試写会備忘録

ゴシップ

 グレタ・ガルボの当たり役である『クリスチナ女王』のハリウッドでのリメイクに当たって、ヒロイン候補にスウェーデンの9人の有名女優たちが選ばれた。キャストが決定するまでの彼女たちのめまぐるしい二十四時間。果たしてヒロインを射止めるのは誰?

 この映画については『プレミア』の9月号にレビューを書いているので、概要はそちらを見て下さると有り難いです。

 でも、オープニングから続く10分くらいは、「今年のベスト5入り確実かも!」って思った。終わった時の感想はちょっと違うものになったけれど、ようするに私はキャラ立ちする女どもがピーチクパーチクやる映画って、割と弱いんだということが判明。ヒロイン候補の内の二名が朝のワイドショーに出てて、一人がインタビュアーにブチ切れて退場、もう一人がとんでもない歌を歌い出した時の、テレビ見ている側の候補女優たちの反応なんて、さいこうだったもの。電話で「ねえねえ、今テレビつけてよ!」「何あれ、バッカみたいー、あははは」みたいな。

 しかも、そのピーチクパーチクっやるのが、みんな四十代だってのがすごいよね。日本でこんなに四十代女優が大挙して出ている映画って、「極道の妻」シリーズくらいだよ。戸田恵子とか江波杏子しか出ていなくて、一番若いのが山口智子って感じ。ハリウッドでやるとしても、全員三十代にとどめるでしょう。みんな、シワもあればしっかり体型も崩れていて、スウェーデンってやっぱ「成熟していなければ美しくない」っていい意味で旧ヨーロッパ然としたところがあるんだなと感心。

 最後まで「さいこう!」といかなかったのには、色々理由があるけれど、シリアスじゃないけれど重要な要素としてはラストのパーティー・シーン、カメラひいてみんなのドレス見せてえええ!!って思った。みんな女優で華やかで、中にはトンデモな衣装の人もいるんだから、さ。

 見知らぬ女優ばかりでキャラが混合しやすいよいう話なので、一応解説+ハリウッド・リメイクの際の候補。

 アレクサンドラ→自分サイドからのみ見た家庭の幸せもキャリアもくまなく確保するために(家族の)迷惑もかえりみない人。米ならジュリアン・ムーア。

 エイヴォル→よせばいいのに無茶なチャレンジをして周囲に迷惑をかけるタイプ。収拾は他人がつけるものと信じている。米ならヘレナ・ボナム・カーター。

 セシリア→ 強気なくせにもろいことを売り物にして男子から同情を集めるちゃっかり者。米ならミッシェル・ファイファー。

 カーリン→受け身の分だけ、被害を最小限にとどめることを知っているわりと卑怯な面あり。米ならアンジー・マクダウェル。

 ゲオルギーナ→狙いからズレたとっぴなことをやって、影で笑われるタイプ。女のマザコン。米ならパーカー・ポージィ。

 ステッラ→一見きれいどころ・実は男っぽい性格のレズビアン。米ならサンドラ・ブロック。

 レベッカ→苦労知らずに見せるためにこそっと苦労するカマトト優等生。米ならメグ・ライアン。

 モリー→ボーイッシュでおばさん役を厭わない。「エピソード1」のアナキン・ママとしても有名。米ならシガニー・ウィーバー。

 イット→中年クライシスで若い男に走り泥沼。実は一番きれいに老ける顔。米ならグレン・クローズ。

 女子の側から見ても、男子から見ても「どっかで見たような女ども!」「ねえねえあれって○○に似てない?」というような人物たちばかりなので、是非観に行くことをお勧めします。

スーベニール→ビーズ刺繍のバック

リファランス→『グループ』

ヴィクトール 小さな恋人

 家を飛び出したヴィクトール少年が行き着いた先は夜の遊園地。係員が片思いしている「心に傷を負った娼婦」が彼を預かることになるが‥この映画については、『プレミア』9月号にレビューを書いているので、くわしいことはそちらを参照して下さい。

 赤いダッフルコートにリュックカバンのヴィクトールはうっとりするほどかわいく、雪降る夜の移動遊園地はひどく美しく、ラストに大きなりんごを運ぶおもちゃの車が映るラストはファンタスティック。だから、話が少々甘ったれていても許して上げなくてはいけないのかもしれないけれど、やっぱり、ヴィクトールの家出の理由に納得がいかないの。

 父と母がベッドにいるところを見たら、小さな子供はそりゃあショックだろうし、多少なりともSMがかったプレイなら余計。でも、この両親は愛し合っているんでしょ?ヴィクトールのことも愛しているんだよね?だったら、自分が救われたいからという理由で子供を誘拐しちゃダメじゃん!

