ANOTHER STORY of "Z"「機動戦士ZガンダムSILVER」  


「シャトル発進」

 

巨大機ガルダの足はそう速いものではない。

それでも夜が明ける頃には、ガルダ2機を従えたハヤト=コバヤシのB-70バルキリーはフロリダ半島のケネディ・スペース・ポートに着陸していた。

「空港はフリーパスなのか?」

「ケネディは南西部のカラバの拠点です。職員もすべてカラバの協力者で押さえてあります」

「北米には連邦軍基地は多い。よくもまぁ、これだけの準備ができたものだ」

「始めての大がかりな作戦ですよ。カラバの意地が掛かっていますからね」

巨大なガルダの足もとを、クワトロとアポリーを乗せたハヤトのエレカが走っていく。エゥーゴのメンバーのカラバに対する知識は少ないのだが、カラバは『エゥーゴを支援する』という姿勢を取っているため、誰もが好意的な表情を浮かべて彼らを迎えていた。
後部ハッチの大きな開口部の下で、ハヤトは一瞬エレカを止めた。

「ガンダムのパイロットはいるか!」

「あ、はい?」

パイロットスーツの上着を腰で結び、工具の点検をしていたカミーユは慌てて立ち上がった。5月のフロリダの陽射しはもう真夏のようだ。

「きみが?」

例によってハヤトは少女であるカミーユに多少の引っかかりを感じながらも、言葉を続けた。

「カイ=シデンはどこにいったのか知らないか?」

「ええ、あの方ならレコアさんと空港ビルの方へ行きましたよ?」

「そうか、ありがとう」

ハヤトは短い礼を言うと、すぐにエレカをスタートさせた。

「学徒動員、なのですか?」

ハヤトは、かつての自分を思い出しながら、クワトロに尋ねた。

「カミーユのことですか?あれはちょっとした事情があるのです」

アポリーが吹きそうになる。

「話せば長くなるが、一言で言えば志願兵のようなものです」

「志願兵がガンダム、に?」

「あれは彼女の私物みたいなもんですよ、ハヤトさん」

いよいよ判り辛くなるアポリーのフォローに、エレカが空港に併設された建物に到着したこともあって、ハヤトはそれ以上を聞くことをやめた。

 

 

空港ビルの中で、レコア=ロンドはカラバの女性メンバーと事務的会話を交していた。

「ええ。名簿は公開できませんが、エゥーゴは全員で47名。捕虜は62名いるわ。こちらのリストは作成済みです」

手書きの書類を受け取る女性は、大学生のように若い。

「捕虜の身柄はカラバが引き受けます。スードリに移動させてください」

「ああ、それから...こちらの方、民間人で...」

レコアは連れてきたカイの方を振り返った。しかしその姿は見えない。おやっという顔を見せたレコアに、カラバの女性が言った。

「後の方、先ほどトイレの方へ行かれましたよ?」

「戻ってきたら、意向を確認していただける?彼は同志ではないけど、敵でもないから」

レコアは女性から渡された着替えの方が気になっていた。囚人服という衣を脱ぎたくてアウドムラにあったノーマルスーツを着込んだものの、サイズの合わないそれは着心地が悪すぎた。

「判りました。更衣室はあちらを使ってくださいね」

レコアの気持ちを察した女性がそう言ってあどけなく微笑むのを見て、レコアは礼を言ってその部屋に向かった。彼女の意識から既にカイ=シデンという男の存在は消えつつあった。

 

空港に併設するように建っている戦争博物館はハヤト=コバヤシが館長を務めていることもあり、以前からカラバの集会場でもあった。

「シャトルは2機しか用意できませんでした。しかも博物館もののロートルです」

「2機か。贅沢は言えんな。飛べるのであれば問題はない」

「ヒッコリーからもう一機出す手配は行ってますけどね」

ハヤトはクワトロを連れ、薄暗く人気のない建物の中を進む。中央のエスカレーターで2階に上る二人は、すぐ脇に展示されているガンタンクのほうをちらりと見た。

(カイさん、どこにいっちまったんだ?)

