永遠のフォウ 2章  


カミーユは重たい自分のノーマルスーツを、足でベットの下に蹴り落としていた。

いま、目の前にいるフォウは、陶器の人形のような白い肌をむき出しにして、自分の身体の下に横たわっている。潤んでしまっているカミーユの目には、それはソフトフォーカスを掛けたように、まぶしく、輝いて見えた。

「きれいだ...」

「カミーユも」

フォウの白い指が、カミーユの鎖骨から、胸筋をとおり、腹筋をなでた。先輩は嫌いだったけど、空手で身体を作っておいて良かったと思う。カミーユは再び彼女に唇を合わせる。フォウの、柔らかい乳房が、彼の胸筋に押しつぶされていく。その感触に誘発されたように、カミーユはフォウを力一杯抱きしめた。腕の中で、彼女は折れそうに細く、小さく感じられる。そんな全てを、全部抱きかかえてしまいたかった。

「うん..」

苦しそうな吐息が唇の間からこぼれる。あわててカミーユは腕の力を緩めた。そして唇を頬から首筋、そして胸へと這わせた。
目の前に、フォウの淡い乳首がある。肌の色との境目がわからないほど淡く、小振りなそれを、カミーユは口に含んだ。とろりと柔らかかった先端が、舌の上できゅっと固く縮んだ。

「あ..うん...」

フォウのちいさな喘ぎ声が、カミーユの背中をくすぐる。腕に掛けた指の力が心なしか強くなる。カミーユは、もう一方の乳房を手のひらで覆った。
こういう感触の物を、今まで触った記憶がカミーユにはなかった。柔らかく、力を入れると崩れてしまいそうなのに、弾力がある。こんな心地いい感触のものを、世の中の女性はみんな持っているのかと、驚嘆した。

「ん...ん.....」

フォウの息が少しづつ荒く変っていく。息の間から、薬のような香りがわずかにこぼれてくる。さっきから感じていた、ひんやりとしたフォウの身体。この体温の低さは、病気なんじゃないのかとカミーユは少し心配になった。

「大丈夫?つらくない?」

「き...きもち、いいの」

体温が、一気に上昇したような錯覚にカミーユはとらわれた。フォウの指が、カミーユの耳の後ろ辺りをくすぐる。もっと、フォウに気持ちいい思いをさせてあげたい、カミーユは切に願った。
唇は乳首を含んだまま、乳房を揉んでいた手を、そっと下へおろしていく。なだらかな腹部を越えると、指にヘアの感触があった。
ごくり、と大きな音を立てて、唾液がのどに下りていった。ゆっくりと、ゆっくりと指をヘアにそって下ろしてゆく。身体中がひんやりしているのに、そこに近づくに連れて、指は温かさを感じていた。
ぬるり、とした感触がそこにはあった。

「あ、あ...」

感じてくれている、という悦びを、カミーユは覚えた。そして、自分の指が、柔らかい別の生き物に吸い込まれていくようにも感じた。それに抗うように、指を動かすと、フォウのからだがその動きに合わせるように、揺れ動く。

「あ...あ...あ...あン....」

(入れたい)

この温かなもののなかに、はやく埋没したい。その衝動を、押さえることができない。カミーユは、腰を浮かすと、彼女の下腹部へと腰を押しつけた。

「.....!」

指先は、簡単にそこへ吸い込まれていったのに、ペニスはどうしたものか、上手くそこを捕らえることができなかった。カミーユは少し焦りを感じた。と、冷たい感触が、彼のペニスを包む。

(ここよ)

(あ、あ、)

フォウの指に誘導されるように、彼女の中にゆっくりと侵入していく。温かく、なめらかで、浮かぶような、そして例え様のない感触が自分を包んでいった。

「ううっ...」

今度はカミーユが声をあげてしまう。そんな彼を、フォウは優しく抱きしめた。

(こどもなんだ、俺)

(男は、いつも子どもになるよ。女だって、そう)

(そうかな...)

カミーユはちょっとむきになって、腰を動かしてみた。真っ白になる、という表現が正しいのかはわからない。けれど、そんな快感が頭からつま先に掛け下りていく。

(SEXするのって、こんなにいいものなのか...)

尾てい骨の辺りから同心円に身体を震わせるものがある。その波紋はだんだんと激しくカミーユを揺さぶる。心臓は、とうに臨界点を超えたかのように激しく脈打っている。

「あっ、あっ、あっ、」

自分の動きにあわせて、フォウが声をあげているのが聞こえる。それは遠くから響いてくるような気がした。

(かみーゆ)

(カミーユ!)

喘ぎ声とは別に、はっきりとフォウの声が飛び込んでくる。

(フォウ!)

自分も、叫んでいる。
その時、カミーユの目の前を無数の星の輝きが流れた。
星の流れは、やがて大量の光となって、まぶしく輝きはじめる。
光の中から、女の歌声が聞こえてきた。まぶしい光の中に、黒い影のようなものがぼんやりと浮かぶ。それは次第に人の姿となって像を結びはじめる。
それは少女のようであった。まだ、歩き始めて間もない幼い少女。その腕を柔らかく握っている女性の手。その女性の顔がゆっくりと現れる。知らない人..でもどこか、フォウに似ている。その女性はゆっくりと口を動かしている。まるで、母が幼い子どもの名を呼ぶような、ゆっくりとした口の動き。なんといっているんだろう...。
と、瞬間、全ての映像がホワイトアウトした。

「ああーっ!!」

「くっ!!」

何が起きたのか、一瞬、カミーユにはわからなかった。
その瞬間が来たことを悟ったのは、少し遅れてからだった。
自分の腕の中で、フォウが薄目を開けたまま、ぐったりと横たわっている。
自分にも心地よい疲れが全身を覆っているのがわかる。
カミーユはゆっくり腰を引いた。なま暖かい、ヌルリとしたものが、糸を引いてシーツに滴り落ちた。

