1998/06/18 山崎まさよし 渋谷公会堂
One Knight Stand Tour '98
1階5列21番
三浦敏孝, 早稲田大学
miura@muraoka.info.waseda.ac.jp

●座席

近い! しかも、中央から少し離れた通路脇で、動きやすい。ラッキー
な席が当たったものだ。抽選様々だ。

●開演前

セットが組んである。ベンチに、ガス灯風の街灯。

ギターが、ドブロを含め5本。すげえ。これでチューニングを変え
ながらMCということもなく流れるように曲が連続していっちゃった
りするんだろうか。

プロジェクター形というか、反射式の、新型のバリライトが、天井
に11本+ステージ上に4本も。さすがにホールのステージでたった一
人となると視覚効果で空間を埋めようということになるのだろう。

# あのバリライトの何が新型かって、従来のはランプハウスごと振
# り回していたのを、反射式にすることによって振り回す対象がミ
# ラーだけになった上に振る角度が半分になった点が発想の大転換
# なのだな。おかげで小さなモーターで大きく速い動きが生み出せ
# て、消費電力も逓減でき寿命も延びたはずだ。

しかし、あの反射式のバリライト、星形とかいろいろ凝った模様が
出せるんだけど、そんなものが出るからといって山崎のステージで
は使いにくいはずだ。しかもこんなに沢山。何にどうやって使うの
か、見ものだ。

●開演

薄暗がりの中、何の前振りもなく袖からスタスタと山崎登場。ほと
んど拍子抜けである。この裏切りかた、いい感じだ。

1. 月明かりに照らされて

何か、音が硬いというか、妙な具合だ。渋谷公会堂の硬い壁面むき
出しのライブな音場がそうさせるのかしら。ハーモニカにギターが
食われている。

(挨拶)

ギターのチューニングをしながらMC。あらら。演奏することによっ
てチューニングってずれちゃうものなのね。

2. アレルギーの特効薬

間奏でなんかの洋楽のカバー。聞いたことはあるんだけど、何だっ
け。分からん。

3. ステレオ

4. ピンボール

ここまで、照明はいたってシンプル。これだけの照明のためにあの
新型バリライトは少々オーバーキルではないのかと訝る。新しい道
具を入れたはいいけれど照明さんや舞台監督さんの手に馴染んでな
いのかしら……などと思っていたら、あとでこれがひっくり返る。

5. 妖精といた夏

バックにスクリーンが現れ、もやもやと変化するモアレ風の模様を
映す。しかし、その表示をしているのは新型バリライトではない。
従来型のライトの、プリズムと編み目で作った模様がスモークの具
合でゆらゆら変化しているだけのように見える。ふむ。ということ
はまだもっと凝ったのが用意してあるんだな。

6. 名前のない鳥

何か近頃ライブに来て歌詞を聞き取らなくなったなあ。勿体ないな
あ。

7. 水のない水槽

ビー玉のような模様がスクリーンで回り、水面の反射のようなゆら
ゆらした効果を作る。ああ、このための新型バリライトだったのね、
と納得。

客を座らせ、自分もベンチにかけて、ギターを抱えるのかと思った
ら、スポーツ新聞を広げる。なに、一人でも寸劇をやるつもりか。

世間はサッカーでもちきりだが自分はサッカーはさっぱりわからな
い。一体何回勝てば優勝できるんだろう。国ぐるみで大騒ぎしてる
けど、自分はどうしても呑んでしまうから、両方を応援してしまう。

ようやくドブロを手に、

8. 昔おふくろが または バナナ

即興コミックブルースの、「長男」に続く第二弾。いいぞ、いいぞ。
シリーズ化するのか。さて、CDになったときタイトルが何になって
いるやら。
昔おふくろがバナナが大好きで、
戦後はバナナが高価だったらしく、
気がつくと一房食べていた

