◇K2デビュー、その知られざるエピソード

 1992年3月、ラスベガスで開催されたHeli Expo'92に於いてKは初めてベールを脱いだ。
実際にはREGAの選定試験に参加したプロトタイプがあり、既にKという機種そのものは存在していたが、これが全世界に向けての実質のデビューということになろう。

K2の第1号機は1991年12月、REGAにグリーンクラフト状態(何も装備をつけない状態)で納入され、2カ月間に渡り救難機仕様への改修を受けた。

1992年3月初めHeli Expo'92出展の為同機は再び解体され、スイスから陸路ドイツのフランクフルトへ運ばれ、そこからアメリカのロスアンゼルスに空輸された。ロスアンゼルスにてGPSなどを装備、初めてアメリカ領空を飛行しHeli Expo会場であるラスベガスへやってきたのである。

 筆者はこのHeli Expo'92を取材、K2のデビューを目のあたりにしているが、その会場で入手したデイリーニュースの中で面白い記事を見つけ、思わず笑ってしまった記憶がある。いささか古い話だがここにそのエピソードを紹介してみたい。

 以下は出展の為、ロスアンゼルスからラスベガスまで飛んで来た際のK2とラスベガス管制塔とのやりとりである。

ATC:"…say again your call sign."
(管制塔:…そちらのコールサインをもう一度報告せよ。)

K2:"Las Vegas,this is Hotel Bravo X-ray Whiskey Alpha."
(K2:ラスベガス管制塔、こちら HB-XWA)

"Roger,ah,X-ray Whiskey Alpha,what type of helicopter are you?"
(了解、あーXWA、そちらのヘリの機種名は何か?)

"X-ray Whiskey Alpha's an Agusta 109K2."
( XWA、こちらアグスタ 109K2)

"Roger. Is that a new kind of helicopter?"
(了解、それはヘリの新しい機種か?)

"Affirmative."
(その通り)

"Ah, X-ray Whiskey Alpha.Confirm your speed is 140knots."
(あー、 XWA、確認せよ。そちらの速度は140ノットだが…)

"That's affirmative."
(そう、その通り)

以上がその時の交信記録である。(from HAI Convention News LAs Vegas,Nevada March 22,1992. written by R.Randall Padfield.)

illustrated by S.S

「スイス国籍の登録ナンバーをつけた、聞いたこともない名前のヘリが140ノットの高速でアメリカの領空を飛行している?!一体こいつは何物だ?!」と管制官が動揺している様子が分かる。

この交信は3月18日のもの。Heli Expo'92の開催は3月20日から、つまりKのデビュー前であり管制官はこの時、Kの存在をまだ知らなかった訳である。

機長はREGAのチーフパイロット。管制管とのやりとりで、YESではなくAffirmativeという強い肯定の言葉が使われていることで「この機体ならそれ位の高速飛行は当然」といった自信が伺われる。慌てる管制管と自信満々の機長とのやりとりがなかなか面白い。

 こうしてラスベガスにやってきたKは会場中央にディスプレイされ多くの人々の注目を集めた。デイリーニュースは早速「今回のコンベンションに於いて、スイス国旗をつけたこの赤い機体はとても無視することなど出来ない」と報じたが、まさにその通りで非常に人目を引き、いつも人だかりがしていて真横から機体全体を撮影することは到底不可能であった。
これが、そのHB-XWA、REGA納入初号機である。

 Kを初めて見て先ず驚いたのは「ロワーフィン(垂直尾翼の下側)がない!」ということであった。確かにロワーフィンがない機体はS-76等、他にも存在する。しかしアグスタは今迄の機種では全て魚の尾ひれのような立派なフィンがついていた。しかしKにはこれがない。筆者にとってはこれが非常に珍しく、この特集を組むまで長年の疑問であった。本来フィンのある場所からは長く細いテールスキッドが突き出しており、その証拠写真として撮ったものが上の写真である。そのツルのように長くのびたテールスキッドで顔をつっつかれないよう注意しながら尾翼に近づき、撮影したことが懐かしく思い出される。またこれには写っていないが長い機首の右側につけられた大型サーチライトが一層精悍さを増していたのも印象的であった。


(続く)

1999/2/07初版
1999/2/28修正

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 次回はこの特集にも度々登場、Kと切っても切れない関係のREGAについて書く予定です。

ご期待下さい。