機動戦士MZガンダム0093 MZガンダム  


MZガンダム

 

ドック内のエアが抜かれた。ノーマルスーツを着ていないものは、全てコントロールルームで、その様子を見守っていた。

『Gソニック、シュリー=クライム、出ます』

『Gアタッカー、ジュドー=アーシタ、行ってきます』

2人の慣例にならった声が、コントロールルームのスピーカーに流れ、2機は次々と発進していった。モニタが外部の様子を映している。全員がそれを食い入るように見つめていた。
2機は一旦、コロニーから少し離れた空間に、機体を滑らせた。Gソニックに積まれているミノフスキー発生装置は機体の移動空間にその目に見えない粒子を拡散させていった。

「まずは、合体、だよな?」

ジュドーが言った。

「MZに変形、だね」

カミーユは後ろにしっかりジュドーが付いてきていることを自分の目で確認した後、MZ変形用のキーを操作した。全てはフルオートで行われるはずだ。
ジュドーのGアタッカーのリンケージパネルがオートを表示した。
リニアシートが後にさがる。同時にキャノピーが迫り出した壁に覆われた。それは一瞬のことで、すぐに球体となった全天周モニタがONになる。それは、ぽっかりと自分が宇宙空間に浮かんでいるような感覚を呼び起こす。ああ、これだ、とカミーユは感じた。
この感覚を、恐いと感じたものは、MSに乗ってはいけないとファは訓練のとき言われたという。逆にカミーユは最初に乗ったときから懐かしいような感覚があった。
Gアタッカーの後方にある脚部が回転するようにして伸びた。同じようにGソニックのコックピット部分が折れるように前方に回り込み、腕部がスライドする。その間にある胸部の連結部分から、そのMSを象徴するもの...ガンダムの頭部が出現した。同時に、二つのブロックは接合して一体のMSとなった。MZガンダムである。

「おおー...」

コントロールルームの学生達はため息のようなものをもらした。クレーンを使って手動で分離、合体は何度もやってみたが、宇宙空間で操縦という形で変形したのを初めて見たのである。
頭部にハイメガキャノンを有するその顔は、ZZによく似ていた。そして背中から突き出すように見える2本の太いメガビームサーベル、肩から張り出すバインダーも、ZZを彷彿とさせた。が、その全体のシルエットはZZ程の重厚さはない。下半身、特に脚部の形状は従来のMark2やRX-78を継承しており、いくぶんスレンダーな印象を与える。そのせいで、後付けのアームの太さが少しアンバランスに感じられた。
ステファンはその悦びを隠せないでいた。

「シュリーさん、聞えてますか?ドックの脇に係留してあるブースター、確認できます?」

『解る。どうすればいい?』

レーザー通信の音声が、カミーユのクリアな声を響かせている。

「変形に差し支えない、バックパックの中央に、ドッキングアタッチメントを付けてあります。そこのジョイントに合わせるだけですから!」

『了解した!』

明解な返答が返ってきたと同時に、カミーユはMZのバーニァを吹かせた。軽やかに機体はもといたドックのゲートの前に運ばれていった。開かれたゲートから、内部を覗くようなポーズを取ったのはカミーユのシャレ、である。マニュピレーターも振ってみせた。
ドックに残っていたノーマルスーツのルーカスが、喜んだのか、驚いたのか、飛び跳ねている。

(カミーユが、ガンダムに乗っている!)

ファは、複雑な心境でその姿を見守っていた。戦いに出る、という行為のもつ恐ろしさ、不安。けれど、逆にそこまで回復したのか、という悦びもある。やはりあの頃Zガンダムを操るカミーユは、ハイスクールでふてくされた毎日を過ごしていた彼より、すばらしく立派に見えたものだ。

(メタスみたいなの、あれば、私もついていっちゃうのにな)

向いていない、と批判されながらも、彼女は待っているだけの女ではなかった。グリプス戦争で唯一無事に帰ってきたアーガマのMSパイロットなのである。それを『運』だけで片づけては失礼だろう。

(今のカミーユもいいんだけど...あの頃の貴方は...)

確かに今のカミーユは、大人になった。それは憑き物が落ちたような大人しさだった。それはそれで良いのだけれど、何かが違う、と感じていたのも事実である。けれどそれは両刃の剣、あの頃のカミーユに戻ったとたん、自分のものでなくなるような気がしてしまうファ=ユイリーだった。

(でも、そうでなければ、貴方は本当に私のカミーユになってくれない...)

ファは少し覚悟を決めていた。この戦いで何が彼に起きようと、全てを受け止めようという覚悟である。

「ファ、とかいったか?」

不意に、彼女の後ろから、シレノワ=ケイが声をかけた。

「はい?」

「これを、やる」

彼女はポケットから、何かを取り出すとファに差し出した。それは平べったい雫の形を模したプラスチックの固まりに見えた。

「なんでしょう、これ?」

受け取ったファはまじまじとそれを見た。真ん中に透明な部分があって、チップのようなものが埋め込まれている。シレノワの体温なのか、それは彼女の手の上で少し暖かく感じられた。

「MZの改造のとき使ったパーツの一部だ」

「え...?」

「別に縁起は担がんが、私が持っていてもしょうがないものだ。それを握り締めて亭主に早く帰ってこい、と言うと効き目があるかもしれないぞ」

冗談はやめてくださいよ、とファは笑った。彼女はあまりシレノワ=ケイが好きになれなかった。カミーユはファにMZのサイコミュのことは触れていない。
ファは一応礼を言い、またMZのほうへ意識を向けた。シレノワ=ケイも深く説明することもせず、また一番奥の壁にもたれかかり、タバコを吸いはじめた。

 

MZは係留されたブースターを外すと、それを背中のほうに回した。
カミーユは機体に対してやや大きめのアームを少し持て余し気味だったが、なんとかブースターをジョイント部に接合させた。その動きは、どこか人間臭いものがあった。

「シュリーって、ぼーっとしてるヤツだと思っていたけど、実は凄いヤツだったんだなぁ」

ロメロが言った。そう思わせるほど、MZの動きはなめらかだった。彼の心配は少し軽くなった。エゥーゴのパイロットというものの実力を感じたからだ。

『接続、完了。Gフォートレスに変形する』

カミーユの声がして、MZがぐぅん、と離れていった。モニタリングカメラがそれをズームする。
MZは機体をくるり、と一回転させたようだった。しかし、回り終わった姿は、既にGフォートレスであった。

「早い...」

理論上、ムーバブルフレームの能力ではそれが可能なことは学生達も解ってはいた。けれど現実に見ると、それは驚異的な速度なのである。誰も肉眼でその動きを確認することはできなかった。

『このまま、行きます。みんな、ありがとう』

『んじゃ、よろしく』

二人の声が、スピーカーから流れた。
ブースターに火が入り、Gフォートレスの機体が加速する。

「がんばってな!」

「頼んだぜ!」

既に、モニタカメラはその姿を追うことが出来なくなっていた。学生達の声援は彼らには届かなかったかもしれない。

 


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