昔おふくろがよく作ってくれたのがワカメご飯
赤だし ドボがけ 子供が成人病になりそうなものばっかり作っていた
成人病になんかなるかい

口直しにバナナをどうぞ
こんなような内容だった気がする。

9. ドレッシング

後ろの方で手拍子が。君たち、ミドルテンポのボサノバに手拍子が
似つかわしいと思うかね。曲に合ってると思うかね。(--;

手拍子をする人たちはずうっと少数派のままだからいいかげん途中
で止むかと思っていたけど最後まで叩ききってしまった。見上げた
根性である。

前の方、左側で、シャボン玉を飛ばしている目立ちたがりがいる。

10. ぼくらの煩悩

エフェクターの不調なのかスイッチの接触不良なのかケーブルの断
線なのか、頻りにフットスイッチを踏みながら首をひねっている。
音が出ないらしい。やがてローディーのカズが出てきて何やらごそ
ごそと作業を始める。その間をハーモニカで繋いだりスキャットで
繋いだり。しばらくしてちゃんと音が出るようになったらしい。音
量が俄然変わる。

この曲になってはじめて声がしっかり出た気がする。

11. 長男

ギターの音が硬めになるように調整してあるのか、はたまたボトル
ネックのせいか、バンジョーのような、低音部をうんと抑えた軽い
音がする。普通のギターでこの音が出せてるならCDのアレンジにお
けるドブロの存在意義はどこへ行ってしまうのだろう。

スライドプレイもサビ以外はワンパターンの短いフレーズの繰り返
しで(ワン・グルーブっていうのかしら、こういうの、目がないっ
てその昔セルフライナーノーツに書いてたね)、しばしば生じる不
協和音のはざまに現れる不思議な効果が、音の軽さと合わせてコミ
カルにコミカルにと仕上げてある。

わはは、面白い、面白い。

12. 関係ない

俺の中でのこの曲の印象は、いぶし銀。いい。

13. FAT MAMA

ノリノリの部。視覚効果も、光条ぶんぶん振り回しぃの、フラッシュ
ライトありぃのと、こちらもノリノリだ。

14. パンを焼く

私はここら辺でだれてきてしまった。ライブに来て切れる人は最後
までノリノリのまま行けるだろうけど切れない人はやっぱりここい
ら辺で集中力の方が切れてくる。

嗜好の違う人に与える印象の公約数を取るのは難しいだろうから切
れない人の優先順位を下げてもらって構わないし、こういう状況は
今後もあまり変わらないだろうと納得ずくで切れないでいるわけだ
し。

なに、感じたことを言ってみたかっただけだ。

15. ヤサ男の夢

16. 昼休み

〜ヤサ男の夢

普通ならカズーを吹き出すところでスキャットから「昼休み」に入っ
てゆくものだから、もしかしたらカズーを忘れたとかいう事態があっ
たりするのかといらぬ気を回してみたりしたが、何のことはない、
挿入されただけで、一段落したらカズーを吹くところから再開した。

終わってギターを置き、ジャンプしてポーズを取ったりしながら袖
へ。

(以下、アンコール)

薄暗がりの中、腰をかがめてこそこそと登場。途中で気づいた客の
拍手とともにスポットで捉えるという遊び。

先ほどシャボン玉の飛んだ辺りから、今度はマルボロの箱に100円
ライターをくっつけたのが二つ投げ込まれる。とにかく何でもいい
から影響力を及ぼして気を引きたいらしい。ご丁寧に拾って礼を言
う山崎。

客から物まねの要求が。

「シカオ!」の声に応えて、普通の声で「今度『ファミリー』とい
うアルバムが出ます」オーガスタの森川社長の物まね禁止令との折
り合いをつけた、うまいいなし方。

スガのアルバムを紹介してしまったため、山崎自身の次回作に関す
る声が。もごもごとごまかそうとしていると、2階から「はっきり
せんかい」(笑)

それを受けて「どうも近頃優柔不断なんですよね」コンビニで歯磨
きをどっちにしようかとか、キャッシュディスペンサーでお金を下
ろすのに、1万円にしようか、1万5千円にしようか、2万円にしとこ
うかと悩む。「1、2万」ってボタン作ってくれへんかな。「5、6万」
とか。何かそういう馬鹿なことばかり考えている。

