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シリーズ No.002 |
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ロス疑惑とヘリコプター | ||
(Japanese Text Only) |
先日TVを見ていたら、非常に懐かしい光景に出くわした。 それは米軍のベルUH-1Dがある病院に着陸するシーンである。 …その瞬間私の頭は十数年前にタイムスリップした。 |
1980年?。私は某大学病院で研究を行っていた。食堂で昼食をとっていた時のこと、隣のテーブルにいた看護婦達が「昨日のヘリコプター、凄かったわねぇ。」と話しているのが聞こえてきた。「何だって!?。昨日ヘリが来たぁ?!」私は全身硬直し、早速調査を開始、以下の情報を得た。 在日米軍のヘリが轟音と共に病院のヘリポートに突如飛来、着陸と同時に患者は救急車に乗せかえられ、大急ぎで病院に運ばれた。それは若い女性で、付き添っていた男性は「妻を返せー!」と泣き叫んでいたという。 何ということか、たまたま非番だった時に限ってヘリが来たとは?!だがこの話にはあとがある。 その後最上階の特別病棟に移された女性には、常に夫が付き添っており、看護婦の間では「献身的な優しい旦那様」という評判が立った。だが・・善良であった筈の夫が実は・・ これがのちにロス疑惑と言われるあの有名な事件の幕開けだとはその時、知る由もなかった。そして十数年の時を経た今、犯人と目された夫が裁判では逆転無罪となるという小説より奇なりなことに発展しようとは・・誰が想像し得たであろう。 しかし、私はこの事件に対し何の興味もないし、何かを論じるつもりもない。 問題はヘリである。私はその時に非番だったことがただただ悔しかったのである。その場にいれば迫力ある着陸が見られたというのに… |
ロス疑惑は当時マスコミの格好の題材であり、事件の経過説明でこのヘリの着陸シーンは度々ブラウン管に登場。これを見る度に悔しい思いをしたものだった。 一種のトラウマ(精神的な後遺症)と言えなくもないか(^^;) そして事件も忘れ去られ、私も忘れていたのに、つい最近のTVの映像は見事に“寝た子”を起こしてくれたのである。 さて、この病院にはヘリポートがある。何と素晴らしいことか。これが私がこの病院関係のゼミを選んだ理由である。 (勿論これだけではない。白衣を着ての研究というのも魅力の一つであった。だが本人はインターンのつもりでも、他人からは床屋の見習いにしか見えなかったようである・・(^^;)) このゼミはエリートコースであった。当然内容は厳しい。皆から「やめろ!後悔するぞ!」と言われたが、「自分で選んだ道だ。決して後悔しない!」と張り切っていたものだった。だが3日目、私は後悔していた… 何とここのヘリポートは屋上ではなく、駐車場と兼用、高いところから見れば、はげかかったペンキでHと読めなくもない。しかもヘリが飛来したのは開院式に1度きり、以降、見かけたことがないという。 こうして「病院に於けるヘリポートの重要性」という卒論テーマの計画はあっという間に崩れ去ったのである・・ 確かにこのゼミは厳しかった。夏休みももらえなかった。 唯一楽しかったのは看護婦さんと(ただの)お友達になれたことであった。 ここの看護婦さんは若い。皆20代、見習いは18才、婦長でさえ35才、と実に恵まれた環境。こうした羊の群れに我々オオカミが放り込まれたのだから無事で済むわけがない。ゼミの同僚はたちまち、さまざまな人種に別れた。 「僅か2週間で同棲する者」。「他の男から『俺の女に手を出すな!』と実習中に胸ぐらをつかまれる者」。「一生懸命貢ぐ者」。「まったく恩恵に預かれない者」。と皆、多種多様な体験をした。私はというと、一番最後の部類なのだが・・ |
そんな中でもう一つ、ヘリコプターに関する笑い話がある。 ある日、同僚が泣きそうな顔で「かぁちゃんが居ないねん!」と騒いでいる。 かぁちゃんとは同棲中の看護婦の彼女のことなのだが、突然病院から居なくなり、家にも帰っていないという。皆で「ふられた!」とか「きっと別の彼氏が出来たんだ!」とかからかったが、本人はションボリ。結局帰ってこなかった。 翌日、失踪理由が分かった。 真相はこうである。小笠原の米軍に急患が発生。急遽看護婦が必要となり緊急要請となった。この病院は厚木(米軍の基地がある)に比較的近く、ここから米軍の使者が(車で)飛んできて、若くて体力のある(技術のあるではない)看護婦の派遣要請が出た。 という訳で“体力のある”彼女に白羽の矢が立ち、本人が「あーれー」と言っている間に車で厚木へ、そこからジェットヘリ(多分バートルではないかと思われる)で目的の島へ連れて行かれた。 彼女の弁によれば「まるで人さらいにあったようだった」という。 |
そんな訳で忽然と姿を消した訳で、彼女としては「ビックリしたけど面白かった」とのことである。しかしおいてかれた彼氏の方はプンプンで、なだめるのに大変であった…。 こうして、ロス疑惑のあの映像は、しばし私をあの懐かしい学生時代に連れていってくれたのである。 1998/8/23 (S) |
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