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「風を起こして舞い上がれ
〜 人力ヘリコプターへの挑戦」

イラスト:かかみがはら航空博物館ホームページより

 5/11(木) 21:15〜22:00 NHK人間ドキュメント
「風を起こして舞い上がれ〜 人力ヘリコプターへの挑戦」が放映された。

なかなか興味深い内容だったので、ここで取り上げることにする。

概要は以下の通り

ナレーション

「人間が、まだ成し遂げたことのない夢を追い続ける人がいる。 内藤 晃さん 79才。
内藤さんは今、人力ヘリコプターの製作に没頭しています。
人の力だけで風を起こして空に舞い上がる。
まだ実現していないこの技術に内藤さんは学生達と共に挑んでいます。
大空への夢を人力ヘリコプターに託す一人の技術者の物語です。」

 1994年3月7日、YURI-1という人力(じんりょく)ヘリコプターが19.46秒の滞空記録を作り、世界を驚かせた。
YURI-1は2枚ブレードを持つローターが4個、地表スレスレについている。
これを自転車のようにペダルを漕いで回し、ダウンウオッシュによる地面効果を利用して浮き上がる。
どちらかというとホバークラフトのような仕組みで、すべて手作り。

  YURI-1を設計製作したのは元日大講師の内藤 晃(あきら)氏である。
帝大卒業後、企業2社を経て1981年より日本大学理工学部航空宇宙工学科専任 講師となり
1985年より人力ヘリコプターコプターの研究を開始した。
引退後も同学科の学生と共に研究を行っているが設計製作はすべて内藤氏1人。
学生は組立と飛行試験を手伝い、卒論にまとめることになっている。

 氏は79才。9才の時に太平洋横断飛行の為アメリカからやってきた、赤い飛行機TACOMA号を見て、自分も誰もやっていないことに挑戦したいと思うようになった。
以来70年間、その夢を追い続けている。

 ヘリコプターの原型はレオナルドダビンチのスケッチである。
内藤氏の自宅兼仕事場には自作のこの模型が飾ってある。
螺旋上の羽は有名だが、よく見ると下で人が主軸を押して回す仕組みになって いる。

 「今日これだけ航空宇宙技術が発達しているにもかかわらず、ダビンチ以後500年経っても人力ヘリコプターは、日本はおろかアメリカでも実現していない。
人力ヘリコプターはエンジニアの野望をかきたてるものです。」と内藤氏は語る。

 記念すべき1号機は アデイフライA day fly(かげろう)。
1985年に完成。しかし一瞬浮いただけで正式記録とはならなかった。
以降製作を重ね、現在7号機目の挑戦である。

 

 人力ヘリコプターは1980年にアメリカヘリコプター協会(AHS)により以下のように定義されている。 (1)1分間以上、地面からはなれること
(2)その間10m四方の枠内にとどまること
(3)一瞬でも3m以上の高さに浮上すること。
更にAHSはこれを最初に成し遂げた者には世界初の人力ヘリコプターと認め、イゴール シコルスキー賞を授与すると発表。

 人間が1分間継続して出せるパワーは0.7馬力が限界。
よって人力ヘリコプタの設計製作条件は以下の極限の技術が求められる。
・パイロットの力を無駄なく引き出すこと
・最大限、効率よく風を起こす羽を作ること
・機体を壊れるか、壊れないかの寸前まで軽くして行くこと

YURI-2
YURI-1は世界記録を樹立したものの、上記AHSの3条件を満たせず、中でも横滑りが起こり10m四方枠からはみ出てしまった。この苦い経験を踏まえ、通常のヘリコプターのように、3枚ブレードのシングルローターを機体の上にとりつけた形に設計変更した。
しかし今度は地面効果がない為、新方式としてローター上面に薄い膜を張っ た。
これにより浮力を稼ごうという仕組みである。

 こうしてYURI-2は完成、しかしテスト9秒後にブレードが壊れ、テスト中止。
以来、この改造が課題となった。
1/20の模型を作り、何度も実験を重ねる。
しかし人間が出せるパワーの限界は0.7馬力。計算上では1.075馬力が必要。
何度も条件を変えてテストするが、回転数が低すぎ思った浮力は生まれず、とうとう息詰まる。

 YURIは奥様の名前にちなむもので、「好きなことを文句も言わずにやらせても らっている感謝のしるし」として、シコルスキー賞に妻の名前をとどめたいと いう愛情によるものである。
しかし奥様も「いつもは好きなことを楽しみながらやっているので安心してい たが、今度は本当に苦しんでいる」と今までとは違うことを察知する。

