試写会備忘録

チェブラーシカ

 ある日、ロシアの青果業者のおじさんが、輸入オレンジの箱を卸したらびっくり仰天。肝心のオレンジは食い荒らされていて、中には「クプーッ」と満足げに腹をさすっている見たこともない動物がいたのです。

 動物園に受け入れを拒否されて電話ボックスで暮らすチェブラーシカは、まるで不法外国人労働者のメタファーのようだけれど、もちろんそんなことはあらゆる角度からみて関係ない。

 しかし、彼の相棒になるのが友達がいない哀愁アコーディオン弾きのワニのおじさんで、二人に絡むのが町一番の嫌われ者の万引きババアだという、はぐれっこトライアングルは確実にコミュニティ絶対の社会主義国家に対するアンチであるはず。なんて本気じゃないけれど、この人形アニメの最大の魅力はやっぱり、ただ世界を全面肯定という人なつっこさではなくて、丁寧でいて簡素、どこかちょっと寂しげなところなのではないかと。

 それにしてもチェブラーシカは可愛い。愛らしい。乙女達に愛されることは必至でしょう。(でも、爆チュー問題の田中にちょっと似ている‥)

 そんな訳で、今年の夏『ぼくらと遊ぼう!』をチェキしている可愛い娘さん達にはもちろん、太鼓判を押して観に行くことをお勧めします(でも、爆チュー問題の田中にちょっと似ている‥)

スーベニール→オレンジ

リファランス→その他の人形アニメ(←あからさまにくわしくない)

王は踊る

・17世紀のフランス。後に「太陽王」の異名をとった若きルイ14世は、政治の実権を母親とその側近に握られた。彼がその支配力を行使できるのは、得意のダンスと音楽の世界のみ。そしてルイ14世のダンスを音楽によって輝かせ、無償の愛を捧げる音楽家がリュリだった。

・初めて見る宮廷バレエの男性的な力強さは印象的。派手やかな衣装をつけ、足を鳴らし、見栄を切る。トウで立ち、重さを感じさせず空気のようにたゆたう後のロマンティック・バレエとはまったく違う魅力。「権力」を顕示するのに相応しい踊りという感が。

・反逆児であるルイ14世に仕えるモリエールとリュリが、宮廷においてはアウトサイダーであって、本当の権力を手に入れたルイ14世にすげなく捨てられる、という構図は分かりすぎるほど分かるけれど。

・ちょっと戯画的に見えるのは、日本人ゆえの都合のせい。リュリを演じるボリス・テラルがコスチュームと芸風を含めて非常に『アイアイン・シェフ』の鹿賀丈史に似ているため、ルイ14世のブノワ・マジエルが窪塚クンに見えるんですよ。

・でも、こういう絢爛豪華な宮廷劇が好きなタイプのフランス映画好きっているはず。風俗を楽しむために観に行くことをお勧めします

スーベニール→リボン付きの金色のダンスシューズ

リファランス→『アマデウス』

焼け石に水

・愛は残酷。中年男のレオポルドに誘惑されて同棲するようになったフランツは、従属的な存在になった自分からの逃避を試みるべく、自分の力でねじ伏せられるかつての恋人、アナをレオポルドが留守中の部屋に呼びつけて征服する。

・そのまま逃げ出せばいいのに、未練と対抗心とプライドと、その根底にある「自由がきかなくなるくらいの関係性の中で比護を受けていたい」という気持ちの中で、レオポルドの帰りを待つフランツ

・そうこうしている内に、フランツの行く末の姿である、レオポルドのかつての恋人ヴェラが現れる

・そして予定外にレオポルドが早く帰ってきた時、フランツのゲームは終わり、犠牲者を変えて次のゲームが始まる

・ファスビンダーの幻の戯曲をオゾンが映画化!というのは充分トピックスなんだろうけれど、取りあえず脚本そのものが図式で若書きであるように思う

・それをオゾンの傷つき知らずの若さが更に表層的に解釈して、成り立っているような

・例えば、ベルナール・ジロドーが演じる、レオポルドのキャラクターは、ああも絶対者でいいんだろうか?そういうところはちょっと薄っぺら

・恐らくは父親に対する願望が強いフランツには絶対服従に関する性的な憧れがあって、それがレオポルドをより絶対者に見せているのだろうが、彼の造作をあくまでも「敗者の目」からしか表層的に見ていないところ、書き込み不足

・でも、だからこそ悪くない。瑞々しい。胸に迫らない分、ラクにアタマで解釈がきく。分かっていても従属的な存在から逃れられないということを象徴する、窓が開かないラストシーンも。

・そばにいるのに分断されている二人を表す、上手な窓や鏡の小道具の使い方も

・皮肉なお遊びのような場面転換も

・悪い冗談以外の何者でもないマリック・ジディが穿くチロリアン・パンツも

・アナ・トムソンが演じる性転換者のあわれさも

・愛の絶望をまだゲームだと言い切れる不敵さ。絶望に憧れている距離感。若くて青くてある意味胸キュン

・ただ、ファスビンダーだったら、そうも人を陥れる愛の崇高さをもでっかいスケールで描くだろうけれど、「スタイリッシュでタイトな残酷さ」で止まるところが惜しい。愛する人はそこを愛するのかもしれないが

・状況がめんどうになったら、取りあえず踊るんだよ!というミュージカル・シーンとラストのフランソワーズ・アルディの使い方は秀逸。そうそう、ゲイってアルディ好きなんだよね

・文句を言いつつも、私自身は非常に楽しんだので、是非観ることをお勧めします

スーベニール→緑と黒のゲーム板

リファランス→『夏の嵐』

ドクター・ドリトル2

・前作から1年。動物の言葉が分かるドリトル先生は大忙し。ボランティアで動物の治療に当たる他、テレビ出演もこなさなければならないのが現代。原作だったら、絶対に市井のお医者様にとどまるはずなのに、こういうところがイヤーよね。

・それの言い訳のように、今回はお約束の環境保護ネタです。「森の動物たちを守れ!」キャンペーンがうまくいかなかったら、次はストライキという『動物会議』パターン。全体の作りがやたらとコマーシャルなのに、これはいくら何でも白々しいって。

・ついでに、「最近うまくいってなかった思春期の娘とも和解」なんて、都合が良すぎやしない?なんて、言ってはダメなんです。ラクに作っている映画は、こちらもラクに楽しまないと!

