当時のノートPC選定ガイド

1995年7月に後輩からノートPC選定の相談を受けたときにはこんな答を返していました。

挙げてある機種からは時代が伺えますね。 選定のエッセンスは今でも有効な部分があると思います。


さて、ノートパソコンの購入を考えているとのことで、手許の雑誌
の広告をぱらぱらめくってみましたが、厳しいですね。
まず、全体の傾向としていえるのは、

    最新機種は軒並み30万円から40万円

で、型落ちの機種が広告には出ていないものですから、探しようが
ありませんでした。これは秋葉原を徘徊してもらうしかなさそうで
すね。

なお、現在市場に存在するノートパソコンに関する限り、

    現状では最新機種といえどもすぐに型落ちとなることが約束さ
    れている

ことを覚えておくと、要求仕様を考える上で割り切るための動機付
けになるでしょう。

これは一般にいわれるような、買ったと思ったらすぐに新機種が出
て悔しい思いをするとかいうこととは違います。

ノートパソコンの特に小型機における機能拡張は、PCカードと呼ば
れる、クレジットカードサイズの装置を取りつけることによるので
すが、この装置をパソコンに接続する部分の規格が最近大改定され
たのです。新しい規格をPC-CARD'95と呼ぶのですが、古い規格であ
るPCMCIA ver.2.xなりJEIDA ver.4.xなり(この二つは同じものだと
思っていいです)とは性能やつなげられる装置の種類において雲泥
の差があります。

そして、この新しい規格(PC-CARD'95)に基づくカードスロットを作っ
ているメーカーはまだ一社もありません。

さて、「そこそこの機種」で満足するための動機付けができたとこ
ろで、要求分析を試みましょう。ノートを導入したとして何に使う
か。

昨日あなたが仰ってたのは、

- レポート書き(ワープロ? TeX?)
- C言語プログラミング

だそうですね。現在のところ、私は今使っているマシンでこの二つ
を何とか実用的に運用できています。レポートどころか修士論文も
ほぼこのマシンで書きましたし、ゼミで輪講の順番が回ってくると
配付資料(A4で1〜4ページ)とOHPの資料(10枚弱)をこれで作ります。
日本語の文章をたらたら書くのには、まあまあいい環境です。あ、
プログラミングに関してはほとんどノートではやってないので、何
とも言えませんが。

ただ、コンパイルを始めるとちょっと待たされるんですよ。10人ロ
グインしてるaquaぐらい。型落ちの機種を選ぶなら、これに耐えら
れなければなりません。プログラミングが授業の課題だったりする
なら、〆切の前日にプログラム組んじゃいけません。

さて、何に使うかの次はどう使うかですが、ノートを手にしたとし
て、持ち歩く気が起こりますか? これは機種選定にあたって、ある
いはノートパソコン導入の正当性を考える上でけっこう重要な項目
です。

私の現実はこんな具合です。私は最初からパソコンごと持ち歩くつ
もりで機種選定をしました。片道2時間の通学時間を何とか有効活
用したかったのです。現実はどうか。片道2時間のうち、電車に乗っ
てから降りるまでのまとまった時間は1時間強です。この間、膝の
上にノートを広げてます。バッテリ動作の持続時間は、フル稼働時
で1時間弱ですから、まあまあ有効活用できているといえるでしょ
う。

しかし、本当に持ち歩きますか? パソコン本体だけで2kg弱。女の
子にはちょっときつくないですか? しかも、持ち歩けばいいのはパ
ソコン本体だけじゃないはずです。ACアダプタ。お好みにより、外
付けフロッピディスクドライブ、予備バッテリ。それに、昨日まで
毎日持ち歩いていた、いつもの荷物のことを忘れちゃいけません。
さあ、全備重量はどのくらいになるでしょう? これ毎日持ち歩いた
ら、かなりがっちりした筋肉りゅうりゅうの体になりそう。いや、
それだけならいいんですが、下手すると腰壊します。侮っちゃいけ
ません。少なくとも、ころあいを見計らって右に左に持ち替えるな
り、偏った負担が腰にかからないように背中に背負うなり、気を使
わなければなりません。

何に使うかは決まり、持ち歩くめどが立つかまたは持ち歩かないこ
とに決めたら、いよいよ機種選定のための具体的な仕様を検討しま
しょう。曲がりなりにもあなたがコンピュータのサークルにいると
いうことを知っているので、それなりの書き方をします。

まず、CPUですが、実用最低のラインが486SXの33MHz。今どきこん
な遅い機種があるかどうかわかりませんが、クロックの値が33より
大きいのを選びましょう。

次に、メモリの容量ですが、8MBないと実用になりません。多くの
機種では基本構成が4MBのはずですから、拡張メモリモジュールを
追加して8MB以上にします。

次に、ハードディスクの容量ですが、ざっと一声で、DOSとWindows
に30MBくらい、TeXに10MB、Cコンパイラに20MBといった感じですか
ら、これに加えて何がしかのアプリケーションを入れるとしても、
全部で200MB前後あればまあ実用的と言えます。

