◇A109K2、高高度性能の秘密

 K2は高高度性能に優れているが、何故であろうか?
ここではその秘密に迫ってみたい。

<K2の名前の由来>

A109K2は民間型のA109Cと軍用型のA109Kとの融合により生まれた機体である。
軍用型のA109Kは高地における兵員輸送などをミッションとし、高温、高湿度に強い高出力のチュルボメカ社のアリエル1K1エンジンを装備している。自重約1,650Kgと軽い機体に対し、このアリエル1K1(632shp×2)という組合わせは機体を高高度に押し上げるに充分以上の推力を発揮する。
 本機はこのアリエル1K1を積んだ2番目の機体であることからK2(ケーツー)と名付けられた。
またこの名前はヒマラヤにそびえる世界で2番目の高さを誇る名峰K-2を彷彿させ、高高度性能を誇る本機にピッタリの心憎いネーミングと言える。

<ハイ・アルティテュード・コンフィギ ュレーション> ←クリックすると図解が見られます
  (High Altitude Configuration:高高度仕様)

Kを見てまず気付くのはロワーフィン(垂直尾翼の下側)がないということである。
これは様々な運用試験を繰り返した結果の反映であるが、その他以下のように高高度で性能を発揮する為の工夫がなされている。
これをハイ・アルティテュード・コンフィギ ュレーションと呼ぶ。
この仕様はREGA(レガ)によって改修されたもので、導入当初、高高度におけるホイストオペレーション時に於いてホバリングの安定性を有効にするよう設計されたものである。

 1)REDUCED FIN and NEW TRAILING EDGE

a)ロワーフィンの削除
K2からはテールローターの効率を高くしたことからロワーフィン(垂直尾翼下側)が無くなった。
これは高出力使用時に於いてもハイドロ圧力低下時に対応できるようにとられた措置で、ロワーフィンが発生する横向きのスラストを取り除くことにより左ラダーの踏力軽減を図っている。

b)アッパーフィンの形状変更
テール垂直尾翼上側の後方の1/3ほどがカットされ、高速飛行時にテールローター効率向上の為、左後方に空気を流すようにひねりがついている。
( これはフィンの面積が減少されホバリング時の効率も向上した反面通常飛行時のテールローター喪失時の直進性を補う為にとられた措置である。)

 2)STRAKE(ストレーキ) 気流遮蔽板

テールブーム左上部に長さ約2メートルの気流遮蔽板を取付けホバリング中の安定をはかっている。
この技術は船舶などで利用されているもので一般には直進性の向上にもつながるが、もう一つ、ホバリング時のテールブームにダウンウオッシュを受けることにより、それをアンチトルクとしてテールブームからも補助する目的もある。
他機種にも同じものがあるがアグスタの場合、かなり大きいのが特徴。

 3)テールローターピッチ角の増大

テールローターブレードのピッチ角度を左ペダル踏み込み時に21度から23度までに上げるよう改良され、かつホバリング時に回転数を100%から102%に上げることが承認されている。
(但しホイストオペレーションのみの限定運用)


 以上、ハイ・アルティテュード・コンフィギ ュレーション(High Altitude Configuration:高高度仕様)を説明したが、通常、テールローター効率向上と言うとブレード形状の改良や直径の増大などを考えるが、K2の場合以上のようにテールローターブレードの改良は一切無しで、ホバリング時における安定性を向上させていることに特徴がある。

 当初この改修オプションはスイス航空局の承認が得られただけの「REGA」専用の仕様 となっていた(注1)が、その後イタリア航空局の承認、FAA の承認を獲得、その後の機体に装備出来ることとなった。
このオプションを装備した機体は改修前の機体に比べ相対風に対し格段の向上があることが認められている。
尚、わが国に導入された富山県警の「つるぎ」もこれを装備している。


更にこのオプションはアグスタの誇る最新鋭機A109E POWER(パワー)にも受け継がれ、現在は標準装備となっている。(A109E POWERについてはまた別途特集したい。)

 このオプションにより、クリティカルコンディションでの安全性は更に向上している。
クリティカルコンディション(Critical condition:危険な状態)とはセットリング(注2)に陥りやすい高高度でのホバリングなどを指す。
高出力のエンジンを使用している為上昇性能が高く、高高度のミッションが多いことからこのような状態に陥 る可能性が高くなる。このオプションはそれを高い次元で補うための改修である。

 K2の操縦経験を持つパイロットの話によれば「実機を運用して(テストの為わざと)セットリングに陥りやすい状態にしても全く兆候すら感じられない状態」という 。
高高度のホバリングは難しく比較的高度が下がり易い、そのような緩い降下率の時セットリングに陥りやすい。この状態から離脱する為の条件は「十分なエンジンパワー」と「十分なテールローター推力」である。
K2はこのどちらも備えている為、高高度のホバリングが安心して出来る。
また、メインローターは全関節型の為、柔軟性があり乱気流に強いという利点もある。


以上

1)高出力(632shp)のアリエル1K1エンジンを2基装備
2)ハイ・アルティテュード・コンフィギ ュレーション
この2点が高高度で威力を発揮する秘密である。

 ヘリコプターの性能評価の一つに「どれだけ高い高度でホバリング出来るか」というものがあるが、このことを見てもKがいかに優れているかがお分かりになるだろう。

今後、本機が更に導入され、山岳地等で多くの人命救助に活躍することを期待したい。


お断り:

当初の予定では、Heli Expo'92に初登場した際のエピソードを掲載する予定でしたが、High Altitude Configurationについて正確を期す為、調査を依頼していたところ兼松エアロスペース株式会社(アグスタヘリコプター総販売代理店)殿より調査回答を頂きましたので、今回、詳細解説にかえさせて頂きました。
Heli Expo'92エピソードは次回(2月中旬頃)に予定しておりますので、ご了承下さい。


謝辞:

今回の特集にあたり、色々とアドバイス頂きましたK2に詳しい業界関係者の方々、資料のご提供及び調査にご協力頂きました兼松エアロスペース株式会社殿にこの場を借りて御礼申し上げます。


1999/1/24 初版作成
1999/1/31 加筆修正

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