観光地としての歴史を実感させる物件の数々
(温泉街らしい熱海のマンホール)
ただし二代目。もっとも初代云々といっても、お宮のお手植えの松などとというわけではなくて、尾崎紅葉の小説『金色夜叉』の舞台となったことを記念した植樹です。お宮は許婚の貫一のもとを離れ、大金持ちの富沢へと嫁ぐ。裏切られた貫一はそのショックから悪辣な高利貸しになって復讐を誓う(だから「金色」の「夜叉」)。そのあとは、人は死ぬわ火はつけるわで、まるでTBSドラマのような展開になります。貫一が熱海の海岸で、お宮をなじり足蹴にして「1月17日を覚えておけ!」と大見栄を切るのが、前半のクライマックス。というわけで昭和のごくごく末期までは、1月17日といえば大震災などではなく「貫一お宮」と相場が決まっていたのです。「現場」には“女を足蹴にする男”の銅像が立っています。記念撮影をする浴衣姿のおじいちゃんたちが嬉しそう。
・熱海駅から徒歩15分.海岸沿い「つるやホテル」向かい.
かつては昼夜二度、轟音と共に湯を吹き出し、世界三大間欠泉の一つと言われていたものですが、関東大震災と湯の採りすぎで、枯渇。今ではモーターで5分に一度、人工的にやっています。10数年前のガイドブックでは駅前にあるとのことだったのですが、現在はなぜか駅から20分ぐらい離れたホテルの一隅に異動され、寂しく湯を吹き上げています。先日、熱海市はこの間欠泉の大掃除をし、小銭いくばくかと、金魚、なまず、それに熱帯魚などを「回収」したそうです。
・駅から徒歩20分.ニューフジヤホテル角を山側へ入る.
さて歴史に名高い熱海城の向かいに建つのがこれまた世界に名高い「秘宝館」。熱海城にしても秘宝館にしても、そうやすやすとお近づきにはなれません。駅から熱海港行きのバスに乗り、そこから錦が浦ロープウェイを乗り継いで山頂駅まで来てやっと、「秘宝」を拝めるわけであります。
ただし、「秘宝」といいつつ、なぜか英訳は“ATAMI ADULT MUSEUM”。18才未満は入ってはいけません。だから内容を察してください。なかに入ると、英訳を見なかったと察せられる人品いやしからぬ初老のご夫婦がとまどいがちに展示物を…。やはり語学力は大切です。
♪愛を教えてくれる〜生命の神秘を教えてくれる〜熱海〜、熱海〜、熱海秘宝館〜。とスピーカーからテーマソングが延々リフレインしています。マネキンにヘアーがついてます。運が良ければ(?)くじびきでアダルトビデオが当たります。愛と生命の神秘を教えてもらって、入場料+ロープウェイセット券1800円は高いか安いか。
・ロープウェイ山頂駅下車後すぐ.ロープウェイ乗り場は駅からバス15分、熱海後楽園下車.〜17:00.電話0557-83-5572.
ほかにも、全国から「女体観音」ばかりを集めた観音堂(妙智観音)とか、こんなんばっか。グレてますね、この温泉場。しかしこれが昭和30年代の「観光地」のセンスなのです。慰安旅行でくつろぎにきていたオトーサンたちの娯楽なのであります。
この、秘宝館や熱海城のある一帯は「錦が浦」と称して風光明美な海岸線が続き、遊歩道沿いに散策ができます。
かつて…というのはたぶん戦前なんでしょうが、かつてはここは自殺の名所だったのです。そういえば私が小学生のころ読んでいた「朝日小学生新聞」のなかの連載小説(少年探偵団のパクリもの)に、「○○さんが熱海へ行った!」「なに!」「熱海といえば錦が浦!」「あそこは自殺の名所だ!」「たいへんだ!」というスゴク印象的なやりとりがあったのを幼心に覚えております(しかも少年探偵団だけに、このやりとりをしたのは少年です)。作者の年齢が察せられます。それだけ、文化における共通のコードだったんでしょうか、錦が浦って…。
・バス停錦が浦下車、またはロープウェイ山頂駅下車後徒歩15分.
錦が浦の散策は、ホテルニューアカオという断崖絶壁に身を迫り出して建っている高級ホテルの敷地にある遊歩道がおすすめです。宿泊客でなくとも利用できます。←このホテルの裏手に、上の写真のような遊歩道がひろがっています。絶壁に、松林、そしてバックにそびえる高級ホテル、というロケーション、今にも愛川欽也とかがでてきて、「火曜サスペンス劇場・伊豆湯けむり殺人旅行」なんていうのが始まりそうです。
・バス停錦が浦下車、またはロープウェイ山頂駅下車後徒歩15分.