あまり功績らしいものを残せなかったガンタンクは、ア・バオア・クーで回収されたのち、外見だけを補修して因果にもこの戦争博物館に寄贈された。スポンサーはその横にガンキャノン、ガンダムも飾りたかったのだが、嘘っぽいレプリカはハヤトの好みではない。カイは戦後ホワイトベースのMSパイロットとして働いたにも関わらず、うまく連邦軍の管理体制の網をくぐり抜け、それ以降公に姿を現すことはなかった。セイラ=マス同様、フラウとの結婚式にも電報を寄越しただけで参列していない。ハヤトは戦争の末ころから挙動不審になり始めたセイラをチームメイトとしてあまり信用していなかったが、妙に人間臭いカイ=シデンには魅かれるものが多く、カラバとしてでなく、個人的感情からずっと会いたいと思っていた。しかし、その姿は忽然と消えていた。
展望室に上る踊り場の扉の奥は、急拵えのシャトルの管制ルームと化している。

「準備はどうだ?いけそうか」

若いスタッフは皆まちまちのカジュアルな服装でそれぞれの作業に集中していた。軍隊生活の長いクワトロは一瞬頼りなさを感じざるを得なかった。同好会の集まりのようである。

「大尉はこういうのお嫌いでしょうが、ここは軍隊ではありませんから」

クワトロの表情を読んだのか、ハヤトが床に転がるドリンクの空き瓶を拾いながら言った。

「いや、たいしたものです。軍人は命令をされねば動かないものですが」

「ここの人間は全てボランティアみたいなものですよ。誰の命令を受けているわけではない。便宜上、私が指示系統を行ってはいますがね」

ボランティアで命を張れるものなのか、とクワトロは思う。

「ああ、ハヤト館長、アーガマとの交信ですが...」

ピンクのシャツを着た青年が、レシーバーを耳に、振り返った。

「どうなんだ?」

「受信はイケてます。3度ともバッチリっすよ!」

「早いな。暗号コードは判る。033のヤツだ」

クワトロは即座に言い返すと、乱雑な床を飛び越えるようにして通信士と思われる青年の脇へと駆け寄った。

 

ハヤトはシャトルの発進の手筈が調ったことを確認すると、階下の館長室へと向かった。シャトル発進後ハヤトたちカラバのメンバーはアウドムラで脱出する計画だが、その前に再度、不都合な資料かないか点検をしておきたかったのだ。
ドアの前のメールポストに、一通の封筒が差し込んである。

「なんだ...カイ?!」

手に取って裏のサインを見たハヤトは言葉を詰まらせると、急いで部屋の中へ入ると慌てて封を切った。
カイの残した手紙には短く、こうあった。

『俺はジャミトフの行方と目的を探る。それが俺の今回のヤマだから。判ったら真っ先にお前さんに流す。カラバかエゥーゴが先に知ったんなら意味がないことだがね。集団行動は得意じゃないから先に行くが、命は大事にな。
 p.s.クワトロ=バジーナ大尉はシャアだ。確信はないが俺のカンだ。7年たっても、どうも俺はあの男が気に入らないらしい。敵だったからじゃない。シャアの過去は謎のままだ。ジャーナリストの端くれとして、納まりが悪いとだけ言っておく。』

「シャア、赤い彗星のシャア?」

ハヤトは手紙をポケットの中に突っ込むと窓の外を見た。打ち上げ用のシャトルが2基、燃料パイプを連結されて発進の準備を行っている。周りにはカラバとエゥーゴの人間が慌ただしく動き回っていた。

「やはり、生きていたのか」

先ほどまで良く晴れていた空に、雲が流れ始めている。
ハヤトは雲の黒さに不安を感じながら部屋を出た。

 

ブラン=ブルダークは北米を統括する連邦軍基地であるキャリフォルニア基地の所属であった。ジャブロー攻撃後のエゥーゴの動きを察知したティターンズに急きょ組み入れられた形ではあるが、その唐突な配属には戸惑いを感じないわけではない。
辞令を受け取った次の言葉で出撃の命令が下ったとき、ブランは軍という組織の傲慢さを知った。