# 馬鹿なこと思いつくならそれネタに1曲作れるじゃないか

17. セロリ

盛り上がりにつれ抑制が外れてゆく客。もはや客からの声は収拾が
つかない。「クロスロードやって」って、冒頭の一瞬だけ弾いてみ
せた辺りからするとネタばらしではないのかもしれないけど、なん
か演出の意図を踏みにじってるぞ。「楽しい曲やって」とかさ。

いや、そういう要求の中身自体が重要なわけじゃないことは分かっ
てるんだ。知っているネタの中からほかの人が言わなさそうなのを
持ち出してとにかく何でもいいから存在を示して気を惹こうとして
いる、ただそれだけ。

独りよがりという言葉は君たちのためにある。

18. あじさい

19. 根無し草ラプソディー

(以下、アンコール)

再び登場の際に客席(またあのシャボン玉の出た辺りだ)から何か足
元へ投げ込まれるが、今度は暗がりだったのでそのまままたぎ越す
山崎。暗がりで物を投げつけると危険なんですけど。

20. One more time, one more chance

前奏が始まるとともに方々から「はぁぁっ」という声が上がる。期
待の高さよ。

●終演

映画「月とキャベツ」のサントラから、エンディングのBGMで客を
追い出す。何だかなあ。山崎、お前、ほんとに「ワンモアの人」で
いいのか。そりゃ、確かに名曲だけどさ。

もう、「セロリ」と「One more」は封印する時期に来ているんじゃ
ないのかなあ。そうでないと、この2曲とセットにしての山崎のイ
メージが固着してしまいそうな気がする。ミスター・スポックしか
演じさせてもらえなくなってしまったリチャード・ニモイのように。

創作活動をしている立場にしてみれば、「代表作は何ですか?」と
聞かれたら、お約束だけどやっぱり「次回作です」って答えたいじゃ
ない。「セロリ」が、あるいは「One more」がピークだった、って
評価を受けるのって面白くないと思うんだ。

だから、

  「セロリ」が、あるいは「One more」が聞けないと不満

って客がいる状態は逆に不幸だと思う。こういう要求があることは
とりも直さず

  アーチスト山崎はその曲がピークで、それを越える曲が作れてい
  ない

ということにほかならないのだから。そして、そういう固着ないし
自己目的化した要求をわざと退けてこの2曲を封印してしまえば、
何かしら新境地が開けるのではないかと思うのだ。アルバム4枚も
出せばそろそろネタ切れが近づいてくるはずだし。

# いや、ブルースが様式美という名の美化された偉大なるマンネリ
# ズムであるのなら、ネタ切れは原理的にありえないか?

西城秀樹の「ヤングマン」、郷ひろみの「エキゾチックジャパン」
といったように、「この人と言えばこれ」という関係がある場合、
「ブーメラン」とか「ローラ」とか「君たち女の子」とか「林檎殺
人事件」とか、他の選択肢も広く知られているのと、

  「セロリ」と「ワンモア」しか知られていない

というのとはやっぱりちょっと違う。クリスタルキングの「大都会」
ぐらい哀しい。

外へ出る。久しぶりに会う知り合い筋と挨拶を交わし、しばらくまっ
たりする。

係員により敷地外へ追い出す動きが起こるのを契機に、ぞろぞろと
帰途に。飲みに行く人たちは飲みに、私は駅に。

時計塔の周りにMLの弾き語り集団が。ご挨拶ぐらいはしたかったの
だけど、そこへも追い出しの手が及び、取り込み状態に遷移したと
見て素通り。ああ、次回こそはちゃんとご挨拶に伺いますから。
以上

1998/06/18 28:10


●後日談

本当は、最初から、ミスタースポック役がいいかげん嫌になったリ
チャード・ニモイを引き合いに出すつもりだったんですよ。でも、
名前をど忘れしてしまって、仕方なく渥美清にしたんですが、渥美
清は喜んで寅さんをやってたんだと突っ込みを受けてしまいました。

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