試写会備忘録

恋はハッケヨイ!

 この映画については、『プレミア』の七月号にレビューを寄せているので、くわしくはそちらを見て下さい。

 つけ加えることがあるとしたら、まあ、デブ専の人にとってはパラダイスみたいな映画ではあると思います。デブ女子が二十名近くサウナで裸のままトドのようにまったりしているシーンとかがありますから。そんな訳で、その筋の方は是非とも観ることをお勧めします。

パンフレット→女相撲歴史背景

スーベニール→乳首ペインティング絵はがき

リファランス→『フル・モンティ』『ヘア・スプレー』

ウェディング・プランナー

 結婚式が命!なのに自分は仕事ひと筋で彼氏に恵まれないキャリア・ウーマンのウエディング・プランナーが、思わぬところで王子様とときめき遭遇。でも彼は、自分のクライアントの婚約者だった‥という、手堅いプロットのラブ・コメディ。プロットはよくても脚本がダメ、演出がダメで、主演のジェニファー・ロペスがガラに合わないという三重苦を背負っています。

 ちょっと期待してたんですけれどね。というのも、監督のアラン・シャンクマンっていう人が私にとっては重要人物だから。『ブギー・ナイツ』『普通じゃない』『シーズ・オール・ザット』『タイム・トラベラー』とどめが『フリンストーン2』、全てのダンス・シークエンスが彼の振り付けによるものときたら!はっきり言って名匠ですよ。

 しかし、名脚本家が名監督になるとは限らないように、名振付家が演出もうまいとは限らなかった。その前に脚本家無茶苦茶下手くそ。相手役のマシュー・マコノヒーとケンカしながらロペスが見事にタンゴを踊りこなすところなんかはさすがなんだから、もうちょっとどうにかならなかったのかと思います。

 私なら、二人が最初にデートして、更にラストでも舞台となる「野外クラシック映画上映会」をもっと上手く使うね。劇中の二人と映画内容がシンクロしなくてどうするよ。あと、ロペスが企画した結婚式をバリエーションで五つか六つは見せないと、彼女がやり手であることが伝わらないし、絵的にも面白くない。そして、マコノヒーが婚約者との結婚を直前で取りやめて駆けつけるまでの、相手方の花嫁の心理描写がいくらなんでもぞんざい。ご都合主義的に消えていくことを余儀なくされるキャラとはいえ、彼女が結婚に逡巡する思いは、もうちょっとていねいに描かないと、観客がロペスに感情移入出来なくなります。

 ロペスの相手役の描写にいたっては論外。だいたい、ロペスが「父親に無理矢理幼なじみでも紹介して貰わないと彼氏が出来ない堅物女」に見えないんだもの。プラダのスーツも今ひとつ似合いません。彼女たっての希望で実現した企画ということだけれど、私がプロデューサーで彼女主演作を作るなら、都会派ロマンティック・コメディじゃなくて、『裸足の伯爵夫人』とか『島の女』とか『苦い米』とかをリメイクするね。

 でもそんな土臭い、いかにもラティーナなロペスがハリウッドで堂々と主演を張る位置につけた、という事実は驚嘆に値するとは思います。あの顔!あのスタイル!どう考えても今までのハリウッド・ビューティーからすると規格外。だからこそ、自分に似合う企画で頑張って欲しいもの。

 キャストで健闘していたのは、「おせっかいでおっちょこちょいなアシスタント」というラブコメ・クリシェ・キャラを実に上手にこなしたジュディー・グリア。『ハード・キャンディ』の変身するイジメられっこ、『スリー・キングス』でジョージ・クルーニーとよろしくやって格上レポーターに叱られる新人記者と、着実にステップ・アップしていて、好ましい限り。今回の役を見て、「6年前ならジョーン・キューザックにふられたような役は今後全部彼女にいくな」と思いました。