 それでも、子供と二人の日々の幸せな空気感はよく出ているので、最近心が荒んでいるというあなたには観ることをお勧めします。

スーベニール→バナナ・フランベ

リファランス→『都会のアリス』

・もうすぐ調理されてしまう深海魚(おいしくなさそう)が語り始める「世にも美しい物語」とは

・男と遊んでて誰の子か今ひとつ分からない赤ん坊を中絶、事業の才覚がなくて資金援助は打ち切り、挙げ句の果てには酔っぱらい運転で人をひき殺してしまう勝手な女の子が、かなり強引に救われるお話でしたとさ。

・オープニングから、中絶した胎児を火葬する場面に明るく「グッド・モーニング・スター・シャイン」が流れるという嫌がらせのような演出だが、それがえんえんと続く。新しい、というよりは拗くれているというか、奇妙というか、私には今ひとつ魅力が分からないというか、行き当たりばったりって絵を撮ってません?っていうか。

・水が流れていくシーンも、ブルーを基調とした画面も、「マイナス・イオンの癒し」というよりも、寒くてジメジメしていて、カナダってイヤだなあと思いました。

・でも「人生はやり直しがきくんだわ!」(贖罪もしないで)という無理ポジティブ・シンキングな物語を必要としている人には‥いいのかなあ。でもきっと私は寒い試写室で観たからそう思うのであって、暑くってやってられん!という人には、いい納涼映画になるはずなので、涼しい気持ちになりたい人には観に行くことをお勧めします。

スーベニール→シーフード料理

リファランス→『ラン・ローラ・ラン』

キシュ島の物語

 イラン唯一の観光スポット、キシュ島を舞台に三人の気鋭監督があくまでそれぞれのスタイルで撮ったオムニバス映画。船から流れてくる色鮮やかな物欲の権化である段ボールに妻が心狂わされるタグヴァイ編。出稼ぎ青年が婚約した妹の贈り物のために働く様をフォトジェニックにとらえたジャリリ編。老人が扉ひとつで砂漠をさまようシュールなマフマラボフ編

 こんな映画を作らせるなんて、イランの観光局って素敵なところねと素朴につぶやきたいところだけれど、ふーん、欧米知識人層及び日本人向けとしては、これ以上ないほどあざとく出来てるのね!というのが感想。むしろ、青い海でリゾート気分満喫、素敵な出会いがあらここに風の映画だったら好感もてたかも。

 そうはいってもタグファイはところどころヘンな展開がスパークするし、ジャリリは泣けるし、マフマラボフはメーター振り切れてる。と思うのが普通。だからこんなひねくれた心の持ち主の意見など無視して、観に行くことをお勧めします。

スーベニール→木製ドア

リファランス→『カオス・シチリア物語』

蝶の舌

 スペイン内戦直前の少年の幸せな日々と尊敬していた先生が共産党員として石を投げられて町を追われる残酷な歴史の側面を描くこの映画は、きっと私が小学生だったら本当は『猿の惑星』や『ジュラシック・パーク。』が観たいのに聞き入れられず両親が連れていったであろうことは容易に想像がつく映画で、最後に少年が「蝶の舌!」と叫んで先生に「本当は愛してる」ということを伝えるラストシーンも、先生がそれを理解したという表情が示されないので、大人になった私は少年が叫んだ顔のアップで終わることの効果を理解はするけれど、小学生だった私は「先生はわからなかったかもしれない、聞こえなかったかもしれない、みんなに理解されなかったと思って獄中で死ぬのかもしれない」と思って眠れなくなったに違いなく、あまりに悲しいのでうっかり父親になぜ先生はあんな目に遭わなければならなかったのと聞いてしまい、少年のお父さんもやはり党員なのにお母さんが党員証を焼いてしまい、保身のために子供達に石を投げさせたことを捉えて、名目上はフェミニストだけれども同世代の大部分の男性がそうであるように結局は名目上だけである父が「女ってのはそういうものなんだ」とこれまたうっかりなことを言い、それを聞いていた母が「あなた!それは女性に対する根深い侮蔑の気持ちが生んだ発言だわ!」と本質的に怒って、後に離婚することになる二人の根本にある問題点が浮上するやっかいでシリアスなケンカに発展し、私は自分で見に行きたいと言ったのではないにも関わらず「私が映画に行きたいなんて言ったからこんなことになったんだ、ごめんなさい、もう映画に行きたいなんて言いません」と見当違いに自分を責めたであろうし、そんなことは決してしたくないのにこの映画の真摯な感想文を誰もやらない夏休みの自由課題として書いて提出することを父母は私の当然の義務として、そんなことをしたらこの作文を一ノ瀬先生が読み上げて、またみんなから「山ちゃん(当時あだ名)は真面目だから」と言われちゃうんだろうなあと憂鬱な気持ちに陥り、もちろんその通りに展開は進み、夏休み明けの友達が『猿の惑星』キャップボトルのコレクションの自慢しあいをやってる中、ペプシなんておいしくないし、おまけが欲しくて飲みもしない炭酸飲料を買い込むなんてバカみたいだと言われて一つも持ってない私は、いいなあ『猿の惑星』と人知れずため息をついただろうというようなことを思い起こさせました。

 そんな訳で夏休みに自由課題が出ている小中学生の皆様、去年なら『太陽は僕の瞳』、今年なら『蝶の舌』です。観に行くことをお勧めします。

スーベニール→顕微鏡

リファランス→『エル・スール』

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