「オーガスタ研も動くんだな?」

「先に派遣されたベン=ウッダー大尉が司令を受けております」

「おう、合流の前に一仕事しておかねばな」

ブランはアッシマーのエンジンに火を入れた。可変MSのアッシマーはMA形態で大気圏内をサブフライトシステム無しに自由に飛行できる新開発のモビルスーツである。一年戦後、連邦軍は敵の存在を宇宙に認めたものの、地上戦でのMS運用に懸念を感じていた。それがティターンズの台頭により地上の防御を拡大するにあたって、ようやく単独で飛行するMSというものの開発に取り組み始めた。その量産機1号がこのNRX-044アッシマーである。

「出撃する!」

乾いた陽光の中を、サンド・ベージュに塗装されたアッシマーが踊り出た。太陽光を反射しながら高速で飛行する円形の機体は、過去、人々に「空飛ぶ円盤」と呼ばれて不思議がられた飛行物体のようでもあった。しかし、何がどのような形態で飛行していてもおかしくない昨今では、人々はどんな異形の飛行物体を見てもミステリーを感じることはなくなっていた。

「宇宙人は、宇宙にいればいいんだよ」

アッシマーに続いてドダイに乗るハイザックの出撃を確認しながら、ブランはそうつぶやいた。
彼の中で、宇宙人はすでに地球を脅かす敵として実在していた。

 

 

「カミーユ、これも置いていくしかないよな?」

アウドムラのデッキにワイヤーで固定されたフライングアーマーをロベルトが勿体なさそうに見上げている。

「回収しててくれたんですか?」

「おうよ。昔っから貧乏性なんだよ、オレは」

「せっかくだけど、MSでさえ3機しか乗らないって言うんでしょ?しょうがないですよ」

「残念だねぇ。そういえばアポリーはどうしたんだい?」

「シャトルの方へ行きましたよ。パイロットやるんですって」

「へぇ、じゃあ俺はそっちには乗らねぇ」

「大丈夫ですよ、あっちはもう定員いっぱいだそうですから。私たちはMSを積み込んだらそっちのシャトルに乗るんですって」

「えーっ、じゃレコア少尉はもうアポリーのシャトルかい?狡いなァ...」

大げさにうなだれる仕草をするロベルトを笑っていたカミーユの目に、リフトで上ってくるクワトロの姿が見えた。

「アーガマとのランデブーは40分後だ!急げ」

「早すぎますよ!」

「あっちは交戦中だ。わがままは言えん。急げよ!」

クワトロは二人を叱咤しながら百式の方へ向かって行く。その後をロベルトが追いかけた。

「ああ、大尉!運ぶのはアポリーのリックディアスなんですか?」

「そうだが?」

「俺のじゃダメなんですかね?」

「君のは破損しているだろう?」

「でもアクスがせっかく修理してくれたんですぜ?」

「アポリーのだ。判っているだろう」

カミーユはそのやり取りを聞きながら、ロベルトのリックディアスを見上げた。応急処置にしか過ぎない脚部は、装甲が外されたままだ。カミーユはすまなく思った。破損していると言えばMark-2も同じなのだ。ネモから移植された左腕がライムグリーンの塗装のままである。まぁ、考え方を変えれば、そこだけガンダリウム合金なのだから改良ではある。

「クワトロ大尉はおられるか?」

不意に、ハヤトの声がした。

「なにか?」

「お別れの前に、確認しておきたいことがあります」

そう言いながら、近寄ってくるクワトロに折り畳まれた便せんのようなものを差し出した。クワトロは無言で受け取ると、それに目を走らせている。ハヤトは彼の表情を読もうとしたが、大きめのサングラスに阻まれてなにも変化がないようにも思われた。

「カイはあなたがシャア=アズナブルだと言っています。お答え願いたい」

カミーユはその言葉に耳を疑った。

しかし、言われてみれば確かに納得できる話でもある。クワトロのような人間が、一年戦争時から軍人をやっていれば無名であるはずはない。しかも彼は軍人以外の仕事をしたことはないようなことも語っていた。シャアそのものでなくとも、ジオンの人間である可能性は十分あったのだな、とカミーユは思う。

