あるカメラマンの独り言
 シリーズ No.007
ヘリとペンギンのおかしな関係?
(Japanese Text Only)


 例のごとくWebのNEWSを「ヘリコプター」で検索していたら、おかしなものに 突き当たった。・・ペンギンである。

 2000年11月2日付毎日新聞
<ペンギン>飛行機など見上げ転倒。 英軍と生物学者が共同調査へ

 何と「ペンギンは空を飛ぶ飛行機やヘリコプターを見上げているうちに体のバランスを失って転んでしまう」というのである。

これは 英軍パイロットの間で流れている説なのだが・・

 しかし、なぜ、それがニュースになるのか?
一匹、いや一羽くらいこけても・・と思ったら大間違い。
実は集団で生活するペンギンは一羽が転がると、将棋倒しのように群れ全体が 転倒して危険な状態になるというのである。動物保護団体も調査結果に注目している。
この将棋倒しならぬ「ペンギン倒し」は1982年のフォークランド戦争のときに英軍パイロットが初めて確認したという。
  ペンギンは飛行中のヘリなどを捕食者(自分たちを捕まえて食べる敵)と間違えて反応すると考えられ、その動きを目で追う際に首を上げるだけで体を動かさないため、後方にひっくり返ることが多いというのだ。
但し「これは動物を知らない人たちの空想の可能性がある」と否定的な学者も居り、意見は割れている。

  だが英軍は南極に近いサウスジョージア島のペンギン生息地に調査船を派遣、ヘリを使った調査を約1カ月の予定で行う計画という。

 この記事を読んでマンガじゃあるまいし、本当かいな?と思った。
もし私がペンギンだったら年中こけていなければならないところだ。

  フォークランドで英軍となると、機種はSA330ピューマあたりだろうか?
機首にピノキオの鼻のようなレドームでもつけていたら、確かにペンギンからだとそれは嘴に写り、巨大な鳥が襲ってくるように見えるかも知れない・・だからといって果たしてゴロンと転倒するだろうか?

 しかし、まてよ? ここである動物飼育の体験が蘇ってきた。
・・ペンギンではない。カメである。 子供の頃、私はカメを飼っていた。
これが、また慣れていてかわいい奴で、呼ぶと寄ってきて手からエサを食べる のである。
(単に飢えているだけという説もある・・)
エサのシラス干しを指でつまんで鼻先にぶら下げてやると、パクリと食いつく。 ところがカメは近眼である。
焦点が合わず、食いつけないことも多い。 時には水槽の壁に手を掛けて二本足で立とうとし、もっとよく見ようと首を精 一杯伸ばして頭上のエサを目で追いかけている内に後ろにひっくり返ってしま う。
「カメはひっくり返ると起きあがれない」と誤解している人も居るようだが、ちゃんと首をつかって見事に体を返す。子供の頃は起きあがるところを見たくてよくひっくり返したものだ。
(面白いのだが、あまりやるとカメが疲れるので、真似しないように・・)
話がそれたがこの体験があるだけに、ペンギンの場合もそう言われればそうかも・・と思えないこともない。

 

 先日のある取材の際、危険のないよう十分距離をとり、その度に移動していたのだが、何故かヘリが皆こちらめがけて一直線に飛んできて頭上を腹を見せて飛び去って行く。その姿を追うのに首が痛かった。
最後まで追っていたら確かにひっくり返っていただろう。ペンギンの気持ちが分かるような気がする。

  仕事柄(?)ローター音を聞くとどうしても機影を追ってしまう。
(当然音だけで機種の判別はつくのだが・・)
その際、歩きながらではなくなぜか立ち止まって上空を見上げる。
人間、しばらく上を見ているとどうしても口をあけてしまう。
ひっくり返らないまでも、せめて呆けた顔にならぬよう、今後は気をつけようと思う。

  しかし、無言でいる内はまだいい。 珍しい機影を発見した際、つい、声を上げてしまうこともしばしば。
上空を指さし口を開けている姿を見て、周りの人はUFOか何かと思い、空を見 上げるがヘリと分かった途端
「あいつはアホか!」という顔をする。

