シャモ

 「覇王丸さーん!」

 本州の北から海を越えた所に広がる広大な土地・アイヌモシリ(北海道)。そのさらに山深く入った、カムイコタンと言う村のはずれで彼女…ナコルルは「覇王丸」とか名乗る和人の剣士に追いついた。
 3日前、この剣士は村に来るなりナコルルとの勝負を所望してきた。「カムイコタンには強い剣士がいる」と言う噂を聞き、「強い奴と戦いたい」それだけの理由でここまで来たらしい。しかし、自然のために戦っているナコルルは当然そんな私闘を受けるはずもなく、勝負の申し込みを断り続けた。3日後、さすがに根負けしたのか、覇王丸は帰り支度を始めた。そのまま放っておけば良かったのだが、ナコルルには、覇王丸がこの村に来た時からどうしても聞きたかった事があったのだ。

 「和人ってみんなあんな髪型してるのかな?」

 ナコルルが気になってしょうがなかったのは覇王丸の髪型であった。実はナコルルは殆ど和人を見たことがなく、父から和の国の言葉は習っていたものの、本物の和人を近くで目の当たりにするのはこれが始めてであった。その中で一番目を引いたのが、松の枝から広がる葉のようなざんばらの髪であり、和の国にあんなのがたくさんいるかと思うと少し怖かった。確かめておきたい。
 追いついたナコルルに、覇王丸はうれしそうに答えた。

 「おう!勝負を受けてくれる気になったかい?」

 覇王丸の頭の中には勝負のことしかないらしい。

 「いえ、そうじゃないんです。帰る前に一つ聞きたいことがあって。」
 「聞きたいこと?」
 「だめですか?」

 ナコルルは顔を伏しがちに上目使いで訪ねる。覇王丸からの勝負の申し込みは断ったのに自分の興味半分の事を聞いてしまう、ちょっとした後ろめたさがあった。

 「いや、別に構わないぜ。何だ?」

 覇王丸は断られた事についてあまり気にしていないようだ。ナコルルの顔に安堵の色が戻った。

 「よかった。実は、シャモ(和人)の事なんですけど…」
 「シャモかぁ。最近喰ってないなぁ。」








 「え?」

 ナコルルの顔がこわばる。

 「…た、食べるんですか?」
 「みんな喰ってるぞ」

 完全に言葉を失う。

 「特に、もも肉が絶品でなぁ。」

 顔から血の気が引く。

 「塩なんかパラパラっと振ってかぶりつくとこれがまた酒に合うんだ!あ、いかん、よだれが。」

 あとずさる。

 「で?なんでそんな事…あれ?」

 覇王丸が我に返って振り向くと、そこにはもうナコルルの影も形もなかった。

 「力説しすぎたから、あきれて帰っちまったのかな?でも、鶏の中じゃ軍鶏(シャモ)は一番うまいんだがなぁ。あの脂ののり具合といい…」


 本州の北から海を越えた所に広がる広大な土地・アイヌモシリ。そのさらに山深くはいったカムイコタンと言う村に向かって、橘 右京と言う名の剣士が歩いていた。
 その剣士は、魔界に咲くと言われる究極の花を想い人に捧げるべく、探索の旅をしていた。この先の村に、自然と話をし魔を感じることが出来る巫女がいると聞いたのは3日前。彼女の手を借りる事が出来れば、今まで手がかりすら無かった魔界への入り口を見つけることが出来るかも知れない、そんな希望を胸に彼はここまでやって来た。

 「……もうすぐか…。」

 気が付くと道の先に一人の少女が立ちはだかっている。その少女…ナコルルは戦いの服に身を固めていた。

 「……誰だ?…」
 「その言葉、和の国から来た人ね!」
 「……そうだが…」
 「!やっぱり。アイヌの戦士は私だけ。入り来るなら死あるのみ!!」
 「…私が何を…」
 「食べられてたまるものですか!」
 「…何のこと…」
 「行きます!!」

 ここにアイヌ最強の戦士が誕生した。

(了)






一言
初代サムスピで別のキャラを使っていて、CPUナコルルに当たったときに
 「アイヌの戦士は私だけ。入り来るなら死あるのみ!!」
と言われてしまい、
 「こいつが一体何をしたんだ〜?何か悪いことをしたのか??」
って思いから作った話がこれ。元々は同人誌用の漫画(3ページ)で描いたものですが、使うことなくお蔵入りとなっていたので小説みたいな形で復活させてみました。
それと、
「ナコルルが和人を呼ぶときに『シャモ』なんて蔑称を使う訳ないだろが!」(普通は「シサム」と言うらしい)
と言うつっこみは不許可(ぉぃ。

後日談:
お蔵入りになっていた漫画はナコルル連合発行の同人誌に載せていただき、無事日の目を見ることが出来ました。ありがたや、ありがたや。


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Last Modified: '01/08/08