機動戦艦 ナデシコ
「新世紀エヴァンゲリオン」に続くSF大作はこれでした。
テレビシリーズ ---Martian Successor---
本放送時は放送時間が早かったため第1話の後半を見たっきり忘れ
ていたのですが、映画の公開に先駆けてテレビシリーズを集中的に
再放送してくれるテレビ東京の企画で見ました。
しかし、この企画、「傑作選」と題してエピソードの間引き(放映
されたのは22話分でした)が行われているらしく、いろいろ抜けて
いるエピソードで張られたらしい伏線のようなものに当たるたびに
経緯が分からなくてもどかしいです。
見ていないエピソードは次の通り:
- 水色宇宙に「ときめき」
- 「女らしく」がアブナイ
- 「僕達の戦争」が始まる
- いつか走った「草原」
SFの部分はいろいろと凝っていますね。例によってデコレーション
としてキーワードを拾ってきているだけなのですが、物理学の最新
の理論をよくフォローして美味しいところを見つけていると思いま
す。真空の相転移とか、素粒子の超対称性とかですね。しかし、重
力波を兵器にするのはなかなか困難だと思います。重力ってとても
弱い力で、クーロン力の10の26乗分の一だったか、そんな弱さなん
です。
話のテーマはやはり最近の流行りらしく自分の居場所探しに落ちて
いってます。これってあまり強烈に前面に押し出されてくると見て
いて疲れるんですよね。早いとこ別のテーマを見つけて、その中に
エッセンスとしてまぶす程度にして欲しい気がします。
話の組み立てでは劇中劇を効果的に利用しているのが目新しいです。
この劇中劇、「ゲッターロボ」や「マジンガーZ」あたりのスーパー
ロボットものをモチーフにしたらしい「ゲキガンガー3」がまた真
面目に作り込まれていまして、それがストーリーに密接に絡んでき
ます。真面目に作り込んだ劇中劇を用意するのには、もうひとつ作
品を作るのに等しい労力を必要とするはずで、それが真面目に作り
込まれているという点で制作スタッフの力の入れようが分かります。
新造戦艦に使用している技術(相転移機関、グラビティブラスト、
ディストーションフィールド)が作ったのではなく拾い物だという
設定はもう使い古されていますが、謎の一つとして話のキーの一つ
をなしているので納得できます。
1話の冒頭で何気なく登場した女の子が最終話で再び登場するとい
う周到な伏線の張り方には感心したものです。
劇場版 ---The Prince of Darkness---
テンポが早くてややドタバタした感じもしますが、全編ギャグ仕立
てなのにシリアスな部分の重さをしっかり伴って、最後にホロッと
来る、面白い作品でした。
話自体はオーソドックスというか順当な設定だと思います。
テレビシリーズの主人公テンカワ・アキトは戦いが好きなわけでは
なくコックになりたかったわけですから、戦争が一段落すれば除隊
してコック一本で行こうとするはずです。
そのアキトをどうやって再び前線に送り出すかというと、何かとて
も悲劇的な状況に直面して怒りに燃えてもらわなければならないわ
けですね。
で、最後に敵は倒すんだけど爪痕だけはきっちり残っている。これ
が今風なんですね。
思ったことを並べてみます。
- 80分というサイズがそうさせたのか、伏線はなるべく張らない
方針で作ったようですね。それで見たままの分かりやすさはあるん
ですが、テンポが早いのでドタバタした印象が強調されてしまった
ような気がします。
- 三郎太のテレビシリーズに対する変貌ぶりはいい味を出してい
ました。地球へ来てカルチャーショックを受けて変わってゆく過程
が目に浮かびます。しかし、それを経てもなお思いやりみたいなも
のが芯として堅持されている、ある種理想的な人格になっちゃって
ますけど。
- 主人公であるルリというキャラクターは人間離れした人格です
から、なかなか描写が難しかっただろうと思います。達観している