最低押さえておくべきがこの3つですが、そのほかの仕様も見てみ
ましょう。

- 画面は白黒でいいのか、カラーがいいのか。
    私の場合、ブラウン管のディスプレイを持っているので、色を
    見たければそっちへつなげば済むため、ノートにカラーを求め
    ませんでした。が、あなたにとっては最初の1台です。どうし
    ますか?
- PCカードスロットは。
    PCMCIA ver.2.1、または等価なJEIDA ver.4.2の仕様に基づく
    クレジットカードサイズの拡張装置を接続するためのスロット
    があります。カードの厚さにType1(3mm)、Type2(5mm)、
    Type3(10mm)の3種類があります。少なくともType2が1枚は挿せ
    る方がいいでしょう。Type3なら1枚、Type2なら2枚挿せる構造
    のものも多いです。
- 他のインタフェースは。
    ノートの小さな筐体で拡張性を確保するのは大変ですが、外部
    に対して次の端子が出ていれば幸せです。
    - シリアルポート: モデムや他の計算機を接続し、通信やファ
      イル転送に使います。ほぼ必須と言えます。
    - パラレルポート: 原則としてプリンタをつなぐための端子で
      すが、ノートだとあまり用途がないかも。将来プリンタも買
      う予定があるならついていた方がいいでしょう。
    - ディスプレイポート: ブラウン管のディスプレイ装置をつな
      ぎます。これがついていると、将来導入するすることになる、
      またはだれかのディスプレイ装置につなぐことができるよう
      になります。
    - 外付けフロッピディスクポート: 機種によってはフロッピ専
      用の端子が出ていなくてPCカードを経由するものもあります。
      フロッピディスク装置が外付けならこの端子はあるはずです。
    - 外部キーボード・マウスポート: 「PS/2仕様」のキーボード
      端子が出ている機種があります。「PS/2仕様」のキーボード
      やマウスを外付けすることなんてそうないので、不要といえ
      ば不要です。
    - 拡張ユニット接続ポート: 別売の拡張ユニットにノートパソ
      コンを差し込むとデスクトップマシンになると称するものや、
      シリアルポートやパラレルポートが拡張ユニットを取りつけ
      ないと使えない機種が存在します。
- バッテリ動作持続時間は。
    例えば私のノートのバッテリはフル稼働で1時間弱しかもちま
    せん。フル稼働という状態は簡単に発生します。例えば、日本
    語の文章を打ち始めるとディスク上の辞書を読みに行きますか
    ら、フル稼働状態になってしまいます。
- バッテリの充電時間は。
    例えば10時間充電などと言われると充電時間を確保するのがえ
    らい騒ぎですよね。多くの機種では1〜2時間で充電が終わるは
    ずですが、大容量の電池はそれだけ充電時間も長くなります。
    動作中に充電できるかどうかも運用形態によっては意外に重要
    なポイントになります。
- 付属品の入手性は。
    マイナーな規格の部品を使われると、供給するメーカが少なく
    て値段が高かったり入手難だったりします。特に拡張メモリモ
    ジュールが標準品かどうかは注意。バッテリは機種ごとにほと
    んどばらばらなので入手性にだけ注意。

あとは半分好みの問題になりますが、お店で実物に触ってみないと
わからない事柄として、
- 画面サイズ(小さいと見づらいでしょ)
- キーボードの配置(よく使うキーが小さかったり変な位置にあっ
  たりしないか)
- キーのタッチ(ばねの強さやストロークの底がはっきりしている
  かなど)
- キーの大きさ(あまり小さいと隣のキーに指がかかってミスタイ
  プの元)
- ポインティングデバイスはトラックボールか消しゴム型スティッ
  クか
- キーボードの手前に手首を置くスペースがあるか
- 電源スイッチは間違って操作しやすくないか
- 外部の端子を保護するカバーがあるか
- 画面の視認性(表示ははっきり見えるか)
- 画面の視野角(斜めから見えるか/運用形態によっては見えない方
  がいいこともあるが)
- 筐体平面積(鞄に入るか)
- ディスプレイパネルの開け閉めはしやすいか、ロックはちゃんと
  かかるか、壊れやすくないか
- 盗難防止チェーンを通す孔があるか
- 発熱はどのくらいか(膝の上で熱くなられるとけっこうつらい)
- PCカードを挿したとき出っ張らないか(出っ張ると挿したまま持
  ち歩けません)
- ハイバーネーション機能(サスペンドの一種で、メモリの内容を
  全部ディスクに書き出すことによりサスペンド中の電力消費を0
  にする機能)があるか
- 赤外線通信ポートがあるか
- 付属のソフトには何があるか、インストール媒体が付属するか

