「Mark2のカミーユ」より(「父と子と」にあたる話を変更)
回収された2機のMark2はアーガマのドックにあった。
降りてきたエマ=シーンとカミーユ=クロデアを迎えたのはクワトロ=バジーナである。
「歓迎する、と言いたいところだが、我々にはあなたの心変わりをストレートに受け入れることはできない、エマ=シーン中尉」
エマは少し身を固くして答える。
「当然でありましょう。けれど、離反は死にも値する罪です。その覚悟だけは理解していただきたい」
「エマさんは、私たちを救けてくれるつもりで...だから!」
うつむいたままだったカミーユが口を挟む。けれど、自分の言った「私たち」という言葉を反芻してまたうつむいてしまう。
「アストナージ、Mark2の機体をくまなくチェックしてくれ。誰かレコア少尉を呼んでくれないか?」
現われたレコア=ロンドはエマとカミーユを個室に案内した。
「人質を使うような作戦を考える敵中からやってきたのだから...。申し訳ないけど、身体検査をさせてもらうわ」
レコアは、エマより先にうつむいたままのカミーユへと近づいた。そしてその肩に両手をそっと乗せるのだ。
「辛い思いをしたね、カミーユ=クロデア」
それはレコアが自分の生い立ちとカミーユの体験を重ね合わせて言った言葉だ。自分の生き方をカミーユになぞらせたくない思いもあった。その言葉に、カミーユはつ、と面を上げる。瞳は涙を溜めている。
「泣きませんよ、私。親が死んだからって、私、もう泣きませんよ!」
「それがいいと思うわ、カミーユ。男は泣くと弱虫、と言ってもらえるけど、女はそこまでと見限られてしまう。涙は恋人の前までとっておきなさい」
「は..はい。...えっと...」
「レコア=ロンド。よろしく」
そういって柔らかく微笑むレコアは、女であるカミーユから見ても魅力的に見えた。控え目なセクシーさが、女としての厚みを物語っていた。
「では、この服に着替えて。私はそれを見ているだけでいいわ」
「それだけで?」
「ええ」
レコアに渡されたユニフォームのパックを受け取ると、カミーユはそれを一旦胸にぎゅっと抱いた。レコアにしてみればまだ若いカミーユに屈辱的な思いはさせたくない、という配慮だった。
「さて、エマ=シーン中尉、あなたはそういうわけにはいかないのです。金属センサーにも掛かっていただきます」
レコアは振り返るとエマに言った。
エマの身柄は当分の間、監視付の個室へ入れられることになった。
カミーユはレコアに連れられて、ブリーフィングルームに入った。そこには前回と同じように、ブレックス、ヘンケン、クワトロがいる。
「気分はどうかね、カミーユ」
「あまり...すぐれません」
カミーユは与えられたユニフォームの裾が気になっていた。ふだん男っぽい服ばかり好んでいたのでスカートのようなシルエットが落ち着かない。
「そうであろうな、心中お察しする。で、これからどうするつもりだね?」
ブレックスが柔らかく言う。
「どうするって...」
「この艦は敵の追尾を受けている。君の都合のいい場所に降ろすわけにはいかない」
「私には...もう帰るところがありません...」
「そうだな、これ以上知人を巻き込むわけにゃいかないな」
「ヘンケン艦長!」
レコアが無神経なヘンケンの言葉を制した。
「私になにか出来ることはありませんか?皿洗いでも、洗濯でも...ああ、レーザートーチも扱えますし、体力には自信があります!」
ブレックスはクワトロと目くばせをする。その意味はカミーユにはわからない。
「頼もしい言葉だな。この艦はどこも人手不足だ。しかし本当に君はそれでいいのか?」
「はい。何か身体を動かしてないと...おかしくなっちゃうそうです、私」
「カミーユ...」
レコアが膝に置いたカミーユの手に、そっと自分の手を重ねた。それが暖かかったから、カミーユは嬉しい。
「それはそうと、ブレックス准将、回収したMark2のパイロットの件ですが...」
クワトロが話の方向を変える。
「戦力としてはどうかね?Mark2は使えそうかね?」
「基本性能はリックディアスと同等です。モニター関係と装甲にはまだ問題がありますが、戦力としてはGMよりはマシです」
「Mark2が、リックディアスより劣るというのですか?」
カミーユが言った。
「一概にそうともいえんが...運動性能と出力は勝っているが、防御部分が弱いな。全天周モニタも不完全だし、パイロットの腕に左右される部分が多すぎる」
(そんな...母さんも、父さんもあれを作るために一生懸命だっだんじゃないの!それなのに?)
