機動戦士MZガンダム0093 MZガンダム
MZガンダム
ドック内のエアが抜かれた。ノーマルスーツを着ていないものは、全てコントロールルームで、その様子を見守っていた。 『Gソニック、シュリー=クライム、出ます』 『Gアタッカー、ジュドー=アーシタ、行ってきます』 2人の慣例にならった声が、コントロールルームのスピーカーに流れ、2機は次々と発進していった。モニタが外部の様子を映している。全員がそれを食い入るように見つめていた。 「まずは、合体、だよな?」 ジュドーが言った。 「MZに変形、だね」 カミーユは後ろにしっかりジュドーが付いてきていることを自分の目で確認した後、MZ変形用のキーを操作した。全てはフルオートで行われるはずだ。 「おおー...」 コントロールルームの学生達はため息のようなものをもらした。クレーンを使って手動で分離、合体は何度もやってみたが、宇宙空間で操縦という形で変形したのを初めて見たのである。 「シュリーさん、聞えてますか?ドックの脇に係留してあるブースター、確認できます?」 『解る。どうすればいい?』 レーザー通信の音声が、カミーユのクリアな声を響かせている。 「変形に差し支えない、バックパックの中央に、ドッキングアタッチメントを付けてあります。そこのジョイントに合わせるだけですから!」 『了解した!』 明解な返答が返ってきたと同時に、カミーユはMZのバーニァを吹かせた。軽やかに機体はもといたドックのゲートの前に運ばれていった。開かれたゲートから、内部を覗くようなポーズを取ったのはカミーユのシャレ、である。マニュピレーターも振ってみせた。 (カミーユが、ガンダムに乗っている!) ファは、複雑な心境でその姿を見守っていた。戦いに出る、という行為のもつ恐ろしさ、不安。けれど、逆にそこまで回復したのか、という悦びもある。やはりあの頃Zガンダムを操るカミーユは、ハイスクールでふてくされた毎日を過ごしていた彼より、すばらしく立派に見えたものだ。 (メタスみたいなの、あれば、私もついていっちゃうのにな) 向いていない、と批判されながらも、彼女は待っているだけの女ではなかった。グリプス戦争で唯一無事に帰ってきたアーガマのMSパイロットなのである。それを『運』だけで片づけては失礼だろう。 (今のカミーユもいいんだけど...あの頃の貴方は...) 確かに今のカミーユは、大人になった。それは憑き物が落ちたような大人しさだった。それはそれで良いのだけれど、何かが違う、と感じていたのも事実である。けれどそれは両刃の剣、あの頃のカミーユに戻ったとたん、自分のものでなくなるような気がしてしまうファ=ユイリーだった。 (でも、そうでなければ、貴方は本当に私のカミーユになってくれない...) ファは少し覚悟を決めていた。この戦いで何が彼に起きようと、全てを受け止めようという覚悟である。 「ファ、とかいったか?」 不意に、彼女の後ろから、シレノワ=ケイが声をかけた。 「はい?」 「これを、やる」 彼女はポケットから、何かを取り出すとファに差し出した。それは平べったい雫の形を模したプラスチックの固まりに見えた。 「なんでしょう、これ?」 受け取ったファはまじまじとそれを見た。真ん中に透明な部分があって、チップのようなものが埋め込まれている。シレノワの体温なのか、それは彼女の手の上で少し暖かく感じられた。 「MZの改造のとき使ったパーツの一部だ」 「え...?」 「別に縁起は担がんが、私が持っていてもしょうがないものだ。それを握り締めて亭主に早く帰ってこい、と言うと効き目があるかもしれないぞ」 冗談はやめてくださいよ、とファは笑った。彼女はあまりシレノワ=ケイが好きになれなかった。カミーユはファにMZのサイコミュのことは触れていない。
MZは係留されたブースターを外すと、それを背中のほうに回した。 「シュリーって、ぼーっとしてるヤツだと思っていたけど、実は凄いヤツだったんだなぁ」 ロメロが言った。そう思わせるほど、MZの動きはなめらかだった。彼の心配は少し軽くなった。エゥーゴのパイロットというものの実力を感じたからだ。 『接続、完了。Gフォートレスに変形する』 カミーユの声がして、MZがぐぅん、と離れていった。モニタリングカメラがそれをズームする。 「早い...」 理論上、ムーバブルフレームの能力ではそれが可能なことは学生達も解ってはいた。けれど現実に見ると、それは驚異的な速度なのである。誰も肉眼でその動きを確認することはできなかった。 『このまま、行きます。みんな、ありがとう』 『んじゃ、よろしく』 二人の声が、スピーカーから流れた。 「がんばってな!」 「頼んだぜ!」 既に、モニタカメラはその姿を追うことが出来なくなっていた。学生達の声援は彼らには届かなかったかもしれない。
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