ANOTHER STORY of "Z"「機動戦士ZガンダムSILVER」  


「大気圏突入」

 

ハリオからのエゥーゴ艦隊集結の情報を得たアレキサンドリアは、急ぎその追撃をすべく、地球へと向かっていた。9隻もの艦隊が集結し、MSを地球へ降下させようと展開しているとは予測外の行動であったが、ジャマイカンは迅速に対応した。MS隊を衛星軌道上で攻撃、そののち地球へ--ジャブローへ降下させる、というものである。
通達を受けたMSデッキは混乱していた。若いMSパイロット達は、MS単独での大気圏再突入など経験したことは無かったからだ。

「エゥーゴは、シャトルとかHLVとか、そういうの持っていないのかよ!」

巻き添えを食った、という印象は否めない。バリュートによる降下は、臨時の対処としてしか訓練を行っていないのだ。しかも敵の数は多いと予測されていた。ジャブロー降下後、即地上戦に突入するのだから、武装も多めに装備しなくてならない。しかし、ティターンズにとって、ジャブローに攻め込まれるという致命的な作戦をエゥーゴに成功されるわけにはいかなかった。“決戦”というに等しい決意が、皆の脳裏をよぎる。
慌ただしい雰囲気の中で、カクリコン=カクーラーは、一人小さなため息をついた。

(地球へ降りる、か)

カクリコンは地球にいるはずの金髪女性を思い出していた。半年会っていないが、元気である旨のメールはグラナダ駐留中に彼のもとへ届いていた。結婚の約束などしていないのは、自分がティターンズに配属になって忙しかったせいでもある。宇宙と地球との距離は、地球育ちのカクリコンにとって想像以上だった。この距離を解消するもの、絆として籍を入れることは単純ではあるが必要なことだと彼は思いはじめている。そのためにはきっかけが必要だった。何か手柄を得なくてはならない。昇進の報告くらいなくては、自分のプライドが許せないことくらいカクリコンは承知していた。

(エゥーゴのMS隊...金色のヤツが頭だな)

対戦経験から、彼はそう確信していた。Mark-2は自分達にとってこそ目障りであるが、単に運が良いだけで、重要な役割をしているわけではない。
カクリコンは今回の戦いを金色--百式にターゲットを絞ることを決心した。

「待っていてくれよ...」

そう口にしたとき、艦内放送が流れた。

「ハリオ、エゥーゴ艦隊と接触。当艦隊もまもなく目標ポイントに接近。各員戦闘配備!」

「衛星軌道での戦闘確定かいっ!シャレになんないぜ!」

バリュートカプセルを確認していたジェリドが叫ぶのを、カクリコンは他人事のように聞いていた。

 

エマ=シーンのリックディアスは右腕の付根から細かい電気的な火花を散らせていた。爆発の危険は無いが、ダメージは軽いとは言えない。

「カミーユ、大丈夫?」

自機のダメージを余所に、エマはMark-2に残ったリックディアスのアームを接触させ、そう言った。

「え、ええ...」

「戦えて?」

エマには判っていたのかもしれない。だから真っ先に敵に向かって行ったのだ...そうカミーユは思いたかった。戦場にいる女同士として。戦いと関係のない意識を放出する敵の存在、殺意よりずっと厄介な感情は、今までになくカミーユの動悸を早めている。メッサーラが姿を消して、少し感情の高ぶりが納まってきた彼女は、ようやく言葉を選ぶことができた。

「ありがとうございます...でもエマさんは...」

「私はもうジャブローには行けないわ」

リックディアスのボディを見たカミーユは、エマの言葉を理解した。バリュートの固定バンドが右腕と共に切断され、安定を失っている。

「フライングアーマー、使いますか?」

「代わってあげたいと思うけど、訓練をしていないわ」

エマは今のカミーユは少し休息が必要だと思う。しかし状況はそれを許してはくれないだろう。

「そうですね。私、もう大丈夫です。戦列に戻ります」

「カミーユ、お願いね」

無理をしないで、と言おうとして、やめた。作戦の前に似つかわしい言葉ではなかった。
カミーユは、エマが接触回線(プライベート通話)してくれたことに感謝していた。彼女はきっと詳細を始末書には載せないだろう。書いたところで理解してくれる男がどれくらいいるかも疑問だが。