「装甲を例のヤツに変えることはできんのか?」
ブレックスは自慢のあごひげを擦る。
「月に行けば可能でしょうが...かなりの手直しが必要になるでしょう」
「ふむ...パイロットはどうするか、だな?」
「エマさんを乗せればいいじゃないですか、あんなに上手く操縦してた...」
カミーユは身を乗り出すようにして言った。
「それは君も同じだよ。それに彼女はまだ保護観察付きだ」
「案外、女性に向いている機体なのかもしれんな、Mark2は」
ヘンケン艦長の笑いにつられるように、ブレックス達が笑う。カミーユはそれが気に触った。カミーユの表情を追っていたレコアはすっと席を立った。
「カミーユ、部屋を用意しておいたわ。いらっしゃい、案内するわ」
住居ブロックへの通路は人が少なかった。アレキサンドリアに追尾されているせいで、緩戦闘配備のままだからだ。
「男社会なのよ、まだここは」
レコアはそう言ってウインクした。
「大変ですね、レコアさんも」
「あら、そう思う?」
「マドンナ、なんでしょう?この艦の」
「あらあら、そんなんじゃないわ。それにその座はもう奪われていてよ」
「え?」
「あなたによ。ブレックス准将も、クワトロ大尉もあなたにご執心よ」
「え..冗談はやめてください」
カミーユはぷっとふくれた。
「あなたを、NTだって言っていたわ」
「また、それですか」
「男は、ロマンティックな生き物なのよ。許してやってちょうだい」
二人は顔を見合わせ、少し笑った。
「レコアさん...優しい人ですね」
カミーユの言葉に、レコアはちょっと意外な顔をする。
「そういうことは、面と向かって言うもんじゃないわ。できればウワサとして流して頂戴ね」
カミーユは、レコア=ロンドのことが好きになった。
「殺風景な部屋だけど、勘弁してね」
「いえ、ありがとうございます。で、私、どうすればいいんでしょう?」
「お願いすることができたらそこのインターフォンを使って呼ぶわ。それまでゆっくりしていてちょうだい」
「はい」
レコアが去った後、カミーユは窓のないその部屋の、ベットに腰を下ろした。
「ああ」
身体の力が抜けて、枕に頭を落とす。目を閉じると、母の姿が横切る。
「はっ!?」
カミーユはその両手を目の前に掲げた。指先が血で濡れているような気がしたからだ。
「父さん...?母さん...?!」
目の奥が熱くなる。
「あ...」
(泣かない!泣かない!泣かない!)
カミーユは枕の端をつかんで、ベットに叩きつけた。
「わぁぁぁ〜!!!」
叫びながら、何度も叩きつけた。目を開いて、その白い塊のひずむ姿を見据えていた。
(泣くもんか!あの人たちのためになんか、泣くもんか!)
このとき、涙が渇れるまで泣けばよかったのかもしれない。カミーユの両親への思いは、ひずんだ形でその胸の奥にしまい込まれることになったからだ。
カミーユはレコアの連絡が待ちきれずに、部屋を出た。
勝手が判らず通路をうろついていると、クルーの一人が通りかかった。
「あの...厨房はどこでしょう?」
「ん?君、カミーユちゃん、だっけ?お腹空いたのかい?」
男はニヤリと笑った。
「...何かお手伝い出来ることはないかって、そう思ったんです!」
「だったら、ここを真っ直ぐ行って突き当たりを左だ。何か美味いもん作ってくれるのかい?」
「料理は...あまり得意じゃありません...。ありがとうございましたぁ!」
カミーユは唐突に礼を言うと、その男の側を離れた。
「かわいげないの...」
男はその後ろ姿を見ながら、つぶやいた。
厨房に行ったカミーユは、早速ランチパックの配給を命じられた。配付先はMSドックである。ワゴンに示された艦内マップを見ながら、数回迷った挙句、カミーユはドックへたどり着いた。
「みなさん、お食事をお持ちしました!」
カミーユはフェンス越しに作業に余念がないメカマン達に叫ぶ。
「遅いじゃないの!もう、そんなもん、食ってるヒマないの!」
冷淡な声が返ってくる。ドック内は慌ただしい様子で一種の緊張感に取り巻かれている。
(そんなこと言ったって...あ?)