「シャアという男は、一年戦争で死んだのではないですか?」

クワトロはハヤトに手紙を返しながら、ゆっくりと口を開いた。

「本気でおっしゃる?」

「シャアが生きていたとして、なぜエゥーゴにいなくてはならんのです」

「簡単な話ですよ。ティターンズはジオン狩りが目的だ。エゥーゴを隠れ簑にすれば、ジオンの名を使わずに対抗することができる。あなたの企みはなんなのです?それが判らなければ私たちカラバはあなたに協力することはできない。ジオンの再興に力を貸すことはできないということだ!」

「ジオン人であれば、全ての人間がジオン公国を再興したい、なんて思っていると言うんですかい?」

ロベルトが割って入った。

「あんたは地上にいて判っちゃいない。今エゥーゴがやっているのはスペースノイドの弾圧を平気で行う連中の退治ですぜ。ジオン人だろうがスペースノイドにはかわりない。地上に住む場所なんか在りはしない連中だ。ジオンったって、ギレン・ザビの「優性人類生存説」の前に、ジオン・ダイクンのコントリズムに心を奪われた人間の方が多いんだ。ザビ家の生んだものは独裁なんだからね!」

「あなたも...やけに詳しいんですね?」

「おおよ、俺も元ジオンだからな!」

「ロベルト!」

「かまうもんかい!ここで気分悪く思われているよりゃスッキリしちまった方がいい。トップが戦争おっぱじめちまった小さな国はよ、それに従うしか国民には生きていく道がないんだ。疑っちゃ明日は冷たくなるだけだ。そして負けた。トップの責任は、国民全部の責任かい?いま細々と生かされているジオン共和国の連中は、泥水をすすって生きているんだ。戦後処理という名目で払うこともできない膨大な借金抱えて、来る日も来る日も働いている。戦死してた方がまだ幸せだ、なんていう連中も大勢いるんだ。こんな前時代的な戦後処理をやってるのが今の連邦政府だ。しかも宇宙にいる人間全てをおんなじ目に遭わせようっていうんだぜ?その尖兵がティターンズなんだ!今エゥーゴはティターンズ潰しが当面の目標だが、掲げてる理念はコントリズムに他ならない。だから俺たちはここにいるんだ!」

「わかりました。ロベルト中尉、あなたのことは理解できました。で、クワトロ大尉、あなたはシャア、赤い彗星のシャアなのですか?」

「ザビ家には恩はない。ジオン公国のシャアは、死んだのだ」

「私はホワイトベースのクルーでした。ジオンとの、シャアとの戦いで大勢の仲間が死んでいった...」

立ちすくんで話を聞いていたカミーユはハヤトの握られた拳を見つめていた。その動きが予感を生む。

それは、ダメだ!

「クワトロ大尉!あなたはシャアじゃないと言い張るんですかっ!」

咄嗟にカミーユは、クワトロに走り寄った。

「今の私はクワトロ=バジーナだ。それ以上でもそれ以下でもない」

「そんな大人の方便を使うならっ!」

カミーユは振りかぶった拳を正確にクワトロの頬へと向けた。

「私が、修正してやるっ!」

手加減はしなかった。

その後のことなど、なにも考えていない。クワトロは2mほど吹っ飛び、アウドムラのデッキに倒れ込んだ。あたりが一瞬静まり返った。ぼう然とハヤトとロベルトが立ちすくんでいる。カミーユもドッとその場に座り込んだ。

「嘘は...よくないでしょう」

カミーユは大きく息を吐きながら、やっとそう言った。

「気は...済んだか...?」

立ち上がったクワトロは、ふらりとサングラスを拾い上げた。痛みなのか、目の端に光るものが見える。

「参ったな...」

ハヤトがつぶやいた。拳はすでにポケットの中に収まっている。

「私も大人げなかった。許してください、大尉」

「あなたも気が済まないのなら...」

「いえ。どうも私にはぬぐえなかった偏見があったようだ。ジオンの人間と直接話をするようなチャンスは一度もなかったのだから。ロベルト中尉、ありがとう。それからクワトロ大尉、あなたに人望があるということは、良く判りました。ジオンの、いやザビ家の再興などという邪念がないということは信用しましょう。あなたが本当にシャアだと名乗ってしまったら、いくらエゥーゴとはいえ身動きが取れなくなってもおかしくないのですからね」

