機動戦士MZガンダム0093 サイコミュ・ハンド  


サイコミュ・ハンド

 

モニタが交戦する十数機のMSを捕らえた。CGの再構成するその画像には、連邦軍のジェガンに加え、ネモの姿も見ることが出来た。さらにその奥に、数機の戦艦が見える。

「防御が厚いな」

「核を積んでるんじゃないのか?」

「あまり近寄りたくないね」

ジュドーが笑いながらいった。
モニタの隅で、ネモがはじけた。いくら数が多いとはいえ、ネモでは結果が見えるというものである。先の戦闘でネオ・ジオンの新型MSの運動性を2人は評価していた。

「気の毒だな」

ジュドーは本心、そう思った。

「援護しよう」

カミーユはそういいながらビームの飛び交う空間へ突入した。
ネモを撃墜したギラ・ドーガが、MZに気づき、接近してきた。グレネード弾が数発、先にこちらへ向かってきた。それは避けることができる。ビームバルカンを放ちながら、襲い来るグレネード弾をかいくぐるようにしてギラ・ドーガへ接近したMZはサーベルを構えた。
カミーユはそれをしながら、モニタの足元に、被弾したネモの姿を捕らえていた。そのネモにとどめを差さんと、一機のギラ・ドーガが接近している。

「ジュドー、そいつはまかせるっ!」

「へ?」

カミーユは、先ほどの戦いで、サイコミュ・ハンドの使い方を知った。ビームサーベルを持ったまま、サイコミュ・ハンドを分離させた。

「そういうこと!」

ジュドーは代わりにビームソードを光らせた。
サイコミュ・ハンドは一旦ビームサーベルを柄に納め、ネモを狙うギラ・ドーガへと接近していった。ギラ・ドーガのセンサーはそれを捕らえていたが、MSの残骸が漂っているとしか思っていなかった。

「いけっ!」

カミーユの叫びと共に、ハイパービームサーベルの柄からビームがほとばしった。それは長い光の槍となって、ギラ・ドーガを貫いた。
その間に、ジュドーはMZをビームマシンガンの火線からかわすと、目の前の敵をビームソードで切り裂いた。カミーユは、まだサイコミュ・ハンドを戻そうとしない。さらに奥の敵に向かって、その腕を走らせた。まだ、カミーユの意識の届く範囲である。ジェガンと交戦中のギラ・ドーガに接近させると、背後からホディを切断した。
そうやって、4機のギラ・ドーガを撃墜した後、カミーユはようやくサイコミュ・ハンドをMZの腕に納めた。

「こいつは、使える!」

サイコミュ・ハンドは、もともとシレノワ=ケイが、作業用として開発したマニュピレータである。それ単体には武器は持たないが、要するに『手』である以上、手持ちの武器であればそれを得物にすることができた。火力を別エネルギーから得られるため、質量は大きいがネオ・ジオンの使うファンネルより長く飛行させることが可能なのである。
カミーユは自分が毛嫌いしていたサイコミュを、得意気に使っていることに気づいていなかった。戦場では優秀な武器を持っている方が勝ちである。彼の感性は、無意識にそれを容認していた。
カミーユは、もう一度サイコミュ・ハンドを分離させると、今度は反対側の空域へとそれを飛ばせた。

「ネオ・ジオンの戦艦が...」

MS戦をかいくぐりながら、3隻の戦艦が、地球方向に向かっていた。スピードは早い。

「行かせるものかよぉ!」

ジュドーはバーニァを最大に吹かせて、その戦艦を追った。

「アレを使うよ!」

ジュドーはそういいながら、MZのアームの無い両の腕を広げた。
MZの額から、巨大なエネルギーの流れが、吹き出した。そのハイメガキャノンの咆哮は、光の渦となって、あたりの空域を満たした。まばゆい輝きが、中央の戦艦を包んだ。
どぅっ!!!という爆発を、彼らは音でなく、感覚で捕らえた。中央に位置した7番艦にはやはり核が搭載されていた。巨大な爆発は、前後をいく8番艦、9番艦をも巻き込んだ。