 無難に話題の映画を一本こなしたい気分の人に、観ることをお勧めします。

パンフレット→どこかの結婚企画会社とタイアップ「我が社の『ウェディング・プランナー』セット」

スーベニール→茶色のものばかりのM&M's

リファランス→『恋は嵐のように』

誘拐犯

 その日暮らしの悪党二人が、精子提供者として訪れた病院で、ふと耳にした大金持ちのための代理母計画。二人は、臨月の代理母であるジュリエット・ルイスを誘拐して、胎児をネタに大金を揺すろうとする。ところが、相手はマネー・ロンダリングで稼いだ裏社会の大物。絶対服従の部下や狡猾な老兵のジェームス・カーンを送り込み、二人を亡き者にして胎児を奪い返そうとする。ところが、ジュリエット・ルイスと人工授精の担当者である医師にはある秘密があった。また、妊娠を嫌がった若妻と手下、更にはジェームス・カーンにも‥それぞれの思惑が絡んで、舞台は安易にメキシコへ。銃撃戦も大変だけれど、衛生状態最低の安ホテルの一室で、血まみれ帝王切開するジュリエット・ルイスの方がもっと大変な!というお話。

 『ユージュアル・サスペクツ』の脚本家が自らメガホンを撮った作品だけれど、もうジャンジャンバリバリジャンジャンバリバリ、パチンコ屋みたいに銃声がうるさくって!余計な暴力シーンが多すぎだし、ひとつひとつのシーンに風情がないこと著しいのね。人物の掘り下げ方がいい加減だから、俳優が誰も力を発揮できない。デル・トロですらも! 私、彼が自分の背後に敵の気配を感じて、振り向きざまに銃をかまえる姿の無様さに笑ったもの。演出がなってないと、こうも違うものかね。

 デル・トロとライアン・フィリップのコンビはゲイの意匠だけど、色気がある撮り方が出来ないからそういったことが妖しく伝わらない。魅力がない敵方の手下も同じで、誰が死のうが知ったこっちゃないという気分になってくる。みんなパーだから死ぬんでしょ。唯一、感情移入を許しそうなジュリエット・ルイスのキャラクターも、ただキャーキャーとうるさいだけで興ざめ。

 監督は、最近流行のいかしたダイアローグ満載のオフビートな感じをわざと外して、シリアスに男のハード・ボイルドを撮ったつもりらしいが、ジョークが分からない人間には「色気」ってものも理解できないのかなあ。

 しかし、世の中にはガンがいっぱい出てくる映画ならオッケー!っていう人もいるので、銃声が大好きなあなたには是非観ることをお勧めします。

パンフレット→がんばってそれでもデル・トロのかっこいいショットをコマ撮りで探して載せて欲しい

スーベニール→なし

リファランス→『ガルシアの首』

マレーナ

・戦争が始まってまもないシチリア。レナート少年は島一番の美女と名高いマレーナに一目で恋をして以来、ストーカーのように彼女を追いかける。やがて戦争未亡人になったマレーナの人生は暗転していくが、為す術もなくやっぱりストーカーをし続ける。

・初恋物語のようにボヤかされているが、圧倒的に美しいということにおいて、本人の意思とはうらはらに小さな村を脅かしてしまう女性の悲劇である

・逆差別の物語は、ただの差別を描くよりもずっと難しい。シリアスに切り込むと、多くの観客が自分が告発されているような気持ちに陥るからだ

・だから、「時代の悲劇」という逃げ道が作れるように時代設定は戦時下になるし、マレーナを狙う男達も、嫉妬に駆り立てられてラストにリンチに及ぶ女達も徹底的に戯画化してコミカルに描かれている

・それでも戦争が終わった時、生活苦のためにドイツ兵に身を売ったマレーナ、そうなるように村人たちが孤立させ追いつめたマレーナを公衆の面前で裸に剥いて髪を刈り、血塗れになるまで女たちが殴りつけるクライマックスは充分に残酷で、予定調和の出来事とはいえジュゼッペ・トルナトーレの映画からすると破調が過ぎる。もともとが彼向きの題材じゃない、手に余っている

