常夏の国 熱海
熱海の沖合にぽつんと浮かぶ周囲4kmほどの小島。熱海港から船で20分少々で行けるこの島は、江戸時代の天保年間から島内の戸数が一定数に限られ、他所者には土地を売らないという掟がある。限られた土地がさらに細分化しないように、次男三男は島外へでることを宿命づけられていたようだ。
というと古めかしい漁村を想像してしまう。が、そのじつ「初島バケーションランド」なるものがあって椰子が繁りアロエが自生する、妙に明るい南国ムード。
小さい島なのに火山性の土壌の故か、江戸城の石垣用の石切場があり、海辺にも巨岩がゴロゴロしている。港からバケーションランドへの道沿いに食堂兼民宿が並び、観光客から釣客まで幅広い客層が訪れる。
近年、初島クラブというリゾート施設ができた。
・熱海港から20分.船は2時間毎に運行.往復2300円、バケーションランドとのセット券が2600円.電話0557-81-0541.
■初島海洋資料館
初島での見どころというのは、大きな植物園としょぼいゴーカートのある「初島バケーションランド」以外に実はあまりない。初島クラブのテニスコートの類は会員でないと使えないし、初島灯台は非公開だし、縄文人の遺跡である「宮の前遺跡」はどうみてもただの畑だし。そんななかで数少ない見どころのひとつが「初島海洋資料館」だ。港の前の急坂を登りきったところの民家のわきにある、こじんまりとした白い建物である。
この施設は、海洋科学技術センターの臨海実験場が初島に設けられたのを期に、海洋開発への理解を深めてもらおうとつくられた。展示室は一部屋だけ。パネルや模型が中心で、派手さはまったくない。潜水船「しんかい2000」「しんかい6500」の模型や、相模湾深海の生物や岩石の標本が展示されている。
しかし、一見地味だがそのじつ圧巻なのは、初島沖・水深1177mに設置されている深海底総合観測ステーションからの生中継の映像である。深海の海底から湧出するメタンや硫化物だけに依存して生きるシロウリガイの群落。そこからのリアルタイムの映像が資料館のモニターに映しだされる。カニや魚の姿も映ったが、たたずんでいるだけで、身動き一つしない。時々、プランクトンが画面を横切る。水の流れもゆるやかで、深海の時間は地上よりもゆっくりと流れているようだ。
生中継やドキュメントに慣れた目でも、深海からの映像は新鮮に映る。見落としてしまいそうなところだが、もっと知られていてもよい施設だ。
・静岡県熱海市初島字家越104.電話0557-67-1401(初島漁協観光係).10:00〜16:00・毎週火曜日休館・入場無料.