「行きます。エマさん、また後で会いましょう」

「ええ」

エマはリックディアスの肩の損傷に消火剤をかけながら、去っていくMark-2のフライングアーマーのブースターと、翼の先端の認識灯の輝きが流れていくのを見守っていた。

 

「レコアからの連絡は無かったか...」

地球を見下ろす百式のコックピットの中で、クワトロはつぶやいていた。水色の輪郭で覆われた球体の上に広がる南アメリカ大陸が、くっきりとモニターに映し出されている。かつて雨期だったこの季節だが、気性の変化で雲一つ覆い被さっていない。それでもアマゾン川にしがみつくように広がっているジャングルに、クワトロは羨望の念を抱いた。自然というものの力は、コロニーで生活したものなら、誰でも抱く憧れである。

「敵MS隊接近!」

ザラザラとしたノイズに混じって、思いがけない通信が入る。

「無茶をする!」

しかし、有り得ないことではなかった。かつて自分もその作戦を行ったことがある。7年前はまだバリュートが実戦配備されていなかったから、突入カプセルに戻ったが、現在なら戦闘しながらの降下も不可能ではなかった。
今度は自軍が攻撃される側なのは皮肉なことだ、とクワトロは思った。

 

ブライトはアーガマのブリッジで怒鳴っていた。

「砲撃手!何をしている!」

新任であるという自覚はとうに失せ、現場に順応していた。ティターンズの艦隊は無勢ながら、こちらの実戦が不慣れな隙を突いてMS射出ポイントまで接近していた。ブライトにはそれが許せない。

「バリュートを展開したらMSなどデク人形以下だ!上から狙われたら終りなんだっ!」

艦砲射撃の間をかいくぐるように、敵のMSが接近してくる。バリュートの装備も確認できた。

「ライフル、射出できませんかっ!」

エマからの通信だ。

「しかし、損傷が...」

シーサーが、困惑の声をあげているのを見兼ねて、ブライトが叫ぶ。

「エマ中尉!戦えるか!」

「バインダーが効いています。大丈夫です」

リックディアスが人間臭い動きでバリュートカプセルを脱ぎ捨てるのを見ながら、ブライトはシーサーに武装パックの放出を指示した。

「2/3が降下できればジャブローは制圧できる...!エマ中尉頼む」

エマの緊張した表情がモニターに流れ、ブライトはそれに祈った。

 

アレクサンドリアから出撃したカクリコン達は、艦隊戦の火線をくぐり抜けながらエゥーゴのMS隊に接近しつつあった。広域に展開するMSは各小隊にまとまりながら、ジャブローへと降下できるポイントに向かっている。

「バカな作戦を考えやがって!」

ジェリドは心の底ではそうは思っていなくても、口からはエゥーゴを罵る言葉しか出てこない。そう教育されている。ティターンズが真実であると。
サイドから接近する物体をセンサーが捕らえた。同時にビームの攻撃。

「1機のMSで何ができる!」

「我々は地球降下のMS隊の阻止が目的だ、構うな!」

カクリコンの号令に、ハイザックのパイロット達が応答した。が、その内の1機が悲鳴をあげる。

「うわっ!ダメです!」

エマのリックディアスは巧妙にカクリコン達の後に回り込みながら、最後方のハイザックを落とした。

「赤い...うう、エマ?」

ジェリドが呻く。いい女だと内心思っていなかったわけではない。その情が反転して、憎しみが増すのはジェリドの性分だ。

「ジャマはさせない!私がジャブローに行けないのだから!」

エマは両肩に力を込めた。トリガーにかかる指にも気迫がこもる。放たれるビームの輝きもそれを反映するように狂暴になった。
また1機、ハイザックが火球に変わった。ジェリドがキレる。

「カクリコン!ここは俺に任せろ!お前たちは先へ行けっ!」

「Mark-2は向こうだぞ!」

「カクリコンに任せる!お前は地球へ降りろ。俺はあいつを...」

「エマ=シーンか?そう思うのか?」

「今はエゥーゴの戦力だろっ!」

ああ、ジェリドがそう思うなら...カクリコンは友人の病気が改善しつつあるのだと安心した。戦争は個人的な恨みで戦うことを良しとしない。いつまでもMark-2にこだわるジェリドは命を粗末にしているようにカクリコンは思っていた。

