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復刻版 No.006 | ||
ヘリコプターとベンツとお嬢様 | ||
(Japanese Text Only) |
ステータスシンボルというものがある。 今やヘリコプターがそれになろうとしているが、一般にはやはり車。中でも多いのがベンツである。 キャデラックやロールスロイスというのはあまり聞かない。 外国ではメルセデスと呼ばれているが日本では昔から「ベンツ」である。 さて先日、学生時代の友人と海へ行った時の話。 2台の車で行こうと前日の打合せを行った。 よく国産の愛車を僕のポルシエとかベンツとか呼ぶジョークがある。 友人は”ベンツ”で来るという。こちらも「じゃ俺は”BMW”だぜ」と言って別れた。 翌日ドライブインで待つこと数分、真白なピカピカのスポーティタイプのベンツがスーと停まり、中から友人が笑顔で出てきた。 「本当だったんだ!」と皆、顔を見合わせるが・・・ どれどれと近づいて見ると急にアラが目立ち始めた。 真白に見えたのはワックスのせいで、よく見るとあちこちの塗装が剥げ、バソパーのビスは外れかかり、コソソールにはメーターがまばら、シートたるや中の綿がはみ出している。 「確かに5m以内に近寄らなきや立派なベンツだ。 うん。」とこちらが言えば、 「まぁ中古だからしょうがないねぇ−」と素直に認める友人。 |
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出発からとんだミソがついたが、気を取り直して高速を2台でひた走る。 さて、海岸道路ヘ出ると夏のシーズンだから車目当ての駐車場の呼び込みがうるさいほどいる。 2台の内、先頭を走っているこちらはその呼び込みをモロに食らう訳だが、後を付いて走っているベンツにはおじけづいて誰も声を掛けようとはしない。 やはりこの場所にはベンツは不似合いなのだろう。 もっとも助手席の友人のサングラス姿が結構迫力あるというのも否めないが……。 こうした呼び込み活動は現在道路で行われているが、近い将来全国のヘリポートが整備されたらこの現象は空にも及び、ヘリポートヘの駐機の呼び込み合戦が始まるかも知れない。 その際はパイロットの気を引くために魅惑的な水着姿の女性の絵をヘリポートに描く。 これがホントの丸エッチ (H)……なんて不謹慎な事を考えたりするのは夏場で頭が脳天気になっているせいであろうか? その後、目指す海岸へ着いたが、ベンツの中で友人は困った顔をしている。 彼は照れ臭そうに愛車から出てくるとこう言った。 「この車、ギヤをバックに入れると何故かエンジン止まっちゃうんだよ−。悪いけど皆で押してくんない?」 「お前な−っ!」 まぁ、その日一日遊んで、帰りにまたドライブインに寄った訳だが、またまたベンツが動かない。 皆でエンヤコラと車を押してそれからやっとエンジンが掛かったが、そのドライブインの客の周りに一瞬の沈黙の後、爆笑の渦が巻き起こったのは言うまでもない。 非常に恥ずかしいドライブであった。 身分不相応なものに乗ってはいけないという教訓であろうか? 高級車の中古には気を付けた方が良さそうだ。 そういえば米軍払い下げのヘリコプターが日本に入ってきたという話は問かない。 案外、安全性に問題があるのかも知れない。 |
![]() ヘイ、ヘリコプターさん 寄っていらっしゃいな これがほんとの マルエッチ?! |
さて今回ここで書こうと思ったのはそんな中古のヘリコプターではない。 ヘリゴルフが盛んになってきた昨今、Tヘリポートにはその送迎の為にベンツをはじめ見事な高級車が並ぶ。 顔が写る位にピカピカに磨かれたもの、6ドアのもの、多種多様である。 この高級車で乗り付ける人々は大体がライトツインのヘリコプターを利用、またはその所有者である。 単発小型ヘリコプターを利用する方は少ない。 であるから、最近ではその車を見ただけで利用しているヘリコプターの機種の見当がつくようになった。 ちょっと前まではヘリコプターを持っているというだけでステータスシンボルになった。 が、今はその中でもランク付けがあるのであろうか? 今、ヘリゴルフは当り前の時代になって来たが、まだライトツインヘリの飛来が珍しかった頃、苦い思い出がある。 数年前、Tヘリポートで写真を撮っていた時の事。 美しいライトツインの新鋭機が飛来し(敢えて機種は伏せる)母親と2人の娘が降りてきた。 |
迎えの車を待つ為、ここで少々休憩するようだ。 母親と妹の方は奥の待合室へ、姉の方はこちらの居る方へ歩いて来た。 その顔立ちと振舞はまさにお嬢様である。お嬢様とお話出来る機会はそうはない。 で、このチャンスを逃してはならじと無謀にもインタビューを試みた。 S「あ、あの、どちらからいらしたんですか?」 彼女はチラッと横目でこちらを見ると、高慢な態度で一言「軽井沢っ!」 S「いいですねぇ、テニスか何かですか?」 「…・……」彼女はフン!という態度で答えない。 奥の方を見ると母親が下々の者と気軽に口をきいてはいけないという無言の信号を目で送っている。 こちらはそれを無視して、 S「これは最高速の新鋭ヘリだから、乗り心地はさぞかし良かったでしょうね?」 すると彼女は蔑むような一瞥をくれると、吐き捨てるように一言 「まあまあねっ!」 これにはおとなしい自分もさすがに腹が立った。 そして何か一言言ってやろうと口を開こうとした時、後ろから「お嬢様!」の声。 振り返るとそこには白手袋をはめた品の良い初老の紳士が立っていた。 その後ろにはまばゆいばかりの真白なベンツ。どうやら運転手らしい。 「お待たせ致しました。」老紳士の言葉に無言でうなずくとお嬢様とお母様は車の中へ消えて行った。 まるで少女マンガか、TVドラマを見ているかのようなシーンであった。 (そんな馬鹿な?創作だろう!と思われる方もいらっしゃるかも知れないがこれは本当にあった話である。) 何事もなかったかのように去って行くベンツ・・・ あっけにとられ口をポカーンと開いている自分に、いつの間にか後ろに来ていたヘリポートの管理事務局の方がボンと肩をたたいて、こう言って優しく慰めてくれた。 「我々とは住む世界が違うんですよ・・」 なるほど。 妙に納得してしまった自分が悲しかった。 (S) HELI AND HELIPORT 1990年10月 号 より |
![]() かるいざわっ! ![]() まぁまぁね!! ![]() むっ! ![]() なるほど・・ |
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