「知ってる人間は知ってるんだけどね?」

ロベルトがそう言ったとき、背後でけたたましいサイレンの音がした。

「敵襲か?!」

「申し訳ない!無駄な時間を費やしてしまった...!」

ハヤトは腕時計に目をやり、時間の経過に舌打ちした。

「むこうのシャトルの発進準備は?」

「もう少しでカウントダウンです!しかし...」

「パイロット達は優先だ!続行させてくれ。我々が防戦する」

カミーユは立ち上がると、クワトロと目を合わせるのが怖くて、慌ててMark-2のコックピットに走りだした。

 

 

「情報通りだ、ガルダ2つ!」

ケネディ空港の広い滑走路の上に、巨大なガルダは良く目立った。ブランは同行のドダイ改に乗るハイザックのパイロットに指示を出す。

「ガルダは壊すなよ!できれば2機とも回収したい」

「了解であります!」

グゥインと、ドダイ改が降下を始めた。2機のハイザックをのせたままでは機動力が落ちると判断したのか、1機が飛翔し、滑走路へ飛び降りた。滑走路にはすでに3機のMSが展開しているようだった。その1機が金色のボディを陽に輝かせながら、ジャンプフライトをした。

「宇宙でないのが...!」

上昇を掛けるドダイをめがけて、クワトロはクレイ・バズーカを放った。ドダイを奪うつもりだ。

カミーユは見慣れない円盤状の飛行物体が、滑走路を舐めるようにしながら降下、ビームを撃ってくるのを必死で避けていた。

「速いよ...っ!どう戦えばいいの?!」

百式をまねて飛び上がってみるものの、アッシマーの上昇速度にライフルの照準を合わせることは困難に思えた。それでも数発、トリガーを引く。1発が装甲をかすめたように見えたが、全くダメージを与えてはいない。

「カミーユ、なにやってんの!シャトルを守んなきゃダメだろ!」

「ああ、はいっ!」

ロベルトの声に、カミーユは落下の軌道を変えた。敵は侵入方向からガルダの影になっていたシャトルの存在に気付いたようだ。百式に撃墜されたもう一機のドダイに乗っていたハイザックがそちらに移動をしている。

「あれでお空に帰ろうっていうのかい!」

ガントリーに支えられるようにして立つ旧式のシャトルを、始めブランはケネディの展示物かと思った。今時、このような方式の打ち上げは行われていなかったからだ。しかしシャトルはエネルギーを注入されて、ブースターを振動させていた。

「やらせるかい!」

リックディアスがシャトルの正面に立ち憚った。向かってくるハイザックを攻撃しつつ、背面に固定されたままのビームピストルで空の敵をも威嚇していた。カミーユはロベルトの意地を感じながら、地上のハイザックの1機を背後からビームサーベルで切り裂いた。
その時。
ブランのアッシマーが、降下しながら人型に変形した。空中に停滞するようにして、レンジの広いビームライフルが、ロベルトの背後の無人のシャトルを焼いた。その軌跡はリックディアスをも捕らえていた。

「ロベルトさんなんだよ!!」

衝撃はカミーユを貫いた。ビーム光は正確にコックピットを捉えており、仁王立ちになるリックディアスはそのままの姿勢で数秒固まっていた。しかしそれも束の間、小さな内部爆発は核融合炉にひろがり、リックディアスの上半身を吹き飛ばした。

「あぅ...」

シャトルのコックピットで戦闘の状況をモニタリングしていたアポリーは小さく息を吐いた。視界が涙で霞む。長いつき合いだったのだ。戦場というフィールドを共にしてきた友人として、一番時間を共有していた...。
しかしカウントダウンは続いている。アポリーはぬぐえない涙をまばたきによって振り払うと、制御弁の最後の一つを開放した。
胴体を失いながらも律儀に立ち続けるリックディアスの脚の脇を走り抜けながら、カミーユはアッシマーを追った。