「ごっ、ゴメン!」

カミーユは謝ってしまった。あやまらなければいけない気がした。

「いいの、いいんだよ、カミーユ」

フォウがゆっくりと微笑んだ。

「私、幸せなんだよ。少なくとも、今一瞬は。」

フォウの言葉に、カミーユは目が熱くなるのを押さえられなかった。

「泣くことはないよ。カミーユは、私が気持ちいいとこ、みんな知ってるみたいだね」

フォウは、カミーユを抱きしめた。カミーユもフォウを強く抱きしめ返した。冷たかったフォウの身体が、少し温かくなったように感じられた。

 


しばらく、2人は重なるように抱き合っていたが、先にフォウがゆっくりと身体を起こした。

「シャワーを浴びるよ。カミーユは?」

じっとりと汗をかいた身体は、シャワーを浴びたいと望んでいる。けれど、このフォウの感触を、温湯で流してしまうのは惜しいようにも感じられた。

「フォウが先に行けばいい」

「そう。じゃあ。」

フォウはカミーユの腕をするりと抜けると、そのままの姿でシャワールームへ向かった。その後ろ姿は、今まで見た何よりも美しいと、カミーユは感じていた。物語の中で語られる、「白鳥」というのはこういうものなのだな、と思う。白く、なだらかな肩やウエストのラインが、白鳥の首の曲線を思わせた。

フォウがシャワーの栓をひねり、そのお湯がシャワールームを仕切るガラス戸に当たるバラバラという水音が室内に響き始める。ベットサイドの時計が、ひとつ、数字を重ねた。カミーユはフォウと果てしなく長い時間を過ごした気がしていたが、現実には30分にも満たない時間しか経過していない。

「あ...」

(俺、なにやってるんだ?)

カミーユは、ふ、と我に返った。

(クワトロ大尉は、どうしたんだ?...戦争をしているんだぞ!カラバやアムロさんはこの外で戦っているんじゃないか!!)

何故、こんなことを?カミーユは自問する。

(そうだ、あの「ヘンな感じ」。フォウのペースに巻き込まれたんだ)

カミーユは慌てて衣類をかき寄せると、まだフォウの体臭の残る肌にノーマルスーツを着込んだ。

「フォウ、急ぐんだ!一緒に逃げるんだ!」

そう叫んだとたん、シャワーヘッドがガラスのドアに落ちる音がした。

「うううう.......っ」

フォウのうめき声が聞える。

「どうした?フォウ?」

「あ、頭がいたい...割れそう...」

カミーユはシャワールームに駆け寄った。

「カミーユ・ビダン...」

ガラスドアが勢いよくひらき、苦痛に表情をゆがめたフォウが、水を滴らせながら飛び出してきた。彼女は、カミーユの脇をすり抜けると、ベットサイドのクロゼットの引き出しを開けた。

「薬?」

カミーユは、バスタオルを持つと、心配そうに彼女のほうへと歩いていった。

「カミーユ・ビダンは、敵!」

振り向いたフォウの手には、鈍く光るけん銃が握られており、その銃口は鋭く、カミーユの心臓に向けられていた。
フォウはニュー・ホンコンで回収されたあと、さらに強化を強いられていた。そのために不安定になりすぎた精神を、サイコミュから離れたとき、強制的に日常に戻す暗示が掛けられていた。さらに、カミーユとの接触についての情報も引き出されていた。ティターンズのムラサメ研究所にとって、エウーゴを代表するカミーユ・ビダンというニュータイプの存在は、計り知れない興味の対象であった。できることなら研究の対象として身柄を拘束、そうでなければ抹殺したいと考えていたのだ。もし、二人の接触が再びあるとしたら、間違いなくフォウに好意を寄せているカミーユ・ビダンは油断をするというものである。確かに、少ない確率ではあろう。しかしナミカー・コーネルの研究者としての欲求が、独断でこの計画をプログラミングさせた。サイコミュの影響下でなくとも、あるいくつかのキーワードを聞いた瞬間、フォウはカミーユの敵に豹変するプログラムである。

 

『一緒に逃げる』『エゥーゴに行こう』『ゼータ・ガンダム』.....

 

そして、カミーユはその言葉を発した。

「抵抗しなければ、殺しはしない。背中を向けて壁に手をつけ。」

フォウは全裸のままの姿を恥じらう様子もなく、冷たい機械のようにそう指図した。

「どうしたんだ、フォウ!目を覚ませよ!俺だよ、カミーユなんだよ!」

「そう。カミーユ・ビダン。言うことを聞かないようなら射殺する」

「フォウ!」

その時である。ようやく、カミーユ達のいる下層ブロックまで振動させるほどのカラバの攻撃が、基地を襲った。その振動にフォウが一瞬の隙を見せた瞬間、カミーユは彼女めがけて持っていたバスタオルを投げた。銃声が、空にこだまする。
カミーユの反射神経が、その銃弾をよけると、入口のオートドアまで身体を転がせた。しかし、弾丸はその動きを忠実に追ってきた。カミーユは一旦、ドアの外へ逃れるしか術がなかった。

「誰だ?!きさま...」

その姿を、別のティターンズの兵に発見されてしまった。カミーユは飛び起きると、別の銃声が響く前に通路を走り抜けた。

「どうなっちゃったんだ、フォウ...」

カミーユはフォウの安否を気遣いながらも、侵入した水路のほうへ逃れていった。
ジャミトフを追ったクワトロ大尉は無事なのか、すでに百式の姿はなかった。

 


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