「地上で待っている!ジェリド頼む」

「ああ、そんときは、彼女、紹介しろよ」

「ははっ...!」

カクリコンは片頬で笑うと、ジェリドのモニターに向かって親指を立ててみせた。鈍いジェリドがメールのやり取り程度で、そのことに気がついていたのが嬉しかった。
ジェリドはマラサイを反転させた。

「エマ、もういいかげんにしろっ!」

聞えることのない叱咤を、ジェリドはヘルメットの中で叫んだ。

 

カミーユはセットされたタイマーをカウントしていた。クワトロの百式の務めるトップは、既に重力の影響下に入っている時間だ。追いつけないことも無いが、敵影が気になる。

「私が一番身軽なんだからっ!」

萎えていた戦意を、奮い立たせるようにカミーユは叫んだ。
エマの残る戦場は、自分の方へと移動しつつある。
フォーメーションを組むネモ達の向こうに、それを乱す形のブリップが現われたとき、カミーユはMark-2をそちらに向けた。

 

エマは1機だけ自分に向かってくるマラサイに舌を打った。新型の機動性は先の戦いで体験済みだ。だが、味方に向かう戦力を減らしたことには違いない。

「落としてやる!」

エマはビームピストルを構え直して、マラサイに迫った。ジェリドも高揚していた。パイロットの顔が見えるほど燃えるタイプは、1対1の戦場では強気だ。

「腕がいいのは知っている!だかその損傷した機体では負けられない!」

ジェリドは機体を反しながら、ビームライフルを乱射した。リックディアスは鋭く回避する。腕はなくとも、機動力が左右されることはない様、設計されているのだ。武器を持つマニュピレーターが減っただけだ。もともとエマは火器とサーベルを同時に使うようなセンスまでは持っていない。

「その力を、どうしてティターンズの為に使わないんだっ!」

かすめるビームを回避しながら、ジェリドは叫び続ける。叫ぶことが彼の気合いを高める。
エマにはその叫びが聞えたような気がした。通信のレンジは合っていないはずなのに、その声がジェリドのものであるような気になった。

「私は自分の信念に正直に生きたいだけ!」

ちょっとしたタイミングのズレが、自分とジェリドの立場を変えた。もしジェリドがバスクの使者としてアーガマに行き、自分がフランクリンのカプセルを撃つよう命令されていたら...自分は間違いなくカプセルを狙撃しただろう。そしてカミーユに殺されていた。ジェリドは単純な男であるが、正しいこと、間違ったことくらい理解できるはずだ、とエマは思う。

「ティターンズはおかしい!ジオンの残党を狩る、という名目で、私はジオンの残党など会ったことはない!ジェリド、あなただってそうでしょう!」

「目を覚ませよ、エマ!でなきゃ、俺が殺してやる!」

ビームの閃光を発しながら、二人は聞こえもしない会話を交していた。
殺意のある分、ジェリドの気迫の方が勝っていたのかもしれない。マラサイのビームライフルが、リックディアスのマニュピレーターにあるビームピストルを粉砕した。

「ちぃっ!」

エマはサーベルを抜くと、マラサイを追った。接近するリックディアスにジェリドはライフルを撃ち続ける。フロントアーマーの一部が吹き飛ぶが、エマは怯まない。

「ジェリドっ!」

「エマっ!」

切りかかるリックディアスの一太刀を、ジェリドはビームライフルで受けた。切断されたライフルがはじけ飛んだが、お互いそれを避ける事もせず、次のアクションへと移る。エマは返す刀でマラサイの胴に切りかかり、ジェリドはシールドの裏に納めてあるビームサーベルを抜いた。受けたビームの刀が激しいスパークを産む。

「やるっ!」

エマは一瞬、リックディアスをマラサイから引き離す。そしてもう一度バーニァを全回にしてマラサイに向かって突進した。
ジェリドにはその動きが読めなかった。
ガシッ!!
激しい衝撃が2体のMSを包む。機体が大きく流される。
エマはここで大きな間違いを犯したことを知った。2つのMSは絡み合ったまま、地球に近づいていた。落ちるわけにはいかない。咄嗟に、リックディアスの二本の足で、マラサイを蹴った。同時にバーニァを吹かす。マラサイを振り払い、エマは重力の影響下から離脱した。

「逃した....っ!」

(私には、かつての仲間は殺れない、というの..?)