「シャトルまでは...!」

やらせはしない、とカミーユは飛んだ。アッシマーはシャトルとの間に入り込んだMark-2の火線をするりとかわす。

「無駄なことよ!」

ブランが叫んだとき、シャトルの推進剤が大地を割るような轟音をたてた。まばゆい光が大地を被う。旧式のシャトルは激しい衝撃を振りまきながら発進した。

「逃がすか!」

アッシマーが素早い動きで変形するとシャトルを追い始めた。加速速度で間にあうとは思えなかったが、装備されているビームライフルの出力は大きい。クワトロは叫んでカミーユを呼んだ。

「百式の肩に乗れっ!」

カミーユにもクワトロの意図は汲めた。接触と同時にスラスター出力を最大に上げる。
2つの推力が重なり、飛行出来ないはずの機体はその瞬間だけ空高く上昇していく。シャトルの吐く煙の輝く軌跡を追って厚い雲に突入した瞬間、アッシマーの放つビームが、雲をピンクに照らすのが見えた。

「レコアさんはっ!」

カミーユは全ての推進力を上昇に働くよう点火させた。Mark-2の足が、百式を蹴る。
アッシマーの機体の一部がカミーユに感じられた。そこにビームライフルの一撃を放つ。

「何っ!!」

雲の間からいきなり発射されたビームの直撃がアッシマーを揺すった。ブランはエマージェンシーサインでスラスターノズルの一部を破壊されたことを知った。

「ここまでかっ!」

失速を畏れて、ブランはシャトルを追うことをあきらめ、アッシマーの高度を下げ始めた。
雲海の中で敵の反応を掴めないまま、カミーユはMark-2の機体の異常を感じた。

「出力が...ううっ!」

無理な上昇が機体に負担を掛けたのか、急激なパワーダウンがMark-2を失速させていた。真っ白な視界の中でGだけが落下の方向を告げている。

「どうしたっ!落ちる!」

むやみにフットペタルを踏み込んでみるが反応がない。カミーユは高度計の示す数値を目で追った。800mを切ったところで、機体を大きな振動が襲った。

「クワトロ大尉?」

金色のマニュピレーターが、Mark-2の腕をしっかり捉えていた。そして抱き寄せるようにMark-2のボディを引き寄せた。

「無理です、大尉も落ちますっ!!」

「百式を、見くびるな!」

(大尉...)

百式の高出力のスラスターが、雲を引き裂いた。落下速度が緩まっていく。2機は絡まるようにして雲の間を抜けた。視界に、緑い大地が広がる。

「百式、Mark-2、アウドムラに!」

ハヤトの叫びに振り返った二人の目に雲間を割るようにして、巨大なガルダの機体がゆったりと現われた。百式は、Mark-2を抱き抱えるようにして、アウドムラの機体へと飛び乗った。
カミーユはモニターに映る大地に、ケネディ空港を探していた。しかしコントラストを失った地平線に、その位置は確定できなかった。

(ロベルトさん...)

カミーユは初めて失った戦友とも言うべき年上の男のために、涙を落としてた。

 

そのはるか上空、すでに周囲の濃紺から漆黒に辺りが変わりつつあるあたりで、レコア達を乗せたシャトルは懐かしい艦、アーガマの姿を捉えていた。

「私だけ、戻ってきた...」

キャビンの歓声を聞きながら、レコアはもう少しクワトロと個人的会話をしておきたかった、と思った。

 

 


メモ:

●えー、この話はファーストガンダムTVシリーズの延長です。映画版は忘れてください(笑)ハヤトと言えばガンタンクです!無理やりでもガンタンク!(個人的趣味)
●アッシマー&ブランも捏造です。NRXは「ニタ研」製ということですが、ブランはオーガスタ研から出撃していません。North America製の「N」だとしておいてください(^^;)
●ロベルト=ジオン?この設定どっかにあったよね。アポリーと一緒に。シャアの思想は本人の心の中だけです。戦後姿を消したシャアがそうご大層な人間だと知られてるわけないし、やはりジオンへの偏見はアリでしょう。


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