カミーユは、刺すような感触を捉えた。そう、以前、グリーンノアのリニアカーで感じたあの感覚に似ていた。
(誰?)
カミーユはきょろきょろと辺りを見回した。そして赤いパイロットスーツの男と目が合う。
(クワトロ大尉?)
視線が合ったことを認めて、クワトロはカミーユに近寄ってきた。
「もう、いいのか?」
「なんのことです?」
「いや...」
「それより、どうしたんですか?敵襲ですか?」
「敵艦の動きに異常が認められた。こちらから撃って出るチャンスだという判断だ。いつまでも追いかけっこはゴメンだからな」
バスク=オムのブルネイへの移動のための時間だった。ティターンズの艦隊は準備のために速度を落とした。それをアーガマはキャッチしていた。
「Mark2は出すのですか?」
「いや、私はリックディアスの方が性に合ってる」
その言葉が、Mark2の性能への否定のようにカミーユには感じられた。
見回すと、2機のMark2はドックの奥にあった。一機は白くペイントされている。エゥーゴで使う、という気なのだろう。もう一機は両腕を外された形で固定されている。
(解体している?)
それは2機も必要ない、という意味なのだろうか?カミーユはそれを腹立たしく思った。
「クワトロ大尉、時間がありません!」
「おう」
クワトロはメカマンに呼ばれてカミーユの前を去った。
(大尉は、自信がないんだ)
カミーユは無意識にロッカールームを探していた。そして、そこにあったパイロットスーツを漁った。
(Mark2のこと、私なら知ってる。アポジの取付け位置、確かにヘンだけど...)
カミーユは父のラップトップから盗み出したMark2の設計図を思い描いた。それを何度も見ながら自分ならこうするのに、と修正を加えたりもした。前回のJr.モビルスーツコンテストでは関節部分の構造をコピーしたりもしたのだ。
自分の身体に合うサイズのパイロットスーツを着込んだカミーユは、ドックに舞い戻っていた。放置したワゴンの脇を抜けると、一気にMark2の所まで飛んだ。
リックディアスの出撃で、あたりに人はいない。
コックピットを開き、動力を確認した。アイドリング状態なら燃料の減りも少ないからだろうか、Mark2はすぐ動く態勢にあった。
「クワトロ大尉、私も行きます!」
「カミーユか?」
クワトロは回線をブリッジに回した。
「カミーユ=クロデアが出撃を求めていますが?」
「ばかもん!遊びじゃないんだ、やめさせろ!すぐに...」
ヘンケンの言葉をブレックスが遮る。
「いや...行かせてみよう。クワトロ大尉、手間を掛けさせるかもしれんが...」
「適性...ですか?」
クワトロは微かに笑う。
「お二人とも、甘いんじゃないですか?NTってそういうもんですかね?自分は知りませんよ、あんな若い娘が短い命を落とすことになっても..」
ヘンケンは呆れ顔でブレックスを見た。
「そうなったら、そこまでの運命ということだ」
表面の当たりとは違って、ブレックスは冷酷さも持ち合わせた人間だった。
クワトロ=バジーナはコックピットに座るカミーユの姿に、かつてジオンのパイロットであったララァ=スンを思い出していた。自分の恋人であった娘。奇しくも死んでいったララァとカミーユは同じ年齢であった。
(ララァの才能は私が見いだした。そして私には君にも同じものを感じているのだ、カミーユ)
エゥーゴにフラナガン機関のような組織はない。悠長にその力を調査しているヒマはないのだ。実戦でのテストあるのみである。
クワトロと、アポリー、ロベルトのリックディアスがカタパルトから発進した。カミーユもそれに続く。
「ガンダムMark2、カミーユ=クロデア、行きます!」
気合いを込めるように、カミーユは叫び、カタパルトを跳んだ。
(Mark2の性能、見直して頂戴よ!)