のか、16歳になってあれだけ安定した成長を遂げているのがむしろ
驚きでした。思春期らしい不安定さが微塵もないことに矛盾を感じ
ないのでしょうか。
- 劇場サイズに話を収めるためには敵の設定が難しいところです
が、テロリストにしたというのはなかなかうまいと思います。順当
ですらあります。
- 人型ロボットの縮尺が妙でした。身長6mとか8mであのプロポー
ションだと、コクピットがとても小さくなっちゃいます。パイロッ
トが丸くならないと入れません。
- ブラックサレナとステルンクーゲル以外の人型ロボットはみん
な似通ったシルエットになっちゃいましたね。工業製品として見れ
ば部品の規格化という点で歓迎すべきですが、絵的には寂しいです。
- ラピス・ラズリは喋る必然性がありませんでしたね。全編まっ
たく台詞無しでも物語上特に問題なかったはずです。仲間由紀恵の
出番を作りたかったんでしょうが、だったら役にあわせて小さな子
供らしい声を出せるよう発声法の訓練をすべきでした。二十歳前後
の素の声使っちゃ不自然です。
- 北辰を倒したあと、アキトのエステバリスは涙を流します。も
ちろん涙自体は視覚的な演出に過ぎないのでしょうが、何の意味が
あるんでしょうか。復讐は遂げたんだから悲しいはずはないし、仇
敵は倒しても爪痕はしっかり残ってますから嬉しいとも思えないし。
一つ大きな山は越えたけどまだ前途多難という状況で人間は泣くも
のでしょうか。
- ユリカは意識を取り戻したようですが、遺跡の演算ユニットか
らちゃんと体が切り離されたかどうかは(たぶんわざと)陽には明か
されていませんね。むしろ、「このボケが出れば安心だわ」という
台詞は、反語的に困難な状況を想像させます。
- 最後にアキトがユリカに会わずに去ってしまったのはなぜなん
でしょう。単にルリの最後の台詞を導くだけのためでしょうか。
「その後」を割合素直に考証した結果予想される展開
- アキトは再びコックに戻れるか?---脳の神経回路には可塑性が
ありますから、味覚くらいはリハビリによって再獲得することも不
可能ではないのではないでしょうか。視覚の回復はちょっと困難か
もしれませんが、IFSを常用することでカバーできるはずです。あ
るいは、適切にプログラムしたナノマシンでリハビリを支援するこ
とができれば視覚も回復できるかもしれません。
- ナデシコとルリのコンビネーションは非常に強力ですから、次
に襲われる危険があるのはルリその人ですね(劇中でもアキトのつ
いでに狙われましたが)。これを防ぐにはナノマシンを用いた後天
的遺伝子操作と訓練でもってルリみたいな存在を珍しくなくしてし
まう必要があります。
- ま、この物語ではナノマシンが非常に高い機能を持っているよ
うですからそんな展開が考えられるわけですが、ナノメートルサイ
ズの機械で本当にあれだけいろいろな機能が実現できるかというと
なかなか難しいですね。原子一つの単位を操作して分子メカニズム
を作る必要があります。マクロサイズの機械の感覚でバルクの金属
を使ったりはできません。
- チューリップなしにいつでも何処へでも好きな場所へボゾンジャ
ンプする技術は存続させるべきか?---これ、のさばると社会的な混
乱を生みますよね。「いつでも何処へでも」はちょっと困りもので
す。女性や金持ちが安心して暮らせない (^^;
- メカ的に見ると続編を作るのは極めて困難に思えます。機動戦
士ガンダムダブルゼータにおける火力のインフレーションと同様、
単体ボゾンジャンプとディストーションフィールドという防御力の
インフレーションに直面してしまっています。夜天光をやっつけら
れたのがとても不思議なくらいなのに、このあとどうしろというの
でしょう。
- まあ、矛と盾の設定は何とかするとして、次回作があるとした
ら主役は白鳥ユキナですかね。
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