エマはアーガマに自分は戻っていいのだろうかと、自問した。

 

「金色は...やはりトップか!」

地球に背を向ける形で構えるネモのライフルの雨をかいくぐって、速度を落とさないカクリコンのマラサイ達はMS隊の中に突入していった。これだけ密集していればそうそうネモ達もビームライフルを発射することはできない。逆にカクリコン達は撃ち放題だ。センサーが捕らえるトップグループは既にバリュートを展開している様だった。それならば、いくらエゥーゴのエースであっても落とすことは容易い。カクリコンはジャブローを見下ろす方に向かって機体を降下させていった。
マラサイのモニターが、見慣れぬ形状の機体を捕らえた。

「なんだ?あれは」

向かってくるデルタ型の機影が、Mark-2だとカクリコンは一瞬判らなかった。ウェイブライダーという再突入システムを実戦配備したことなど知らないのだから、フライングアーマーに乗るMark-2が、小型の突入カプセルにしか見えなかった。そのデルタ型の機体が、ビームライフルを撃ってきた。

「ガンダムMark-2!!」

デルタ翼のベースジャバーのようなものに寝そべる機体は、白いMark-2に他ならない。

「金色はその下か!」

既にマラサイは重力に引かれ、急速な落下をはじめていた。限界地点までに百式に追いつくことは計算上可能なようだ。しかしMark-2がジャマをする。
ビームの攻撃が襲う。だが、狙いは外れている。マラサイのモニターの視界を、フライングアーマーの鋭いシルエットが横切っていく。

「運が良いだけのパイロットが!」

カクリコンはビームライフルを構えた。既に機体は激しく振動し始めている。上手く照準にMark-2を捕らえることができないまま、ライフルのトリガーを引く。狙った方向にビームは向かって行かない。

「それなら、向こうも同じなんだろう!」

カクリコンはバーニァを吹かすと、Mark-2の後を追い始めた。

「カクリコン中尉!高度が!」

ハイザックのパイロットが叫ぶ。既に訓練で示されたバリュート展開高度まで降下していた。同じ連邦軍のマニュアルを使っているのだろう、辺りに展開するエゥーゴのMS達も一斉にバリュートを開き始めた。

「お前たちは、行けっ!俺は...!」

(バリュートを開いたら、金色には届かない...)

まだ、限界高度と示されている所までは至っていないのだ。カクリコンは大きく旋回するMark-2に警戒しながら、落下の振動に耐えていた。

 

エマのリックディアスに突き落とされた形のジェリドは、マラサイの機体を、ジャブローへの降下ポイントに移動させる努力をしていた。背負ったバリュートパックが本来のバックパックのバーニァを覆っているため、出力が低下している。しかし再突入で迷子になるような間抜けな行為は御免だ。

「カクリコン!マサダ!何処だっ!」

センサーは振動で正常な状態の半分の性能しか発揮できない。モニターにはネモの機体と花開くバリュートしか掴めなかった。エゥーゴも同じ装備を使っているため、バリュートに包まれたMSは自軍のものなのか敵のものなのか判断はつかない。

「あれは...?」

再現性の悪い映像の中に、交戦中のビームの光が見えた。拡大表示をするが、荒れた画像であることはかわりない。だがジェリドのカンは、デルタ翼をもつ機体がMark-2なのだと思った。そして未だにバリュートを開かず応戦しているのが自分の部隊だとも判る。
味方に合流したいと願う。しかし、ジェリドはモニターに表示される高度表示に気を取られた。機体を包む振動も、状況を如実に反映していた。