その頃、人力ヘリコプターを卒論とし、研究参加していた日大の学生達も独自に模型を作りデータを収集していた。内藤氏はオブザーバー的な立場である が、この結果は内藤氏にも発表される。内藤氏には強い味方である。
しかし実験の結果、学生達はYURI-2に限界を感じ、タンデムローター方式(機体の前後に縦列にローターがついている形式)を提案 することにする。

 そして発表の日。
学生達はYURI-2の試験結果が思わしくなかったことと、タンデムローターの提 案を行うが、検討時間が短かったため充分な説明が出来ず、内藤氏を失望させ た。
しかし柔軟な思考を持つ内藤氏は内心このヒントを大変喜び、タンデムの設計 に着手する。

2回目の発表の日。
内藤氏は学生からのタンデムのテストデータを期待していた。
しかし出てきた のはYURI-2のデータ。
内藤氏は尋ねる。「タンデムはどうなっちゃった の・・?」

実は学生達は前回の内藤氏の失望する姿を見て、出過ぎたことと反省。 YURI-2続行を決めていたのである。

内藤氏は「そのようなことでは、社会に出たら通用しない。」
「自分の理論が正しいと思ったら、押し通すこと。」
「 その為にきちんと資料をま とめるなり、模型を見せ、形にして説得することが必要」と静かな口調で学生 達をさとす。

氏は会社員時代にヘリコプターの薬剤散布用の機器を開発、その際にも模型を作り上司 に分かりやすく説明、辛抱強く周囲を説得して回ったという。
そして、すでに“タンデムに着手している”ことを告げる。

内藤氏の思いは変わった、学生達に卒業までに何とか実機を見て貰いたい。
通 常1年かかる製作を4ヶ月という急ピッチで進めた。
製作は難航、卒業には間に合わなかったものの4月30日、遂にタンデムが完成した。
就職して地方に散っていた学生もに皆日大の体育館に集まり、組立を手伝った。

 完成した機体の名前はSikorsky Challenger NN。(略称SCNN)
シコルスキー賞を狙う機体という意味で、NNは内藤氏と日大の頭文字にちな む。
今までは奥様の名前をつけてきたが、これは学生達みんなの研究であるとい う意味がこめられている。
機体はバートルのように前後にローターがつき、中央にパイロットが乗り、自転車のようにペダルを漕ぎ、チェーン駆動でローターを回す。
軽量化の為パ イロットが座るサドルまで内藤氏の手作りで、バルサ材から削り出したものが使用されている。

  いよいよ試運転。
しかし機体を軽量化した為、材料がもろく、ねじれによる力 で本体のパイプが曲がりその場でテストは中止。浮かぶことはなかった。

記者にマイクを向けられた内藤氏は笑いながら、こう語る。
「こういう結果に終わりました。よろしく・・」

 しかしその翌日、内藤氏は胴体の強度を増す方法を考え出していた。 チャレンジは続く。

インタビューに氏はこう答える。
「考えに考え抜いて、それを実行、だめならまた考える。その連続ですね。 でも私の場合は必ず打開策が出て来るんです。」 その時の目は輝いていた。

ナレーション
「内藤さんの挑戦は失敗の連続でした。
内藤さんは7機目の人力ヘリコプターで再び記録に挑もうとしています。
太平洋横断の飛行機に憧れ、大空への夢を描いたのは9才のとき。
それから70年、少年時代の夢を今も追い続ける内藤さんです。」

以上のナレーションで、夢を追い続けることの素晴らしさを謳いあげ、
画面にに哀愁を帯びたテーマ曲がかぶさり、番組は終わった。


コメント

 見終わって、内藤氏の生き方に目頭が熱くなる思いでした。
そして、何らかの形で力になることが出来れば、と思いました。

日本の技術力は非常に高く、今年3月に行われた日本ヘリコプタ協会の講演会でも、各メーカーから世界の最先端を行くようなテクノロジーが発表されました。
科学者や各ヘリコプタ製造メーカーの技術者の英知を結集すれば、人力ヘリコプターは案外可能かも知れない。そんな気がします。

さて、皆さんはどのようなアイデアをお持ちでしょうか?
良いアイデアがあれば、是非お聞かせ下さい。

  尚、YURI-1は非公認ながらアメリカの大会に於いて滞空時間24秒、高度70cmの記録を樹立。
現在は岐阜の「かかみがはら航空博物館」に展示されています。

 もっと詳しく人力ヘリコプタについて知りたい方は以下をご覧下さい。

とりっぱ  人力ヘリコプタ「YURI II」始動,高高度フライトと操縦性能の向上を目 指す

かかみがはら航空博物館 YURI-1展示

日大YURI-1 Home Page

空を飛びたい シコルスキーのヘリ--内藤晃さんの挑戦

尚、皆階層が深いのでショートカットとなっていますが、是非各ホームページのトップページもご覧下さい。

以上2000/5/14


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