「うわっ!!!!」

予想を超えた衝撃が彼らを包んだ。MZは跳ね飛ばされ、その空域から大きく外れた。

「あ...!」

衝撃の中、カミーユはサイコミュ・ハンドの気配を失った。ぷっつりと切れたように、その存在が感じられなくなった。

「まずい...!」

距離が離れすぎたのかも知れなかった。カミーユは、サイコミュ・ハンドを飛ばした空間にMZを向かわせた。

「ジュドー、手伝え!」

「あ、ああ!」

2人は、同じ方向に向かって意識を集中させた。

「あ...れ...?」

その行為が、2人の意識を融合させた。
カミーユはジュドーのビジョンを見ていた。目の前に広がる木星の渦。そのうっとうしさをも感じさせる暑苦しい流れの中に、赤い髪の女が住み着いている。

(ああ、ハマーン=カーン)

カミーユはその女を呼んだ。女は険しい表情でカミーユを睨み返す。

(お前もシャアの仲間だろう!消えうせろ!)

(なぜ、そんなにシャアを憎む!)

(子供には知らなくてもいいことがある。それなのに、お前はずけずけと私の中に入ってくる!)

(好きでそうしているわけじゃない!お前が、俺を呼んだだろう!)

(うぬぼれるな!)

ハマーンは一度はかわいい、とさえ思ったカミーユを許そうとはしなかった。

 

ジュドーはカミーユのビジョンを見ていた。

(え...?)

それはついたてに囲まれたように薄暗く、窮屈な空間であった。その中にうごめくもの。何かがいるのである。だが、“それ”を認識することはできない。“それ”は彼を囲む壁を揺すり、今にも倒れかかってきそうである。あまりの圧迫感に、ジュドーは叫びたくなる。

(ここから出してくれよ!)

ジュドーはそれがカミーユの意識だとは思いたくなかった。あまりにも重苦しい世界なのである。

(だから、なの?)

ジュドーの知るカミーユは、普通に生活を送っているように思えた。しかし、いま見ている光景は、自ら何かを遮断してるとしか言い様がない。
今導き出されている二人が見るお互いのビジョン...それは表面からは伺うことの出来ない、秘めた暗部であった。

「もう、いい!!」

その時、幼い笑い声が彼らを包んだ。それまでいた空間がかき消え、2人は同じ場所を漂っていた。

(女?)

(こどもじゃないか?)

無邪気な笑い声が、2人の感性を刺激する。

(おとうさぁん...)

それは父を求める子供の声だった。

(ここにいたのね、おとうさぁん!)

(いやなヤツがいるの。おとうさん、やっつけてよ!)

2人は、クェス=パラヤに会うことはない。けれど、戦場を駆け巡る彼女の強力な思惟の流れは、シートに仕込まれたサイコミュを通してなのか、彼らの意識の中に流れ込んで行く。

(気持ちわるぅい!)

(あたし、いやぁ。おとうさん助けて!)

(おとうさぁん!)

(おとうさぁん....)

「いいかげんにしろ!!!」

ジュドーが叫んだ。

声がやんで、視界が元に戻った。全天周モニタの一角に、コントロールをうしない漂うサイコミュ・ハンドが映っている。

「なんだ、あの娘...」

「ジュドーも知らない娘か?」

「あんな甘ったれ、知らないね」

ジュドーは怒っていた。カミーユは、サイコミュ・ハンドを回収すると、つぶやいた。

「やはり、これはあまり使わない方がいい...」

2人はMZを残るネオ・ジオン艦隊の方へ向かわせた。

 

さらに数隻の戦艦を沈めたMZは、そのあたりに、連邦軍の部隊が減っているのを感じていた。撃墜された戦艦や、MSの残骸が無数に散らばっている向こうに、これが最後と思われる、ネオ・ジオンの艦隊が数隻、ルナ2を後にするのが見えた。

けれど、2人の意識は別の方向へ引っ張られている。

「なんだろう...背後に、いやなプレッシャーを感じる..」

「カミーユさんもそう思う?」

2人は、背後...地球を見やった。その出来事は、運悪くその地球の正反対の位置で展開されていた。

「シャアは向こうにいるんだろうな...」

「けど、あっちにはロンド=ベルも...アムロ=レイもいるんだろ?俺たちは、あの核を積んだヤツを止めなくっちゃ...」

2人は、残存するネオ・ジオン艦隊の一番奥に潜む船に意識を集中させた。その船だけが、異様に2人の意識に引っかかるのである。
カミーユはそれに向けてMZを前進させた。

 


【続きを読む】【読むのをやめる】