【ミカト】やあっ! たぁっ!
木剣同士のぶつかる乾いた音が森の中に響く。
ぼくは今日も森の中でレラに剣を教わっていた。
自分でいうのも何だけど、最近は剣の腕前があがっていることが分かるようになってきている。
最初はシクルゥの突進をよけるだけだった。それがうまく出来るようになると、レラがマキリ(小刀)に似せた木剣を渡してくれたんだ。
素振りから始まって、慣れてくるとレラが構える木剣にぼくが木剣で打ち込んだり、逆にレラが打ち込んでくるのを受け止めたりする練習をやった。
打ち込みも初めの頃はレラにはじき返されていた。でも最近ではそんなこともなくなってきている。
自分が少しずつだけど強くなっていくことがうれしい。少しずつナコルルを守る強さを身につけている…そんな手応えがうれしい。
…もちろんナコルルに練習を秘密にしている罪悪感はあるけど。
【レラ】そこまで。
【ミカト】はぁっ、はぁっ…
【レラ】だいぶ打ち込みも強くなってきたわね。次の段階に移るわ。
【ミカト】本当!?
【レラ】ええ、ついてらっしゃい。
レラはそういうと森の中へと歩き始めた。ぼくもレラを見失わないよう、後をついていった。
【レラ】戦いで…一番大事なことはなんだと思う?
レラは歩きながら、ぼくに尋ねてきた。
【ミカト】え…?
いきなりの問いかけに、ぼくはとまどってしまった。
【ミカト】え、えっと…
しばらく考えた後、ぼくは小さな声で答えてみた。あまり自信がなかったから。
【ミカト】防御…かな。
【レラ】どうしてそう思うの?
【ミカト】だって敵の攻撃を受けたら、ぼくなんかすぐやられちゃいそうだし…。
剣の稽古の途中、何度かレラに木剣で打たれたことがある。レラの攻撃を受けきれなかったぼくが悪いんだけど…すごく痛かった。もし、あれが本物の刀だったら…考えるだけで身震いがする。
【レラ】そうね、その考え方は正しいわ。
【ミカト】え…あってるの?
【レラ】ええ。でもそれだけでは足りないわ。
【ミカト】……
【レラ】守っているだけではだめ。守るべき時、攻めるべき時を見極めて、自分の動きや立っている位置も考えに入れた「戦い方」が大切。
【ミカト】戦い方…。
【レラ】うまい戦い方をすれば、自分を上回る力を持った相手にも勝つことができるわ。
【ミカト】本当?!
【レラ】本当よ。相手が鎧女でも豚忍者でもね…フフフ。
前を歩いているレラは下を向いて小さく笑い出した。
…怖いよ、レラ。
で…でも、もし本当にそんな戦い方があるんだったらすごい。ぼくでも熊とか倒せるようになるんだろうか。
【ミカト】教えてください! 一生懸命覚えますから!
【レラ】あわてる必要はないわ。今あなたに教えるためにここへ来たんだから。
【ミカト】え?
茂みをを抜けると、ぼくたちの目の前に見上げるほど高い崖が現れた。山が崩れたような崖はまっすぐにそびえ立ち、見ていると上から崖が覆い被さってくるような気分がしてくる。
【レラ】崖の前に立ちなさい。
【ミカト】あ、はい。
ぼくはおそるおそる崖の前に立ち、レラの方へと向き直った。後ろから岩なんて落ちてこない…よね?
【レラ】今から言う通りにしなさい。そうすればあなたでも強い相手と互角に戦えるわ。
【ミカト】はいっ。
よし、がんばるぞ。
【レラ】まず、しゃがみなさい。
ぼくはできるだけ素早くその場にしゃがんだ。
【レラ】そしてひたすら防御を固めて…
そういうとレラはいきなり木剣を打ち込んできた。ぼくは木剣を構えてレラの打ち込みを受け止めた。レラは何度も打ち込んできたけど、防御をするだけだったらなんとかなる。
【レラ】焦った相手が大技を出してきたときに、その隙をついて…打つ!
レラは話をしながら大きく振りかぶった。これが…隙だっ!
【ミカト】やぁっ!
ぼくはレラの足下をめがけて木剣を横薙ぎに振り払った!
木剣が風を斬った。レラは小さく後ろに飛んで、僕の渾身の打ち込みをかわしていた。
【レラ】…やるじゃない。素質があるかもしれないわ。
【ミカト】本当?
めずらしくレラにほめられた。
【レラ】これが「待ち」よ。
【ミカト】「待ち」…
確かにこの戦い方は理にかなっているような気がする。これならぼくでも…
こんな戦い方を考え出すレラって本当にすごい。
と、その時…!!
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