そして、トラブル時などに大きな意味を持つのが、
- 同じものを使っている人が周りに何人いるか
- 保証期間一杯メーカーが会社として存在するか
- 相談窓口の対応はよいか

まあこんなところでしょうか。機種を選ぶときには、これらの機能
が比較できるように一覧表を作ると選びやすいと思います。これら
の情報はお店でカタログを拾ったり、次に挙げるような雑誌の新製
品紹介の記事を見て集めますが、雑誌の記事には時折嘘が含まれる
ので要注意です。

- 月刊LapTop
- SUPER ASCII
- DOS/V Magazine
- ASCII DOS/V ISSUE

参考までに、ちょっと古い情報になりますが、以前相談を受けたと
きにさらっと書いたのがあったので以下に添付します。ソフマップ
の値段うんぬんは新品であるかどうか自信が持てないので注意。

BEGIN---
- Chaplet iLuFa350およびそのOEM品(SWIFTμなど)
    サブノートにしても本当に小さい(A5ファイル、1.8kg)。しか
    し、ちゃんとタッチタイプできるキーボード。色も音も出る。
- IBM ThinkPad230Cs
    業界標準というか何というか。消しゴム型スティックの操作感
    が評判良い(この操作感は特許なので他のメーカでこの操作感
    は出せないらしい)。赤外線ポート付。緊急時には乾電池で動
    く。色も音も出る。B5、1.8kg。
- COMPAQ Contura AERO
    色は出るが音は出ない。コネクタカバーがなく端子やマザーボー
    ドの一角が常にむき出し。b5ファイル、1.8kg。
- TOSHIBA DynabookSS(最新型の型番忘れた)
    フロッピディスクドライブ内蔵。TP230Csと並んでユーザが多
    い。色も音も出る。バッテリの容量大きい。B5ファイル、2kg。
- 富士通 FM-V BIBLO
    一太郎などのアプリケーションがプレインストールされていな
    いモデルは市場で見つけにくいらしい。色も音も出る。B5ファ
    イル、2kg。
- SOTEC WinBookS
    私が使っている。もうだいぶ見劣りする。すでにメーカの広告
    には載らなくなっている。HDを回すとバッテリが1時間しかも
    たない。Ctrlキーがとんでもない位置にある。数日前にソフマッ
    プで¥89800で売られているのを見た。色も音も出ない。B5ファ
    イル、1.65kg。
- SOTEC WInBookSC
    WinBookSのカラー版。音は出ない。B5ファイル、1.8kg。
- Olivetti ECHOS20
    自称おしゃれなデザイン。色は出るが音が出たかどうかはうろ
    覚え。B5ファイル、1.8kg。
- NEC PC-9821LtまたはLd
    良くも悪くもPC98。白黒モデルは画面が狭かったかも。色も音
    も出たと思う。B5ファイル、2kg。
- Apple Powerbook Duo
    設定に纏わるトラブルは少なくなるかも。色も音も出たと思う。
    限りなくA4に近いB5ファイル、2.2kg。

とかなんかになるんでしょうか。他にもたくさん出ているので、月
刊LapTopとかいった雑誌の比較評価特集なんかを見るとカタログを
集める手間が省けます(あくまでカタログの代替であって、評価の
内容は必ずしも信用できません)。あとは、お店で実物に触ってみ
ること。手首を載せるスペースの有無が操作感にどう影響するかな
んてちょっとした文章でも打ってみないことにはわかりません。

注意すべきは、増設メモリモジュールなどのオプションが標準品
(いわゆるDIMM)であるかどうか、市場で安価に多く出回っているか
どうか、交換用バッテリパックが1年後(寿命の尽きるころ)に手に
入るかどうかです。私の使っているSOTEC WinBookSはいずれも悪い
方に属します。
END---

これを書いた後、松下電器からB5より小さく1.29kgという軽さを実
現したProNoteJet-miniてえのが出たんですが、これもやっぱり30
万円以上するし、大人気なんで品薄のため当分手に入りません。

あと、これに書き忘れていたエプソンのEndeavor NT500(田中○○
君が使ってますね)とかPCVなんちゃらのノート型とかツクモとエイ
サーのやつとかが20万円弱で出てますしDECの薄ーいノートとか
Olivettiの新機種とか出ているみたいです。

                            ●

で、新品だと結局予算最低20万円の話になっちゃうもんで中古も検
討されてるようですが、上記のごとく低性能低機能の機種でいいや
と割り切るなら、酷使していなくて保証期間が残っていて秋葉原価
格の半値以下で出ているものなら、1年以内に償却し切る気で考え
てもいいかも知れませんが、ノートなんて消耗品でできているよう
なものですから、故障が早く来る危険を覚悟の上でないといけませ
ん。パソコンの故障は苦労して蓄えたデータのロスを伴いますから、
結構恐怖だと思うのですが(って、新品なら安心かというとそうい
うもんでもないけど(^^;;)。

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