あるカメラマンの独り言
復刻版 No.003
続・燃えるパイロット
(Japanese Text Only)

 


  真紅の機体が白いスモークを吐きながら爆音と共に青空めがげて一直線に駆け上がる。一体どこまで上昇するのだろうと思っていると上空で一瞬静止、今度は真っ逆さまに落下する。あとには鮮やかなスモークの軌跡が残る。

これが荒技「ハンマーヘッド」。機体はアクロパット専用に作られた複葉機ピッツS一2Aスペシャル。この日本に2機しかない本機を縦横無尽に操るのは元テストパイロットで御年60+α歳の大ベテラン、新妻パイロット。御高齢にもかかわらず少しも衰えを見せない操縦テクニックと、機体と同じ真っ赤なスーツに身を包んだその姿は正に“燃えるパイロット”の元祖である。この荒技、空に描くスモークの軌跡がハンマー(金槌)を空に向かって投げ上げた時に戻って来る、そのヘッド(頭部)の軌跡と似ているということから名付けられた。これから各地で色々な基地祭が催される。基地祭のイベントの華であるこの演技は大いに観客を沸かせる事だろう。さて、先日も基地祭でこれを見て来た訳だが、その時、あるヘリコプターパイロットの言葉を思い出した。



ピッツによるハンマーヘッド

  以前、休日出勤中の友人の労をねぎらいに昼食時に某社を訪ねた時の事。「だんな、だんな、良いビデオが手に入ったんですが、いかがですかい?ヘっへっへっ」と秘蔵のテーブを持ち込み4〜5人で真っ昼間からビデオ鑑賞としやれこんだ。持ち込んだのはヘリコプターのアクロバットシーンを納めた珍しいビデオ(誰ですか変な想像をしていたのは?)。

しかしながら皆さん日頃からヘリは仕事で見慣れている訳で、最初は物珍しそうに見ていたのだが昼食後で腹も膨れ、またこの日はボカポカ陽気。皆さんだんだん視線がボーとなって来ていつの間にやらウトウトし出し、遂には幸せそうな顔でオヤスミになられてしまった。

 結局見ているのは本人一人のみ。折角持って来たのにこれじやしようがない、ビデオを停めようと立ち上がった時、ふとその後ろの離れた席から目を輝かせてビデオを観ている年輩の方の存在に気が付いた。胸にウイングマークを付けたその方はこちらへやって来ると親切に色々と解説して下さった。出身は地方のようだが話振りはまるで江戸っ子のようで歯切れが良い。その方を仮にB機長と呼ぶ事にする。(前回と同じ展開になってスミマセン)丁度ビデオの画面は小型双発ヘリコプターが見事な上昇を見せ、機体をひねってターンするシーンであった。と、B機長はこうおっしやった。以下はその時の会話である。

B機長「う一ん。あの機体ならパワーがあるからもっと高高度まで引っ張れる筈だ。皆恐がってあそこで機体をひねっちまうけど、パワーが失くなるギリギリまで我慢して推力がゼロになった時、尻尾(テールの先端部)を支点にして重力に任せて機体を倒してストーンと逆落としにしてやる。こうすると地上から見ていて実に奇麗に決まるんだがねえ。」

S「……‐それってハンマーヘッドじやないですか!?」

-「そう、それそれ。」

S「あれってピッツの技でしょ。固定翼でなくヘリでやるんですか?」

-(無言で)ニコニコ…

 「それとな。もう一つやってみたい事があるんだ。こう飛んでんだろ。
  そのあとこう、クルッと回転、なっ。」

S「ロール(横転)ですか!?」

-「そう。それ!ただねえ。……」

S「ただ?」

-「営業が『それだげは止めてくれ!』って言うもんで……」

S(ほっとして)「じゃ、やらないんですね?l

-「いやあ、アレやらない内は(パイロットを)辞めらんね一よ!」


 いやはや、これから先、一体何人の“燃えるパイロット”殿に出会うのだろうか……(S)



ヘリによるハンマーヘッド

  HELI AND HELIPORT’90/7月号より加筆、修正
 

あるカメラマンの独り言を10倍楽しむために

当エッセイの連載にまつわる裏話や暴露コーナーです。
併せてお読み下さい。


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