・またこれは、民話のバリエーション「自分の力不足のために娘を売り渡してしまう」父親の問題も含んでいる。マレーナの父は耳が不自由で娘の世話になっていながら、耳が不自由であるがために生徒たちがマレーナを貶めるようなことを言っても止めることが出来ず、「不埒な女」という村人の手紙(書かれた言葉)を信じて娘を拒絶する。彼が空襲で死んだ時、マレーナはとうとう最後の砦を失って、娼婦に身を落とす

・村から追放されて終わりと思いきや‥というラストはイタリア的なしぶとさを見せていていいともいえるが、マレーナがもう二度とかつてのような輝きを取り戻せないことを考えると、そこまでスポイルして貶めてからでないとコミュニティに受け入れられなかったという理不尽さが残る

・たださー、モニカ・ベルッチって、いかにも崩れたセクシー美女なんですよ。もっと清楚な女優がこの役を演じた方が、「汚されていく」扇情的なショックさもあってもっと印象的だったのでは?

・モリコーネの音楽もちょっと今回はベタベタだし、少年の性への目覚めの描写はしつこすぎてうんざりするが、それも大らかなトルナトーレ節といえなくもない。イタリア映画が好きな人には観に行くことをお勧めします

スーベニール→「Ma L'amore no」のレコード

リファランス→『ライアンの娘』『愛と哀しみのボレロ』

ギフト

・南部のとある町で起きた令嬢失踪事件。解決に当たるのは夫に死なれて生活苦、三人の子持ちの地元超能力者

・舞台が南部なので、もっと「魔女狩り」要素が強い作品かと思っていたけれど、それほどではなく。それでも、『ショコラ』のようなごまかしがないのはよかった‥のかな?

・超能力を使わなくても、ちっと推理力を働かせれば、誰が犯人かすぐに分かります

・ケイト・ブランシェットはノーブル過ぎて、「占いで生活費を稼ぐご当地ヒーラー」には見えません。ギボアイコさんみたいな人がいいの、本当は。「守護霊は死んだおばあちゃんとペットの犬です」といわれて、「嘘だー!」と言える人は誰もいない。私だって信じるよ

・対して、実際にトレーラー・ハウス暮らしだったというヒラリー・スワンクは、「暴力を振るう亭主から逃げられないくせに、占い師にグジグジと頼りに来るダメなホワイト・トラッシュ妻」にマジで見えます

・キアヌ・リーヴスはホワイト・トラッシュには見えるけれど、「粗野で乱暴者」の男には見えない

・ケイティ・ホームズは健闘しているとは思うけれどミスキャスト。笑うと口元のクセで頬が左に歪むところを受けての、「一見清順実は淫乱」という役なんだろうけれども、『ワンダー・ボーイズ』でマイケル・ダグラスを翻弄する大学の小娘をやった方がずっとガラにあってます。とはいえ、女優生命を抹殺するほどのヌード・シーンではなかったので、とりあえずホッ

・ジョバンニ・リビジーは相変わらず上手だけれど、彼がどうして精神バランスを崩しているのかも、精神病院に入れられたはずなのに、どうして最後ブランシェットを救いに来られたのかも、観客には全然分かるのに、敏感なはずのブランシェットが気がつかないというところのお粗末さがやっぱり目立つ

・特別な能力を持つ者は、それを他人に還元しなければという義務感が働く。けれど、恩恵を受けた人間から逆に憎まれることはあっても、(その能力による恩恵は一方的に供給されたもので、能力そのものの分配はされないから)感謝されることはない。リビジーが傷ついたブランシェットに言うセリフは素朴ながら感動的だけれど、普通に生きている人間からは決して出てこない言葉だと思うとやっぱり複雑

・アメリカの田舎はいろんな意味で恐いところだっぺ、と実感するために見に行くことをお勧めします

スーベニール→占いカード

リファランス→『クルーシブル』

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