・前回のジョー・レグイザモの再登板がないのは寂しいものの、相変わらず動物の声をあてる声優陣は豪華。森存続のキーとなる熊のカップルはビリー・ゼーンとリサ・クードロー、他に嬉しいところでは、アライグマのマイケル・ラパポート、ポッサムのアイザック・ヘイズ、親分ビーバーのリチャード・C・サラフィアン、そして犬のジェイミー・ケネディ

・そんな訳で、お子さまがいらっしゃるなら、『A.I.』よりはこちらを観にいくことをお勧めします

スーベニール→蜂蜜いっぱいの蜂の巣

リファランス→『ドクター・ドリトル』

PLANET OF THE APE 猿の惑星

 プロットに関しては周知の事実の上に、ちょっとでもディテール書き加えるとネタバレに繋がる可能性があるんで書きません。

 うわわわわわわわわ、難しい!難しいよ!だって、ティム・バートンは健闘したと思うもの!でも、もう声が聞こえるようなの!「やっぱ、しょせんオリジナルには敵わないよな」という『猿の惑星』ファンとか、「美人の嫁さんもらって金持ちになって勝ち組に転じてからは、腑抜けた作品ばかり作りやがって、こんな健全なアクション大作を撮るヤツはもうオレらの仲間じゃなねー!」という、従来のファン及び映画秘宝読者とか。事実、試写後は周囲も首をかしげて、「期待し過ぎ‥だったかなあ」という感じ。

 オリジナルの作品の背後にあった、「宗教裁判」「ブラック・パワーの台頭」がない現在、このプロットでバートンがやるとしたら、「腕っぷしのたつ体育会系(猿)に痛めつけられたブレイン(人間)の大逆襲」かしら?と私も勝手に思ってはいました。しかし、「個人の歪みをビックバジェットで体現してしまった作家主義的作品」はこの夏、『A.I.』の方で、「多少大味でもいいから、楽しませてのアドベンチャー」という、『A.I.』に期待したことは、『猿の惑星』で実現したという感じ。

 「舞台が地球じゃないのに何で猿が英語を?」「猿VS.人間の争い、どうやってケリをつける?」という最大の謎については、それこそ猿なみのアタマがあれば、オープニング10分で誰にも分かります。あんまりストレートなので、「まさかそうじゃないよなー」と思ったら、そうだったんで逆にびっくりぎょうてん。衝撃のラストに関しては‥まあ、あれ以上のことは出来なかったんでしょう。でも、5パターンもラスト撮ったというから、DVD発売の際は特典で全部見せろ!と思います。

 それにしても、こうまで大がかりなアクションを撮れるようになったバートンに感動した!アクション映画大作中、これほど(画面が)暗い映画があっただろうか?『スリーピー・ホロウ』で成功した「闇のアクション・シークエンス」を更にダイナミックにしてみせた。ダーク・ブルーの画面が美しい。そういうところ買うべきだと思うの!文化系監督はアタマでっかちで終わることが多いんだから。

 同じく、ヒロインにエステラ・ウォーレン、主役にマーク・ウォルバーグという超体育会系を選んだこともえらかった。凶暴な猿と体張って戦って、二人じゃないとこうはいかなかったよ。ただし、エステラ・ウォーレンは「ただ出ているだけ」という印象が強かったんで、バートンはもっとサービスに徹して「乳をユサユサ」「水に濡れた肢体でウォルバーグに迫る」等のスポーツ・イラストレイテッド的カットを入れるべきだった。

 主役がウォルバーグなのには、更に必然性が。チンパンジーのヘレナ・ボナム・カーターが一目惚れする役なので、「猿から見てイケてる」男じゃないとダメなのね。

 そのヘレナ・ボナム・カーター、「保守の家庭に育った反動的なレベラルの美しいお嬢様」という、従来の彼女のイメージにぴったりな役ででした。チンパンジーだということを除けば!

 猿側の俳優としては他に、ヘレナお嬢様に加担する執事を演じたケリー・ヒロユキ・タガワがおいしく、私のひいきのポール・ジアマッティが「日和見主義者の浪花商人」というジアマッティにやって欲しい!という役で素晴らしいコメディ・リリーフぶりを見せます。それと、ペリクリーズ。超かわいい。ボトルキャップ欲しいっす。

 それにしても、猿こわいよ。マイケル・クラーク・ダンカンのゴリラが、空から飛びかかってくるんだよ!普通の人間、そりゃ死にます。

 美女二人(内一人はチンパンジー)にモテモテだったのに、それを振り切ったばかりにバチが当たるイイ男の話だと思えば、きっと従来のバートン・ファンも納得するはず。

 夏休み超大作の中では、それでもやっぱり群を抜いて面白い映画のはずだと思うので、どうしたって観に行くことをお勧めします。

スーベニール→角砂糖

リファランス→『猿の惑星』

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