モンブランのGM隊と合流したアーガマのリックディアス隊とカミーユのMark2は後方、アレキサンドリアとそれに随行する3隻のティターンズ艦隊に向かっていた。
「30秒後、アーガマも追尾を開始する。艦隊戦になるから後方から味方に撃ち落とされんようにな、カミーユ」
「わかってます!」
クワトロの指示に、わざと生意気な応対をするカミーユ。強がっているのが誰からもわかってしまう。
「怖くなったら、Mark2の性能生かして戦線から急いではなれなよ、お嬢ちゃん」
ロベルトの言葉にカミーユはカチンときた。それが戦いの恐ろしさを忘れさせる。
センサーが数機のMSを確認した。ハイザックとガルバルディβ。奥にアレキサンドリアを捕らえることのできる地点だ。アポリーが声をあげる。
「おうおう、お早いお着きで」
「GM隊は予定どうりアレキサンドリアへ向かえ。MSはこっちが引きつける」
クワトロの言葉に、GM隊が散開する。自分への指示のないカミーユはクワトロ達と行動を共にする事にした。カミーユはMark2の性能が対MS戦で発揮できると確信していた。
ハイザックのコックピットで、ジェリド=メサはその白い機体を確認した。
「Mark2だと?ふざけやがって!乗っているのはエマじゃないんだろうな?」
2度も目の前からMark2を奪われたジェリドは塗りなおされたそのボディに憤りを感じた。自分が乗るはずであった機体。それが自分と相対する。彼はその怒りに任せてMark2へと突進した。
「来たっ!」
カミーユは少し身を固くして、Mark2のビームライフルを構えた。照準を合わせて、一発。あたりはしない。
「速いっていうの?」
マシンガンの応酬。シールドを構えつつ、スラスター出力をあげる。
「Mark2、狙われてるんじゃないか?」
ロベルトが別のハイザックと交戦しながら言う。
「Mark2じゃ、仕方ない」
アポリーはそう言ったが、機体は前方の敵へと向かっていた。
カミーユは向かってくるハイザックにビームライフルを撃つ。
(照準に癖がある?なんで?)
かすりもしないビームライフルに、カミーユは焦りを感じた。ジェリドのハイザックの回避も速いのだが、それを捉えている自信はあった。
(判ったよぅ!)
カミーユはビームライフルをサーベルに持ち変える。カラテをやっていたカミーユは、接近戦のほうが性にあっていた。バーニァをふかせて方向を変えると、ハイザックの方に向き直った。
「エマか!エマ中尉なのか?!」
ハイザックのジェリドが叫んだ。
「あんた...ジェリド=メサとかいう...」
「おまえ、カミーユとか言う小娘か?!」
「そうだよ!悪いか!」
カミーユはハイザックに向かって叫んだ。
「お前が、お前のようなジャジャ馬がいなけりゃな、エマだって...!」
ジェリドは同僚であるエマを嫌ってはいなかった。だから悔しい。
「ちがうだろ!お前たちみたいな威張った連中がいるからだよ!」
「黙れ、小娘!」
マシンガンが、乱れ飛んだ。回避運動のためのアポジモーターを点火したカミーユはそのバランスに躊躇した。
(制御のプログラム、書き換えてない!)
その態勢の変化に、ジェリドはパイロットの不慣れさを感じた。
「お前のようなヤツをパイロットにするエゥーゴってのは、よっぽど人材不足なんだな!」
ビームサーベルを振りかざすハイザックが迫ってくる。カミーユは咄嗟に、Mark2を逆に急接近させると、その腕を突いた。突きながら、ビームサーベルをONする。光の剣はハイザックの両腕をもぎ取った。
「ばかな...!」
ジェリドは狼狽したが、組んだままのMark2は離れようとしない。
Mark2のモニタ表示に、敵接近のアラームが鳴る。
「はっ!」
「ジェリド、そのまま押さえておけ!」
カクリコンのハイザックが2機の後方から接近していた。カミーユは全天周モニタの映像に違和感を憶えた。
そういうことなのだ、とカミーユは思った。
Mark2は実地テストの最中だったのだ。各所の設定は技術者の頭の中だけで決められたもの。Jr.MS大会で2連勝したカミーユにすらその修正箇所が判るくらい、そのセッティングは実戦では未完成だった。
(それをエマさんは...!)