「ここまでだっ!」

バシュゥ!という擬音を頭に描きながら、バリュートのお椀のような膨らみがマラサイを包み込む姿をモニターで確認した。ボディは上手く反転して、落下形態はちゃんとマニュアル通りに型にはまった。
しかし、ジェリドは思う。このポジションから再突入して、自分は何処へ落ちるのだろう。単独行動で落下していく不安が、赤みを帯びるモニター表示と共に彼を取り巻く。

「カクリコン!俺を、ジャブローまで引っ張ってくれ...!」

それは悲鳴に近かった。

 

次々に開いていくバリュートの花を見ながら、カミーユはシューティングゲームのビギナークラスの的のようだと思った。落下速度が遅く、軌道修正も出来ないバリュートによる落下は無防備すぎる。ウェイブライダーによる再突入がこうも戦闘で有利になるとは自分の想像以上だった。もちろん再突入時に敵味方が入り交じったり、まして戦闘を行うのは正常な行為ではない。彼女はビームライフルを自分の右手に落下するハイザックに向けようとしてやめた。こんな時にスポーツマンシップもないだろうが、明らかにフェアでない気がしたのだ。
しかし、オレンジの新型MS、マラサイだけは、今だバリュートを開かず、降下を続けていた。ライフルのビームが威嚇するように発射されている。

「死ぬ気?あのMS!」

そうは思いながらも、無鉄砲に放たれるビームライフルが周囲のMSのバリュートを破壊していく光景を、カミーユは許せなかった。このまま落下していけば、トップグループの百式も射程範囲に入るだろう。

「行かせないよっ!」

カミーユはフライングアーマーを旋回させた。カクリコンもMark-2が自分の方に向かっているのに気がついてライフルをしまうと、ビームサーベルを抜いた。照準の定まらないビームライフルより、こちらの方が確実だ。

「ジェリドの代わりに、引導を渡してくれる!」

切りかかるマラサイの気迫に、カミーユは怯えた。ライフルを乱射するがそれは見当違いの方に飛んで行く。しかしフライングアーマーに寝そべる形ではサーベルは使えない。

「うわぁっ!」

咄嗟に、フライングアーマーの機首をあげる。ふわり、と機体が上昇する。
マラサイのビームサーベルは、空を切った。

「当たらないのなら!」

カミーユは落下姿勢を崩し、Mark-2の上半身を上げ、肩のビームサーベルを掴んだ。小さく旋回すると未だ追ってくるマラサイの正面に向かって突っ込んで行く。

「今度は逃さん...うう?」

マラサイの装甲は既に摩擦熱で赤く輝いていた。外気温と高度を測るセンサーが自機の危険を察知する。エマージェンシーが働く。
バシュゥ!!
大きな振動がマラサイを包み、オートマチックでバリュートが開いた。

「なんだと!」

「あ....っ!」

突然、速度の落ちたマラサイを、カミーユは避けようとした。確かに、避けた。しかし落下するフライングアーマーは高速だ。かすめた翼が生み出すソニックウェーブがバリュートを引き裂いた。

「こんな事...!」

バリュートを失ったマラサイのボディは真紅に輝いた。脆い腕の関節がもぎ取られ、続いて頭部がくだけた。高温を感じるコックピットの中はノイズの嵐に囲まれていた。しかしそれもしばらくすると治まり、カクリコンは闇に包まれた。

闇が亀裂を生じる。カーテンの向こうに朝の光が差している。カーテンを開いた白く華奢な腕の持ち主が、自分の方を向いて微笑む。
ああ、アメリア。

「行ってらっしゃい」

口もとの柔らかいカーブが、自分に未練を与える。宇宙に赴任することが決まっても、愚痴一つ言わない彼女は自分に出来すぎた女だ。
迎えに行くから。
黒いティターンズの制服に、金色の階級章。
俺は、お前を迎えに行くから。

 

ジェリドはモニターに小さく映るカクリコンの機体が消滅するのを見ていた。
泣いていた。

「カクリコン...っ!」

吐く息がヘルメットの中で熱かった。
彼は再び隣人をカミーユに殺されていた。

 

 


メモ:

●話を2分したというのに、また結構な長さになっちゃいました。エマはこれが前半最後になるので、出番作ってます。「地球に降りる!」って駄々をこねるエマってなんだかなさけないんでカッコよくしたかった。


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