Soul part1


FOR THE FIRST TIME / STEPHANIE MILLS

 バカラックがハル・デビットと組んで最後に作ったのは、モータウンの女性歌手のアルバム。

 後にキャロル・ベイヤー・セイガーと組んで聞かせるAOR路線と、60年代の全盛期のラインが重なっているあたりが興味深いです。時代が時代なので、ところどころディスコに色気を出しているところもあり。ソングライティングの腕が落ちる直前の輝きがあります。 夜の本牧向き。



YOUNG,GIFTED AND BLACK/ARETHA FRANKLIN(ATLANTIC)

 アレサのバカラックというと、『ARETHA NOW!』に収められた迫力の『小さな願い』があまりにも有名ですが、他にもちょこちょこカバーしています。この72年の盤で取り上げているのは、『幸せはパリで』。

 チャック・レイニーのベースもシャープで素晴らしいが、それ以上にこのバージョンですごいのは、厚いゴージャスなストリング・アレンジとコーラス。トム・ダウトとスィート・インスピレーションかと思ったら、この曲は違う様子。

 フルートと鐘の音も入って、かなりフリーソウル色が強いです。もちろんアレサの歌は最高。よくこの曲にシャウトどころを見つけたという感じです










THE SWEET INSPIRATIONS (Atlantic)

 アレサ・フランクリン等の60年代後半アトランティックの主要レコードで、かならずと言っていいほどバックを務めている名門ソウル女子コーラス・グループの初のリーダー作。「アルフィー」を取り上げています。

 これを含む彼女たちのバカラック・カバーは、EAST WEST JAPANのバカラックコンピュレーションCDで全部聞けるので、興味のある人はチェックを。

 ゴスペル出身らしいコーラスから、メインがぐいぐいひっぱってテンポアップさせていく出だしにまず心奪われます。プロデューサーのトム・ダウト天才。

 相性の良さは保証付き。なぜって、メインでボーカルを取るシシー・ヒューストンはディオンヌ・ワーウィックの従兄弟。ホイットニー・ヒューストンのお母さんです。

 ちなみにディオンヌの妹、ディーディー・ワーウィックもアトランティックに在籍していたことがあるソウル歌手ですが(私はマーキュリー盤しか持っていない)、ここは一族全員同じ声なので有名です。











THE DELLS SINGS DIONNE WARWICKE'S GREAT HIT(Cadet)

 恐らくソウル・ファンに最も受けがよくないデルズの盤といったら、紹介した今回のレコードを含むカデット期のものでしょう。まあ仕方のない話です。

 カデットといったらチャールズ・ステップニーです。彼のプロデュースするアルバムは、ことごとく流麗を通り越しトゥー・マッチな感さえあるゴージャスなストリングにすっぽり包まれ、ゲイが好みそうなカバー曲目が並び、ステップニー主義とでも呼びたいような独特の美学に貫かれた「ステップニーのレコード」になってしまうのですから。(EW&Fはちょっと違うが)

 そんな訳でカデット在籍時はデルズも「恋は水色」なんかやらされているのですが、この盤は「ディオンヌのヒット曲集」。ようするに全曲バカラック・カバー。このプロデューサーでなければあり得ない企画です。

 ソウル・コーラス・グループらしく、バリトンがフェイクしたメロディーを歌い、遅れてコーラスが本来の主旋律でおっかけるという基本スタイル。バリトンが「俺節」を飛ばしすぎて、同名同歌詞異曲になってしまった「恋よ、さようなら」が圧巻です。ゴージャスな「ディス・ガイ」は、今年の非クリスマス的クリスマスソング・テープに入れたいと思っています。



NEVER TOO MUCH/LUTHER VANDROSS(EPIC SONY)

 ブラコンが最もストリートから遠かった時代の名盤。ラストの7分以上に渡る『ハウス・イズ・ノット・ア・ホーム』が圧巻。しかし、黒い人達は、バカラックのソウル色が強い曲よりも、甘々のバラードを好んで取り上げるように思います。

 ヴァンデラスはためたりささやいたり、ビヴラートをきかせたりフェイクして声を伸ばしたりして、「女心をとろかすクラブ歌手」歌唱をあますことなく発揮。いちゃいちゃ用バカラック最右翼といったところ。






ON MY OWN/Patti La belle and Michael Mcdonald (MCA)

 わりと無視されがちなバカラック80sワークですが、この曲は私のような80年代育ちには嬉しい初期のJ-WAVEクラシクス。

 全盛期のように拍子やコードがめまぐるしく変わらない代わりに、ゆったりとしたリズムでシンセに乗るメロディが美しい。静かな水面を走る船のような、ロマンティック・バラード。

 この曲のムーディさに拍車をかけるのは、この頃は相手が男だろうと女だろうとデュエットのためにほいほい呼ばれて出てきた「二重唱王」マイケル・マクドナルドの甘い歌声。

 パティ・ラベルはこの曲が収められたアルバムでもう1曲バカラックを歌っています。それもブラコン・バラードの手堅い佳作。







THE GREAT ADVENTURE OF SLICK RICK (Def Jam)

 おや、スリックリックがバカラックなんかやっていたっけ? タイトルクレジットにそれらしき曲がないぞ、と思っているあなた。名曲「モナリザ」の中で彼は、ワンフレーズまるまる裏声で「ウォーク・オン・バイ」を歌っているんです。

 なんでかっていうと、普通ラップの男どもは「俺ってモテモテ」みたいな歌詞を歌いがちなんですけど、スリックリックはそこのところをもう一ひねりして、スリックリックに憧れているモナリザちゃんという女の子を設定して、彼女の心情を歌い込むという凝った演劇的なシチュエーションを創り出しているのです。彼に声をかけられないモナリザちゃんが心の中で歌うのが、「ウォーク・オン・バイ」という訳。

 最近ではメリー・J・フライジが、アール・クルーの演奏による「エイプリル・フールズ」をアルバム曲でサンプリングしていたりするけど、ヒップホップのバカラック・カバーがもっと作られてしかるべきだと思う今日この頃。





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