カミーユはエマ=シーンの実力に舌を巻きながら、後方から迫るハイザックに注意を向けた。回避運動を行おうとするが、ジェリドのハイザックが絡みついたままだ。
「離せよぅ!」
しかし、ジェリド機が接触しているかぎり、火器の攻撃はない。カミーユはスラスターの出力をあげた。
「カクリコン、かまうな、撃っちまえ!」
ジェリドは反発するようにバーニァを吹かし、Mark2の動きをカクリコンのハイザックの軸線上へ持っていこうとする。
「目の前をその機体でうろちょろされるのはゴメンだぜ!」
カクリコンはビームライフルを放った。その一撃が、Mark2の腕を奪う。
(やられる?)
カミーユは恐怖した。
「死ねよ、小娘が!」
「でもっ!パワーだけは負けないのっ!」
カミーユは、バーニァの全出力を最大にすると、自分を軸に、ハイザックを回転させた。まるで投げ、を放つ恰好。
カクリコンの放ったビームライフルはそのハイザックの脚部を破壊した。
「やりやがったなぁ!!」
衝撃でハイザックから離れたカミーユは機体を立て直しながら、残されたMark2の右腕にビームライフルを持ち直した。
その時。
アーガマから発射されたメガ粒子砲が、彼らの脇を抜け、アレキサンドリアの左舷に命中した。
「何?!」
カクリコンの隙を突いて、背後から赤いリックディアスが接近していた。そのビームピストルが、ハイザックの頭部を粉砕した。
「ちぃ!」
カクリコンはサブカメラを使いながらジェリドの破損したハイザックを回収しつつ、アレキサンドリアの方向へ引き上げた。
「カミーユ、無事か?」
「は、はいっ!」
「艦隊戦だ、ここを離れる、ついてこい」
リックディアスのクワトロ=バジーナは、モニターに映されたMark2のもぎ取られた腕の付け根を見ていた。
かろうじてブルネイにバスク=オムが移動したのを確認したアレキサンドリアとその艦隊は、一時的にそのポジションを後退せざるを得なかった。その隙に、MS部隊を回収したアーガマとモンブランは航行速度を上げ、地球に向けた航路へ軌道を修正した。距離を稼ぎ、作戦を実行に移すためである。
アーガマのドックに収容されたMark2から降りてくるカミーユを見たクワトロはその傍らに近寄った。沈んだ表情を浮かべているカミーユ。
「腕を破損したことか?」
クワトロはそれだけの損失で済んだことに満足感を得ていた。
「...なおさなきゃいけないんです」
カミーユはぽつり、と言った。
「アポジモーターの角度、ビームライフルの照準、それから腕関節の動作角度が狭いんです。全天周モニターだって完全じゃない。装甲だってリックディアスに劣る。Mark2は...」
「わかった、カミーユ。お前はそれが判るのだな?」
「はい...。けれど...」
クワトロはドックを見渡すと、アストナージを呼んだ。
「カミーユ、彼と相談しろ。Mark2は悪い機体ではない。君が今日それを証明した」
「クワトロさん...」
クワトロはカミーユの肩をぽん、と叩いた。
カミーユにはそれが暖かさを持っていたようで少し嬉しかった。
メモ:
●ヒルダをとっとと死なしてしまったので、ここはオリジナルエピソード。カミーユがアーガマでどう捉えられているのかを描写。
●のべつまくなしおねーさんを好きになる男カミーユと違って、レコア、エマの二人との関係は難しい。レコアの女っぽい優しさがカミーユの気に入る、という感じでしょうか。アーガマではじめて心を許した人、って扱いね。
●このカミーユは男カミーユより性格が真面目ですね。強いし。でも女でアレをやったら誰も見向きしなくなるっス。でもやっぱりかわいげはないね。
●アーガマのクルーの当たりが少し優しいのは女の子だから、ですね。戦力としての認知への流れがちょっと甘いかも。ララァ引き合いに出したのは反則でしょうか?(^^;)勝手に出撃、の多い男カミーユですが、そんなにアーガマっていいかげんなんですかね?ってことで、許可アリの出撃です。ちなみにカミーユがクワトロに惚れたり、その逆とかをやる気はありません。そのあたりの描写を強化しないと。