  更に一人の内はまだいい。
あるヘリ好きな友人は奥さんと一緒に外出した際、これをやってしまった。
周りから白い視線を浴び、「いやー、参ったねぇ」と声を掛けようと、ふと見 ると、
奥さんはすでに遠くに離れ、”他人の振り”をしていたという。 ウチも気をつけねばなるまい・・

 さて、ペンギンと言えば南極。
実は先輩が現在南極観測隊に参加している。
もしかしたら知らずに「ペンギン倒し」をしているかも知れない。
低空を飛ばないよう、昭和基地にメールを出したところ、すぐに返事が返ってきた。
(うっそだぁ!と思うなかれ、衛星経由で文部省のサーバに送られ、ちゃんと届くのである。 そのかわり年賀状は船便なので3ヶ月掛かって届いた)

 それによると、昭和基地からもペンギンのルッカリー( 集団営巣地 ) へ
個体数調査のために 飛行機(真紅のピラタスターボポーター)で行くが、近づいていくと、大体は動かないようだが、一部はエンジン音に驚くのか腹ばいになって滑走した り、急ぎ足で逃げたりするのが上空から見える。

 そういう時はストレスを与えぬように、すぐに現場を離れるようにしている。
よって、ひっくり返るかどうかは判らない。 ということだった。

 ようするにペンギンを驚かすような飛行をしてはいけないということだ。
昭和基地の方々はちゃんとそこらへんを心得ている


 年賀状に押された昭和基地の消印

 中央に昭和基地
 右上にピラタスターボポーター
 右下に雪上車 が描かれている


 ヘリ(や飛行機)がペンギンを傷つけるようなことがあってはならない。
このペンギン転倒説が単なる間違いであることを願うばかりである。

以上、11月2日付毎日新聞の記事を参考にエッセーとしてまとめました。

2000/11/11


 以上と書いたが
ロンドン発2月1日ロイター通信によると、 転倒しないという研究結果が明らかになった。

  環境専門家が5週間にわたり南極での調査を行い、ヘリで上空を飛行した結果、怯えて逃げたり動かなくなるペンギンはいたが、転ぶことはなかったことが判明。
ただ、ペンギンがヘリを視覚的に認知しているのか、聴覚的に認識しているの かどうかは分かっていない。
環境保護団体が心配したペンギンの「ドミノ倒 し」の可能性は小さくなったが、英海軍は調査を続行するという。 続行するというからには、まだこの結果が信用できず、どうしても「ドミノ倒 し」をしたい方がいるのかも知れない。 しかし、まさに「怯えて逃げたり動かなくなるペンギンはいたが・・」、とい う記述は、前述した先輩のお話通りな訳で、内心ニヤリとしてしまった。

  今、先輩は2年間の南極生活を終え、しらせで日本に向かっている最中。
さて、3ヶ月後に届くであろう、21世紀最初の南極からの年賀状が楽しみである。


 以上の後日談は、2月初旬に書いたものであるが、掲載が遅れた。
・・と思っていたところ、3/17に何とこれ(ペンギンはひっくり返るか?)を検証する日本の番組が放映され偶然チャンネルを合わせ見た。(読者の方からも今放送しているというメールを頂いた)
しかしこの調査(?)時期はペンギンが卵を抱えている時期で、ペンギンは一度卵を離すと二度と抱えないという習性があるそうで、ペンギンを驚かせてはならぬとフォークランドでの低空飛行が下りず、結局は検証出来なかった。(かわりに将棋倒しになるペンギンがCGで描かれいた。)、調査は4ヶ月後に行われるという。
 番海を最初から見たわけではないので、何とも言えないが、イギリスの専門家が調査結果を出しているのに、何故またわざわざ日本からレポーターが行って調査しなければいけないのか?理解に苦しむ。ペンギンのドミノ倒しは「笑いの画像」になるかも知れない。しかし、それが何になるのか?これは調査とは言えない。

  空を飛ぶ者は下(地上)にいる者の安全に責任を持たなければならない。動物だって同じ事である。
くれぐれも不必要な低空飛行は遠慮して頂きたいものである。

2001/3/18

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