエルにメロメロになった男たちの言うことにゃ、バーテン「酒場で男に絡まれているところを拾ってやったはいいが、盗みはするし殺人はするし、その全て俺のせいにするひっどい女・ただしセックスはさいこう」、弁護士「いつも売春婦みたいな格好をしている挑発的なクライアントっていうか、SMプレイの女王様っていうか」、刑事「まるで天使。あの暴力的なバーテンの夫から俺が救ってやらねば!」 持ち家願望が強い、流れ者の小悪魔・ジュエルが目を付けたのは、バーテンの家の方だった。バーテンは家を取り戻すべく、殺し屋にジュエル殺害を依頼するのだが‥というコメディ。 悪くないけれど、エロエロな姿で洗車してくれたり、スケスケの格好で悩殺してくれる・でも実は料理上手で家庭的だったりするホワイト・トラッシュの男たちの夢を具現化したようなジュエルが、リヴ・タイラーでいいのか!てのか、肝心なシーンに限って、スティーブ・タイラーそっくりの顔になるんですよ‥。 そんな訳で「そんなことくらいでは引いたりしない!」という勇気のある男子に観ることをお勧めします。 パンフレット→ジュエルの「ぼろ屋をキャムプな館にする方法」HOW TO リフォーム スーベニール→小さな家が入ったスノー・ドーム、金色のショルダー・バック、クリニークの『ハッピー』 リファランス→『女房の殺し方教えます』 |
ミッシェルは今ひとつ人生に恵まれていない中年男。ヒス状態の妻とうるさい娘三人と子離れしていない親が近くに住む別荘に行く道すがら、「高校時代の友人」と名乗るハリーという男に出会う。 ガールフレンドと共に別荘に押し掛けてきたハリーは、勝手に車を買ってくれるわ、頼みもしないのに親類縁者を殺してくれるわと大活躍。で、あなたは一体何者?俺の心の暗部?でも実は一番恐いのは「普通の生活」を維持しようとする心だったりして、というサイコ・サスペンス。 他者を通して自己実現をはかろうとする心理というのは決して他人事ではなく、親子・兄弟・友達、あるいはスターとファンの間で繰り返されるバリエーションではあるけれど、今回は「ほぼ他人」「相手はルックス的にはともかく経済的には恵まれている」という二点で新しいのね。ショック演出がほとんどなく、静かに撮っている点は好感が持てます。 ただ、浸食されている側の狂気をもっと視覚的に表現できたとは思う。主人公がキレる原因のひとつである勝手に親にピンクに塗られたキッチュなバスルームは、ただそこで主人公が小説を書くだけではなくもっと利用するべき。ハリーもじわじわと「いい人に見えて実はエキセントリック」というディテールが欲しい。 今回はあんまり出番がなかったけれど、『倦怠』の体当たりヌードで一躍有名になったソフィー・ギルマン、かなりいいですね!いそうでいなかった21世紀のベルナデット・ラフォンって感じで。危険な野性味と田舎娘的な大らかさが同居するタイプ、ジャン・ルノワールなら上手く使ったと思う。 そんな訳で「恋愛中毒」って結構面白かったよね、っていうあなたには是非観ることをお勧めします。 パンフレット→ストーカー心理、その行動の傾向 スーベニール→生卵、真っ赤な四駆 リファランス→『激突!』 |
ボンクラ亭主を抱えて苦労しているウェイトレス、ベティの唯一の慰めはソープ・オペラを見ること。ある日、組織の麻薬を横流ししようとした夫が殺される現場を目撃したことから、ベティの頭のネジはふっとんだ。私はソープ・オペラに出ているお医者さんの恋人の看護婦、彼に会いに行かなくちゃ!、一方、殺し屋たちはベティが乗ってロサンゼルスに行った車に積んである麻薬を探していた。ベティを探す内、殺し屋は彼女に勝手に好感を抱くようになるが‥。 バカっ娘の妄想爆裂大活躍を笑って見ていられるコメディ、だと思ったのに、下手にヒロイン像を掘り下げて好感を抱かせるものだから「ベティ、大丈夫?傷ついたりしない?」と観客はイヤなシチュエーションでハラハラしっぱなし。心臓に悪いです!精神病患者イジメに近いものがあるんだもの! ていねいに撮るのも善し悪しだと思いました、レニー・ゼルウィガーじゃなくてデニス・リチャーズみたいな女優だったらシャレになるのに。 逆に、クリス・ロックとモーガン・フリーマンの親子には感情移入できないという欠点が。血なまぐさい殺人シーンまできっちり見せるものだから、「殺し屋」という職業がファンタジーになんないんですよ。 ただ、モーガン・フリーマンが「ドリス・デイ・タイプ」と口にしたことで、私の中のレニー・ゼルウィガーの立ち位置が明確になったので、それはよかったです。なるほど、美人じゃないけれどオール・アメリカン・スウィート・ハート・タイプなのね。 あなたが身障者イジメの類にそんなに目くじらを立てない人なら、観ることをお勧めします。 パンフレット→アメリカ・ソープオペラ傑作選 スーベニール→看護婦さんの衣装、グレック・キニアの等身大パズル リファランス→『カイロの紫のバラ』『リリー』 |
「私のお家はぐんたいのきちが近くにある、見るからにおせんされた村にあります。家は農家で、弟ははっけつびょうです。 ある日、学校にインド人の女の子がてんこうしてきました。最初はちょっといじわるしちゃったけれど、すぐになかよくなりました。ある日、二人で遊んでいたら、不思議なひかりが弟をつつむのを見ました。私はぜったいにいいことがおきると思ったけれど、お友達は悪いことのまえぶれだといいます。 それから、村はびょうきでかちくがいっぱい死にました。おとうとはびょうきがなおるかもしれないかのうせいが出てきました。あの光はいったいなんだったのでしょう?」 それはね、希望は思ったようなかたちでは立ち現れないけれど、神様はよいこの君たちをいつも見ていますという証なのだよ、というラストで日本の配給会社の人がひねりにひねってひねり出したであろう邦題の意味がやっと分かります。 邦題の意味とタイムリーな口蹄病の話題について知りたい人に、是非観ることをお勧めします。 パンフレット→汚染されていないお肉を扱う都内店ガイド スーベニール→シャクティ リファランス→『リトル・ブッダ』
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