Our Dairy Cup 28/08/2000 Election


 いよいよ今週の土曜日は、『最終絶叫計画』こと「Scary Movie」の公開日。こんなパロディ映画を楽しみにしている、なんて、すかしたサイトをやっている人間としては言ってはいけないことなのだけれど、『スクリーム』や『ラストサマー』、『シックス・センス』といった昨今のホラー映画に加えて、学園ものということで『ハイスクール白書』のパロディまでが飛び出すというのだから、観ない手はない。

 この傑作は本国では絶賛を受けながら日本ではビデオスルーだったので、『ハイスクール白書』なんて映画は知らない、という人が多いのは無理がないこと。『最終絶叫計画』の元ネタとして、というと本末転倒だけれども、これを機会にレンタルビデオ屋の棚を探してみて欲しい。実は私は密かに、七十年代におけるロバート・アルトマンの皮肉たっぷりの芸風を受け継いだのは、『マグノリア』ではなくてこの映画だと思っている。甘酸っぱい学園物だと思って観ると、かなり痛い目に遭う。相当にブラックで、息が詰まるほどである。

 リーズ・ウィザースプーン扮する嫌みな優等生が生徒会長になるのを防ぐべく、対抗馬として頭は弱いが校内人気はあるアメフト部男子を立てる教師が主人公で、演じるのはマシュー・ブロデリック。往年の青春スターである彼にこんな役を振るところからして辛辣で、これも一種の「ホラー映画」と言えなくもない。自分の能力と未来を一点の曇りもなく信じている、恐い者知らずで狂信的なティーンエイジャーにまともな大人が骨の髄まで食い尽くされるという恐ろしい物語である。

 この映画は今年のアカデミー賞で脚本賞にノミネートされたが、惜しくも受賞は逃した。しかし、話題になった『アメリカン・ビューティー』よりも遙かに風刺が効いていて、優秀であることは確かだ。アカデミー賞はこの前年度、「学園物」だという理由だけで『天才マックスの世界』(傑作!)を脚本賞にノミネートしなかったとして、大変な物議を醸しだしたという。その批判を受けて今年は『ハイスクール白書』をエントリーしたのだろう。

 この映画が秀逸なところは、何といっても「生徒会選挙」を主題としているところである−−−というか、この映画の中の可笑しくも悲しい、様々な思惑と欲望が渦巻く選挙戦を観ていると、私が高校一年生の時の、自分の学校の生徒会長選挙の悲喜劇を思い出さずにいられない。

 「生徒会選挙」なんてものに特別な思い入れを持っている生徒なんて、普通はまずいない。自分達とは直接関係ない使命感と権力志向に燃えたごく一部の生徒たちの行事であって、全校におけるそういう生徒達の割合はだいたいにおいて委員会のポストの数と一致するように出来ている。

 で、その年の本命馬は、いつもさわやかにポロシャツの襟を立てて(時代が時代だったので)、肩には常にラルフのコットンセーターをかけて(何故か絶対ずり落ちたりしない)、卸立てのブルージーンズ(そうじゃないのだろうけれどそう見える)にピカピカのローファーでテニス部主将の一学年上の先輩だったわけである。

 まあ順当だし、面倒な仕事もこなしてくれるだけの責任感もそこそこの人望もあった人なので、普通の選挙なら熱狂的な支持というのとはまた違った惰性的圧倒多数で当選する器だったと思う。

 ところが、その選挙戦は始まりからして何だか不吉だった。

 まず書記として立候補した校内随一のヘビメタ女子が、学校中から嫌われていた変わり者の女の子を応援演説者に選んだ段階で、集会場である体育館には嗤いの渦が起きて無駄に盛り上がっていた。時折校内でパンクス一派男子とチェーンで血みどろの喧嘩をしていた(いっとくけど女子ですよ)この人は結局票が足りなくて落選するのだけれど、後に『Buuuurn!』の編集部に入って、今もそこにいると聞く。三つ子の魂百までも。

 で、会長選挙の立候補演説で対抗馬として立ち上がった人物が問題だった。どういう先輩だったかというと、メガネをかけていて顎が極端に細く体は華奢というキリギリス系ルックスで(←日本におけるナードの人種的特徴)、中途半端な天然パーマの髪を中途半端な長さでたらし(←日本におけるナードの象徴的なヘアスタイル)、袖を捲り上げてボタンで留めるようになっている白いコットンジャンパーを常時着用(←ケミカル・ウォッシュのジーンズ上下と並ぶ日本におけるナードのユニフォーム)、正式部員ではないいくつもの文化系クラブにふらふら出入りしている(←ナードというよりはボンクラ的部活アチチュード)という、まあそういう先輩だったわけで、選挙半ばの途中経過を示すアンケートで、本命と大きく差をつけられて二番手だったのは仕方がない話である。(「もう今夜は俺飲むからつきあってくれよ!」と泣きながら中庭で友と抱き合っているのを横目で確認)

 でも、恐ろしいことにこの人は伊達や酔狂で立候補したんじゃなかった。よく分からないけれど、無闇に本気だった。最終表明の演説では成績が足りなくて昨年留年しかけたことさえネタにする涙と怒声とパッションのスピーチで全校生徒のハートをがっちり掴んだ、かどうかは別として、勢いで逆転勝利しちゃったのである。

 選挙結果が放送された直後に破れたテニス部主将と校内のテラスですれ違ったけれど、すごく憮然としていた。そりゃ、敵を考えるとそうもなるでしょ。

 これだけなら、「学園ヒエラルキーと下克上」という、『シーズ・オール・ザット』的なドラマだとは思うが−−−って、投票した生徒にそういった意図があったわけではなく、ただ面白がっての結果だけれども−−−この話には続きがあって、大した仕事もしない内にこの新生徒会長は学校に来なくなっちゃって、会期途中の二学期後半に何と学校を中退しちゃったのだった。

 この前代未聞の生徒会長の代が卒業する際に、送辞を読み上げた生徒会役員(メガネでチビで始終鼻づまりだったイヤミな優等生で、私、この女が大嫌いだったんだけれども)がその中でチクリとネタにするほどの事件ではあったのだけれども、まだこの話は終わらない。

 その直後、中退した生徒会長は大検に受かり、早稲田の理工学部と慶応の文学部にいっぺんに受かって校内を騒然とさせるというオチまでついた。在学中には因数分解も出来なかったはずなのに!(←多少誇張はしているが、成績が著しく悪かったのは有名な事実)
 

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