あるカメラマンの独り言
 シリーズ No.008
すす払いは気をつけて・・
(Japanese Text Only)



 年末になると多くの寺で仏像の「すす払い」が行われる。
笹の葉を使って、仏像につもった1年間の埃(ほこり)を僧侶達が払うのであ る。
我が家もこれにならい、部屋に飾ってあるヘリの模型につもった埃を筆で落としてやるのが年末行事となっている。 模型はちょっとした力に弱い、はたきは論外。雑巾などで拭こうものなら、 繊維が突起物に引っかかってどこかの部品が壊れる。だから絵の具用の筆を使って丁寧に埃を払ってやるのだ。

  だが、さすがに機数が多くなり今年は数機を箱に入れて保管することにした。
いつもは私が腫れ物にさわるかのように慎重にやるのだが、今回は妻がやるという。
そこで、機体を傷つけないよう、色々とレクチャーをした。

  で、妻がすす払いを行い、私は保管用の適当な箱を探すことになった。
だが、一抹の不安があった。 妻はローターを指ではじいて回すのが好きである。
ふと振り返ると、笑みを浮かべながらメインローターを回している。

「こらぁー、何をするぅーー!壊れるではないか!」
「駄目?」
「駄目!」
「じゃぁ、テールローターならいい?」
「駄目!!」
「でも、時々回さないと錆びるでしょ?」
「プラスチックは錆びません!!」

  何だ模型(プラスチックモデル)ぐらいで、大袈裟な・・、と思う人はこの世界を知らない・・
妻が手にしているのは1/48スケールのアエロスパシアルAS350B。
本機の特徴であるスターフレックスハブを忠実に再現してあるのをはじめ、ローター基部のロッドやピトー管も真鍮パイプで作成、スキッドの地上共振防止ダンパーも金属部品を装着、上下に分かれた2灯のライトも機首内部に埋め込み、コクピットは実機のパネルの写真を貼り付け、座席にはシートベルトもつけてある。塗装は赤と白の旧朝日航洋カラー。改造に膨大な手間と時間が掛かっているのだ。これは何事にも代え難い宝物である。
最近スケールラジコンヘリのサイトを運営している方々からリンクを頂いている。
いかに実機に近づけるかに心血を注いでいるこの方達ならばこの気持ちはよく分かって頂けるだろう。


  さて、丁度良い箱が見つかった。
だが、私は遠い目をして次回の原稿を考えていた。そこにスキがあった。
「じゃ、これに入れて・・」 と箱を模型の近くまで持っていった際、手前のソファーにつまづいた。

「あっ!」
私の手をはなれた箱は宙を舞い、床に並べてあったタイガー攻撃ヘリめがけて落下した。
直撃を受けた機体は横転、ローターマスト破断、左主脚損傷、尾輪損壊、キャノピー半壊の重傷。
衝撃で折れ、外れた車輪が目の前を転がって行く・・
私はその惨劇に呆然と立ちつくした。

 私は散乱した部品と箱を拾い上げると、何とか自制心を保とうとした。
そして、余裕を見せようと妻に笑い掛けた。
だが、ひきつった笑いしか出てこなかった・・
「ひーひっひっひ、はーはっはっは」 ・・
一瞬、気がふれたと妻は思ったかも知れない・・

 タイガーは今も腹を上に向けてベッドで療養中である。
年末の大掃除、これは予想外の事が起きる。
皆様、くれぐれもご注意を・・・

2000/12/27

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